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No.44:side・ryuzi「新部隊、設立」

 無事にメンバーの選抜を終えた俺は、次の魔王軍襲撃に備え選抜したメンツを集めて講習会もとい修行を開始した。

 適性があるっぽい連中を集めただけなので、この時点で半分ほどリタイアとなった。やはり付け焼刃じゃうまくいかないよなぁ。

 だが、ここであのABC三兄弟が思いのほか役に立ってくれた。

 すでに俺と同じレベルだったため、周囲の洗脳もとい講習改め修行をつけてくれるようになったのだ。

 俺一人だとおそらくほとんど残らなかったろうけど、四人でやれば何とか十分な人数を育て上げることができた。

 騎士だけじゃなく魔導師や神官も混ぜ合わせた混合部隊……。ある意味で正しい部隊の姿だろう。一回の戦闘に出せる最低限の人数が残ったのみだが……今後は普通の部隊に少数参加させて多少の穴を埋める計画である。

 まあ、素人考えで立ち上げた部隊だ。多少は使えればいいなぁ、程度の期待度である。騎士団ばかりじゃなくて、魔導師や神官もいるのは純粋に頭数が足りないからだ。おかげで魔導師の数が若干多い気がする。遠距離攻撃が豊富と思うことにしておく。

 さらに言うなら男女混合である。騎士団にはほとんどいなかった女性の姿がかなり見て取れる。割合としては半々くらいか。

 そういえば、今回の戦争に魔導師や神官がほとんど参加していないのが気になったので、それぞれの長に理由を聞いてみた。

 曰く。


「魔導師は座学中心で、体力が持たんからのぅ……」

「神官も同じ理由で、戦いには不向きなのです。申し訳ない」


 という理由だった。

 それなら鍛えたらいいんじゃねぇのと思わなくはないけど、一ヶ月とか普通に時間かかりそうだからなぁ……。

 今回は脳内麻薬(アドレナリン)のブーストに期待するか……、ということで魔王軍が狼煙を上げたのを確認してから、貫徹で最後の仕上げを行う。

 明くる日。例によって気色悪いデンギュウに揺られ、俺をはじめとする実験部隊は魔王軍が待つ前線本部へと向かった。


「お待ちしておりました、リュウジ様!」

「あい。魔王軍は?」


 前線の見張り兵に尋ねるまでもなく、目の前に見えてはいるけど一応儀礼として聞いておく。


「いつも通り、皆様の到着を待っております!」

「いつも通り、か。こっちゃ、いつもと違うんだけどな」

「むむむ……。うまくいくかのぅ……」


 見張りの報告に、団長さんが不安そうな声音で答えた。

 まあ、付け焼刃的部隊での戦闘だからなぁ。不安なのも仕方ない。

 あと今回はフィーネにも出てきてもらった。一応、真子の代わりだけど、ほとんど戦闘は期待していない。本人が来たがったというのが一番大きな理由だ。


「大丈夫です、フィーネ様!」

「フィーネ様ならきっと大丈夫です!」

「大丈夫だから大丈夫なんです! OK!?」

「お、おーけー……?」

「お前ら、勢いだけで幼子を言いくるめるなよ」


 っていうか大丈夫しか言ってねぇじゃねぇか。根拠ゼロかよ。

 ABC三兄弟は、今回はフィーネの護衛である。一応、騎士としては平均的な実力の持ち主たちらしいので、任せても問題ないだろう。


「あんまり待たせても悪いし、そろそろ始めるか」

「そっすねー」


 さーて、一週間ぶりの嫁成分補給タイムだー。


「あのー、ところで」

「んー?」


 と、見張り兵が不安そうな顔をして俺を呼び止めた。

 なんだよ、早く嫁に会いたいのに。


「いえ、その、そちらの一団はいったい……?」


 見張り兵の言葉に、俺は背後を振り返る。

 そこにいたのは騎士に魔導師、神官といった皆々様がビシッと一糸乱れず直立不動で立っていた。

 両手は後ろに控え、胸を張って背筋を伸ばしてはいるが、こわばった顔の目元はクマで真っ黒。

