No.37:side・kota「意志の力、マナ」
「はっ! せいぃ!」
掛け声と一緒に勢いよくアスカさんに斬りかかる。
アスカさんは危なげなく僕の一撃を受け止め、軽くいなした。
そして僕のがら空きの脇に木剣の一撃を叩きこんでくる。
「くっ!?」
慌てて剣を引き、アスカさんの一撃を受け止める。
想像以上の一撃に、体勢が崩れた。
そこへ、アスカさんの鋭い蹴りが僕のお腹に決まった。
「ぐほっ!?」
そのまま後方へ吹き飛ぶ。剣こそ手から離さなかったけれど、あまりの痛みにしばらく地面を転がってしまう。
アスカさんの次の一撃に備えて、何とか立ち上がろうとするけれど、身体に力が入らない。
朝から立て続けに訓練を続けていたせいかもしれないけど。
それでも何とか立ち上がって、アスカさんに木剣を向ける。
でも、アスカさんはもう木剣を下げていた。
「コウタ様、今日はここまでにしておきましょう」
「まだ、やれますよ……!」
僕は何とか声を絞り出すけど、アスカさんは首を横に振った。
「焦るお気持ちはわかります。ですが、焦って身に付けた力はコウタ様の身を滅ぼしかねません。正しく休息を刻むのも、剣士として正しい修練なのです」
行き過ぎた行動を諌めるようなアスカさんの言葉に、しばらく荒い息で呼吸していた僕はゆっくりと剣を下に下げた。
確かに、アスカさんの言う通りなんだよね……。焦って剣を振っても、隆司やアスカさんに追いつけるわけじゃないんだよね……。
僕はゆっくりと地面に腰を下ろし、呼吸を落ち着けるように深く息を吸い込んだ。
「どうぞ、お水です」
「ありがとうございます……」
アスカさんが差し出してくれたコップの中身を、少しずつ口に含む。
魔法か何かでしっかり冷やされた水が、火照った体を冷やしてくれる。
水を急がずゆっくり、でも一息で飲み干して、僕は一息ついた。
そんな僕の隣に、アスカさんが腰を掛けた。
「はぁ……」
「コウタ様、ここ最近は熱心……いえ、急ぐように剣を振られていますが、何かあったのですか?」
覗き込むようなアスカさんの視線。真摯な眼差しに耐えられなくなって少し視線をそらしてしまう。
「いえ……。周りのみんなに比べて、僕はあまり力になれていない気がして……」
隆司は、こちらに来てから前よりずっと力や速さが強くなってる。
礼美ちゃんは、その祈りの力でみんなを癒せるようになっている。
真子ちゃんは、魔法をうまく扱えるだけじゃなくて最近じゃそれを利用していろんなものが作れるようになっている。
みんな、それぞれに力をうまく使いこなせるようになってきてる。
でも、僕は今のところ魔力の消費効率が上がってるだけだ。
エア・キャリバーは確かに強いけど、使いどころが難しい。竜巻の力も鎌鼬のような刃も、相手を傷つけずに……ううん、相手を殺さずに制するには力が強すぎる。
ヴァルト将軍のように本物の達人になら、遠慮することなく使うことができる。
でも、この間のガオウ君くらいの人が相手では、どのくらいの加減で打ち込めばいいのかわからなくなってしまう。
前に読んだ漫画で「敵を必要以上に傷つけず、大切な人を必ず守り抜く力というものは、史上最強クラスである」って言葉を、今、身を持って感じている。
今の僕には、とても無理だ。今の僕は、敵を殺すだけの力しか持っていない……。
「コウタ様……」
そんな僕にかける言葉が見つからないのか、アスカさんが迷うように僕の方を見つめていた。
ああ、そんな顔をさせるつもりはないのになぁ……。
「コウタ様~」
そんな僕たちのところに、アルルさんが駆け寄ってきた。
その手にはバスケットが握られていた。
「訓練は終わりですか~?」
「あ、いえ。今ちょっと休憩中で……」
僕は首を振るけど、アルルさんは聞いていないのか無視しちゃったのか、僕の目の前に女の子座りで腰かけた
「今日も~、差し入れにサンドイッチ作ってきたんですよ~」
アルルさんが僕の目にも見えるように、バスケットを開けて中身を見せてくれる。
中にはフルーツや生クリームを挟んだ食パンのサンドイッチがたくさん詰まっていた。
朝から訓練を続けていたせいで、すっかり空いていたお腹が今更になって大きな音を立てて自己主張を始めた。
アスカさんは目を丸くするし、アルルさんはおかしそうにクスリと笑うし、恥ずかしいなぁ……。
でも、正直照れるだけの余裕もなかったから、何とか笑顔を作って「いただきます」といってサンドイッチを手に取った。
口に含むと、サンドイッチの具になっているフルーツの甘味が体の疲れを癒してくれるようだった。
「おいしいです……。いつもありがとうございます、アルルさん」
「いいえ~。このくらいのことで、コウタ様のお役にたてるならこのくらい、お安いご用ですよ~」
アルルさんがほわんとほほ笑む。僕も何となく笑顔になった。
すると、隣からすごい勢いで手を伸ばしたアスカさんが、アルルさんの持っているバスケットの中からサンドイッチを二、三個まとめて掴んで、自分の口の中にツッコんだ。
