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No.34:side・ryuzi「喫茶“アメリアの泉”」

 あの悪夢の宴会から、四日ほど経った。

 前回の戦いのときに、何か思うことでもあったのか、光太や礼美、さらには真子まで今まで以上に修練や学習に力を入れるようになった。

 体力限界まで剣を振り、俺と戦おうとする光太を団長さんが後ろから当身かましてたり。

 そんな光太を新開発したらしい体力回復の祈りで癒しつつ、周囲の人の強化を試みようと顔面蒼白になるまで気張る礼美がいたり。

 メイド長さんにいわれて、錬金術師のギルベルトとやらと一緒に魔導具の開発にのめり込む真子の首根っこ引っ掴んで飯を食わせるべく引きずりあげたりとなかなか忙しい日々だった。

 え? 俺?

 もちろん、修練はしたよ? 城壁を素手で登ったり、速いスピードで伸びる木の上をギリギリの高度で飛び越えたり。

 ……こうしてみると、忍者みたいな修行しかしてないな俺。ほかにはひたすら反復横跳びを繰り返したりとかだし。

 まあ、そんなことですっかり日も経ち、そういえば一週間前に受けた依頼の結果どうなったかなー?とハンターズギルドを訪ねることにした俺。

 あんまりにもしつこく、魔族対策として俺と戦おうとする光太に若干辟易したってのもある。何も俺ばっかりと戦ってないでさ。剣の修練を担当してたアスカさんがこっちをさびしそうな目で見てくるからやめてくんない?

 そんなわけで、ハンターズギルドまで足を運んだ俺をギルド長さんは素敵な笑顔で出迎えてくれた。


「お待ちしておりましたよ、リュウ君」

「どもっす」


 以前の閑散な様子から少し変わり、ちらほらとではあるが人の姿が見られるようになったハンターズギルド。

 ギルド長さんの笑顔も納得だな。これはつまり。


「ええ。あなたに依頼した、原因の調査。どうやらリュウ君の言っていた亀とやらが原因だったようです」


 ギルド長さんの案内で入った、ギルド長さんの執務室。

 長の執務室としては驚くほど簡素なそこで語られた内容は、依頼の成功を意味するものだった。


「ということは、アイティスは元々のテリトリーに戻ったってことっすか?」

「ええ。少なくとも、ハンターたちの主な狩場となっていた入り口周辺からアイティスの姿がすっかりいなくなっています」


 そのあたりの調査は、ギルド長さん自ら行ったりしたらしい。苦労してんなぁ……。

 しかし森の入り口周辺からアイティスがいなくなったか……。主な収入源だったのになぁ。


「それではこちらが、今回の依頼の報酬の五百万アメリオンです」

「あい」


 ギルド長さんが差し出した札束を手に持ち、一枚一枚数えはじめる俺。

 こういう計算はキッチリしておかないと、ボラれても文句は言えない……ってのは軍師様の言葉だ。

 っつっても、さすがに五百枚も一々数えてらんねぇよなぁ……数えるけどさぁ……。


「もし、次がございましたらお願いいたしますね? 勇者様」

「ああ、はいはい、もしあったら……ん?」


 さしあたって十枚ずつの束をそろえていく俺にかけられた言葉に、思わず計算を止めて顔を上げた。

 ギルド長さんは柔和な笑みを崩さぬままに、俺を見つめていた。……何とも底の見えない笑顔だ。

 俺は肩をすくめた。


「……ばれてましたか?」

「いえいえ。たった一日であの結果報告を頂いたので、個人的に情報収集させていただいたのですよ」


 個人的な情報収集で身分ばれか……。つっても、そのうち明かさなきゃいけない話だろう。今までは騎士団の人たちの陰に隠れて行動してたからなぁ。

 アルトに、勇者お披露目ってことでなんかやってもらうか。もちろん光太と礼美主導で。


「今後、もし大型狩猟系の依頼がありましたら、リュウ君を通したらよろしいですかね?」

「王国専属の窓口に指定されても、若干困るけど、なんで大型?」


 俺の疑問に、ギルド長さんはなんてことないようにこういった。


「ハンターズギルドはあくまで狩猟組織であって、大型のモンスタークラスの生物を討伐できる人間がいないのですよ。なので、そういった生物の狩猟は騎士団の仕事なのですよ」

