No.46:side・remi「勇者たちの凱旋」
レストから無事魔王軍を撤退させた私たちは、領主であるカウルさんを残して王都への帰途につきました。
途中、レスト防衛のために派遣された騎士の皆さんとすれ違った時、王都の方では隆司君が新しく編成した部隊が魔王軍の襲撃を退けたって聞きました。
私と光太君はびっくりして、それから喜んだんだけど真子ちゃんはすごく複雑そうな顔をしてました。
どうしたんだろう?って思って聞いたんだけど。
「いや……。あのバカが編成した部隊って、いやな予感しかしなくて……」
って言って言葉を濁しました。
本当にどうしたんだろう……?
真子ちゃんとは長いお付き合いになるけど、こんな風にごまかす時は本当は別のことを考えてるときです。
いつもなら「はぁっ!? あのバカの部隊!? いやな予感しかしないんだけど……」って言う感じになるのに……。
そして騎士の皆さんとすれ違った後も、真子ちゃんは何かを考えるような顔でため息ばかりついていました。
私が声をかけても、なんだか上の空。
どうしちゃったんだろう……?
そして、私がその答えを知る前に、私たちを乗せた馬車は王都へと到着しました。
「レスト奪還を終え、勇者コウタ及び勇者レミを乗せた馬車が帰った! 門を開けよ!」
御者席からアスカさんが大きな声を上げると、門番の騎士さんの返事が聞こえて、それから王都の中へ通じる大きな門が音を立てて開きはじめました。
馬車がその中へと乗り込んでいくと、門の前で待ち構えていたみたいな王都の市民の人たちが馬車を囲いました。
ど、どうしたんだろう……?
不思議に思って窓から外を見るけど、そこから見える市民の人たちの顏は好奇心に溢れていました。
「何用だ! こちらの方々は、いましがた遠征からご帰還なされた勇者様たちだぞ!」
アスカさんが声を上げます。
すると、野太い男の人の声が聞こえました。
「そこなんだがよ。今回レストを取り戻してきたって聞いたんだが、本当か?」
「ああ、事実だ」
あ。そういえば、こっちに戻ってくるときジョージ君が連絡用の魔法で王都の魔導師さんに連絡を入れていたっけ。
その真偽を確かめるために、待ってたのかなぁ?
「なんと!? それは驚きましたな!」
「魔王軍をたった八人で退けるなんて!」
「少数で魔王軍を退けた勇者様の顔が見てみたいです!」
アスカさんの言葉を聞いてなのか、そんな声が聞こえてきました。
え、え? 顔を……?
すると私の隣に座っていたヨハンさんが活き活きとした顔で立ち上がって、馬車の天井を払い除けました。
この馬車、天井はずれちゃうんだ!?
「ならば皆様! ご照覧ください! このたび召喚されました、可憐にして高貴なる勇者、レミ様のお姿を!」
「「「イエー!!」」」
ヨハンさんの声に合わせて、さっきの男の人たちの声がまるで周りを煽るように聞こえてきました。
ちょ、ちょっとヨハンさん!?
すると周りもさっきまでじっと黙っていたのに、ガヤガヤとニワカに騒がしくなってきました。
「可憐にして高貴……。ちょっと興味あるなー」
「出がけは馬車の中にこもりっきりだから、全然顔見えなかったもんねー」
「なんでも聞くところによると、勇者コウタと勇者レミは良い仲って噂なんだぜー?」
「えー、それマジかよー。あたい、ちょっとショックー」
あれ、今なんだかとっても聞き覚えのある声が聞こえてきたよ!?
隆司君、外に絶対いるよね!?
「ど、どうしよう……?」
「え、ええっと」
「どうもこうもないでしょうが……」
光太君と顔を見合わせると、窓の外を眺めていた真子ちゃんが、ため息交じりに口を開きました。
「元々この遠征は、あたしらが勝利した結果とあんたたちのお披露目が目的なんだから、さっさと顔だしときなさいよ……」
「え、じゃあ、真子ちゃんも一緒に……」
私が真子ちゃんの袖を引っ張ると、真子ちゃんはめんどくさそうな顔で私の顔を見ました。
「なんであたしまで」
「だって真子ちゃんも勇者じゃ……」
「あたしは裏方勇者だからいいのよ」
「そんなぁ」
「ささ、マコ様」
私が泣きそうな声で真子ちゃんにすがりつこうとすると、ヨハンさんが私の肩に手をかけて立ち上がらせました。
「あ、ヨハンさん!?」
「さ~、コウタ様も~」
「ちょ、アルルさん!?」
さらに光太君も一緒になって立ち上がらせられてます。あうう……。
私と光太君が、少し困った顔で馬車の上に立つと、周りの人たちがピタッと黙りました。
「あれが……」
「勇者、さま……」
うう、緊張するよぅ……。
ガチガチになってしまった私の代わりに、光太君がコホンと一息つきました。
「みなさん、初めまして! こうしてご挨拶するのは、初めてになります! アメリア王国に召喚された勇者、光太といいます!」
「れ、礼美です!」
光太君のあいさつに合わせて、何とか頭を下げるので精いっぱいです。
「勇者様ー。レストが無事に解放されたって本当ですかー?」
群衆の中から、髪の毛が短い勝気そうな女の子がまた同じことを聞きます。
「はい! 同領地を収められているカウル氏も、すでに現地の再興を開始しております! 早ければ、一週間後にも新たな荷を王都に向けて送ってこられるとのことです」
光太君の言葉に、周りの人たちが一瞬呼吸を止めたように黙ってから。
「「「「「おおぉぉぉーーーーー!!??」」」」」
驚いたように、大きな声を上げました。
え、え、なんだろう?
