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No.38:side・ryuzi「石剣奥義」

 例によって前日予告狼煙を上げられ、俺たちは騎士団の面々とともに前線哨戒基地までやってきていた。

 装備はほぼいつも通り。

 しかし真子はあの後試作したらしい魔力式拳銃(木製)を二丁ほど携え、光太の奴は何か必殺技を身に付け、礼美はジョージにいろいろ魔法を教わっていたらしい。

 各々パワーアップは順次行ってるってことだな。よきかなよきかな。

 ん? 俺?

 嫁とのバトルのために妄想(イメージトレーニング)は欠かしていないぜ!

 その事話したら、真子の奴にキャメルクラッチ喰らったわけですが。絶対素手の方が強いってこいつ。

 まあ、そんなわけで準備万端の俺たちを出迎えたのは、騎士団の1.5倍くらいの人数の魔王軍だった。ただしソフィアも親衛隊も、そして四天王もいない。


「……今日はほかの連中は?」

「今回は我々だけで相手をしよう!」


 どうやら隊長らしい熊耳の生えたおっさんに真子が声をかけると、なかなか腹に力の入った大声で返答された。

 我々だけって……。


「この人数で、俺たちの相手を?」

「左様! 前回の会戦においての我々は、魔術師殿の力を侮った故に敗北を喫した! 故に今回は手を抜かぬ!」


 大声で宣言した熊おっさんは、真子を指差す。


「魔術師殿! そなたのあの魔法、詠唱に膨大な時間がかかるとラミレス様が見立てられた!」

「真子ー?」


 軍師殿に聞いてみると、軽く肩を竦められた。


「まあ、隠す意味もないしね。その通りよ。あれひとつ唱え切るのに、口に出しても三分は最低でもかかるわ」

「口に出さなかったら?」

「最速で四分ぐらいかしら」

「やはり! なれば我ら、数にてそなたらを押しつぶす!」


 熊おっさんの声に応えて、後ろに立っていた魔王軍の戦士たちが鬨の声を上げる。

 よく見ると、血の気の多そうな連中だ。前回の会戦にはいた俺たちと同い年くらいの魔族がいないところを見ると、ひょっとしたらヴァルトの直属の騎士たちなのかもしれない。


「真子ちゃん、どうしよう……」

「確かに、騎士団のメンツを数で抑えられて、あたしたちに集中攻撃されちゃ敵わないわね……」


 不安そうな礼美の声に、真子が深刻そうに答えた。

 今回のこちらのメンツは騎士団長も副団長もアスカさんもいる、フルメンバーともいうべき面子だ。

 だがその一方でしっかりサンシターもいたりする。そういう意味でもフルメンバーだ。

 騎士団の面々は一人一人の力が魔族以下なので、実質的に足止めくらいの戦力しか期待できない。数で勝っていたのが唯一の優位だったのに、その優位すら覆されているわけなのだが。

