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No.31:side・ryuzi「よっぱらいたちの二次会」

 宴もたけなわ、といった感じで祝賀会はつつがなく終了。

 とはいえ、半ば貴族たちに光太と礼美、そしておまけ二人といった勇者の存在をアピールするために用意されたようなもの……らしい。少なくとも真子の奴はそういってた。

 光太と礼美は終始貴族たちに絡まれっぱなしで、少し俺と真子で相手をしていたが、結局最後まで見合いやら許嫁やら恋人やらそういう話で持ちきりだった。

 そこまでして勇者が欲しいんかおまいら。クーリングオフは効かないから、気がついたら一族郎党丸ごとハリウッドアクション映画みたいな大事件に巻き込まれても知らないよ?

 まあ、それはともかくとして。結局飯も少ししか食えなかった光太と礼美のため、飛び入りで騎士団の打ち上げに参加させてもらうことにした。

 こっちの方が気安いだろうし、飯も普通のものが豊富にありそうだという真子の判断だ。っていうかまだ続いてんのな。確か祝勝会が始まる前から飯だの酒だの詰め所に持ち込んでるのは見てたけど。

 騎士団の詰め所には、騎士団のメンツはもとより、なぜか神官や魔導師まで詰め寄って大騒ぎとなってる。そういえば、祝勝会には貴族しか参加してなかったな。あぶれた連中がこっちに流れ込んだんかな。

 詰め所の宴会は、俺たちの存在を快く受け入れてくれた。まあ、今回の勝利の立役者である真子が強引に輪の中心につれていかれたりしたが、その辺はご愛嬌だろう。

 光太も礼美も明るく迎え入れられ、ようやっとまともな食事にありついている。祝勝会に出てきた料理に比べれば安っぽい気もするが、二人ともおいしいおいしいといってパクパク食べている。こういう宴会とかに出てくる料理って、質に関わらずうまく感じるもんだしなぁ。

 そして俺はといえば、詰め所の中にこれでもかと高く積まれた酒瓶片手に、初酒へとチャレンジしていた。

 とりあえず、駆け付け一杯。ぐびー。


「っかー!」

「おお! いける口だな、お前!」


 もうすっかり出来上がってる騎士のおっさんが、バシバシ俺の肩を叩いてくる。

 ちょっと痛いが、初めて飲んだ酒がそんなことを忘れさせてくれるくらいうまいのでよし!

 いわゆる果実酒だろうか。果物の甘味の中に、アルコールの独特の風味が相まって何とも言えない味わいとなってる! 度数がどんなもんかは知らないけれど、これなら一杯とは言わず、一瓶でも行けそうだ!

 ……と、調子に乗ってパカパカ飲んでいたのは初めのうちだけだった。

 なぜか?

 ……これは後で聞いた話だったんだけど、この宴会場に持ち込まれていたのはそのほとんどが酒だったらしい。

 一応水もあったようだが、コップに注がれていたのはみんな酒なんだとか。

 こっちの世界の飲酒ルールは知らないが、少なくとも向こうの世界じゃ俺も真子も、当然光太も礼美も酒なんか飲んだことはない。

 つまり。

 ほかの連中が酒を飲んだらどうなるか、全くの予想がつかなかったわけで。


「あっはははははは、あはっははははははははは!!!!」

「うぉ!? なんだなんだ!? いきなりおぶさるなよ光太!? 飯食ってたんじゃ」

「見てみて隆司! あっはははははははは!!!!」

「ん? なんか面白いもんでもあったのか?」

「コップが逆立ちしてる! あはははあっははははっはあっははは!」

「え、どこにツボった!? それのどこにツボったんだよ!? ただコップが逆さにおいてあるだけじゃん!?」

「隆司の顏変だねー! あっははははははははははははははっはは!!」

「うるせぇ!! どうせ目つきも顔つきも不良だよ!」

「アルルさんかわいいー!」

「脈絡なさすぎる上、なんでそういう思考に到達した!?」

「すぴー……」

「肝心のアルルさんは寝こけてるし!?」

「あはははははっはははははははっははっはー!!!」

「ぐえっ!? ちょ、くび、しまっ………!?」


 笑い上戸な上絡み魔な光太にひたすら抱き着かれ。


「えぇい、離れろ引っ付き虫がぁぁぁぁぁ!!」

「あついです~……」

「あぁ!? って、礼美か。そりゃこんだけ人がいry」

「あつい~……」

「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!??? バカバカ脱ぐな脱ぐな!? ただでさえお前女神とか崇められてんのに、公開ストリップとかマジ勘弁!!」

