No.39:side・mako「貴族領の奪還」
危なげなく魔王軍に勝利できるようになってきたわね……。
隆司にしろ、光太にしろ、こちらに来てから手に入れた力に慣れてきたってことね。
あとは騎士団が使えるようになれば、この国の防衛を騎士団任せにしてあたしたちとほか数人で魔王軍を押し返せるようになるかも。
そんなことを考えつつ、いつものように錬金研究室にこもっていたあたしであったが。
「マコ様。アルト王子がお呼びです」
メイド長さんに言われてアルトに会いに行くことになった。
チクショウ、結局昨日の戦闘じゃ拳銃試せなかったから、うっぷん晴らしにいろいろ作るつもりだったのに……。
ぶつぶつ文句を言いながらも、アルトが指定した大広間まで行ってみると、円卓には隆司たち三人に騎士団長さん、宮廷魔導師のフィーネに神官長のオーゼさん、さらにアルトやアンナに見知らぬおっさんまでそこにいた。
「珍しいわね、ここまで揃えるなんて。なんかいいことでもあったの?」
「二度連続での魔王軍撃退。これをいいことといわずになんと言いましょう」
あたしが軽口をたたくと、見知らぬおっさんが口を開いた。
誰だろう、このおっさん? 見たことないんだけど……。まあ、いいか。
あたしは肩をすくめながら礼美の隣の席に着いた。
あたしたちが全員そろったのを確認してから、ここに呼びつけた本人であるアルトが口を開いた。
「まずはみなさん、先週に引き続き昨日の戦闘での魔王軍撃退、ご苦労様です」
「今度はリュウジ様とコウタ様が活躍なさったんですよね!」
「いや、ほとんど隆司のお手柄だよ」
興奮気味のアンナを諌めるように、光太が微笑んだ。
そんな光太の言葉に、隆司が若干嫌そうな顔になった。
「お前もきっちり半分倒してたろうが。手柄を押し付けんな。むしろお前一人で取れ」
「いや、隆司は本当に一人で戦ってたじゃないか。僕は、礼美ちゃんがいなきゃまともに」
「はいはい、そこまでにしときなさいよ? 話が進まないでしょうが」
あたしがパンパンと手を叩いて、不毛な手柄の押し付け合いを中断させる。
まったく。謙虚な光太も光太だけど、隆司だって光太の性格知ってるでしょうに。
「ハハハ……。いつも思うのですが、皆様は仲がよろしいですね」
「そう? なんなら混じる?」
アルトが若干羨ましそうにこちらを見つめていたので、そういってみる。
するとアルトは少し驚いたように目を見開いたけど、すぐに首を横に振った。
「いえ……。私では力不足でしょう。遠慮させていただきます」
「いや、別に一緒に闘えとは言ってないけど……」
さすがに一国の王子に最前線に立てとは言わないわよ。
「ですが、皆様のお力は本当にすごいですわ! たった三週間の間に四天王撃退に、魔王軍二連勝なんて!」
「いえ、そんな……」
アンナの言葉に、礼美が照れたように微笑んだ。
しかしたった三週間でこれかー。考えてみれば、ありえない戦歴よねぇ。
「そして、そんな皆様に新たなお願いがあるのです」
物思いにふけりかけたあたしの思考を現実に戻す見知らぬおっさん。
何やら偉そうだけど……。
「ところで、そっちのおっさん誰? 見たことないんだけど」
ちょっと気になっていると、隆司がズバッと聞いてくれた。
いやー、こういうときは便利な奴よねぇ。遠慮も呵責もなく普通にツッコんでいくから。
するとおっさんはかなりショックを受けたような顔になった。
いやそんな顔されても。
アルトとアンナも驚いたような顔になるけど、すぐに納得したような顔をして頷いたアンナがおっさんの紹介を始めた。
「紹介が遅れました。こちら、アメリア王国の大臣の、トランドですわ」
「「………ああ、大臣なんだ」」
期せずして、あたしと隆司の声がハモッた。
言われてみりゃ、大臣くらいいるわよね普通……。
でも、今まで欠片も姿を見せなかったけど……なんで?