 深刻そうな声を出す一方で、真子の顏は涼しげだ。

 そしてそんな顔をしたまま、俺の顔を見てクイッと顎を魔王軍に向けて動かした。

 ヤレ、と。

 サーイエッサー。


「では、いざ参ら」

「あー、気合入ってるところ悪いんだけどさ」


 今にも突撃を駆けそうな熊おっさんにストップを駆ける俺。

 その後ろでは、真子が礼美に指示を出し、光太に何らかの魔法をかけている。


「何か?」

「いや、真子対策に人数で押してきたのはわかった」


 そこで俺は地面に石剣を突き立て、軽く首を傾げてこう聞いてみた。


「じゃあ、俺や光太対策に何か考えてはきてるんよな?」

「なに?」


 言うが早いか俺は地面を蹴って熊おっさんの顔面に拳を突き立て、光太は礼美によって加護か何かかけられた体を駆って、光の剣をいくつも魔族に叩きつけ。




 間。




 だいたい十分ちょっとくらいで今回の魔族軍団は地面に生える奇妙なオブジェと化していた。


「しかし光太。その光の剣、相手に傷がつかないんだなぁ」

「あ、うん。うまい具合に、意志力(マナ)だけ傷つけるようになってるみたいで」

「なにそれすごい。っていうか意志力(マナ)ってなんだよ」


 そんな風に世間話みたいな空気を醸し出す俺たちの周囲には逆さに突き立てられた魔族たちの体が生えている。

 その周りには俺に顔面ぶっ飛ばされたり光太に光の剣を突き刺された魔族たちがピクピク痙攣しながら倒れている。

 そんな様子を見ながら、真子が何やら呆れたような声を上げた。


「あんたたち、某無双ゲームじゃないんだから、雑兵一撃必殺はないでしょう……」

「二人ともすごい……」


 礼美も驚きの表情でこっちを見つめている。光太の強化分は礼美の手柄だと思うんだけどなー。

 サンシターやアスカさんに他の騎士団員たちもこっちを驚愕の眼で見つめているが、団長さんと副団長さんだけは涼しげな顔でこっちを見ている。

 団長さんが軽く肩に棒を担ぎながら、こちらに近づいてきた。


「コウタ。その剣、やっぱ意志力(マナ)を使いすぎるな。実戦で使うのは今回だけにしとけ。使うなら、もう少し発現に慣れてからだな」

「あ、はい。わかりました」

「リュウジ。お前、剣よりも素手で戦うほうが得意ならそう言え。お前の身体を活かすんなら、そっちのほうが断然いい」

「いや素手で鎧とか吹っ飛ばすのは勘弁だし、嫁の趣味には合わせるべきじゃね?」

「ふ・ざ・け・る・なぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」


 団長さんの寸評を聞いて素直にそういうと、突然の怒号が響き渡った。

 びっくりして声のする方に顔を向けると、なんかよくわからんけどそこに何かいるように見えた。

 いや、羽の輪郭とか尻尾の輪郭みたいなものがじったんばったん動いてる……!


ソフィア()! 見てたの!?」

「嫁と呼ぶなぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」


 轟!と吠えると同時に魔力の暴風がソフィアを中心に吹きあふれ、一緒に姿を隠していたらしい親衛隊たちの身体も見えるようになった。

 あー、姿隠し(インビジブル)って、魔力の影響でも解けるんだなぁ。

 ソフィアの太ももに必死と抱きついて諌めようとする狐っ娘と、その前に跪いてひたすらなだめる犬男がなんとなく哀れだ。猫娘は余裕綽々の表情で嫁の後ろに立ってるんだけど。


「お、落ち着いてください、ソフィア様ぁ!」

「そうです! あの男がソフィア様の伴侶にふさわしくないのは、我ら親衛隊一同賛同する次第であります!」

「私は一押しなんだけどにゃー。一途にゃん? きっと浮気とかしないにゃーよ?」

「浮気とかなにそれこわい。俺の体は嫁専用だ!」

「意味が解らんわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」


 俺の言葉に顔を真っ赤に怒らせて吠えるソフィア。

 フフフ、ここで羞恥ではなく怒りだと思い込むのがポイント。

 あとで思い出話をするときに、しつこく聞いて本心を聞き出すのだ!


「貴様今何か変なこと考えてるだろう!?」

「なに!?」


 ソフィアが俺の考えを言い当てた……!?

 もはや以心伝心すら可能なほどだというのか、俺の想いは!?