「「「女神様ーの、ちょっといいとこ見てみたいー!!」」」

「「「ハイハイハイハイ、ハイハイハイ、キャー!!」」」

「煽るな酔っ払いどもぉっ!! 女性陣も……って、え!? アスカさんまで!? 満面の笑みでぇ!? ちくしょう、ヨハン! そいつらを締め上げろ!」

「レミ様! レミ様が御脱ぎになるなら私も!!」

「何故脱ぐ!? なぜお前まで脱ぐ!?」

「あ~つ~い~!!」

「脱ぐなぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」


 脱衣癖があったらしい礼美を必死になだめ。


「真子ー! 真子ぉー!! こいつなんとかしてー!!」

「………」

「なにお前、なんで今日の主役がそんな暗い顔で」

「……おうちかえゆ」

「あい?」

「おうちかえゆぅぅぅぅぅぅ!!! もうやらぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

「何がですか軍師様ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!???」

「わんわんこわいぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!!!!」

「わんわん!? ………ああ、ヴァルトのことか」

「わんわんやらぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」

「わんわんいないよぉ! ここわんわんいないからぁ!!」

「びええぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇんんんんん!!!!!」

「泣きたいのはこっちじゃぁー! サンシター! サンシタァー!!」

「呼んだでありますかー?」

「呼んでおいてなんだけど、無事なのかお前!? 全身まんべんなく、ボコられてたよな!?」

「ええ、まあ。レミ様と魔術師の方々の治癒魔法のおかげで……」

「よし、なら真子のことは全部任せた」

「何がでありますか!?」

「びええぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇんんんんん!!!!!」

「え、マコ様!? だ、だいじょぶでありますよ? 怖いのも、痛いのもないでありますよー」


 泣き上戸かつダウナーな方向にスイッチが入ったらしい真子をサンシターに預け。


「あははははっはははっはははははー!!! 礼美ちゃん可愛いー! もっと脱いでー!」

「お前っ……! そういうことは素で言ってくれよぉ!? むしろ密室に二人っきりで放り込むぞ!」

「光太君に言われたのでー! 春日礼美、脱ぎますっ!」

「脱ぐな! 脱ぐなぁ! 今ここで脱ぐなぁ! まだR-18には早いだろうがぁぁぁぁ!!」

「びゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!! りゅうじこわいぃぃぃぃぃぃぃぃ!!!!!」

「リュウ様! あまり怒鳴らないでほしいであります! マコ様がおびえているであります!」

「うすらやかましいわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!?????」


 ひたすら仲間たちの痴態をなだめさすって抑え込み。

 気が付けば、月はとっくり傾いて、宴会場は死屍累々の地獄絵図と化していた。

 俺は光太に引っ張られたり礼美に突き飛ばされたり真子に鼻水つけられたりした着物の片腕脱いで……というか肌蹴た状態でぐったりしていた。


「くー……すー……」

「むにゃ……」


 そんな俺の目の前では、幸せそうな顔して光太と礼美が抱き合うように眠りこけている。

 悪魔どもが……! もう二度とこいつらには酒を飲まさねぇ……!


