No.24:side・ryuzi「ギルドからの依頼」
「うーん……やっぱり、王都の中でネズミが出たって依頼はないね」
「マジか? どういうことだよ……」
服を無事に買った翌日。俺と光太は買ったばかりの服を着てハンターズギルドへとやってきていた。
昨日は服を買い終えた後は、余った金で適当に王都の中を散策して終わってしまい、結局ギルドへネズミ関係の依頼が出ているか見るのを忘れてしまったのだ。
そのことに気が付いたのは今日の朝食の時。思わずネズミと口走って真子の口の中の牛乳を顔面に浴びる羽目になったのは微笑ましい思い出だと思う。
混乱した腹黒軍師の命を受け、俺は飯を食い終えたら速攻でハンターズギルドへとやってくることとなったわけである。
だが、俺はまだ公用言語が読めない。だからいつものようにサンシターを引っ張っていくつもりだったんだが、今日は非番らしかった。
で、そんなサンシターの代わりに名乗り出したのが光太だった。
「にしても、光太。お前いつの間に、こっちの公用言語なんて覚えたんだよ」
「あ、これ? アスカさんとかアルルさんに教えてもらって」
エヘヘと光太が嬉しそうに微笑む。まあ、本好きなこいつがこっちの言葉を覚えないなんて欠片も思わなかったけどな。
いろんな国の本を読むためだけに英語をはじめとした主だった外国語を覚えるような奴だし。
ちなみに一緒に来ているのは光太だけじゃない。
「うぅん~。王都でネズミちゃんなんて~、いまさら見かけないと思いますけど~」
「そうですね。私も、そのような話を聞いたことはありません」
俺たちの隣で同じく依頼ボードとにらめっこをしていたアルルとアスカさんが難しい顔でそういった。
この二人も、今回のネズミ調査についていきたいと申し出てくれた。まあ、主な目的は光太なんだろうけどな。
今の光太の格好は、昨日買った服の中で緑の上着に白いズボンというどっかの勇者みたいなスタイルに、騎士団の中で使い古されていた革鎧を装備している。勇者というよりは駆け出しの戦士だな。
アルルはスカートが短めの黒いワンピースにマントととんがり帽子という魔法使いスタイル。アスカさんは、サンシターが着ていたような騎士団制服に長剣を腰に帯びているのみ。
ハンターズギルドは相変わらず人がいねぇけど、もし人がいたら目立ってしょうがなかったろうなぁ……。
「リュウジ……あ、いえ。リュウ様。本当にネズミをご覧になられたのですか?」
「ああ。一匹だけだけど、確かにな」
アスカさんの疑問に、俺はうなずいてみせる。
さすがに昨日の光景を白昼夢だと思いたくはねぇなぁ。別に疲れてるわけでも、寝不足ってわけでもねぇし。
「アルルさん。仮に、ネズミが王都に侵入するとしたら、どういう状況だと思います?」
「うぅ~ん、ちょっと想像できませんね~。そもそも害獣除けの魔法って~、害獣たちの意識が王都に向かないようにするための魔法なんですよ~」
「意識が王都に向かないように……? 王都が危険だとかそういう風に思わせるってことですか?」
「いいえ~。そもそも危険だとも~、思わせないようにするんですよ~」
「簡単に言えば、そこに王都が存在しないと思わせる効果なのです。結果、ネズミは王都に近寄ることはしません」
光太の疑問に答える二人。
そこに何もなければ、食料が豊富な森の方に意識が向くようになるってことか?
まあ、害獣を根こそぎ殺すような魔法をかけたら、王都の中の人間にまで被害が及ぶよな。それを考えればずっと安全か……?
「でもよ。それって王都がないように思わせるだけだよな。じゃあ、連中からこの王都がある場所はどういう風に見えるんだ?」
「さあ……? 何とも言えませんが、何もないように見えるんじゃないでしょうか……?」
俺の質問に、アスカさんがあいまいに答える。
まあ、そりゃそうか。そこにないと思い込めば見えなくなるって効果なら、そこには何もないはずだ。
王都の広さを持つ、広大な草原か何かがそこに広がっているって考えるべきか……。
「お? リュウ!」
「んあ?」
一瞬思考に没しそうになった俺は、後ろから呼ばわる声に振り返る。
カレンがこちらに向かって軽やかに駆けてくるところだった。
「あんたようやく服買……って! 結局ほとんど変わってないじゃないかい!?」
振り返った俺の姿を見たカレンは失礼なことにそんなことを叫んだ。
何を言ってるんだか。
「裸マントが、肌蹴着物に変わってるじゃねぇか。よく見ろ」
「結局、上は見えっぱなしじゃないかい! もっと隠せ!」
また顔を赤くして叫ぶカレン。
なにこいつ。ひどく男に不慣れじゃない?
