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No.53:side・mako「魔法少女と自動小銃」

「ベイベー! 逃げる魔王軍はただの魔王軍だ!」

「逃げない魔王軍はよく訓練された魔王軍だ!」

「ホント、魔王軍との戦いは地獄だぜ!」

「「「フゥハハーハー!」」」


 意味の解らないセリフを吐きながら、ひたすら腰だめに構えたマシンガンを乱射する騎士ABCをぼんやり眺めるあたし。

 まあ、セリフ仕込んだのはあたしなんだけどさ。

 でも……。


「ねえ、あんたたち。なんでそんなに違和感なくそのセリフが言えるわけ?」

「「「さあ?」」」


 あたしの質問に、三人そろって首を傾げるABC。

 こいつら、血は繋がってないはずなのに、なんでこんなに行動がシンクロするのよ。思考もだいたい同じみたいだし。楽っちゃ楽だけど。


「まあ、いいわ。とりあえず、そのくらいで射撃やめー」

「「「ラジャー!」」」


 あたしは無益な思考を切り上げると、ABCに射撃停止を命じる。

 ABCは素直にトリガーから指を離すと、各自手に持ったマシンガンを調べ始める。

 今日このABCにマシンガンを撃たせているのは、別に冒頭のセリフを吐かせたかったからじゃない。いくらなんでもそこまで酔狂じゃないわよ。

 ギルベルトさんが作ってくれた、マシンガン用素材を使って三種類のマシンガンを作ったの。それぞれ特徴が違う素材で、どれが一番マシンガンに使うのに適しているのか検査したかったから、このABCに協力を仰いだんだけど……。


「マコ様! 銃口がささくれてます!」

「マコ様! 銃身にひびが入ってます!」

「マコ様! 引き金がなんかこう、緩くなってます!」


 ABCの報告を聞いて、あたしはため息を吐いた。

 かれこれ、一時間くらい休憩をはさみながら射撃した結果なわけだけど、十丁ずつ作ってみんなどこかしら壊れるのよね……。

 あたしはAが持っていた銃を手に持って、ささくれ立った銃口を見てまたため息を吐いた。

 やっぱり木は素材としてはダメなのかしら……。


「どんなもんだ、嬢ちゃん」

「ギルベルトさん……」


 あたしの後ろから、のっそりとギルベルトさんが現れた。

 あたしは手に持ったマシンガンを、ギルベルトさんに手渡した。


「ダメみたい……。どの素材も、マシンガンの連射速度に耐えきれないわ……」

「うぅむ」


 唸り声を上げたギルベルトさんは、無精ひげを撫でながら銃口を見つめる。


「まあ、木ってのは元々柔軟な素材だからな。変化を受け入れる余裕があるってことは、衝撃そのものに弱いってことだ」


 木を元にしてるってことは、木の特徴をそのまま受け継ぐってことかぁ。竹刀とか見てる限り、そんなに柔いイメージないんだけどなぁ。

 まああたしもそこんとこは理解してるつもりだったけど……。

 ダメもとであたしはギルベルトさんに無茶を言ってみる。


「魔法薬で、その辺の欠点を補えるようにできない?」

「できないとは言わんが、かなり時間がかかるだろうなぁ」


 あたしの質問に、ギルベルトさんは指折り、何かを数えはじめる。


「そうさな。新薬の実験や素材の採取、それから薬品効果そのものの検証なんかも考えて、ざっと一年は最低でも見てもらわんと」

「い、いちねん……」


 さすがにそんなには待てないわねェ……。既存の魔法薬を混ぜ合わせて、って感じでどうにかならないもんかしら……。


「おいおい、無茶を言いなさんな。そんなことして、研究室やら、お嬢やらが吹っ飛んじまったら目も当てられんだろうが」

「吹っ飛んだりするわけ? 魔法薬同士を混ぜ合わせて?」

「やったことないからわからんが、込められた魔法効果によっちゃ吹っ飛ぶかもな」


 なんともいい加減なことだ。とはいえ、適当に魔法薬を混ぜる程度では新しい魔法薬を作れるわけじゃないのね……。

 新しい鉱山もだめ、魔法薬による素材強化もだめ。マシンガンの大量配備による騎士団戦力の強化案が早くも暗礁に乗り上げたわね……。

 魔族連中が光矢弾(ライトボウ)を見て避けられるほどに早く動かなけりゃ、単発式のハンドガンたくさん作るんだけど……。

 あー、くそ! そもそも銃って発想がダメだったのかしら……。

 あたしはガシガシと乱暴に頭を掻いた。何しろ前回書きまくった兵器開発案の大半は、銃器かそれに類するものだ。特に連射式のものは半分ほどになるだろうか。

 その半分が丸々無駄になったわけなんだから、頭だって掻きたくなるわよ。はぁ……。

 肩を落としてため息を吐くと、慰めるようにギルベルトさんが叩いてくれた。


「まあ、そう気を落としなさんな。なんかの偶然で、木に鉄みたいな性質を持たせられる魔法薬ができるかもしれん。そっち方面の研究は続けてみるから、期待しないで待っててくれ」