「無事でありますか? リュウ様」

「サンシターか……」


 この二人をどうしてくれようか、ほの暗い思考で考えていると、横合いからサンシターが声をかけてきた。

 さっきまでずっとかまっていた真子の姿が見えないが……。


「マコ様でしたら、奥の仮眠室へお連れしたであります」

「そうか……」


 詰め所だし、仮眠室くらいあるか……。じゃあついでにこいつらも放り込んでおくか。

 サンシターの案内で、仮眠室まで光太と礼美とを担いで行き、せっかくなので一つのベッドに二人一緒に放り込んでおいた。

 翌朝起きて、朝一に異性の顔を見て腰を抜かすがいいわ。


「リュウ様、大丈夫でありますか?」

「ああ……?」


 クツクツ笑いながら詰め所の中へと戻った。ほかの連中は……このまま雑魚寝でいいか。ヨハンが全裸だったり、その下にジョージがいたり、アスカさんが酒瓶かかえて部屋の隅っこで丸まってたりするけど、もう知らん。


「いえ、今回の宴会にはお酒しか持ち込まれていないはずでありますから……」

「ああ、そうだったん? 最初に一瓶空けてから、全然飲んでねぇな、そういえば……」


 さあ次の酒を、と手を伸ばしたところで光太に抱きつかれたんでな。

 俺の言葉に、サンシターが目を丸くした。


「そうなのでありますか? てっきり、ほとんど飲んでないものと思ったでありますが。ご様子も、普段と変わられないようでありますし」

「飲んだように見えねぇってんならお前もだろ?」

「いえ自分、幼い頃はお医者様にお世話になりっぱなしだったでありますから、アルコールには慣れているであります」

「アルコールってそんな慣らし方だっけ……?」


 そもそも消毒用と酒とじゃずいぶん物が違う気がするんだけど……。

 まあいいや。


「確かに言われてみりゃぁ、全然酔った気分がしねぇなぁ。果実酒って、そんなに強くなかったっけか」

「いえ、結構強いお酒のはずでありますが……。向こうでも、よく飲んでいたでありますか?」

「んにゃ、初めて」

「初めて!? とてもそういう風には……」


 酒瓶を逆さに振って中身を確かめる俺に、サンシターが驚いたような声を上げる。

 つっても、一応普通に家に育ったから、その辺キッチリしてたんだよなぁ。

 しかし見事に空瓶しか残ってねぇな……。もう少し飲みたかったんだけど……。


「くそ、何も残ってねぇな……。おい、サンシター。この時間って、どこか店やってるかなぁ」

「え、ええぇ!? まだ飲むのでありますか!?」

「まだも何も一瓶しか飲んでないうえ、酔っぱらいの相手で時間があっという間に過ぎたじゃねぇか」


 ぐったり肩を落とす俺に、サンシターはひきっつた笑みを浮かべた。


「た、確かに……」

「最後の労をねぎらう一杯くらい飲みたい。つーわけで、どこかいい店を紹介するのだサンシター」

「そう言われましても、さすがにこの時間では……」


 すっかり月も落ちた暗い夜空を窓の中から見上げるサンシター。

 言われてみりゃそうか……。飲み屋もとっくに閉店してる時間だよなぁ。

 うむむ。そうなると、このまま寝るくらいしかないのか? 飯は食ったけど、なんだか物足りないぞ……。


「そういうことなら、一杯やるか?」

「「はい?」」


 突然横合いから声をかけられ、俺とサンシターは声をハモらせそちらを振り返る。

 そこには大きめの酒瓶を片手に持った、騎士団長さんが出入り口に立っていた。


「団長さん? こんな時間にどうしたんだよ?」

「どうしたも何もねぇよ。初勝利だっつーから、秘蔵の酒を持ってきたんだよ」

「そういえば、非番でありましたよね、確か」

「ああ。ちくしょう、飲み屋のはしごなんかするもんじゃねぇな……。すっかり出遅れちまったぜ……」


 団長さんは、足の踏み場もない詰め所の惨状を見て、悔しそうな声を上げた。

 っていうか、あんた飲み屋をはしごしてたんかい。そこはまっすぐこっちに来るべきところじゃねぇの?

