No.5:side・ryuzi「勇者たちの武器選び」
さて。
無事に覚醒の儀式を終え……いや、俺は覚醒してないんだけど。
ともあれ儀式を終えた俺たちはいったん男組と女組に分かれて行動することになった。
まあいつでも一緒に動かなけりゃならないわけじゃないけど、それ以上に真子に気になることがあるらしい。魔法を礼美と一緒に教えてもらうつもりのようだ。
その間に俺と光太は、騎士団長に紹介してもらって鍛えてもらうことになった。今はアルトの先導に従って、騎士団の詰め所に向かっているところだ。
つっても武術経験があるのは光太だけだから、俺を重点的にってことになるだろうなぁ。
一応路上の喧嘩くらいなら経験あるけど、相手が二人以上になった時点で逃げる算段始めなきゃいけないレベルだ。対して光太は、剣道をやっていたおかげか、三人くらいに大立ち回りを演じられる。一対一なら間違いなく光太の方が強いんだよなぁ。
そこまで考えて、俺は陰鬱な気分になってため息をついた。
「……はぁ」
「隆司、どうしたの?」
「いや、俺一人だけ今んとこお荷物っぽいの思い出してなぁ」
さっきの覚醒の儀式で、光太と礼美は光が、真子は真子で何か見たらしいのに俺だけ何も見れなかったのが悲しい。
フィーネ曰く、俺の体からは魔力が出ていないためあの本による覚醒の儀式が行えなかったようだが……それって単純に俺の中に魔力がないってことじゃねぇのかなぁ。
もしそうなると、俺には魔法が使えないってことになる。もちろんこれは俺の想像だから、魔力がないなんてことはないのかもしれない。
……でも、今すぐ使えるようになれるわけでもないだろう。そうなると、俺は一人で地道に訓練しないといけないんだよなぁ。
「そんなことないよ! 隆司がすごいのは、僕が知ってるよ!」
「はいはい、ありがとうな」
「いたっ。痛いよ隆司」
真剣な顔で慰めてくれる光太の頭を二、三度ポンポン叩いた。痛いってそんな大げさな。
こいつどうにも、自分を低く見る癖があるからなぁ。いろいろスペック高いはずなのに、この謙虚さはどうしたことなんだろうな。
「ゴルト団長! いらっしゃいますか!?」
そうこうするうちに、騎士団の詰め所へと到達していたらしい。いつの間にか王城の外に出ており、すぐそばにあった兵舎のような場所に俺たちは立っていた。
アルトが大声を上げて兵舎の中へと呼びかけると、扉が開いて中から一人の男がのっそりと顔を出した。
無精ひげが目立つ、三十路くらいの男だ。身長は俺たちよりも高い。
しっかり筋肉はついているが、筋肉ダルマってわけじゃない。全体的なシルエットはスマートな方だ。
おそらくゴルト団長らしい人物は、不機嫌そうに眉根を寄せてアルトをにらみつけた。
「そんな大声出さなくても聞こえてるぞ」
「ああ、いてくれてよかった……」
男の顔を見て、アルトはほっと安心したように息をついた。
「まるでいつも俺がいないみたいじゃねぇか」
「いつもではありませんが、いて欲しいときにいないものですから……」
ますます不機嫌になる男にペコペコ頭を下げてから、アルトは改めて俺たちに男を紹介してくれた。
「コウタ様、リュウジ様。こちらがアメリア王国騎士団団長の……」
「ゴルトだ。お前らが、今回召喚されたっていう勇者たちか?」
男――ゴルト団長はアルトの紹介を受けてから名乗り、俺たちをうさん臭そうな目で見つめた。
まあ、明らかにアルトと同い年のガキにしか見えないよな、俺たち。団長さんが胡散臭いと思うのも仕方ないか。
「光太です」
「隆司だ」
俺たちも団長さんにならってそれぞれ自己紹介した。
「コウタにリュウジな……。とりあえず、こっちに来な」
俺たちの名を復唱した団長さんは、顎をしゃくって兵舎のすぐそばに備え付けられていた大きめの倉庫の方を指示した。
先立って歩く団長さんの背中を追いかける。なんだなんだ?