 だというのに瞳の輝きだけは生気を滾らせ、不気味なほど爛々と輝いている。

 ここに連れてくるまでに、アンナにみられてエライ勢いでビビられたのを思い出す。

 ちょっとやりすぎたなー、と反省しつつも見張り兵には何でもないように答えた。


「今回の主力? まあ、気にしないで?」

「いや、気になります……。あと、人数が足りない気もしますが」


 意外と細かいことを気にする見張り兵だが、その言葉は事実かも知れない。

 今回連れてこれたのは、だいたい普段の魔王軍の兵士の数と同じ位なのである。

 いつも通りなら、間違いなく押し負ける。

 ただまあ、もし押し負けても最悪団長さんと俺とフィーネで周りごと吹っ飛ばす方向で作戦を決めてある。そのための護衛ABCなのだ。


「今回の部隊は、リュウジが編成した部隊だ。なんかあったら、こいつが責任取るさ」

「リュ、リュウジ様が直々に!?」


 団長さんが俺の頭にポムと頭を置きながら説明すると、見張り兵はすごい勢いで驚いた。

 そして俺の顔をまじまじ見てから、ビシッと敬礼を決めた。


「失礼いたしました! 不敬をお許しください!」

「あ、はい。許します」


 こんな風にかしこまられると、対応にすごい困る。どうしたらいいの?


「どうもせんでいいさ。さっさと行こうぜ」

「オイッス」


 団長さんの言葉にうなずきつつ、俺は後ろに向かって指示をした。


「行くぞ、ニワカども! 続け!」

「「「「「サー、イエッサー!」」」」」


 俺の言葉に一斉に答え、そのまま俺たちの後ろについてザッカザッカと軍靴を鳴らす。

 そんな光景に見張り兵が尊敬のまなざしを向けるけど……。


「いろいろまなざし間違えてるよね彼」

「間違いなく間違えてんな……。っていうかお前のせいだろ」

「テヘッ♪」


 この部隊の実情を知ってる団長さんの言葉に、俺は可愛らしく返事をした。

 団長さんから顔面パンチで返信をもらった。イテェ。


「間違えてるって……何を間違っとるんじゃ?」

「「「フィーネ様は何も心配しなくてよいのです!」」」

「う、うむ……?」


 不思議そうなフィーネには、ABCがうまいことごまかしてくれる。

 勢いって大事だなー。

 そして見張り兵がいたテントを超えて、魔王軍の目前まで歩みを進める。


「やっと来たねぇ。待ちくたびれたよ」

「今回は後れを取らぬ!」


 そこにいたのは四天王の一人、ラミレス。

 そしていつものように犬男とその後ろ辺りでこちらを睨む狐っ娘。

 そして我が麗しの……。


「………」


 ……魔竜姫様がおらんなぁ……?


「あのー。つかぬ事をお伺いいたしますが」

「なんだい?」

(ソフィア)はいずこに?」


 俺の質問に、ラミレスは触手を一本持ち上げて、あらぬ方向を指差した。


「いや、あんたたちが貴族領の奪還に動くって報告があったから、そっちの防衛に回ったよ?」

「ガッデェェェェェェェェェェェムッッッ!!!!」


 膝から崩れ落ちた俺は、地面を砕く勢いで両手を叩きつけた。そして実際に砕ける地面。

 ちくしょぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!! まさかそっちに動くとは思わんかったわぁ! 辰之宮隆司、一生の不覚っ!!


「“貴族領を取り戻すのであれば、あの男も全力を出さずにはいられまい!”って意気揚々と出かけていったんだけどねぇ」

「ちくしょう! 俺の背中今すぐ羽生えろ!」

「いや、さすがにそれは無理だろう」


 バタバタと両手を振り回してジャンプを繰り返す俺の耳に、団長さんの冷静なツッコミが突き刺さる。

 いやいけるいける! 人間やる気になれば羽の一対や二対生えてくるって!

 だから! 今俺に! ソフィア成分をぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!