「ああ~。ちょっとアスカ~、はしたないわよ~」
「フムッ! フング、フグ!」
アルルさんが、たくさんサンドイッチを持って行っちゃったアスカさんに文句を言うけど、アスカさんは無言でサンドイッチを租借してる。
うわぁ、まるでリスみたいになってる……。そんなにお腹空いてたのかな。なんとなく目つきも悪いし。
もしそうなら、悪いことしたなぁ……。騎士団で唯一の剣の使い手だったから、ついいつも剣の練習に付き合ってもらってたけど……。
この後の訓練は自主練にしようかな。隆司は、またハンターズギルドの方に行っちゃったし。
「ン、ッグム! ……コウタ様、まだ訓練を続けようとお考えですね?」
「え?」
サンドイッチを無事に飲み干したアスカさんの言葉に、僕は首を傾げる。
もちろん、そのつもりだったけど……。
「今日はもう訓練は中止いたしましょう」
「え!? 大丈夫です、まだやれますよ!」
「いえ~。私もアスカの意見に同意ですよ~?」
「アルルさんまで……」
そんなに疲れてるのかな……。いや、体力はまだあると思うんだけど。向こうでだって、今だってランニングは欠かしてないのに。
「コウタ様は気づいておられないようですが……意志力が減衰しております」
「え……? 意志力……?」
「はい~」
意志力ってなんだろう……? 魔力とは違うんだろうし、体力とも違うんだよね?
「あの、意志力ってなんです? まだ僕、体力は残ってますけど……」
「意志力とは意志の力。魔力や体力を行使するための意志を燃やすための力とでも言いましょうか」
アスカさんの言葉の意味が少しわからなくなってきた。意志を燃やす、力……?
「体力や~、魔力は~、それ単体では意味をなさないんですよ~」
「え!? そうなんですか?」
「はい~。ここに意志力を加えることで~、初めて魔法や~、騎士団長さんなんかが使う~、覇気になるんですよ~」
ええっと……。
「混乱しておられますか?」
「は、はい……。体力や魔力を使うのに、また別の力がいるなんて思いもしませんでした……」
「そうですか~? この世界じゃ~、常識ですよ~?」
じょ、常識だったんだ……。
「常識ではありますが、完全に解明されている力でもないのです。これらの説明の大部分は、過去に女神様より賜ったものと聞いておりますゆえ」
「女神様から?」
「はい~。時の女神様が~、神官たちの問いかけに答えたり~、必要に応じて授けたと聞き及んでるんです~」
つまり意志力は……女神様の力なのかな?
僕の質問に、アルルさんが首を横に振った。
「いいえ~。女神様曰く、これは誰もが等しく持つ普遍的な力なんだそうな~」
「女神はただその力の顕現を見守り支える存在であるとも伝え聞いています」
「女神様はあくまで意志力の象徴……ってことなのかな」
うぅん、難しいなぁ……。
「それで、結局意志力って具体的にはどんな力なんですか?」
「簡単に言えば、意志を現実にする力とでもいうのでしょうか? 体力を使うにしろ魔力を使うにしろ、何かを成功させたいがために起こす行動ですね? それを行うための起爆剤になる力……とでもいうのでしょうか?」
「実のところ~、魔術言語は~、魔法効果という法則を確実に確立させるための~、世界に対する宣言で~、実際にありえない事象を発生させているのは~、魔力の混ざった意志力なんですよ~」
そうなんだ……。あ! だから真子ちゃんみたいにほとんど無詠唱で魔法を発動させることができる人がいるんだ! あくまで魔術言語は法則であって、その法則を確立させるためのエネルギーは別にあるから!
「そして、神官たちが“祈り”と呼ぶ現象の根源にある力でもあります」
「え、そうなんですか!?」
「はい。もちろん、意志力単体では効果をなしません。ですが、自身の意志力を他者や世界に分け与えて意志を伝えることで、ほかの人間の体を癒したり、身を護るための壁を呼び出したりするのです」
なるほど……。あれ? それじゃあ?
「強く願うことで、自分の願いを顕現することができるってことですか……?」
「ええ、まあ」
「もちろん~、なんでも叶うなんて~、ご都合的な力じゃありませんよ~?」
それはそうだよね。でも……。
僕は素早く立ち上がって、エア・キャリバーに駆け寄った。素振りのために木に立てかけてたんだ。
そしてエア・キャリバーを抜き払って、両手で持って構える。
「コウタ様?」
アスカさんが怪訝そうにこちらを見つめてくるけれど、それを無視して僕は集中する。
魔力を込めるのではなく、自分の意志の力で風の刃を形成する……!
ゴウッ!
エア・キャリバーが唸りを上げて、竜巻をその身に纏う。
でも違う、これじゃない……! 僕のイメージしたのは……!
「コウタ様~! 無理はいけませんよ~!」
アルルさんがあわてたように僕を制止しようとするけれど、それにさえかまわず僕はさらに強くイメージする。
もっと、もっとだ……! もっとイメージするんだ……!