団長さんは倉庫のカギを開けながら、どうして倉庫に連れてきたか説明してくれた。
「とりあえず、お前らが使う武器を決めておこうと思う」
「武器を、ですか?」
「ああ。まんべんなくやってたら時間かかりすぎるからな。さっさと武器を決めて、それに慣れろ」
乱暴に言い放った団長さんは、倉庫の扉を開いて中を示してみせた。
中には剣やら槍やら、ともかくたくさんの武器が雑多に突っ込まれている。
何やら埃まで積もって見えるが、不思議とくたびれた印象はない。
変な模様とかも描かれてるけれど、もしかしてこれ。
「この中には、魔導師団の連中が作った魔法武器や昔試作されて武器の類が治められてる。一足飛びに強くなりたいんなら、これが一番だからな」
「わぁ……!」
魔法武器と聞いて光太が目を輝かせるが、俺は違うことが気になった。
「なあ、団長さん。これだけあるんなら、騎士団の連中が使った方がいいんじゃないのか?」
「ん?」
「いや、魔王軍に負けてるなら、出し惜しみしてる場合じゃないだろ?」
「ああ、そのことか。残念ながら、まともに使いこなせる奴がいなくてな」
「これだけあって……?」
さっそくいろいろと物色し始めた光太に続いて中に入った俺は、軽くラインナップを確認してみる。
剣の形をした武器が多い。斧や槍の形をしたものもあるが、ほとんど剣だ。
なんか変な効果でもついてんのか? これだけあれば、使いこなせないなんてことないだろうに。
そんな俺の疑問を察したのか、団長さんは追加で説明してくれた。
「実はこの国、あまり鉄が産出されなくてな。その関係で、大量に鉄を使う剣じゃなくて、木で作ってもある程度威力のある棒状武器が主力なんだよ。なんで、騎士団で剣を使えるやつはあまりいないのさ」
「我々王族はたしなみ程度に剣術を行いますが、本当にたしなみ程度ですから」
「ふーん」
俺は二人の言葉にあいまいにうなずいた。
異世界の騎士団っていえば、剣を象徴にしてるイメージだったんだが……。
鉄があまり出てこないなら、槍みたいな棒状武器が主力になるのも仕方ないかねぇ。
剣が多いのは、王族が剣術やってるからかね?
とりあえず納得した俺は、山ほどある剣を物色し始めた。
……つっても、魔力が出てこない俺にとっちゃ魔法武器なんてあってないようなもんだけど……。
光太はうんうんうなりながら細身の剣を見つめ、団長さんとアルトは俺たちに合いそうな武器をそれぞれ一緒に探してくれた。
「コウタ様、こちらのブロードソードなどどうでしょう?」
「うーん。あまり、危険な武器はちょっと……」
「ホレ、こっちとかどうだ? 炎が出てくる魔法剣だが……」
「あ、ごめん団長さん。俺、魔力が出てこないとかで、魔法武器使えないんだわ」
「なに? お前さん、それでどうやって魔王軍と戦うつもりだよ」
「そこが問題だよなぁ……んお?」
痛い所を突かれてガシガシ頭を掻いていると、視界の端に興味をひかれるものが映った。
なんだなんだと武器を掻き分けてそこまで行ってみると。
「……なんだこりゃ。鉈か?」
倉庫の奥まった部分に突き立てられていたのは、石で作られた鉈のような剣だった。
剣の長さは、突き立った時点で俺の腰の少し下位までか。
素材を乱雑に斬りおとして作られたらしく、刃に当たる部分は刺々しいし、峰に当たる部分はごつごつと棍棒のようになっている。
鉈と形容はしたが、鉈ほど刃の幅は狭くない。刃の広さだけ見ると、菜切り包丁に近いな。
そして柄には乱雑に汚れた包帯のようなものが巻かれているだけ。これ、握り部分が滑らないようにってだけか?
武器というにはあまりに原始的だ。ただ、その無骨なそのデザインは俺の心を強く掴んで離さなかった。
何とはなしにつかんで、床から引き抜いてみる。
「……っと」
重いことは重いけど、思ったほどじゃないな。ずっしりとした感触が掌の中にしっくりと納まる。
切っ先に当たる部分は、平たく斬りおとされているようだった。ますます鉈だな、これじゃ。
「ん? おい、お前何を持って……!?」
俺が鉈を持っているのに気が付いた団長さんがなんかこっちを壮絶な顔で見つめている。
なんだろう。これ、ひょっとして呪われた武器かなんかか?
こっちに気が付いた光太とアルトも振り返る。
光太はこっちに近づいてきたが、なんかアルトまですごい表情になったんですけど。なになになんなの。
「うわぁ。隆司、何その剣? でいいの?」
「どっちかっつーと鉈だよなぁ」
光太がしげしげと見つめる前で、俺は軽く鉈の振るい心地を確かめる。
柄の長さも両手持ちできるくらいに長いし、振った時に刃に持って行かれそうになる感覚もない。
こんな見た目なのに、武器としてのバランスはかなり良いらしい。
「隆司、隆司。ちょっと僕にも持たせてよ」
「おう」
光太がせがむので、俺は手に持っていた剣を手渡――。
「ちょ、待った!」
「コウタ様! その剣を持ってはいけません!?」
そうとしたら、アルトと団長さんがあわてて止めようとした。
いや、そんなこと言われてももう渡しちゃ。
「うわぁっ!?」
ズドンッ!!