「残念でしたねー、リュウジさん」

「まさかの嫁不在ですよ。これは痛い」

「テメェら、かすかに覗くその嫌味はなんだゴラァ」

「他意はないです!」


 他意はないって、微妙に半笑いじゃねぇか。

 チクショウ、フィーネのそばから離れるなって命令そんなに不服か貴様ら。


「貴様、またソフィア様をそのような呼び方で……!」


 何やら犬男のテンションが上がってるけど、正直興味ないです。

 シャリン!なんて勢いよく剣を引き抜いてますけど、どうしたのかなー……。


「もはや勘弁ならん! 今日こそ、その不遜な態度を修正してくれるわぁぁぁぁぁぁ!!」


 勢いよく犬男がガンダッシュでこちらに迫ってきます。


「チェストォォォォォ!!」


 そして俺の頭に向かって爪みたいな剣が勢いよく振り下ろされました。


「リュウジ!?」


 フィーネがなんか驚いたような声を上げてます。

 っていうかさすがに避けないとまずいか。痛いだろうし。

 俺は右手を素早く犬男の剣の側面に入れて、勢いよく横に振り飛ばした。


 バチィン!


「ぬあっ!?」


 犬男の悲鳴とともに、剣が遠くへと吹き飛んでいく。

 おお、結構飛んだなぁ。


「おやおや」

「ガオウ君!」


 ラミレスの呆れたような溜息と、狐っ娘の悲鳴が耳に届く。


「ぐっ……!」


 犬男がこちらを睨んで体を硬直させるが、こっちから何かする気はない。

 手を出さない俺を不審に思って、眉根を寄せる犬男。


「……?」


 しばらくお互いに睨み合う。

 動く気配がない犬男に俺は業を煮やして、こう言ってやった。


「剣拾いに行っていいよ?」

「なっ!?」


 犬男は愕然とした表情になり、だがすぐにその顔を怒りに染める。

 そのまま素早く俺と距離を取り、剣を拾いに行った。


「貴様、後悔するなよ!?」

「後悔ならもうしとるわぁぁぁぁぁ!!!!」


 嫁が向こうに行ってるなら、素直に貴族領奪還に動いたわい!

 俺の魂の叫びを聞いて犬男が若干鼻白んだ。


「な、何なのだ貴様……」


 毒気を抜かれたのか、ペタリと耳を伏せ、その尻尾をしょんぼりとしおらせた。


 ざわっ……!


 そんな犬男の姿を見て、俺の背後の一団が一瞬ざわめくが一睨みで黙らせる。

 まったく気の早い……。


「ところで、今回はてっきり決闘方式を選ぶと思ったんだけどねぇ……」


 俺たちの一連のやり取りをもの珍しそうに観察していたラミレスが、俺の背後に目をやりながら口を開いた。


「そっちは団体戦をお望みかい?」

「ん? ああ」


 俺が素直にうなずくと、狐っ娘がうーと犬歯を見せながら唸り声を上げた。


「その人数でですか……? もしそうなら、それは侮辱と判断します……!」

「然り!」


 その背後から姿を現したのはクマ耳のおっさん。この間顔面ぶっ飛ばしたのを根に持っているのか、何やら俺の方を恨みがましいまなざしで見つめている。


「貴公の武勇は認めよう! だが、そこな騎士たちには覇気が足りん! 実力も足りん! 三倍の数を用意するならともかく、我々と同等の数で対等にやりあえると思っているのであれば、覚悟をもって臨んでもらうぞ!?」