「そーする……」


 ギルベルトさんの言葉に、力なく頷くあたし。

 そんな偶然に期待して行動できるほど、あたしは楽観的にはなれないわよ……。


「マコ様、元気出してください!」

「このマシンガン撃ってるとき、我々何かに目覚めそうになりましたもの!」

「タリホー!」

「ああ、はいはいありがとうー」


 騎士ABCがあたしを慰めようと、声をかけてくれる。

 その好意自体はありがたいけど、行動が伴わないわねー……。

 あたしは適当に返事をしながら、城の中へと戻っていく。

 あー、なんか暗い気分になってきた……。とりあえず、なんか気分転換しよう……。


「お、マコさんじゃねーか」

「うん? あんたは……」


 厨房にでも行って、何か食べるものでも貰おうかと思って歩いていると、通りすがりの魔導師に声をかけられた。

 えーっと、顔に見覚えはあるけど……誰だっけ?


「おいおい、隊長が出てく時、一応紹介してくれたじゃねーか!? フォルカだよ!」

「……ああ、ケモナー小隊の」


 魔導師……フォルカが憤慨しながら自己紹介してくれた。

 その両手には、たくさんの果物が抱え込まれていた。

 あたしはリンゴによく似た青い果物を掴み取る。

 ちなみに比喩じゃないわよ? ホントに青いの。これで、リンゴにそっくりな味なんだから困る。


「これどうしたの? 一個貰っていい?」

「言いながら持ってくなよ!? 厨房でもらってきたんだよ。今日のトレーニングが終わったんで、休憩用にな」


 トレーニングと聞いて、あたしはABCの銃試験の前の光景を思い出す。

 確か、一時間くらいかけて1km走るんだっけか。

 それってトレーニングとして成立するのかしら?


「あたしも半分持つから、ついて行っていい? あとこれ食べていい?」

「ああ、助かるぜ。でも、ついてきても面白いもんはないぜ? それはやるよ」

「あんがと」


 気分転換にはなるかしらね。

 あたしはフォルカから半分くらい果物を受け取って、そのあとについていく。

 しばらく歩くと、城の外にまた出た。

 ちょうど城の裏手につながっていたらしく、そこそこの広さの雑木林と、その向こうの街道に続く道が見える。

 そしてその手前には、死屍累々と言った風情で数十人の男女が倒れていた。

 みんなひどく荒い息を吐いているけど、まさか1km走っただけでこの様なわけ……?


