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No.242:side・kota「“偽”りを生み出す“神”」

 パァン!!


 多き両手を広げた偽神・マルコが乾いた音を立てる。

 途端、ザァッ……と草が風にかき分けられる音があたりに広がった。


「……ハァ!?」


 僕たちは、一瞬にして辺り一面に青々とした牧草が生い茂った草原に立っていた。

 青空はどこまでも広がっていて、そこには白い雲がプカプカ浮いている。

 ……遠くに見える偽神・マルコの姿さえ見えなければ、ここはきっとアメリア王国のどこかだと勘違いしていただろう。

 それほどまでにリアルな草原が、いつの間にか僕たちの足元に敷かれていた。


「どうなってやがる!? 足元が急にフサフサになったんですけど!?」

「あたしにはわかんないわよ!?」

「わ、私もです! 御免なさい!」

「誰もこの状況を説明できないよ!!」


 混乱したような隆司の叫びに、僕たちみんな混乱しながら叫んだ。

 状況を鑑みるに、偽神・マルコが何かしたからこうなったんだろうけど……!

 けど、何故こんな場所に!?


「……ん?」


 と、その時隆司が何かに気が付いた。

 前方を見て、すっと目を細め……。


「――お前ら、俺の後ろに!!」

「え!?」


 そう叫んで僕たちの前に壁になるように立った隆司の腹部から、夥しい量の血が噴き出した。


「ガブッ……!?」

「隆司!?」

「前に出るんじゃねぇ!!」


 突然の出来事に混乱する真子ちゃんが駆けだそうとした瞬間、隆司が踵で地面を砕いて、その歩みを止める。

 そうする間にも、体中から血を吹き出し始める隆司。

 それはまるで、鋭利な刃で切り付けられたような……。


「隆司君!!」

「………!」


 あまりにも唐突過ぎる状況に涙目になる礼美ちゃん。

 僕はそんな彼女の足元の草の先が、わずかに整っているのが見えた。

 ……まさか。


螺風剣(エア・キャリバー)!!」


 叫んで僕は背中に背負った螺風剣(エア・キャリバー)を無手で引き抜き、その刀身に風を纏わせる。


旋風刃(ストーム・ブレード)!!」


 そして、隆司の前方辺りに向けて、刃のように鋭いカマイタチの渦を打ち下ろした。

 風の刃が隆司の目の前の牧草を微塵に切り刻んでいくのと同時に、隆司に降り注いでいた刃の雨もやむ。


「くっ、すまねぇ、光太……!」

「今のやっぱり、鎌鼬か何か!?」

「ああ……!」


 油断なく隆司が構える。

 その視線は遠くに浮かぶ偽神・マルコを捕えている。

 今の、奴が……!?


 パァン!!


 また、柏手の音が響き、場が変わる。

 今度は……。


「あっちぃ!?」

「何ここ!? 火山!?」


 ゴロゴロとした、黒い岩肌を晒した、活火山。

 噴き出す硫黄の匂いが鼻を突くそこは、まさに噴火寸前という様相を呈していた。

 地面は揺れ、岩肌は焼けているかのように赤く染まっている。

 山の斜面のような場所に、僕たちはいつの間にか立っている。

 偽神・マルコは、そんな僕たちを空から見下ろしていた。


「今度は火山……?」

「ということは!?」


 嫌な予感に襲われて、僕は頂上へと目を向ける。

 次の瞬間、爆発するような音を立てて、紅い炎が頂上から噴き上げた。


「噴火した……!?」

「に、逃げないと!!」

「逃げるってどこによ!?」


 紅い炎が、滑るように僕たちの元へと降りてくる。

 明々としたそれは、溶岩だろう。

 僕は急いで背中の剣を一本引き抜き、隆司の前に立ち地面に突き立てる。


「光太、何を……!?」

凍雪剣(ネージュ・スパーダ)よ! その力を我が前に示せ!!」


 僕の言葉に従い凍雪剣(ネージュ・スパーダ)が蒼く輝き、僕たちの目の前に巨大な氷の壁を生み出す。

 次の瞬間、氷の壁の向こうで水蒸気爆発が起きる。

 氷に罅が入り、その向こうに紅い溶岩が見える。


「くっ!」

出でよ紅き霊王(サモン・エリクシル)!!」


 僕の生み出した氷の壁が決壊しようとした次の瞬間に真子ちゃんの呪文が完成し、氷の壁を補強する。


 パァンッ!!


「ッ! また……!!」


 三度、柏手の音が響く。

 次に僕たちが立たされていたのは、乾いた大地。

 地面の所々には罅が入り、地面から生えている草は全て萎れ、命の息吹が感じられない……。そんな世界だ。


「次ぁ、なんだ……? 何で来る……!」

「みんな、背中合わせで! どこから来てもいいように……!」


 僕の言葉に、皆は背中合わせで周囲を警戒する。

 何があっても、これなら三百六十度警戒できて……!