「なるほどねー」


 無事五百枚の一万アメリオン札を数え終わり、俺は札束を懐に収めた。


「それじゃ、今回はこれで」

「ええ。今後も、ハンターズギルドをよろしくお願いいたしますね」


 立ち上がって俺に握手を求めるギルド長さん。

 俺はそれに応じつつ、意外と底の知れないギルド長さんを油断ない目で見つめていた。

 こういう人こそ一番注意しないといけないのかもなー。




 俺はそのあと、カレンの姿を探すためギルド長さんが教えてくれた喫茶店とやらを探していた。

 今回の報酬は五人で割って支払うべきだと考えて、とりあえずカレンに百万渡そうと思ったのだ。

 でも、今日はギルドに来ていないらしく、依頼も受けていないっぽかったので、ギルド長さんに頼んでどこで暮らしているのか聞いたのだ。

 ……個人情報の管理とか、やっぱり甘いよなぁ。

 そして聞いたのが実家が喫茶店という話だったというわけだ。

 しかし喫茶店暮らしなのに、わざわざハンターズギルド所属ねぇ……。流行ってないんかね?

 などと思いつつ目的の喫茶店を発見。「アメリアの泉」という看板が掲げられている。

 最近何とか読めるようになりつつある公用語を何度も確認しつつ、俺は扉を開けて喫茶店の中に入っていった。


「あ! いらっしゃ、い、ませー…………」


 そしたらカレンが出迎えてくれた。

 素敵な笑顔で。フリフリエプロンドレスで。


「………………」

「………………」


 思わず見つめあう俺とカレン。

 しばらくの沈黙の後、なんとなくいたたまれなくなった俺は。


「空いてる席にお願いします」


 と口走っていた。

 カレンは、そのまま崩れ落ちた。


「な、なんで……なんで今日に限って……!」


 呪詛のような口調で、カレンが何事かつぶやいている。

 見られたのがそんなに恥ずかしかったんだろうか。

 いやまあ、普段知ってる雰囲気にはきわめて似合わないんだけどさ。

 顔立ちとさっき見せてくれた笑顔のことを考えればばっちり似合ってるから困る。

 しかしなんで今日に限って?


「なにどうしたのお前。いつハンターからメイドさんにジョブチェンジしたの?」

「ジョブチェンジしてねぇよ!? あたいは根っからのハンターだよ!」

「何言ってんだ、まだケツの青さも取れないガキの分際で」


 店の奥、カウンター席の向こうで木でできたコップを磨いていたいかめしい風貌のおっさんがため息交じりに言葉を飛ばした。

 何とも喫茶店という言葉に似合わない男だ。むしろ山賊といった方がまだ似合うかもしれない。

 おっさんは、カレンを睨むと顎をしゃくって自分の目の前の席を示してみせた。


「そんなところで油売ってる暇があったら、さっさと客を席に案内しろ」

「うっせー! こいつは客じゃなくて、ハンターの後輩だよ!」

「あ、この果実を絞った旬のジュースひとつお願いします」

「客になるんじゃねー!!」


 いい感じに腰の入ったローキックを喰らいながら、俺はおっさんの目の前のカウンター席に案内された。

 目の前に到着するのと同時に、コップ一杯のジュースが差し出された。


「果実を絞った旬のジュースだ。今朝絞ったばかりだから、新鮮だぞ?」


 にっこり、というよりはニヤリというべき笑顔のおっさんに礼を言いつつジュースを飲む。

 うまーい。こっちに来てから基本的にミルクか水かくらいしか飲んでないから、こういうのには縁がなかったんだよねー。

 とか思っていると、なぜか隣にカレンがドカッと座った。


「ちょっとメイドさん? 仕事中じゃないんですか?」

「客がいないんだよ。別にいいだろ?」

「よかぁねぇよ。働け」


 おっさんに向かって舌を見せつつ、カレンが何やら怖い顔でこっちを見つめてきた。

 んー、なになに? 今はジュースを飲むのに忙しいんだけど?


