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No.25:side・ryuzi「大きな亀とお約束」

 その後、無事に登録を終えた三人が帰ってきて、さっそく捜索を開始することになった俺たち。

 ギルド長さんから渡された、アイティス出現ポイントが書かれた森の地図をもとに、光太が一番怪しい地点を割り出す。割り出す、といってもいくつも真円を書いて、書かれたアイティス出現ポイントすべての円が重なる部分を導き出しただけだけど。

 あとはカレンに先導してもらってなるべく野生の生き物に会わないようにしつつ、そのポイントまで行ってみたわけなんだが。


「……なにあれ」


 やや呆然としたようなカレンの声が聞こえてくる。


「なんだよどうし……なんだあれ」


 あとから追いつき、視線の先を向いた俺の目に飛び込んできたのは……。


「……亀の、甲羅?」


 光太の言葉通り、これでもかというくらい亀の甲羅だった。

 背中に刻まれたのはヘキサゴン型の亀甲模様。その色は緑。首や足は引っ込められているのか、甲羅には均等に六つの穴が開いている。

 カクンと落ちた顎がなかなか戻ってこない。そのくらい見事な亀の甲羅だった。

 そんな亀の甲羅は大きく開けた広場に鎮座し、特別動く様子はない。寝てんのか?


「………」

「あらあらまあまあ~」


 もうなんか言葉もない。正直アルルの言葉がこの状況に最もふさわしい気がしてきた。


「……なんでこんなとこに亀の甲羅が……」

「たぶん陸亀の甲羅じゃないかなぁ。なんだかドーム状になってるし」


 光太の無駄知識のおかげで、陸亀と判明した亀の甲羅。なるほど、それなら丘にいてもおかしくはねぇな。

 とはいえ、何の問題の解決にもなってねぇな。これがアイティス大移動の原因?


「……どう思うよカレン。あれがアイティスが移動する原因だと思うか?」

「ど、どうなんだろ……。正直あたいも、こんなデカい亀見たことないから何とも……」


 俺たちの中で最も狩猟経験がありそうなカレンに聞いてみるが、答は芳しくない。

 うーん。こっちの生物に詳しいカレンが分からんのじゃ、このメンツで分かりそうな奴いない気がするなぁ……。

 と、勝手に思っていると。


「う~ん~。たぶん~、アイティスちゃんの大移動は~、この子が原因で間違いないと思いますよ~?」

「なに? どういうことだアルル」


 アルルが何かを言い始めた。


「ほら~、亀ちゃんの周りを見てください~」


 言われて亀の周りを見てみる。

 といっても開けた広場にドデンと亀が居座ってるだけだよな?


「……なんだアルル。あの広場がなんだというのだ」

「も~。アスカの鈍感~。そんなんじゃ~、男の子一人落とせないわよ~」

「今それは関係ないだろうが!?」

「今まで歩いてきた道は~、ほとんど獣道だったのよ~? 急にこんな~、亀ちゃんのために用意された広場があるわけないじゃない~」

「……あっ!?」


 ああ、なるほど。言われてみれば、この森に生息するには図体がデカすぎるよな。

 木の間を通るにしても、一々なぎ倒してるんじゃ森林破壊と何らかわんねぇし。


「つまり、この場所はあの亀のために用意された場所ってことですか?」

「はい~♪ その通りですコウ様~♪」

「なら、アイティスの移動も道理だね。テリトリーを犯された挙句、そこに居座ったのがあんなんじゃ逃げるしかないよ」

「じゃあ、決まりだな」

「はい。問題は、あれをどうするかですが……」


 アスカさんの言葉に考える。

 さすがにあの図体となると、ぶち殺すのも骨だしなぁ……。そもそも寝てんのか、起きてんのかもよくわからねぇし。

 ……でもあの巨体なら、〆て鍋にするのも悪くねぇよな?

 なんて思っていると。


『いつまでもそこに隠れてられるとは思わないことねっ!』

「「「「「!?」」」」」


 突然、若いんだか年喰ってるんだかわからない女の声が響き渡る。

 音源は……。


『ふぁいやっ!』


 目の前の亀!?

 ビビってる間に亀の穴の一つがこちらに向き、その中でオレンジ色の光が瞬く。

 次の瞬間には目の前に迫る火の玉!


「うぉぉぉぉ!!??」


 慌てて石剣でボールか何かのように打ち返す。


 ガキィン!