 クマおっさんの言葉を受け、その背後の魔族たちがそうだそうだとシュプレヒコールを始めた。

 今回は前回と違って年若いのも結構いるな。少女やら妙齢の女戦士の姿も見える。

 みんな肉食系の動物なのかね。草食っぽい魔族の姿は見えない。ただ、リザードマンらしい爬虫類系の魔族の姿も見える。

 ふむふむ……。まあ、今回は試しだし、種類に関しては後で相談かねぇ。


「まあ、なんと言われようともこの人数しか今回は用意してないしなぁ」

「なんだと!?」

「それに」


 クマおっさんが叫ぶより早く。

 俺は片目を眇めて不敵な表情を作り、自分の背後を指差してみせた。


「こいつらは、おっさんの眼鏡には適わないかね?」

「なにぃ……?」


 唸り声を上げたおっさんが背後の一団に目を向けるのに合わせて、俺も後ろを振り返る。


「「「「「………」」」」」


 そこには不気味に沈黙を保った一団があった。

 先ほどのシュプレヒコールにひるんだ様子どころか反応ひとつ見せず、ただただじっと眼前の魔族たちを見つめている。

 迸るほどの生気。爛々と輝く眼。

 そこにいるのは、一見すれば騎士と魔導師と神官の混合部隊。

 だが、その気配は一騎当千の古兵(ふるつわもの)を思わせる。


「………ッ」


 俺が視線を戻すと、クマおっさんが小さく身震いしているところだった。

 俺はわざと嘲るように声を上げてやる。


「どうした? ビビってんのか?」

「ぬかせ小童……。だが、貴公らの本気は理解した。存分に参られるが良い!」


 クマおっさんが声を張り上げ一歩下がる。

 それに合わせて魔王軍の下士官たちが闘気を登らせる。どうやらクマおっさんの言葉を受けて残りの魔族たちもやる気になったようだ。

 …………言質は頂きましたよ? 存分に参りますよ?

 俺は心の奥底でニヤァとほくそ笑みながら、ラミレスに向き直る。


「で? 何か不満はあるかな?」

「あたしは特にないさ。むしろ歓迎だよ。あんまり体動かしたくないからねぇ」

「私も同じだ! 人数など関係ない! 戦いとは、人数で有利不利が変わるわけではない!」


 俺の質問に、ラミレスとガオウは即答。

 最後に残った狐っ娘は難しそうな顔をしていたが、ほか二人の同意を受けて頷いた。


「あなたたちがそう来るのであれば……その傲慢ごと吹き飛ばします……!」

「怖いねぇ……。だが、同意はこれで得られたわけだ」


 俺は三人の返事に満足して、後ろを振り返る。

 そしてそのまま歩いて混合部隊の前まで歩くと、その前を右へ左へと行き来を始める。

 さあ、戦いの前の最後の仕上げだ。


「今この時を持って、お前らはニワカを卒業する。お前らはケモノ属性愛好家(ケモナー)だ」

「「「「「サー、イエッサー!」」」」」


 一斉に混合部隊の全員が腹の底から声を上げる。

 その爆音にフィーネがびっくりしたように飛び上がり、団長さんはつまらなさそうにあくびをして、魔族たちがこれからの戦いに備えて体をこわばらせる。

 ただラミレスだけが、俺の言葉に眉根をひそめる。


「そして貴様らはこれより最大の試練に立ち向かう。逃げ場などない。ありはしない。すべてを得るか、地獄に落ちるか……。どうだ、嬉しいか?」

「「「「「サー、イエッサー!」」」」」


 うむ。十分な覇気だ。

 俺は満足げにうなずいて、混合部隊の前に立ち、一拍置いて、声を張り上げた。


「野郎ども! 俺たちの特技はなんだ!?」

「「「「「モフれ!! モフれ!! モフれ!!」」」」」

「この戦いの目的はなんだ!」

「「「「「モフれ!! モフれ!! モフれ!!」」」」」

「お前たちはケモノ属性を愛しているか!? 目の前の存在が愛おしいか!? クソ野郎ども!!」

「「「「「ガンホー!! ガンホー!! ガンホー!!」」」」」


 ケモノ属性愛好家(ケモナー)たちの大音声。それは普通であることの決別。

 高らかに宣言されたそれを受け止め、俺は改めて魔王軍に向き直る。

 明らかに引いていた。ガン引きだった。だがもう遅いよ? 言質はとったかんね?


「ならば! アメリア王国ケモノ属性愛好家団体(ケモナー小隊)行くぞぉぉぉぉぉぉ!!!!」

「「「「「うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!」」」」」


 男も女も一緒になって鬨の声を上げ、目の前の魔王軍(エモノたち)に向かって突進していった。






「これはひどい……」

「あ。ダメですよ、団長!」

「たとえホントのことでも心の奥底に秘めるのが、真の紳士でしょう!」

「ホントのことって? なにがひどいんじゃ?」

「フィーネ様は気にしなくていいんですよー?」




 そんなわけでみなさんご一緒に。これはひどい……。

 もはや何がしたいのかすらわからない隆司の行動。ちなみにケモナー小隊の面々のセリフの「「「「「」」」」」←このカギかっこ五つ、これはたくさんの人がしゃべっているということの比喩として使用させてもらっております。今更ですね!

 次回は地獄絵図となります。おもに魔王軍側にとっての。


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