イメージするのは、宙に舞う鋭い刃。でも風だけじゃだめだ。
風は無形。形がないゆえに、自由に形を変えてしまう。
なら今の僕のイメージを確立できるのは……魔力か!?
途端、僕の体から光輝くの煙のようなものが立ち上り始める。
「なにこれ~!? 光太様~!?」
「これは……覇気!? いや、この感覚は魔力……!!」
光の、魔力……! ならばこの光を……!
「鋭い……剣に!!」
僕は叫んで、エア・キャリバーを勢いよく天に突き上げる!
同時に、巻き起こる旋風。
そして、その旋風の中に無数の刃が乱れ飛ぶ!
「光破……旋風刃!!」
名を呼ぶと同時に、エア・キャリバーの刀身を模した光の刃たちが僕の意志に従い空を飛ぶ。
渦巻く風に乗り、鋭い刃で空を裂く!
「で、できた……!」
「こ、コウタ様!!」
興奮のあまり、思わず顔がほころぶ僕に飛ぶ、アスカさんの叫び。
視線を向けると、旋風に足を取られて転んだアルルさんを、アスカさんが乱れ飛ぶ刃から守っていた。
しまった、技を成功させるのに夢中で……!?
「す、すいません!?」
僕は慌てて旋風と乱れ飛ぶ刃を打ち消し、アルルさんに駆け寄ろうとする。
けど、それが叶わずグラリとその体が倒れた。
「あ、れ?」
「コウタ様!?」
「おっと」
アスカさんの悲鳴より先に、僕の首根っこを誰かが掴む。
「だ、団長!」
「なんかさっきから叫んでばかりだな、アスカ」
僕の頭上から聞こえてきたのは、団長さんの呆れたような声だった。
「だ、ん長、さん?」
「おう。見てたぞ、コウタ。見事な技じゃねぇか」
「あ、りがとう、ございます」
なんだか全身に力が入らず、声もとぎれとぎれになってしまう。
おかしい、な。まだ、体力はあるはずなのに……。
「ぼく、どうし、て?」
「意志力も少ねぇのに、あんな無茶するからだ。アスカ、お前がきちんと監督しないからこうなるんだろうが」
「も、申し訳ありません!」
アスカさんが勢いよく頭を下げるのが見えた。
い、いや、でも悪いのは無理をした僕なんじゃ……。
「意志力っつーのはな、とてつもなくめんどくさい力なんだよ。魔力や体力と違って明確に観測する方法がなく、しかも自分でもわからねぇ。ある程度魔法や覇気に通じてるやつなら、他人の意志力を計ることはできるがな」
「そして、意志力が少なくなると、身体を動かしたり言葉を発する意志を顕現することができなくなるんです……!」
ああ、だから僕、今体力はあるけど言葉を発するのも億劫なんだ……。
「申し訳ありません、コウタ様! 本来なら、こうなるより前に御止めするべきだったものを……!」
「い、え。わる、いのは、ぼく、で……」
「まあ、回復する方法がないわけじゃないだろ」
僕とアスカさんが互い違いに頭を下げるそばで、僕の首根っこを持ったままの団長さんがそんなことを言い出した。
意志力を回復する方法もあるんだ……。でも、隆司が悪いこと考えてるときみたいな声の感じなのが気になるんですけど。
「では、アスカ」
「は、はい!」
「そこに座る」
「はい!」
団長さんが鋭い声でそう命じると、アスカさんが素早くその場に正座した。僕の状態を気にしてか、ひどく緊張しているように見えた。
そして団長さんが、そんなアスカさんの膝の上に僕の頭を置いた。
って、ちょ、この体勢は。
「あ~! アスカずるい~!」
「じゃあ、アルルには、コウタの手をぎゅっと握りしめる権利をやろう」
「わ~い♪」
団長さんの言葉に従って、アルルさんが僕のそばにしゃがみ込んで両手で僕の右手を包み込んだ。
っていうかなにこれ、どういう状況なの?
「で、意志力を回復する方法だけどな? こうして誰かと体を触れ合わせるのが一番早く回復する方法なのさ」
「そう、なん、ですか」
「そういうわけで、あとは若い者同士ご自由に~」
そんなことを言いながら、団長さんがヒラヒラ手を振りながら僕の視界からフェードアウトしていった。
こうして体を触れ合わせることで、アスカさんやアルルさんから意志力を分けてもらってるのかな? でも、この体勢の意味は……?
僕はそんなことを考えながら、心配そうな顔で僕の頭を撫でるアスカさんの顏と、幸せそうな顔で僕の右手をぎゅっと抱きしめるアルルさんの顔を見つめるのだった。
光太君、新必殺技を開発したようです。そして新解釈の登場。例えとしては、魔力や体力が水彩絵具で、意志力が水です。絵を描くには、基本的に水で溶かないといけないわけですね。もちろん例外もあるでしょうが。
ちなみに団長さんは、割と最初の方からずっと光太の様子を観察してました。団長仕事しろ。
次はようやく魔族の再登場です。やったね、隆司!