 えらくいい音が響き、打ち返した火の玉はファールラインを描いて木のうち一つにぶつかった。

 あ、木の真芯にめり込んでる。よく見るとボールかなんかに火がついてるだけなんだなあれ。


『んっふっふっふっ……。やるじゃない! キッコウちゃんの“ふぁいやーかのん”を打ち返したのは、君が初めてだよ!』


 なおも響き渡る声に呼応するように、亀の中から手足と頭、そして尻尾がせり出してくる。

 だが、それは既存の生き物のものではなく……っていうかいやにメカメカしいなおい。

 外側は完璧に亀の甲羅なのに、手足と頭にネジやらボルトやらが丸見えじゃねぇか。

 完璧に足を出し、立ち上がった亀が一声鳴いた。


―がおーん!―


 いや亀は鳴かねぇよ。


『試作型陸上拠点、キッコウちゃん! よくぞその居場所を見抜いたと褒めてあげるわ!』


 なにぃ!?


「試作型陸上拠点……!?」

「なんて心揺さぶられる響きなんだ……!」


 なんてこった……! 男のロマンの塊じゃねぇか……!

 きっとこいつ、火の玉を吐くだけじゃなくて空を飛んだり、回転しながら攻撃を仕掛けてきたりするに違いねぇ……!


「あ、あの、コウ様?」

「コウ様は~、ああいうのがお好きなんですねぇ~」

「ちょいとリュウ? しっかりしておくれよ?」


 あ、いかん。思わぬ言葉に我を忘れかけた。


「よし、閑話休題。……試作型陸上拠点!?」

「そっからなのかい!?」


 うむ。やはりツッコミは必要不可欠だな。

 まあ、それは置いておいて。


「どういうことだ、貴様!」


 俺は石剣を亀の頭に突き付ける。ヤダなんか卑猥。


『んっふっふっふっ……。言葉通りの意味だよ! この子は私たちの拠点の一つ! どこでも活動でき、なおかつどんな場所も走破できる、夢の拠点なのさ!』

「なんてこった……! どこへでも侵攻できる、まさに移動要塞じゃねぇか……!」


 恐れおののく俺の言葉に、アルルが驚愕を顔に張り付けて叫び声をあげた。


「そんな~! そんなもの、いったいどこの誰が開発できるっていうんですか~!」

『もちろん、栄えある魔王軍! その筆頭開発者! 四天王の一人、このリアラちゃんに決まってるじゃない!』


 ん。それが聞ければ問題ないな。


「なるほど。じゃあ、中にいるお前さんを捕まえたら万事解決だな」

『ふえ?』


 いきなり声のトーンが落ち着いた俺に驚いたのか、間抜けな声を上げるリアラとやら。

 俺はにやりと笑って横に避け。


「ストームブリンガー!」


 そのわきを、渦巻く豪風が通りぬけてゆく。


『んきゃー!?』


 突然の豪風に驚き叫ぶリアラ。とはいえ亀の巨体がこれしきの風でひっくり返るわけもない。


『んもー! そんな風くらいで、キッコウちゃんはひっくり返らないもんね!』

「じゃあ~、こういうのはいかがですか~?」


 亀の側面へと回り込んでいたアルルが、のんびり唱えていた魔法を完成させ、両の手を地面に着く。


隆起岩掌(アースハンド)~」


 とたん、亀の真下の地面からげんこつが飛び出し亀の体をひっくり返そうとする。


『きゃー!? きゃー!?』


 いきなり揺れる亀の振動にたまらないように悲鳴を上げるリアラ。

 とはいえ傾いたのは三十度前後くらいか。あと一押し位だな。


「アスカさん! 合わせてくれ!」

「はい、リュウ様!」


 素早く傾斜の下に割り込み、俺は軽く跳んでアスカさんは両手の剣に魔力を込める。


「EX徹甲脚!!」

「牙斬昇竜撃!!」


 同時に放たれた俺の蹴りとアスカさんの剣撃が、亀の巨体をさらに浮かび上がらせる!