「トランドは普段、私の補佐を務めてくれていますから、あまり皆さんにお姿を見せることはありませんので」
「じゃあ、あたしたちが召喚された日は? どこにいたの?」
「あの日は、勇者様たちを迎えられるアルト王子に変わりまして、政務を行っておりましたので」
ショックから立ち直ったらしいおっさん改めトランドさんがそういった。
なるほど。王様が没してから一年ちょっとだものね。アルトに代わって主な政務を取り仕切ってるわけだ。それじゃ、普段ほとんど姿を見ないわけだわ。
「ええっと、すいませんトランド大臣。あたしたち、ほとんど修行ばっかりだったもんで……」
「申し訳ありません、大臣。お姿をこちらから拝見に伺えば……」
「ああ、いえ。よろしいのです。私に会うより、皆様が力をつけられる方がずっと大切ですから」
あたしと光太が代わる代わる頭を下げると、トランドさんは申し訳なさそうに返してくれた。
礼美と隆司も頭を下げて謝ると、改めてトランドさんが新たなお願いというのを口にした。
「それで、新たなお願いというものですが……。実はここから最も近い位置にある貴族領を奪還していただきたいのです」
「はあ?」
こっからいちばん近い貴族領の奪還?
「ちょっと経緯を話してもらえませんか?」
「経緯とおっしゃられても、大したことはないのですが……」
と前置きをしてからアルトが説明した内容は、本当に大したことがなかった。
極めて単純化すると、あたしたちが二回連続で魔王軍を撃退したのを耳にした一部の貴族が、早く自分の領地を奪還してくれと大挙してアルトのもとに押し掛けたのが発端だとか。
「今までであれば、皆様の修業を理由にそういった貴族の嘆願を押し返してきたのですが……」
「あたしたちが調子に乗って二連勝しちゃったから、貴族たちも強引に押し込んできたと」
「そういうことになります」
トランドさんの説明が終わると、礼美と光太が慌てたように立ち上がり、アルトの近くまで駆け寄った。
「ごめんなさい、アルト王子!」
「まさか、そんなことになってるなんて……!」
「いやいや、あんたらがそこで謝るのはおかしいから」
勝つのが仕事なのに、なんで勝って謝らないといかんのよ。
「でも、真子ちゃん!」
「よいのです、レミ様」
礼美がこっちに反論しようとすると、アルトが立ち上がって礼美の肩に手を置いた。
そして疲れたように微笑んで、礼美と光太の顔を交互に見つめた。
「アルト王子……」
「皆様の勝利に、貴族たちが気運を取り戻し始めたのは事実なのです。それによって増長が生じるのも致し方ないこと」
「それに、そういった事柄は私たち王族の範疇ですわ! 皆様が気に病むことはありません!」
「アンナちゃん……」
アルトとアンナにそう言われ、若干納得はしていないようではあったけど礼美と光太は自分の席に戻っていった。
筆頭勇者たちが落ち着いたのを確認して、あたしはトランドさんに向き直る。
「でも、なんで急に? 奪還というなら、前回の会戦で勝利した時に起き上がってもおかしくないんじゃ?」
「前回はまだ一勝だったというのもありますが、今回は国民たちに勇者様のお披露目を行おうという企画を考えていたタイミングでしたから」
「ああ、それならついでに“貴族の領地を取り返す”ってパフォーマンスをしたらどうかと貴族側に言われちゃったと」
「おっしゃる通りです」
なかなか抜け目ない貴族もいたものねぇ。っていうか勇者のお披露目なんて必要なのかしら? 少なくとも城下町に不安めいたものが見えるとは思えないんだけど……。