「レストからまた荷が来るようになるのか!」
「よかったよー! あっちの方面の果物がそろそろ尽きちゃいそうだったんだよ!」
「ありがとう勇者様ー!」
周りの人から歓声が上がりました。
お、思ってた以上……。こっちから出てくるときはそんなに気にしてない風だったのに……。
「その調子で、他の場所も頼むよー!」
「よろしくなぁ、勇者様ー!」
「はい! 心の限り、この国のために尽くしたいと思います!」
強面のおじさんとさっきの女の子が並んで光太君に声をかけ、光太君がそれに応えました。
そっか……。やっぱりこの国の人たちは、魔王軍に領地がとられちゃって不安だったんだ……。
「さすが勇者様ー!」
「よく見るとレミ様超かわいくね!?」
「バッカお前、コウタ様のイケメンぶりも天井知らずだろうが!」
さらにそんな風に私たちを囃し立てる声まで聞こえてきました。
うう……恥ずかしいよぅ……。
「というか、貴様ら。そこでいったい何をしてるんだ?」
「Oh! 何のことアルネ?」
「私たち、あなたのこと知らないヨー?」
「アルベルトにベルモンドにチャーリーでありますよね。なんで群衆に混じってるでありますか?」
「く、まずい、身分がばれた! 散れ! 撤退!」
するとアスカさんとサンシターさんがその三人の人たちに声をかけました。
知り合いの人たちみたいだったけど、さらに追及するより先に三人ともどこかに姿を消しちゃいました。
誰だったんだろう……?
「でも確かにレミ様、お可愛らしい……」
「お人形さんみたいだよな……」
「コウタ様も、なんか凛々しいっていうか愛らしいっていうか……」
「ズバリ勇者様、って感じよねー」
でもまわりの人たちの興味が、だんだん私たちそのものに移り始めました。
「そうでしょう、そうでしょう! レミ様の美しさは天地を止まるところを知りません!」
「コウタ様も~、今回、すっごくかっこよかったんですよ~♪」
さらにそれらを肯定するようにヨハンさんとアルルさんが声を上げます。
ちょっとちょっと、二人とも~!?
「キャーユウシャサマー!!」
「ちょっと隆司、なんでそんなとこで黄色い声上げてるの!?」
「チッ」
と、光太君が隆司君を見つけたみたいです。
私も急いでそちらに顔を向けますが、もうその姿は見えなくなっていました。
「もう、隆司ってば……」
「隆司君、なにしてたの?」
「わかんないよ……。舌打ちして、すぐ姿くらましちゃったし……」
はあ、っとため息を吐く光太君。
でもその顔はなんだか嬉しそう。
そういえば、二週間ぶりくらいだもんね。会えたら、嬉しいよね。
「それでは、そろそろ戻りたいでありますので、道を開けて欲しいでありますー」
「おお、悪かったな」
サンシターさんが手綱を持ってそういうと、強面のおじさんが率先して群衆に道を開けるように指示します。
サンシターさんがお礼を言って、馬車を進めましたけど、人の列はぐんぐん繋がってなかなか途切れませんでした。
結局、私と光太君は御城に入るまで、馬車の上で群衆の皆さんに向かって手を振り続けることになったのです。
「お疲れー! パレード、大成功だったみたいじゃねぇか!」
「隆司……」
お城に戻ると、にこやかな笑顔で隆司君が出迎えてくれましたけど、光太君はぐったり疲れたような顔で隆司君を睨みます。
かくいう私も、そっくりな表情になってると思います。うう、立ちっぱなしで腕も振りっぱなし。すごく疲れたよぅ……。
「あの群衆の中にいたよね? なんで声かけてくれなかったのさ!?」
「なんのことかおれわかんなーい」
光太君の言葉に、隆司君は両手で耳を塞いでわざとらしく首を横に振りました。
うーん、でもなんでわざわざ群衆の中にいたんだろう? 私もそれは気になるなぁ。
「あたしが頼んどいたのよ」
「真子ちゃん?」
と、メイド長さんから飲み物を受け取っていた真子ちゃんがそういいました。
「いくらあたしたちが貴族領を解放したからって、いきなり市民の注目の的になるとは思えなかったから、サクラを仕込んどくように隆司に言っておいたのよ」
「ナハハ。煽る側が煽られる側とつながってるってばれるのはまずいだろ? だから無視したのさ」
「な、なるほど……」
隆司君の言葉に、光太君も納得したように頷きました。
言われてみればそうだね。サクラの役をしてる隆司君たちが煽ってるなんてばれちゃったら、気まずいものね。
「にしても、思ってたより人数多かったけど、どうしてよ?」
「ああ、贔屓にしてる喫茶店の店主に頼んでみたら、人を集めてくれてよ。なんでもレスト方面から、結構うまい果物が運ばれてくるとかで備蓄尽きかけてる店が結構あったんだとよ」
