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No.29:side・mako「天星いずる」

 互いの戦力をぶつけ合う総力戦。その様子はほとんど泥沼にしか見えないわ。

 ほとんど二対一だっていうのに、こっちの騎士団は翻弄されっぱなし。

 剣道三倍段って言葉があるはずなんだけどなー。


「ていやー!」

「ぎゃー!?」


 あ、サンシターやられた。


「よおーし、次の奴に」

「まだまだぁぁぁぁ!!」

「ええっ!?」


 あ、復活した。これで三回目ね。

 もちろん、サンシターのように極端にやられやすいものがいる一方で、単体でも頑張っている人はいる。

 副騎士団長と、意外なことにアスカだ。

 副騎士団長は持ちやすい長さに切られた二本の槍を両手で巧みに操り、両脇から攻め込もうとしている魔族を蹴散らしてほかの騎士団の援護に向かおうとしている。

 一方のアスカは、さすがに他の騎士団の援護に迎えるほどの余裕はないようだが、それでも二人の魔族を相手取ってほぼ互角の戦闘を繰り広げている。


「ひゃっはー! この人強いよー!」

「今日は当たり引いたよー!」

「人が景品のような言い方をするな……!」


 相手にしている魔族は妙に興奮しているようだが、こっちの準備が完了するまでは持つだろう。もうちょっと頑張ってほしい。


「おりゃー!」

「ぎゃー!?」


 いやほんとがんばってほしい。サンシター、あんたこれで四回目よね、やられるの。


「よ、よし。今度こそ」

「まだまだぁぁぁぁ!!」

「ぎゃー!?」


 復活で帳消しになってるのかしら、一応。


「そこをどけぇぇぇぇぇぇぇ!!!」


 ひときわ大きいバカ声に振り向くと、ガオウとやらが両手に持った爪のような双剣で光太に斬りかかっているところだった。


「ここを通すわけにはいかないよ!」


 手に持った長剣で、暴風のような連撃をしのぐ光太。よく見ればすでに剣は風を渦巻いている。あの風で双剣を凌いでるのね。


「が、ガオウ君の邪魔を、しないでください……!」

「そうはいきません! 隆司君とソフィアさんの邪魔をさせません!」


 そのやや後方では、狐っ娘が魔法を乱射し、それを礼美が防御で防いでいるところだった。

 ああ、あの狐っ娘、魔法使いか。完全詠唱破棄であそこまで魔法が連射できるってことは、実力的にはジョージかフィーネくらいあるってことかしら。魔力の大きさ分、二人よりは強力そうね。

 しかし光太も礼美も、隆司の嫁発言に魔族との和解フラグを見てるみたいねぇ。

 まあ、異種族間の恋愛が戦争終結のカギになるのはよくある話だけど……。

 その隆司が勢いよく踏み込んで、ソフィアと鍔迫り合いの体勢に入った。


「フゥハハァハー! この勝負に勝った暁には! その鱗ペロペロさせてください!」

「わけがわからない!? 鱗なんか舐めてどうするんだお前は!?」

「しかも一枚や二枚じゃない! 全部だぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

「こぉぉぉぉぉとぉぉぉぉぉわぁぁぁぁぁるぅぅぅぅぅ!!!!」


 そのまま涙目になりつつ、全力で隆司を弾き飛ばすソフィア。

 さすがに同情するわねー……。あんな変態(隆司)に目をつけられるなんて。


「にゃーん。ずいぶん余裕にゃーねー?」


 はぁ、と一つため息つくと、隣から声をかけられた。

 そちらに顔を向ける。

 そこに立っているのは、白黒縞の猫耳と尻尾を生やした猫娘だった。

 鎧を装着しない軽装姿で、盗賊か何かのような印象を与えてくる。節々に小さなポシェットのようなもの……正しい名前なんて言うのかしら? ともあれ某スニーキングゲームの主人公が装備するような装備を付けている。武器っぽいものはないけど、ネコ科であることを考えると、爪も立派な武器か。