「いや、それが意外とそうでもねぇらしくてなぁ」
「ん? 隆司、なんか知ってんの?」
ここでまさかの隆司が発言。
あたしの言葉に、隆司が肩をすくめてみせた。
「毎週毎週、決まった時間に狼煙が上がって、なおかつボロボロになった騎士団が帰ってくるってんで、いつ自分たちが同じ目に合うのか不安がってる町人って結構いるみたいだぜ?」
「ああ、そうなんだ……」
隆司曰く、町で贔屓にしている喫茶店で聞いた話だそうだが、そういう場所で流布している噂である以上無視するわけにもいかないだろう。
人の出入りが激しいのであれば、真偽はともかく話は流れる。
話が流れるならそれは噂になり、そして人の不安を煽るには十分な威力を持って国を席巻することになる。
今の魔王軍を見る限り、そういう部分をついてくるとは思えないけど……対策を取っておくに越したことはないわね。
「なら、その貴族領を取り戻して、凱旋パレードでもしながら帰ってくればいいのかしら?」
「申し訳ありません、マコ様」
「いいのよ別に。パレードの主役はどうせ光太と礼美だし」
「ちょっと真子ちゃん!?」
「なんで僕たちなの!?」
あたしのナイスな提案に、なぜか反論してくる筆頭勇者たち。
何言ってんのよ天然アイドル。こういう場で正面に立たないでどうすんのよ。
「あんたたちは素材がいいって前から言ってるじゃない。こういう時はあんたたちが前面に立つのよ!」
「そ、そんなぁ! 私が人前苦手って、真子ちゃん知ってるじゃない!」
「それでもよ! あと光太。パレードの時はいつも来てる野暮ったい奴じゃなくて、貴族騎士が着るみたいなキラキララメラメの服着なさいよ!」
「え!? 僕もあんまり目立つのは……」
「男ならグダグダいうな!」
あたしは一喝しながら持っていた紙に素早くパレードの時に礼美たちに何を着せるか書きつけて、メイド長さんに手渡した。
どこからともなく表れたメイド長さんはサッと内容を確認すると恭しく頭にあたしを下げてそのまま部屋を出ていった。
あたしは満足げに鼻を鳴らすと、涙目になっている光太と礼美に向き直る。
「いい? パレードの主役はあんたたちだからね?」
「真子ちゃ~ん……」
「うう……」
がっくり肩を下げる二人だけど、こういう場であんたたちの容姿を活用しなくてどうするんだか。
「それで、その貴族領ってのはどのくらいの距離なわけ?」
「移動の際には馬車を利用いたしますが、片道六日ほどかと」
「六日ぁ!?」
ほぼ一週間かかるんじゃないの!? どんだけ遠いのよ!
「っていうか、魔王軍の駐留基地に突貫しろとかそういうことじゃないでしょうね?」
「その点は大丈夫かと。方角的には違う場所にあるはずですので」
「なんでそんな場所がとられたのよ……」
「王都に侵攻する以前は、貴族領を中心に魔王軍は攻めてたんだよ。一応無事な領地もあるが、無事な領地は王都の背後にあるやつばかりだな」
騎士団長さんの説明が入る。
つまり魔王軍はアメリア王国の領土半分を支配下においてる計算でいいの?
たった一年でそこまで行くものなの……?
「まあ、騎士団やら自衛戦力なんてあってないが如しだったからなぁ。貴族領っつっても、奪われた領地も両手両足で数えられる程度だしな」
あたしのうんざりしたような顔を見て、団長さんが慰めるように声をかけてくれるが、慰めにもならない。
つまり最大二十箇所近い領地を取り戻さないといけないわけ……?