 俺がそういうと、団長さんはばつが悪そうに視線を逸らした。


「そうはいうがな? 昼過ぎまでぐっすり寝て、そのあと二度寝して。月が上がった頃に起きて、飲み屋を何軒かはしごして。行きつけのバーでお姉ちゃんにやっと教えてもらったんだから仕方ねぇだろ?」

「それは仕方なくないと思うであります」


 サンシターが呆れたような眼差しで、団長さんを見つめている。

 こいつ意外と遠慮ないな。


「まあ、それはともかく、だ。どうだ? 飲むか?」

「飲む飲む。ちょうど飲み足りなかったんだよ」


 高そうな酒瓶を掲げる団長さんに駆け寄る。

 中身は透明な琥珀色の液体……ブランデーとかウィスキーの類だろう。

 アルコールはさっきの果実酒より強そうだけど、大丈夫だろたぶん。


「よし、サンシター。お前、厨房でなんか簡単なつまみ作れ」

「え、自分がでありますか!? 自分、もう寝たいであります……」

「いいじゃねぇか。お前にも分けてやるからさ」

「うう……」


 団長さんに命じられ、仕方なくというようにサンシターが詰め所奥に設置されている簡易厨房へと向かう。

 っていうかサンシターが料理? 大丈夫なのかそれ。


「ああ。あいつの料理の腕は、うちの騎士団一でな。凝ったものは作れないっていうが、その味はレーテのお墨付きさ」

「レーテ? 誰それ」

「この城のメイド長だよ」

「ああ、あの人……」


 疑問の答えは意外なものだった。いや、意外でもないのか、ある意味? この間、料理本読んでたしな。

 とはいえ、メイド長さんが認めるほどか……。ちょっと楽しみだな。酒の肴とはいえ。


「じゃ、俺たちも厨房に行くぞ。こんな、酔っぱらいの巣窟より、よほどましだろ」

「だな」


 団長さんに促され、俺は酔っぱらいの隙間を縫うように歩を進める。

 死体みたいに動かねぇけど、アル中で死んでる人とかいねぇよな。


「ああ、そうそう。――すまなかったな、リュウジ」


 そんな俺の背中に、物のついでというような軽い感じでそんな言葉がかけられた。

 思わず振り返ると、団長さんが真剣な顔でこちらを見つめていた。


「……? なにが?」

「今回の会戦、俺は非番だったろう?」

「ああ」

「ほとんどお前ら任せにしちまったからな。時間切れで引き分け位を願ってたんだが……まさか勝ってくれるとはな」


 そういって、団長さんが俺の隣に並ぶ。

 まあ、俺も勝てるとは思わなかったし……でも、なんですまなかった?


「――元々お前らは、普通に暮らしてたんだろ?」

「ああ、うん。こういう世界じゃなかったからなー」

「そんなお前らを巻きこんじまった。あまつさえ、魔族と戦っても勝てるくらいに、引きこんじまった」

「……だから?」


 すまなかった、と?


「本当なら、俺たちがしっかりしなきゃならねぇのにな。まったく、騎士団とか笑わせるぜ」


 自嘲するような、団長さんの言葉。

 ……責任を感じてるってことか? 団長さんはヴァルトとタメ張るくらい強いけど、ほかの連中はそこまででもないことに。


「……まあ、頼りねえ騎士団だけど、これからも頼むぜ、勇者様」


 そういって、団長さんが俺の肩を叩く。

 俺は叩かれた肩をそっと撫でた。

 俺を追い越して厨房へと向かう団長さんの背中が、少し小さく見える。

 何を思ってるのかわからねぇけど、自分たちのことを情けなく感じてるんかな、話の内容から察するに。

 ……俺的には、ソフィアに会えたしそれで帳消しでいいんだけどなぁ。


「ほかの連中は、どう思ってんのかね。この異世界旅行のこと」


 団長さんに聞こえないように小さくつぶやいて、俺は肩をすくめた。

 まあ、なるようにならぁね。




 そんなわけで、酒癖の悪い勇者様たちの巻でしたー。

 今後間違いなく隆司の手によって禁酒令が出されるでしょう。特に礼美。公共の場で脱がれちゃかなわん。

 次はそんな礼美ちゃんの視点ですー。


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