「いや、そんな暗黒微笑浮かべられたら、誰でも怪しむにゃん」

「ああ、うん。援護しようがないくらい悪い顔してたよ隆司」

「え? まじ?」


 思わず顔に掌を当ててしまう。

 そうかー。顔に出てたかー。少し残念。


「まあ、そんなコントはこっちにおいて」


 と、俺たちの隣までやってきていた真子が箱を脇にのけるような動作をする。

 うむ、さすが俺たちのツッコミ担当。見事な流れの切りっぷりだ。


「あんたたち、結局なんで姿隠し(インビジブル)してたわけ?」

「私の提案にゃん。二回連続で私たち、結構みじめな敗走してるにゃん?」

「ああ、ソフィア様!」

「大丈夫です! ソフィア様のせいじゃありません!」


 敗走、の言葉にソフィアがこっちに背中を向けて体育座りを始めた。

 その背中には哀愁が見え隠れする。ああ、抱きしめたい。あまつさえ、翼の付け根をコネコネしたい。


「だから今回は一回間を置く……振りをして、勇者たちの観察をしようと思ったにゃん」

「つまり、今回のこの連中は当て馬か?」

「まあ、言い方悪いけどそういうことにゃん」


 俺が地面のオブジェと化している魔族たちを指差すと、猫娘が一つ頷いた。

 あー、そりゃかわいそうなことしたなぁ。問答無用で埋めちまったよ。

 そろそろピクピクがビクンビクンに変わり始めてるので、カブを抜く要領で体を引っこ抜いてやることにする。熊おっさんが苦しそうに息を吸い始めた。

 そんな感じで一人ひとり抜いてやっている俺をよそに、ソフィアが立ち直ったのか勢い良く立ち上がった。


「そうしてお前たちの戦い方を研究し、次の戦に備えるつもりだったのだ! だというのに……!」


 全員の体を抜き終えた俺を指差し、ソフィアが怒り眼で思いっきり吠えた。


「貴様、素手の方が強いとはどういうことだ!? 私を愚弄するのか!?」

「いやいや違うんよソフィたん。さすがの俺も素手で剣の相手をするのは嫌だから剣を使っただけなんよ?」

「誰がソフィたんじゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

「お、落ち着いてくださいソフィア様!? 鎮静(マインドクール)!」


 狐っ娘が何やら呪文を唱えるのと同時に、真っ赤だったソフィアの顔色がスーッといい感じに冷えていった。なんだろう、血の気が引いてるようにしか見えねぇ。


「……まあ、そういうわけだ! 私と今から勝負しろ!」


 どうやら冷静になる系の魔法だったらしい。ソフィアが堂々そう言い放ち、腰に下げていたレイピアを狐っ娘に預けた。


「……素手で?」

「そうだ! 貴様とは、一度真剣にケリをつけるべきだと思うからな!」

「……わかった」


 もうすでに石剣も遠いし、仕方ないよね?

 そう思って、軽く拳を鳴らしつつ前に出ようとすると真子が俺の行く手を遮った。

 なになになんなのー?


「ソフィア」

「なんだ、魔術師。邪魔立てするなら……」

「いいの? 本当に」

「なに?」


 真子が、ソフィアの顔を見つめる。

 いつになく真剣な表情だ。まるで、目の前に死が待ち構えているような……。


「本当に、いいの?」

「……何がだ?」

「こいつと、素手で戦うのが」

「……? どういう意味だ?」

「だから、素手よ? フリーハンド。しかもあんたも素手。つまり格闘戦よ?」


 真子にそう言われ、ソフィアがゆっくり俺の方を向いた。

 俺はゆっくり微笑んで、ワキィッ!って感じで何かをつかむ動作をしてみせた。

 ソフィアが、怯えるように体を震わせた。


「……忠告、感謝する」

「わかってくれたらいいのよ」


 ソフィアが狐っ娘からレイピアを受け取るとき、なぜか深い後悔を抱いているように見えた。

 何を戸惑う必要があるんだか。ただちょっとアクシデントが起こるかもしれない格闘戦を全力でやるだけじゃないか!