しかも最も近い場所で六日掛るとか……。頭痛い……。
「じゃあ俺は残るから! 光太、頑張ってくれ!」
「え、隆司!?」
あたしが頭を抱えていると、隆司が急にそんなことを言い始めた。
なによきゅうにー……。
「なんじゃ、隆司? 貴族領を取り戻してはくれぬのか?」
「いや、俺たち全員が抜けるわけにはいかねぇだろ? 片道六日じゃ、魔王軍が攻めてきちまう。なら最低でも誰か一人は残るべきだと思ってよ!」
隆司が何やら歯が輝きだしそうなさわやかな笑顔を浮かべながらフィーネに答えた。
何やら光太と礼美が感動に瞳を輝かせているけれど、本心は別にあるな?
「という建前で、ホントは?」
「嫁に二週間近く会えんとか拷問か貴様ら! 縊り殺すぞ!!」
バキィ!となかなかいい音を立てて壊れた椅子をそのあたりに放り出して、あたしはアルトたちに確認することにした。
「このバカの発言はともかくとして、実際問題、二週間近く王都を開けるのは問題よね。その辺はどうするの?」
「その間の防衛は、騎士団でなんとか……」
「一回くらいなら何とかなるさ。もちろん、誰か残ってくれるならそれに越したことはねぇが」
机の上に突っ伏したままピクリとも動かない隆司の姿を慄きながら見つめるアルト王子の言葉を受けて、団長さんが肩をすくめる。
うーん、向こうはなんか勇者に興味津々みたいだったし、誰か残るべきよね……。
このバカを増長させるみたいでいやだけど、こいつが残るのが一番かしら……。
「じゃあ、隆司は置いていくとして……。その貴族領の奪還はあたしたちだけでやるの?」
「いえいえ。まさか皆様だけを危険な場に赴かせることは致しませぬよ」
「騎士団、魔術師団、そして神官たちの中で、何名か供につける予定じゃ」
オーゼさんとフィーネの言葉に、この円卓にそれぞれの団体の長が勢ぞろいしていた理由が分かった。
つまり従者選定会なわけね。
「もし希望があるなら聞くが、どうする?」
「そうねぇ」
団長さんの言葉に少し悩む。
従者かぁ……。出来れば魔王軍と比較しても遜色ない腕の人がいいんだけどなぁ……。
「レミ様が奪われた領地奪還に赴かれると聞いて参上いたしました!!」
とか悩んでいると、扉を蹴破る勢いでヨハンさんが現れた。
どこで聞いてたのよ……。
オーゼさんはそんなヨハンさんの姿を見て、頭痛を抑えるように眉間のしわを抑えた。
「ヨハン……。今は礼拝の時間であるはずだが……」
「礼拝中に神託を受けました! ぜひ私を従者の一人に!」
それはもはや電波の領域じゃないの?
あたしの疑問をよそに、勢いよく跪くヨハンさんの姿を礼美は戸惑ったように見つめていた。
「え、えーっと……?」
「その人に関してはあんたに任せるわ……」
「え、真子ちゃん!?」
「魔術師団のお勧めは誰ー?」
フィーネに問いかけると、フィーネは指先で口元を押さえながら首を傾げた。
「ふーむ。戦闘力という意味ではジョージじゃし、旅をするという意味ではアルルかのぅ。あの娘、生活力があるタイプじゃし」
「そういう意味じゃ、サンシターあたりなんかちょうどいいかもな。戦闘力は皆無だが、馬番としちゃ有能だ。あまり大勢連れて行くわけにもいかねぇだろうし、アスカもついでに連れてってやってくれよ」
ふーむ。そこそこ人数も上がってきたかしら? 団長さんのいうとおり、そんなに大人数で行動するわけにもいかないだろうし……。
「じゃあ、あとは本人たちの意思確認して、明日から行動開始って感じかしら?」
「もしそうしていただけるのであれば、幸いです」
あたしの言葉にうなずくトランドさん。
さて、明日から忙しくなるのかしらね……?
そんなわけで貴族領奪還編でございます。
まあ、編といいつつそんなに長くなる予定はございませんが。今回は隆司がぼっちです。
次回はそんなぼっち隆司の視点……じゃなかったりするんだなぁこれが。