 さらにその後ろには、似たような恰好をした猫娘が二、三人立っていた


「……あんたは?」

「私にゃ? 私はソフィア様親衛隊、隠密担当! ミミルちゃんにゃ!」

「そして!」

「私たちは!」

「ミミル様直属の隠密部隊!」

「「「「四人合わせて、キャットシスターズ! よろしくにゃーん♪」」」」


 聞きもしないのにそう名乗り、四人で一斉に招き猫の真似みたいなポージングを取る。

 いったいどこに媚び売ってるんだろうこいつら。

 見てるのはあたしだけ――。


「あ、ちょっとかわいいかも!?」

「むかー! 人が相手してる時によそむくな!」

「ぎょえー!?」


 リザードマンを相手取っていた騎士が、こっちを向いて横っ面をはっ倒されていた。

 こっちの世界にも、隆司みたいな人間がいるのね……。


「まあ、それはおいておいて」


 あたしは箱を横に置くような動作をしてから、改めて猫娘どもに向き直る。


「あいにく、あたしはあんたたちを相手にできるような能力はないわよ?」

「にゃーん。承知の上にゃーん?」


 可愛らしく首を傾げたミミルとやらだが、目が欠片も笑っていない。


「でもでもー? そういうのを放っておいて、勝利が手に入るなんて思ってないにゃーん?」

「追い詰められたネズミは、時として猫を襲うといいますもの!」

「そうしてできちゃった婚に追いやられた仲間たちは数知れず……」

「だから私たちは、あなたのような存在を放っておかないのです!」

「今明らかに不必要なカミングアウトが入ったわよね?」


 猫とネズミの合いの子って、どんな魔族が生まれるのよ。

 とはいえ、目をつける点はいいようだ。こっちにとっては悪い点だが。

 ソフィアもガオウとやらも、理知的なしゃべり方をする一方で、基本的に戦うことしか考えないような脳みそ筋肉な点がある。

 泣いたり嫌がったりしつつも、結局戦いを仕掛ける隆司に正面から対応するのがいい証拠だ。本気で嫌なら逃げるなり拒絶意志を表明するなりやり様もある。

 それ以外の魔族も同様。何もしようとしない、武器も持たないあたしに見向きもしない。

 そうしてほとんどの魔族が騎士団との戦いを優先して、棒立ち状態のあたしを放置した。あたしの思惑通りに。

 そんな中で、こいつらはあたしの存在に気づいてアクションを起こした。いきなり襲いかかるんじゃなくて、声をかけてワンクッションまで置いてみせた。

 なるべく情報を引き出したうえで、勝利するつもりだろう。戦場において、最も注意すべき手合いだ。戦争を制するのが、数でも、質でもなく、情報だと知っている。


「そういうわけだからー、おとなしくしてにゃん? 大丈夫! 痛いのは一瞬だから!」

「一々下いわね、このエロ猫」

「エロは褒め言葉にゃ! 見事悩殺して見せるにゃーよー?」


 その言葉を合図にしたように、じりじりとあたしを包囲するように動き出す猫娘ズ。決して焦らず、確実に仕留める気だろう。360度完全に覆ってから、一度にかかってくる気かしら?

 その一方で、明らかに隙を見せているようにも見える。ネコの俊敏性が備わっている……と思われるこいつらなら、あたしを囲って瞬殺するまで秒単位で終わらせられると思う。

 待っているのだ。あたしが手の内を見せるのを。剣を持つ隆司と光太はともかく、情報量が圧倒的に不足しているのはおそらく、礼美とあたし。その内、一人孤立しているあたしの方が組し易いと考えたか。正しい判断ね。

 ……こういう手合いに対して、手の内を見せるのは本来最も避けなければならない状況だ。それが、切り札にもなりえるならばなおさら。

 でも、正直周囲の状況はそれを許してくれない。ネコ包囲網もそうだけれど、騎士団の面々が思っていた以上に頼りにならない。


「ぎゃー!?」

「こ、これだけやれば……」

「まだまだぁぁぁぁ!!」

「もうやだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!??」


 いや、もうこれで通算七回はやられてるサンシターは置いておくとして。

 アスカと副団長さんを除く騎士たちの能力が思っている以上にひどい。というより対人戦に明らかに慣れていないのが丸わかりだ。

 一年負け続けてるんなら、そういうのに力入れときなさいよ……。

 あたしはもう一つため息をついて、戦いが始まってから練り続けた魔法を解き放つことにする。

 この状況を、確実に打開するために。

 両掌を打ち合わせ、その間に野球ボール大の隙間を開け、魔法の名を紡ぐ。


集え天星(サテライト・スターズ)