「で? 何の用だ?」

「何の用って……」

「あんたにここ教えてないじゃないかい! わざわざギルドの方で聞いてまで、いったい何の用なんだよ!?」

「お前、一週間前の依頼忘れたのか? あれ、成功したから依頼料を山分けに来たんだよ」


 俺はそういって、袖の下から百万アメリオンを取り出してカレンの目の前に置いた。一回やってみたかったのだ。


「え? この間って……」

「デカい亀を討伐した時の。あれ、報酬が五百万だろ? 俺とコウと、アスカさんとアルル、でお前で五人だから、ちょうど百万な」

「あ、ああ」


 思っても見なかった、という顔で百万アメリオンを受け取るカレン。

 なんだよ? あの時ちゃんと活躍してたろうに。


「いや、あれで依頼終了とは思わなかったからさ……」

「ああ、それは俺も思った。まさか亀一頭殺して終了とはなぁ」


 ジュースがおいしかったので追加注文しつつ、俺はうーむと唸り声を上げる。

 確かにあの移動要塞は驚異的だったけど、アイティスがおびえる要因としてはいまいちな気もするんだよなぁ……。

 あの広場をわざわざこしらえたり、あそこにおいたのが原因みたいに見えたけど、あくまであそこにいるだけじゃ脅威にはならねぇよなぁ……。


「んん? なんだお前さん。キルトの言ってた依頼を請け負ったのか?」

「え? キルト?」

「今のギルド長の名前だよ。ともあれ、あんな怪しい依頼請けたのか?」


 おっさんの驚いたような声に驚く俺。

 いや確かに怪しい依頼だったけど、そんな驚くようなことか?


「アイティス大移動の原因調査なんざ、いつ終わるかわからねぇ様な依頼じゃねぇか。五百万なんて、完全に割が合わんぜ」

「ああ、そういう意味ね……」

「ただでさえ今の森にゃ悪い噂が絶えねぇってのに、物好きな奴だぜ」

「悪い噂?」


 俺の疑問に、おっさんはしたり顔で頷いた。


「ああ。黒い馬に乗った姉ちゃんに森に入ったら殺すと脅されたり、胡坐掻きながら宙を飛んでるジジイにけたたましい笑い声を上げながら追い掛け回されたとか、そんな噂ばっかりなのさ」


 黒い馬に乗った姉ちゃんはともかく、ジジイの方は初耳だな……。

 人間を森の中に入れようとしなかったのは、間違いなく移動要塞を見られないようにするためだよな?

 存在を知られないようにするなら、危険であると脅したほうが効率がいい気はするな。

 アイティスが森の入り口周辺に移動しちまったから、実際に被害が出たり城の方に依頼が来たりするほど被害は出してないみたいだけど……。


「ハン。そんなの、アイティス大移動したせいで逃げてきた腰抜けの嘘だろう? 気にする方がどうかしてるんだよ」

「そういうけどな、カレン。お前だってあの亀が爆発した現場に来た女騎士の姿みたろう?」

「う、そりゃそうだけど……。あれが一々人間を追いかけまわしたっていうのかい?」

「うわさに聞く外見とは一致してるよな」


 そうなれば、人間を追いまわしたジジイとやらも魔王軍関係者ってことになるよな……。


「なあ、おっさん?」

「なんだ?」

「なんかこのジュースに合う食い物ってない?」

「そうだな、揚げポテトに塩振りかけたのならすぐできるが」

「じゃあ、それひとつ。それから、胡坐ジジイに関する噂って他にもないかね?」


 魔法か何かで、あっという間にぱちぱち音をたてはじめる油鍋の中に薄切りポテトを放り込みつつ、おっさんは首を傾げた。


「さあなぁ。アイティスが森の入り口辺りに出てくるようになったっていう前に聞いた話だからな。それ以来、森の奥に踏み込む奴もいないから、ほとんど話を聞かなくなっちまったんだよ」

「そうか……」


 もし情報があれば、持って帰りたかったんだけど、仕方ねぇか……。

 高温でさっと揚げたおかげでサクサクなポテトを食べつつぼんやりする俺に、なぜかカレンがせっつくように声をかけてきた。


「で? あんたはいつ帰るんだい?」

「んー? さしあたって飯を食うまで?」

「今何時だと思っているんだい!? さっさと帰れ!」

「バカ野郎。客に向かって帰れなんて言うやつがあるか」

「いいこと言うなー、おっさん」

「おう。ぜひ今後もご贔屓にしてくれよ?」

「ぜひ贔屓にさせてもらうよ。今度はコウたちもつれて」

「やめろバカー!?」


 何を嫌がってるのかは知らんけれど、今後もこの喫茶店を利用することにしよう。

 何事も、情報の最先端は噂だしな。




 カレンさん的にはフリフリエプロンドレスは黒歴史なご様子。

 何やら怪しげな新キャラ登場の伏線を張りつつ、次回の内容どうしようと悩む今日この頃。

 次回はまた魔族が来るかもしれません。


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