悲鳴と同時に、石に何かが突き刺さる轟音が響き渡った。
「………」
俺は恐る恐る視線を下に向けた。
びっくりして飛びのいた光太の足元。そこには先ほどまで俺が普通に持っていたはずの剣が深々と突き刺さっていた。
っていうか鍔元くらいまで突き刺さってるんですけど……。
「っぶねぇ……。リュウジ、お前どうやってその剣持ち上げたんだよ?」
「どうって……普通に……?」
「普通にって……」
ひきつったような俺の言葉に、団長さんはあきれたという風に首を振った。
「……この剣はな、大昔からこの倉庫にあるんだが、だれにも持ち上げられないことで有名な剣なんだよ」
「持ち上げられないって……」
団長さんは屈みこんで、剣の柄に手をかける。
そして柄を強く握ると。
「…………っ!!」
全身の筋肉を躍動させて剣を持ち上げようとする。
明らかに全力と見て取れるほど筋肉が膨れ上がり、ギシリと剣も小さな音を立てるが……。
そこから先は決して動こうとしなかった。まるで根が張っているようだ。
団長さんは顔を真っ赤にしてさらに力を込めるが、剣は動く気配すら見せない。
「っ、くはっ!」
結局団長さんは根負けして手を離して、勢いよく尻餅をついた。
俺はそんな団長さんを見てから、改めて剣に手をかける。
今度は二、三回深呼吸を繰り返してから、勢いよく剣を引き抜く。
……今度はたやすく剣が引き抜けた。
「……どういうことだよ?」
「……その剣はな、でたらめに重いはずなんだよ」
呆然とする俺に、団長さんはゆっくり立ち上がりながら説明してくれた。
「大昔から倉庫に眠ってたんで、魔導師団の連中もこぞって研究従ったんだがどうあがいても動かせず。何とかこの場で調べて分かったことは、この剣は普通の鉄や石なんかと比べてべらぼうに重いことだけ」
「初代アメリア国王が携えたという曰くもある剣なのですが、その重さのせいでほとんど何もわからずじまいな、正体不明の剣なのです」
なんとまあ、そんな曰くがあったとは……。
でも、それじゃあ……。
「なんで俺はこの剣が持てるんだよ……?」
少なくとも俺にとってこの剣はそこまで大層な重さのものじゃないんだけど。
「……リュウジ。ちょっとこれ、片手で持ってみろ」
団長さんは少し考えて、倉庫の壁に立てかけてあった巨大な盾を叩いた。
俺は何も言わずにそれに近づいて、手をかける。
「……嘘」
呆けたような光太の声が、目の前の光景を端的に表していた。
何しろ鋼でできているはずの巨大な盾を、俺は片手一本で、しかも盾の端を板のように持つという方法で持っているのだ。
普通なら、あり得ない。嘘だと思うんなら、大きめのテーブルの端を持って持ち上げようとしてみ? 絶対動かねぇから。
「……どーゆーことだよ……」
「……確か、魔力が出てないんだよなこいつ?」
「はい。そのため儀式の際には覚醒が唯一行えませんでした」
考えるようなそぶりを見せる団長に、アルトが答える。
そうだ、その通りだ。でもそれとこれに何の関係が……。
しばらくして、団長は何かをあきらめるように首を振りながら答えてくれた。
「……納得はいかねぇが、おそらくお前さんの魔力が全部身体強化にまわってるんだろう。だから、その剣を持てる」
ただ、答というにはあまりにも荒唐無稽なものだったが。
「身体強化って……あり得るのかよ?」
「納得はいかねぇって言ってるだろ。俺たちには女神の加護があるから、魔力を身体能力の強化にも回せるんだが、ここまで極端な例は聞いたことがねぇ」
あまりの答えに抗議するが、団長さん自身も半信半疑なようだ。
わけがわからねぇ……。まさか、これが俺の覚醒だったりすんのか?
あんまりの事態に、俺はげんなりと肩を落とした。
一方、光太は安心したようにというか素直に喜んでいた。
「でも、良かったじゃない、隆司!」
「え? なにが?」
「隆司も、こっちに来てからすごい力が宿ってたんだよ! 僕たち、みんな一緒なんだ!」
えーあー……。
光太や礼美はともかく、俺の馬鹿力は、そういうのにカウントしていいのかね……?
「まあ、才能といえば才能だろうさ。わけはわからんが、素直に喜んでいいんじゃねぇか?」
「ええ。それだけのお力があるなら、きっと魔王軍とも対等に戦えますよ」
考えるのを放棄したような団長さんの声に、慰めるようなアルトの後押しまで加わる。
いや、あんたらはそれでいいのかもしれんが……こんな変な力が加わっちまった俺はかなり気持ち悪いんですけど。
まあ、力はあって困るもんじゃねぇし……いいか、もう。
この剣自体は気に入ったし、使えるなら何でもいいや。
「じゃあ、とりあえず俺はこれ使っていいか?」
「ああ。どのみちお前にしかつかえねぇだろうしな」
「OK。じゃああとは光太の分の武器だな」
「あ、うん。なるべく、刀みたいな武器がいいんだけど」
「カタナ、ですか」
アルトに刀がなんなのか説明する光太の背中を見つめながら俺は一つため息をついた。
いったい全体、何が起こってんのかね俺……。
そんなわけで、男組からー。どうやらスーパーマンらしいですよ隆司君!
パーティー的には、勇者・僧侶・戦士・魔法使いって感じにしていきたいのです。
次回は僧侶と魔法使いの描写です!