 聞こえた呪文に反応し、猫たちが身構える。

 そしてあたしの呼び声に応じるように隙間に光がともり、そこから八つの光球が現れる。

 現れた光球は、そのままくるくるあたしの体の周りを、衛星のようにまわり始めた。


「……にゃん?」


 身構えていたミミルが首を傾げた。

 てっきりこの光球で攻撃を仕掛けると思っていたのだろう。

 だが、その予想では五十点。半分しか点を上げられないわよ?

 あたしは小さく微笑むと、両の手をゆっくり広げた。


囲え天星(フィールド・サークル)


 呪文と同時に、八つのうち四つが四方へと跳んでいく。光球はあたしを中心に、戦場を覆い尽くすように広がっていき、光球は半球型の結界を展開する。

 でも、何も起きない。


「にゃ? にゃ?」


 いよいよ困惑し、結界を見上げるミミル。結界まで張って何も起きないんじゃ、当然よね?

 ますます笑みを深めたあたしは、さらに呪文を唱える。


刻め天星(サーチ&ロック)


 あたしの呪文に答え、結界を張った光球がゆっくりと光を強める。

 すると不可思議なことに、戦っている魔族たちの体に、何かの文様が浮かび上がって見えた。

 まるで、ターゲットをロックするような、円と十字を組み合わせた模様が。


「にゃ!?」


 自分の体に浮かんだその模様を見て、ようやくミミルの顏に焦燥が浮かぶ。

 ほかの猫たちも驚くが、魔族たちは戦いに集中してそれに気が付いていない。


「く!? これ以上は……!?」

「あ、こら!?」


 猫娘のうち一人が、焦燥に駆られてかあたしに襲い掛かってきた。

 とはいえ、遅すぎるわ。ロックされた時点で、あんたの動きはあたしの手の内よ?


討て天星(ストライク・スター)


 呪文と同時に勢いよく飛び出した、あたしの手元にあるうち一つの光球が、猫娘の腹を強く打ち据えた。


「ぐ、がはっ!?」


 そのまま猫娘は勢いよく空を飛び、ミミルが一っ跳びで回収した。

 あら? 思っていた以上に威力が出たわね……研究の余地はまだまだあり、かしら。

 あたしは想像以上の結果に満足しつつ、手元に残る光球の一つに魔力を込めて、空へと飛ばす。


「何をする気……!?」

隔て天星(サテライト・シールド)


 これ以上邪魔させないために、残った二つの光球に命じ、近づくものを弾き飛ばすように設定する。

 あたしの呪文を受けた光球は、あたしの体を中心にくるくると衛星のように回転し始める。

 この状態の光球は、あたしが呪文を解除するか魔力が切れるまで、近づくものを弾きとば。


「これでどうだー!」

「ぎゃー!?」


 ヒューン、ドガッ!


「ぎょえー!?」

「いやー!? 吹っ飛ばしたのに、吹っ飛んで戻ってきたー!?」


 ……うん。今飛んできたサンシターのように、敵味方の区別なく近づいてきたものを弾きとばすのよ。見境ないけど、確実なのよ。

 あたしはサンシターの背骨が無事なのを祈りつつ、空へと飛ばした光球に、呪文を放つ。


爆ぜよ天星(スプラッシュ・スター)!」


 光球は一瞬強く発光し、砕け散り、数多の魔力の銃弾となって魔族たちだけを正確に撃ちぬいた!


「「「「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!??」」」」


 突然の空からの強襲に、ほとんどの魔族たちが受け身も取れずに魔力弾で体を打ち抜かれる。

 魔力弾だけあって、物理的ダメージはないだろうけど、痛みは本物よ?