「まあ、そんなこたぁどうでもいいんだよ」
「よくない!」
「なあ、カレン。王都でネズミが出た、なんて噂聞かねぇか?」
カレンの抗議を無視して、俺は質問をねじ込む。
俺の言葉に、カレンは眉根をひそめた。
「ネズミが? どういうことだい?」
「昨日、古着屋に行く途中でネズミを見たんだよ。見たことねぇ種類だったし、ギルドでなんか依頼が出てるかと思ったんだよ」
カレンは何かを考えるそぶりを少し見せ、そして頭を振った。
「悪いけど、そういう話は聞かないね。ネズミといやぁ、穀物を食い荒らすから第一級害獣に指定されている大物だけど、今日日の王都で見るような生き物じゃないからね」
「そうか……」
うーん、こうなると手詰まりだなぁ。まさかネズミが一匹こっきりこの王都に生息してるわけはないだろうし、そのうち依頼が出るんだろうけどそれもいつになるやら。
と、カレンが俺の背後を覗き込む仕草をした。
「ところで、そいつらは?」
「ああ、忘れてた」
そういや今日一緒にいるのはサンシターじゃなくて光太ハーレムだったか。
「こっちで知り合ったダチでな。コウにアスカにアルルだ」
「初めまして。コウです」
「アメリア王国騎士団所属のアスカだ」
「同じく王国所属の魔法使い、アルルです~」
「あたいはカレン。よろしくな」
ちなみにコウってのは光太の偽名だ。俺もこっちじゃリュウで通してるしな。
そして俺と光太の関係はこっちで知り合いになったダチ。それ以外はサンシターとのつながりってことにしてる。
「にしても騎士に魔法使いか……。あんたも結構人脈広いねぇ」
「まあな」
カレンの言葉に気を良くした俺は、大きくふんぞり返って見せる。
そんな俺の姿に光太は苦笑し、カレンは大きく声をあげて笑った。
「相変わらずだねぇ。昨日はアイティス討伐成功させてるし、景気がいいようで何よりだよ」
「フフン。もっと褒めろ褒めろ」
最近真子からは罵倒しか聞いてない気がするからな。ちょっとは褒められてもいいはずだ!
「ああ、こちらにおられましたか」
「ん?」
急に声をかけられそっちを見ると、何ともひょろっとしたメガネのおっさんが立っていた。叩いたら折れそうだ。
で、今度は誰だ?
「あ、ギルド長さん。お久しぶりです」
「はい。カレンさんも、いつもご苦労様です」
カレンが頭を下げるとおっさん……ギルド長は丁寧に頭を下げ返した。
ああ、この人がハンターズギルドのギルド長か。
どっちかっつーと書類仕事が似合いそうな印象だな。いや、ギルド長ともなるとそっちの方が多いのかね?
「それで、君がリュウ君でしたね。初めまして」
「どもっす」
「実は、あなたに折り入ってお願いがあるんですよ」
お互いにあいさつを終えると、ギルド長は何の前置きもなく用件を切り出してきた。
「お願い? 俺に?」
「はい。ここ最近、このギルドにほとんど人が出入りしていないのはご存知ですよね?」
言われて俺は一つ頷く。
いつ来てもこのギルドに人はいない。カレンによれば、森が妙に危険なせいなんだそうだが……。
「森がおかしいんでしたっけ?」
「ええ、はい。森の深部を本来のテリトリーにする臆病なアイティスが、森の入り口付近にやってきているのがいい例ですね」
ああ、アイティスってもっと奥地にいる生き物なのか。初めて見たときにカレンが妙に驚いてたのはそのせいってわけだ。
しかも臆病とか。テリトリーに入ってきたら容赦なく殺しにかかる生き物とは思えない……。
ん? 待てよ?
「あの、ギルド長? 一ついいっすか?」
「はい、なんです?」
「アイティスが臆病ってことは……なんでテリトリーの移動を?」
臆病、ということは自分が安心できるテリトリーからは移動したがらないだろう。そんなアイティスがわざわざ森の奥から入口に移動してくる……ってことは?
「実はその調査をお願いしたいのですよ」
ああ、原因不明なんだ……。
「アイティスがテリトリーを移動する要因は、自身に危険が降りかかると感じた時と聞きます。なら、普段のテリトリーに何か危険な生物が巣を作ってしまった可能性があるのです」
「なるほど」
道理といえば道理か。臆病な生き物は、言い換えれば危機感知能力がとても高いってことだろう。
なら、すぐそこにある危険を避けて森の外側へ逃げ出すのも当然だ。
「今回あなたに依頼したいのは、アイティスがテリトリーを移動する原因の調査です。可能ならその原因を排除していただきたい」
「もし不可能なら?」
「情報を持って戻ってきてください。こちらで対処しましょう」
「……なんでそんな話を俺に? まだギルドに所属して一ヶ月もたってないド新人っすよ?」
俺は慎重に言葉を選びながら、ギルド長に問いかける。
普通、一週間いるかいないか程度の新人に任せる仕事ではない。
確かに人がいないけど、それならそれで手紙か何かで依頼すればいいんじゃねぇのか?