『いやぁー!?』


 哀れ、亀はその一撃が止めとなってぐるりとひっくり返る……。


『負けてたまるかー!』


 はずが、背中の亀甲模様の一部がバネのように弾け、さらに反対側へと体勢を立て直す。

 遠慮ない轟音を立て、木をなぎ倒しつつ着地。下敷きになった木をその重みで押しつぶしている。


『うぬぬ! キッコウちゃんに喧嘩を売るとは、さてはあなたたち命知らずね!』


 言いながらリアラは亀の頭をこちらに向けようと、たぶんキッコウを操作してるんだろう。

 だがその速度は遅い。まだ子供の歩くスピードの方が速そうである。

 まあ、あの巨体な上に忠実に亀の体を再現してるからなぁ……。


「どうしよう隆司!?」

「俺はリュウな。さて、どうするか……」


 なるべく無傷かつ穏便に中にいる四天王を捕らえておきたいんだけどなー。


「とりあえず、五体ばらしてみるか」

「オッケー!」


 俺の言葉に光太は一つ頷くと、駆け足で亀の足へと近寄っていく。


「コウタ様! 危険です!」

「私たちもまいります~!」


 その背中を追って、アスカとアルルも駆けだした。ところで、そいつの名前はコウだかんね、一応。


「リュウ!」

「おう、カレン。悪いな、変なことに巻き込んだ形になって」

「いや、それはいいんだけど……」


 カレンはメカメカしい足に一生懸命斬りつけている光太の背中と、悲鳴を上げて制止を呼びかける亀の頭を見る。


「なんなんだい一体? 魔王軍だの四天王だの……」

「今アメリア王国に喧嘩を売ってる連中……だろ?」

「それはわかってるよ。なんでそんな大物がこんなところにいるんだい?」


 それは俺に聞かれてもなぁ。


「まあ、とっつかまえてみればわかるんじゃねぇか?」

「そうだねぇ」


 一つ頷いて、俺たちも駆け出す。

 狙うは光太が狙っているのとは逆の前足だ。


「どうやって壊すんだいあんなの!?」

「まずは、普通に斬ってみようぜ!」


 俺は手にした石剣を両手で握り、ぐるりと体をまわして斜め上に切り上げる要領で亀の足を狙う!


「おらぁ!」


 ズバン!と思いのほかいい音がして丸太のように亀の足が切断される。

 あらやだ、やっけー。


『いやぁー!? キッコウちゃんの足がー!』


 そのまま傾くキッコウ。

 反対側では。


「エアスラッシュ!」


 何やら新しい技を繰り出したらしい光太の声と、ズバシュ!という鈍い音が。


『反対側まで!? 鬼、悪魔、人でなしー!』

「いや魔族が言うセリフじゃねぇだろ」


 呆れ交じりにそう言ってやるが、頭が沸騰しているらしいリアラには届かないようだ。


『頭きた! 必殺ぐるぐるアタックで、みんな吹っ飛ばしてやるー!』

「ゲ」


 わかりやすすぎるネーミングに、あわてて下がる。

 期待通り、キッコウは手足と頭を引っ込める。

 たぶんそのままくるくる回転し始めるはずだ。

 この巨体に回転はじめられたら、さすがに止めようが……。


「やっ!」

火炎球(ファイヤーボール)~!」


 だが、回転を始めるより先にカレンの矢と、アルルの魔法が放たれる。

 矢くらいでダメージ与えられるわけ……あれ、先になんか括りつけてある。

 カレンが放った矢は寸分違わずキッコウの前足が引込められた穴へと吸い込まれていき。


 ずぼんぬ!!


 と轟音と炎を吹き上げて爆発した。


『にゃー!?』


 反対側から放たれた火炎球(ファイヤーボール)の威力もあり、勢いよく飛び上がるキッコウ。


「今の矢は?」

「火薬満載の爆裂矢さ。外の皮が堅い獲物相手に使うやつなんだけど、あれにも通用するみたいだね」


 自慢げに胸を張るカレン。なるほど、火薬自体はこの国にもあるんだな。今の威力からすると、結構な大物専用って感じか?

 回転することもかなわず、内部から焼き尽くされたキッコウ。残った穴からも中の機械か何かに引火したのか爆風と炎を吹き出しはじめ。


 ぼしゅ!


「きゃー!?」


 背中から一人の少女をはじき出した。

 緊急脱出用の装備か何かだったのか、丸い枠のようなものの中に納まった少女は二、三回バウンドを重ね一本の木へと衝突する。


「きゃひん!?」


 シートベルトのようなものは着用しているため、身体へのダメージ自体はさほどなさそうだが、衝撃のせいでそのまま気絶。しかも逆さまの体勢になってる。あれだと頭に血が上りそうだな。

 しかし四天王にしちゃ間抜けな奴だ。何ともお粗末な結果だぜ。


「きゅ~……」

「あれ? 人間……? しかも子供!?」


 目をまわしている逆さ吊りの少女の姿を見て、光太が驚いたような声を上げる。

 白衣を身にまとい、顔にかかっているのは瓶底メガネ。今は垂れ下がっている長い髪の毛は、先っぽで二つにくくられている。

 しかし逆さづりになっている少女は、魔族の特徴である耳も尻尾もなく、何やら骨太そうな、っていうか人間の少女と比べて一回り位たくましい腕や肉体、それに反するような低身長くらいしか特徴が見受けられない体だ。