「にゃ、にゃんにゃのよ……!?」


 む。今の魔力弾の雨を回避したのかしら? ミミルが恐れおののきながらも、あたしに攻撃しようと隙をうかがっている。

 とはいえ、手の内をこれ以上さらすのはよくない。十分すぎるほど、あたしの技は見せたわよね?

 ミミルにとどめを刺すべく、手元へと戻ってきた光球に魔力を込め新たな呪文を唱えようとし。

 ふと、横を見ると。


「ふぬ、ふぬ! なんで持ち上がらな……!?」

「あー……」


 いつどのタイミングでそうなったのかは知らないし知りたくないけど。

 尻尾に抱きついた隆司を必死に持ち上げようとしているソフィアの姿と。

 抱き枕のようにソフィアの尻尾に抱きつき、その先端を口にくわえようとしている隆司(変態)の姿が。


「なにしてんだあんたわ撃ち滅ぼせ天星シューティング・スターァァァァァァァァァァァァァァ!!!!」

「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!???」

「キャァァァァァァァ!!??」


 あたしは迷わず光球にため込んだ魔力を隆司(ド変態)に向かって解き放つ。

 一瞬の発光の後、再び砕け、大量の魔力を収束した魔力砲撃が、一直線に隆司へと叩きつけられる。

 余波でソフィアも被害を受けているけど、隆司(超変態)から助けてあげたんだから文句は言わないでほしい。


「隆司ィ! あんた、一人でいったい何してんだゴラァ! しまいにゃ、本気で消し炭にするわよ!?」

「ぐへぇ……」


 足音も甲高く倒れ伏した隆司へと近づいていくけど、隆司の反応が今一つだ。

 ん?と思って光球の防御指示を解除して、光球を使って隆司の体をひっくり返すと、半分意識を失っているような面をしていた。

 あれ? まさか、魔力ダメージが弱点ってオチ?


「ソフィア様! いったん引くにゃ!」

「く、くそぅ……って、え? ま、まだやれるぞ!」

「ソフィア様がやれても、周りが無理にゃ! よく見るにゃ!」

「ん? あああぁぁぁぁ!? い、いつの間に!?」


 あたしが思わずペチペチ隆司の頬を叩いて様子を確かめている間に、ミミルがソフィアに近づいて撤退を進言していた。

 ミミルのいうとおり、ガオウやそばにいた狐っ娘を除いてほとんどの魔族の動きが鈍くなっていた。戦えなくはないが、今や騎士団以下の動きだ。

 さっきの魔力弾のダメージが効いてるんだろう。


「い、いかん! 皆の者! 撤退するぞ!」

「「「「「お、お~………」」」」」


 慌てたような撤退指示に、覇気も薄げに魔族たちは答えて大急ぎ……っていうにはいまいちなスピードで撤退を開始し始めた。


「こっちは無理に追う必要はないわ! どのみち、向こうの本隊にはヴァルト将軍(化け物)が待ってるんだからね!」

「「「「「お……おおおぉぉぉぉ!!!」」」」」


 まさかの魔王軍撃退に、騎士団の士気はダダ上がりだ。

 思っていた以上の戦果に、あたしが知らぬうちに笑みを深めていると、ふとミミルの姿が目に入った。

 ミミルもあたしの視線に気が付いたのか、悔しそうな顔でこっちを見つめてきた。


「まさかのダークホースにゃ……。ここまで魔法に通じてるにゃんて……」

「まさかの撤退、残念賞ね。この間の拠点壊滅といい、そろそろ本気出していいのよ?」

「………拠点?」


 ミミルはあたしの言葉に一瞬怪訝そうな顔になったが、すぐに敗走する魔族たちの背中を追って駆け出した。


「―――?」


 あたしはそんなミミルの表情に、強い違和感を覚えるのだった。




 そんなわけで、ほぼ真子さんオンステージの第二会戦でした。

 今回真子さんが駆使した魔法、でたらめに強力っぽいですが、良く考えると結構不便な魔法です。きちんとした支援を前提としております。

 そのあたりの細かいことは、次回の祝勝会にて!


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