「へぇ……」
そうなんだ。だから、レストから荷物が運ばれてくるって知って、あんなに活気づいてたんだ……。
あ、それなら……。
「真子ちゃん、真子ちゃん」
「なに?」
「他の貴族領を解放すれば、みんなもっと喜んでくれるかな?」
「……さあ? これから解放していく貴族領が、必ずしも貿易の町とは限らないし……」
私の疑問に、真子ちゃんが難しそうに首を振りました。
「そのあたりは、アンナかアルトに……」
「皆様! お疲れ様でした!」
真子ちゃんの言葉と同時に、アンナ王女がこちらに駆けよってきました。
私たちの帰りを聞いて、飛んできたのかハアハアと息をついています。
「レスト解放、ありがとうございます! これで魔王軍反撃に一歩近づきましたね!」
「そうとは限らないわよ? 守らなきゃいけない個所が一か所増えたんだし、そもそもレストをまた奪還されないとは限らないもの」
レスト解放を喜ぶアンナ王女に水を差すように、真子ちゃんが現実的な意見を口にします。
こちらに戻ってくるときも、真子ちゃんはそれを少し気にしていました。
確かにまた取られたら取り返さないといけないから、いたちごっこになっちゃうんだよね……。
でもアンナ王女は首を横に振りました。
「確かにそれは危惧すべき事態ですが、今はレストを取り戻したという事実が大事なのですわ! 魔王軍も、皆様がそれだけの実力を持っておられると知って、警戒を強めるはずです!」
「警戒、ねぇ……」
アンナ王女の言葉に、真子ちゃんの顏が少し暗くなります。
でもアンナ王女はそのことに気が付かずに、声を張り上げます。
「さあ! 今日は凱旋記念にパーティを開きますの! 楽しんでくださいね!」
「あ、記念といえば、アルト王子はどうされたんです?」
光太君の言葉に、私は周りを見回しますがアルト王子の姿がありません。
光太君の言葉に、アンナ王女は気まずそうに眉尻を下げました。
どうしたんだろう……。
「あ、お兄様は……、その、貴族たちの応対をしていますの……」
「貴族たちの……」
「応対?」
私たちがおうむ返しに答えると、メイド長さんから飲み物をもらった隆司君が頷きました。
「ああ。お前らがレストを取り戻したって知らせを受けてから、次はうちの領地をって貴族が毎日アルトのところに押し寄せてるらしいぜ?」
「おかげで、お兄様がお休みになられる時間がほとんどなくて、政務もトランド大臣にまかせっきりになってしまって……」
「アルト王子は、実直であらせられますからな……。あの方に頼めば、次は自分のところが解放されると思い込んでいるものが多いのでしょう」
「嘆かわしい! 頼るのではなく、頼られるのが貴族でしょうに!」
アンナ王女の後ろから姿を現したトランド大臣の言葉に、アンナ王女が憤慨します。
アルト王子、大変なんだ……。
「……なら、すぐにでも次の領地開放に動かないといけませんね」
「うん、そうだね」
光太君の言葉に、私も頷きます。
トランド大臣は驚いたように目を見開きました。
「そこまでしていただかずとも……。此度の遠征でお疲れでしょう? しばし期間を開けてから……」
「いいえ! この国で困っているのは臣民や貴族ばかりではありません! 王族の方々もまた同じでしょう!」
「なら、それを助けるのが勇者の役目です!」
「コウタ様、レミ様……!」
私たちの言葉に、アンナ王女が感極まったように涙ぐみます。
アンナ王女だって、ホントならアルト王子に甘えたい年頃のはずです。
今日の凱旋で、貴族領の解放がこの国のみんなのためになるとわかったんです。
なら、休んでいる暇はありません……!
「頑張ろうね、真子ちゃん、隆司君!」
「おー」
「せめて、次の魔王軍の襲撃を凌いでからね……」
私の掛け声に、隆司君も真子ちゃんも話半分という感じで答えました。
むう。
「もー! 二人とも、ちゃんと聞いてよ!」
「「おー」」
「声が小さい!」
「「おー!」」
もう! 二人とも、頑張ってよね!
「レミ様、なんていうか、元気いっぱいですね?」
「うん。礼美ちゃん、今日のパレードでいろいろ元気貰ったのかも」
「我々としては、ありがたいのですが、あまり無理はなさらぬようにお願いしますよ?」
「はい。礼美ちゃんは、僕たちが守りますから」
そんなわけで凱旋編。サクラの皆さんは隆司編にて顔見知った人々です。
次も遠征に行く予定のようですが、日数的にはあと二日か三日ほどで魔族襲撃の予定ですねぇ。どうなるやら。
次回はそんな魔族側の事情をちらりとのぞいてみませう。