 と考えていたら、真子に向う脛を思い切り蹴飛ばされた。イテェ。


「ふん! 貴様ごとき、ソフィア様がお相手なさる必要はない! このガオウが相手だ!」


 地味な痛さに耐えかねて脛を押さえている俺の前の、犬男が立ちふさがった。

 すでに準備万端、腰の双剣は抜き放たれており、今にも斬りかかってきそうだ。

 どうでもいいけど、無駄に暑苦しい男だな。毛皮的な意味でも性格的な意味でも。眉毛もなんか濃いし。

 俺がゆっくり立ち上がると、ガオウが双剣を構える。


「我はガオウ! ソフィア様親衛隊の切り込み隊長なり! さあ、神妙に参られよ!」

「フン! 勇ましいじゃねぇか! だが、その勇ましさどこまで続くかな……!?」


 俺は体をひるがえし、一足飛びに石剣を突き立てた場所まで跳ぶ。

 そして突き刺しっぱなしだった石剣を引き抜き、片手で持ち上げるような形で構えた。


「来い、犬男! 我が石剣奥義にて、相手をしてやろう!」

「ならばその奥義ごと、打ち砕く!」

「おいちょっとまて! 奥義なんてあるなら、私との戦いで使え!」


 ソフィアが何か言っているが、今は目の前の犬男に集中する。

 光太があわてて俺と犬男の視界から消え、狐っ娘がはらはらした表情で犬男の背中を見つめる。

 俺と犬男の間に、緊張の糸が張り詰める。

 一瞬か。永遠か。

 どちらともいえそうな時間を打ち破ったのは、つまらなさそうにあくびをした猫娘の声だった。


「でぃやぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」


 犬男が勢いよく駆け出し、右手に持った爪のような剣を振りかぶる。

 対する俺は石剣奥義を繰り出した!


「必殺! 石剣キィ~ック!」


 どごぉっ!!!


 壮絶な音を立てて、俺の十六文キックが犬男のがら空きの胴体に決まる。

 脱力して軽く下げられた両の手。その手の中で放置された石剣。

 気の抜ける表情。軽く開けられた口。

 それらに反して、力強く打ち込まれた右足。

 我ながら完璧な石剣キック……!

 ソフィアと狐っ娘が唖然とした表情でこちらを見つめ、猫娘が思いっきり吹き出している。

 おそらく俺の背後の仲間たちも似たり寄ったりの表情だろう。

 犬男が石剣キックを喰らって吹っ飛ぶ。

 その体が横を抜けて地面に転がる音を聞いて、ソフィアと狐っ娘が我を取り戻した。


「が、ガオウ君!?」

「ガオウ!? 無事か!?」

「あーっはっはっはっは!! あひゃひゃひゃひゃひゃ!!」


 何やらツボに入ったらしい猫娘が犬男を指差して大笑いしている。

 ゲホガホせき込みながら、犬男が勢いよく顔を上げた。


「きぃさぁまぁぁぁぁぁぁぁぁ!!! 石剣関係ないでわないかぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

「何を言う、関係あったろう」


 犬男の言いがかりに、俺が反論してやる。

 だが納得いかないらしい犬男はもとより、ソフィアまで詐欺師を見る目でこっちを見てきた。


「いや、関係なかったろう実際」

「いや関係あるよ?」

「どこがだ!? 説明してみろ!」

「なら聞くけど、石剣奥義と聞いて何を連想した?」


 俺の質問にソフィアと犬男が顔を見合わせて、それから俺の方を見て異口同音にこう言った。


「「石剣を使っての攻撃」」

「そう。その盲点を突く技こそ今の石剣キック! 相手の注意を石剣に向けておき、その不意を衝く蹴撃奥義……!」


 俺の言葉にソフィアと犬男がハッと何かに気が付いた顔になった。


「そ、そうか……!」

「確かに我々は貴様の石剣にばかり気を取られ……!」

「戦いとは二手三手先を呼んで行うもの……。始まる前の会話から、すでに戦いは始まっていたのだ!」

「え、ええぇ~……?」


 愕然とした顔になるソフィアと犬男の隣で、狐っ娘が納得いかない顔で俺と二人の顔を見比べている。


「く、私はまだ未熟ということか……!」

「私もだ……。あやつの言葉に惑わされ、その真髄を見極められなかった……!」

「え、えーっと……」

「じゃあ、今日はこんなところで撤収ってことでー。みなさーん、帰りますよー」


 自らの未熟さをかみしめ、自責の念にとらわれている二人に戸惑う狐っ娘を置いて、猫娘が何とか回復し始めた魔族の皆さんにそう声をかける。

 弱弱しい声を上げながらも、撤収を開始する魔王軍の背中に、俺は夕日を投げつけてやった……。






「今回、自分たち出番無いでありますね……」

「まあ、消耗しないならそれに越したことはないでしょ?」

「そうでありますが、釈然としないであります……」




 ちなみに最後の会話はサンシターと真子です。サンシターまで突っ込み始めると正直収拾つかないんだ。ごめんね。

 魔族たちとの絡みを書いてるとき、隆司のキャラが異様に輝きます。勝手に動いてしゃべります。止まりません。止める気もないです。

 次回は、少し新しい展開を入れていきたいと思います。


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