 光太がビビるのも無理はない。小学校低学年くらいにしか見えんし。

 しかし耳はピンととんがったいわゆるエルフ耳。これらの特徴に合致する種族は……。


「たぶんそいつドワーフだな」

「ドワーフ……ってあの?」

「手先が器用な種族で有名だし、このメカ亀作った本人だっていうなら、間違いなくドワーフだな」

「なるほど……」


 光太が納得したようにうなずく。

 しかし獣人以外の種族もいるのか魔王軍。そのうち吸血鬼とか出てこねぇだろうな?


「それじゃあ、この子どうしようか?」

「どうするも何も、騎士団の人がいるんだから引き渡すのが道理だろ。なあ?」


 光太の言葉に俺がアスカさんに水を向けると、アスカさんは驚いたような顔をしたのち、今の俺たちの設定を思い出して慌てて頷いた。


「え? あ、はい! ではこちらで身柄をお引き受けしましょう」

「依頼に関してはどうするんだい?」

「どうもこうも、原因がこのありさまだからな」


 続くカレンの言葉に、いまだ火を噴くキッコウを顎でしゃくって示す。

 こうなると、もう俺たちの手じゃどうしようもねぇな。まさか持って帰るわけにもいくめぇ。


「とりあえず、原因自体は止めたけど、もの自体は残ってるって報告するしかねぇな」

「だねぇ。じゃあ、そっちのちびっ子を縛るなりなんなりして……」


 そういってカレンが腰のポーチからロープを取り出す。

 その瞬間だった。


「――ハッ!」


 掛け声が聞こえ、同時に俺たちの体に影が差す。


「なっ!?」


 アスカさんの驚きの声と同時に、巨大な馬が一匹広場に現れる。

 黒い毛並みを持った馬で、たてがみの代わりに白い炎を吹き上げている。

 その上にまたがっているのは、バイザーのような仮面をつけた黒い鎧の女騎士だ。

 なんで女ってわかるかって?

 ソフィアと似たような、胸の形がはっきりわかる鎧着てるんだよなー。あれって鎧の意味あるんかね。

 女騎士は素早く馬を操りリアラに駆け寄ると、剣の一閃でその拘束を解く。


「リアラ様! 我が背にお乗りください!」

「うきゅ~」


 ベルトが切れて気が付いたのか、目をまわしたままであるが何とか馬によじ登るリアラ。器用な奴め。


「させるか!」


 アスカさんが勇み、素早く地面を蹴って女騎士に飛びかかる。

 だが、女騎士もそれに反応し剣を一閃。


 ぎぃん!


「くっ!?」


 踏ん張りの効かない空中ということもあり、アスカさんはあっさり弾き飛ばされてしまう。


「アスカさん!」


 光太があわててアスカさんに駆け寄ってその体をキャッチ。

 その様に一瞥もくれず、女騎士は素早く腕を一閃させ、キッコウに一本のナイフを投げつけた。


「貴様ら! 命惜しくば、すぐにこの場から離れるがいい!」


 女騎士はそれだけ言い捨てて、素早く広場から立ち去って行った。


「ま、待て!」


 アスカさんが制止の声を上げるが、馬に乗った女騎士は振り返ることはない。

 鮮やかな手際だな。あのリアラの部下にしては武骨すぎる気もするけど……。

 でもさっきの忠告って何ぞ?


「あ」


 アルルが何やら間抜けな声を上げる。

 それに反応してキッコウの方を見ると、カウントダウンか何かのように刺さったナイフがカッチカッチと明滅していた。

 ああ、うん。自爆はお約束ですよね?


「逃げろー!?」


 慌てて叫ぶ俺の声に反応して、光太はアスカさんを抱えたまま、俺はカレンの首根っこ引っ掴んで、アルルは光太の背中にかじりつきながら広場を後にする。

 しばらくのち、王都内にあったハンターズギルドにも聞こえるほどの爆音が、森の中を満たしたのであった。




 証拠隠滅に爆破はロマン。そして敵メカ自爆はお約束(キリッ

 そんなわけで、二回連続で隆司のターンとなりました。テンポは大事。

 次は真子さんのターン。軍師さん考えるの巻ー。


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