だが、ギルド長の答えは俺が思っている以上に切ないものだった。
「いえ、誰も森に行きたがらないんですよ……。もう一ヶ月くらい前からいろんな人に依頼してるのですけど……」
曰く「アイティスがいられるような場所へ行けるか! 俺はひきこもる!」。
曰く「婚約者を待たせているんです。彼女を悲しませたくない」。
曰く「死んだばあちゃんが手招きする気がするから嫌だ」。
「そんなわけで、依頼を受けてくれそうな人がいなくて……」
ギルド長の言葉に、俺は何故か目頭が熱くなった。
いくら何でも情けなさ過ぎねぇか……?
いや、傭兵ギルドみたいな場所じゃないし、それでいいのかもしれねぇけど。
死んだばあちゃんが手招きしてるってなんだそれ……。
「それに、あなたはギルドに登録して一週間ほどですが、その間にアイティスを初めとした相応に危険な生物の討伐に成功しています。しかも単独で」
目頭を押さえる俺の右手を、ギルド長さんはその骨ばった両手で包み込んだ。
顔をあげると、少なくない期待の視線にさらされる。
「私もこのギルドに所属して長いですが、あなたほどの戦績を持つ人にはいまだお会いしたことはありません」
「……そっすか」
思わずうなずく。まあ、ハンターズギルドの目的が食糧確保なら、ウッピー狩りまくってればそれなりに稼げるしなぁ。
「あなたなら、アイティスを怯えさせる原因に出会ったとしても必ず戻ってきてくれる。そう信じております」
「……リュウ、受けようよ。この依頼」
懇願するようなギルド長さんを後押しするように、光太が一歩前に出て俺の肩に手を置いた。
「コウ? お前……」
「確かに危険かもしれないけど、今日はアスカさんもアルルさんもいる。それに僕もいるんだ。何とかなるかもしれないじゃないか」
振り返ると、こっちを見つめる瞳の中に使命の炎がメラメラと燃えていた。
あー……スイッチ入りましたね? 止まらないわけですね?
俺は一つため息をつくと、ギルド長に向き直った。
「ギルド長。この依頼が成功した場合の報酬は?」
「原因を排除できた場合は五百万アメリオン。原因の情報を持ち帰った場合でも百万アメリオンをお支払いいたします」
「ご……!?」
その金額に、そばで話を聞いていたカレンが息をのむ。
アイティス換算で十頭分か。高いのか低いのか……。向こうの世界の平均年収と考えれば破格かね? いや、討伐対象の正体が不明じゃむしろ安いくらいかも。
とはいえ、我がチームの勇者様がやる気になってる以上、断るなんて選択肢はないだろう。俺が受けなくても、光太が勝手に受けちまうだろうし。
「わかった。正体不明の原因に立ち向かうには安い気もするけど……この依頼、受けるよ」
俺がそういって頷くと、ギルド長の顔が目に見えて明るくなった。ホントに頭悩ませてたんだな……。
「ありがとうございます、リュウさん。もしよろしければ、お連れの方々もギルドのメンバーとして登録いたしますが」
ギルド長がそういうと、さっきまで指名に燃えていた光太の瞳が、何やら期待にキラキラと輝きだした。
ああ、そういえばこういう冒険もしてみたいみたいなことを言っていたような……。
とはいえ、みんなまとめて登録されてもアスカやアルルは困るよな。
「その辺は自由意志ってことで。報酬は依頼そのものに対してだよな?」
「申し訳ありませんが、ギルドもカツカツでやっておりまして……」
俺の言葉に、ギルド長は深々と頭を下げた。
チッ。さすがに一人頭とはいかねぇか……。五百万は山分けになるな。
「単なる確認だから、気にしないでくれ」
俺がそういって手を振ると、ギルド長は話題が終わったのを感じて光太たちの方に目を向けた。
「それでは、登録なさる方はいらっしゃいますか?」
「あ、じゃあ僕は登録させてください!」
「それなら私も~」
「わ、私は……」
ギルド長の言葉に光太が一番に名乗り出て、それに乗っかるようにアルルも声を上げる。
アスカさんは自分が騎士団であることに気後れを感じて少し逡巡したが、連れ立って歩く光太とアルルの姿を見て、意を決したように二人の背中を追いかけた。
光太はともかく、アスカさんとアルルは幽霊メンバーにならねぇか……?
そんなことをもいながら、手持無沙汰に背負った弓をいじっていたカレンに俺は声をかけた。
「そうだカレン。お前も来るか?」
「え、あたいも!?」
まさか声をかけられるとは思っていなかったのか、カレンがたまげた声を上げる。
「あ、あたいはいいけど……あんたたちはいいのかい?」
「ああ。俺たち見事に前衛ばっかりだからな。お前みたいな偵察できる奴がいねぇんだ」
「ほかの奴に意見を聞かなくていいのかい?」
「気にしねぇだろあいつらなら。頼むぜ」
「……うん、わかった」
そう言って頭を下げると、カレンはしばらく迷ってから笑って頷いてくれた。
さって、メンバーは戦士・剣士・剣士・魔法使い・狩人か……。
鬼が出るか蛇が出るか。楽しみにしておこうじゃねぇか。
そんなわけでネズミ捜索編。森の中にいったい何がいるのか!?
しかし支援型後衛色がいねぇからバランス悪いなこのメンツ。