「オラ、お前ら! これでも食って元気出せ!」


 フォルカが喝を入れながら、倒れているケモナー小隊の連中に果物を配り歩いていく。

 あたしも彼に倣って一人ひとりに果物を配っていく。

 とりあえず一人一個ずつ渡していくと、それぞれに回復魔法をかけて回っている女神官と目があった。


「これはマコ様!」

「あーっと……」


 確かこの人も隆司が出がけに紹介してくれたと思うんだけど……。

 パッと名前が出てこないあたしの様子を察してか、女神官が苦笑して自己紹介してくれた。


「ナージャですわ、マコ様」

「ああ、はいはい。ナージャね」


 何度も頷くあたしを見て、ナージャが満足そうに頷いた。


「それにしても、マコ様までこのようなことをなさることはありませんのに」

「いいのいいの。ちょっと気分転換したいとこだったし」


 ナージャの言葉に、あたしは首を振って見せる。

 さしあたって果物を配り終え、今度はナージャに倣って回復魔法をかけていく。

 えーっと、この場合、筋肉痛を回復させる魔法なのかしら。体力回復の魔法なのかしら。


「ありがとうございます、マコ様」

「お礼なんていいってば」


 律儀に頭を下げるナージャに、あたしは手を振る。

 ちょっとした気まぐれに礼なんか言われたら、なんかむずがゆくて仕方ない。

 するとナージャがクスクスと笑い声をあげた。


「マコ様は謙虚ですね」

「そうかなー……」


 ナージャの言葉に、あたしは首を傾げる。

 この程度で謙虚とか言われたら、正直礼美を指す言葉がなくなると思うんだけど。

 あの子、何かあってお礼がしたいっていわれたら、何も言わずに笑って立ち去るっていう、どこぞのヒーローのようなことを繰り返すような子だし。


「こっちも終わったぞー」

「ああ、はい。ありがとうフォルカ」


 残った果物を手渡すフォルカに頷いて、ナージャも果物を食べ始めた。

 ついでにあたしも残った青リンゴをかじる。

 しゃくっと瑞々しい音を立ててあたしの口の中に果物特有のさわやかな甘みが広がっていく。

 あー、癒される……。


「ああ、おいしい……。ところで、ケモナー小隊は次の防衛戦に出られそう?」


 あたしは青リンゴに舌鼓を打ちながら、フォルカとナージャに問いかける。

 隆司の紹介では、確かこの二人は騎士ABCに次ぐ立場だったと思う。なんでも魔導師と神官の中では一番体力があるんだとか。

 体力があるやつが立場があるってどうなの、って首を傾げたけど、他の連中のこの体力のなさを見ると納得ね……。


「その事なのですが、次の戦いに出るには少し厳しいかもしれません」


 あたしの質問に、ナージャが難しい顔をして答えた。

 もう一口しゃりっとリンゴをかじってからあたしは口を開いた。


「なんで?」

「見てもらえりゃわかると思うけど、魔導師や神官連中がこの様だからなぁ」


 フォルカが困ったような顔をして、ぐったりと倒れながらもシャクシャク果物を租借する連中を見る。

 確かにこの様子を見るに、動きの激しい魔王軍との戦闘に耐えられるようには見えないけど……。

 でも前回は、魔王軍を追い返すほどの働きをしたって聞いたけど?


「あんときゃ、隊長と騎士ABCが徹夜で気分盛り上げてたからなぁ……」

「洗脳分込みでの働きですので、また同じことをやれといわれると……」

「ああ、そうなの……」


 洗脳の一言を聞いて、あたしはげんなりと肩を落とした。

 あのバカ、異世界で一体何やってんのよ……。

 それに順応してるあの騎士ABCもいったい何者なのよ……。


「とはいえ、あくまで魔導師や神官は出られないだけで、ケモナー小隊の騎士は出られると思います」

「なんで次があるなら、一部を引き受けられるだけになっちまうな」

「それでも正直十分だわ」


 一部でも参加できる、と聞いてあたしは安堵の息をつく。

 隆司はともかく、あたしは光太や礼美の穴を埋められるだけの能力がない。

 団長さんがいるとはいえ、全部の役割を押し付けるわけにもいかない。

 だがケモナー小隊が一部でも引き受けてくれるというのであれば、その引き受けてもらった分浮いた騎士たちを余分に他の戦力に充てられる。

 それだけでもう、ケモナー小隊の存在意義は――。


「それに先週は魔王軍と戦えなくて、狐っ子成分が尽きかけですし。私も奮闘させていただきますよ!」

「おうよ! 猫耳に会うためなら親を質に入れてでも駆けつける覚悟だぜ!?」

「鱗! 鱗少女はまだですか!? 蛇でも可!」

「クマ耳のおじ様! 今花嫁が参ります!」

「犬!」「狐!」「ぬこー!」


 ナージャさんの血迷ったような発言を皮切りにフォルカが叫び、ケモナー小隊の連中が亡者のように起き上った。

 連鎖反応の様に復活していき、最後には立ち上がって腕を天に突き上げての大合唱へと変わっていく。


「「「「「モフれ! モフれ! モフれ!」」」」」

「「アメリア王国ケモノ属性愛好家団体(ケモナー小隊)! ファイトぉ!」」

「「「「「いっぱぁつ!」」」」」

「やだ……なにこれ……」


 思わず口からそんな言葉がこぼれる。

 一応、隆司からこの部隊の属性というか選考理由は聞いていたけれど、いざ目にしてみると非常にいわく言い難い……。

 なんていうか、その。頼りたくないし、そもそも近づきたくない。

 でも、こういうのに頼らないとやってられないのよね……。

 高らかに自分が愛する属性とやらについて語り始める目の前の変態(ケモナー)たちを前に、あたしはがっくりと肩を落とすしかなかった。




 さしあたって真子さん苦労するの巻。どうやらマシンガン量産計画は暗礁に乗り上げたようです……!

 一方のケモナー小隊。今回は騎士を中心とした面々になる模様。いっそ、団体ごとに属性特化させるか。神官は犬で魔導師は猫って具合に。騎士? 爬虫類辺りで行きますか?

 次回はヨークよりお送りいたしますー。


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