「……駄目だ、これは防ぎようがねぇ」

「え」


 呆然としたような隆司の言葉に振り返る。

 そこにあったのは、砂嵐。立ち上る流砂のようなそれが、僕たちに向かって突き進んでくる。

 その向こうには、僕たちを冷然と見つめる偽神・マルコの姿もあった。


「かなりでかいぞ……。砂嵐は足も速い……!」

「転移しても逃げ切れるかどうか……?」


 隆司と真子ちゃんが言う間にも、砂嵐が近づいてくる。

 近づくにつれ、地鳴りのような音が響き、僕たちのいる場所にも風が吹いてくる。

 すべてを薙ぎ払い、吹き飛ばそうとする無慈悲な暴力の風が。


「僕の螺風剣(エア・キャリバー)でなんとか……!」

「馬鹿いえ。自動車に水鉄砲で挑むようなもんだぞ。

「じゃあ、どうするのさ!!」

「こうだ!!」


 叫んで隆司は地面に拳を叩き込み、深い亀裂を作る。

 僕たちが飛び込んでも、多少余裕がありそうだ。……まさか。


「ここに飛び込め!!」

「まさか、もぐらの真似事をあたしもやることになるなんて……」

「真子ちゃん、早く!!」


 真子ちゃんと礼美ちゃんが飛び込み、続いて僕と隆司も飛び込む。


「ほんとにこれでいいの!?」

「外で野ざらしよりはましだろう!!」


 パァンッ!!


 僕たちが言い合う間に、乾いた音がまた響き渡った。


「ん!?」

「なぁっ!?」


 次の瞬間には、手に付いた壁がなくなり、僕たちは地面に放り出された。


「きゃっ!」

「ぐぇ!? ちょ、ちょっと!?」

「あ、ご、ごめん!」


 下にいたらしい、真子ちゃんと礼美ちゃんを押しつぶしてしまい、僕は慌てて立ち上がる。

 今度の場所は…どこまでも冷え切っている。暗く、黒い地面と空が僕たちを覆っている。

 不思議と、視界は開けていて、礼美ちゃんと真子ちゃんの顔もよく見える。

 ここは……?


「真子!! 光太と礼美を結界ん中に入れろ!!」

「! 隆司!?」

「わかった!!」


 隆司の言葉に、確認を取らずに真子ちゃんは僕と礼美ちゃん、そして自分だけを結界の中に納める。

 そして、次の瞬間怒涛の大洪水によって僕たちは飲み込まれてしまった。


「これは……!?」

「今度は水攻めってことらしいわよ……!」


 真子ちゃんが上を見上げると、こちらをじっと見つめる偽神・マルコの姿があった。

 いったい、どういうつもりだ……!? 奴は、いったい何が目的で……!

 ……まてよ、水攻めって……。


「……って、隆司! 隆司が!!」


 僕は半狂乱で叫ぶ。

 こんな状況で、隆司を外に出しっぱなしにするって……!

 慌てて外に出ようとする僕の頬を、真子ちゃんが強く張った。


「落ち着きなさい! あいつなら、こんなことで死にゃしないわよ!!」

「何言ってるんだよ、真子ちゃん!! 隆司だって、無敵じゃ……!」

《オオオォォォォォ!!!!》


 ない、と僕が言おうとした瞬間、隆司が吠え、上にいる偽神・マルコに向かって攻撃を仕掛けた。

 隆司が付きだした拳の先から伸びた衝撃波が一直線に偽神・マルコへ向かって進むけれど、その勢いは途中でなくなってしまった。


《チッ! さすがに届かねぇ……!》

「………なんで無事なの隆司」

真古竜エンシェント・ドラゴンだからよ」

「それ理由になってないよ」


 死んだ魚のような目つきで元気に攻撃を繰り返す隆司を見ながら、僕は呟く。

 常識外れにもほどがあるよ、隆司……。


 パァンッ!!


 恒例になりつつある柏手の音共に、周囲の水が一気に消え失せる。

 今度は、曇天が広がる荒野。もうだいたい何があるのかがわかる。


「オラ伏せろ!! 雷が――」


 ピシャァン!!


「――降ってくんぞって最後まで言わせろコラァ!!」


 隆司は蜘蛛の中から一直線に伸びてきた雷を素手でつかみ、雲の切れ目から姿をのぞかせる偽神・マルコに向けて勢いよく投げつけた。

 雷を投げるって意味が分からないけど、そう表現するしかない動作だ。

 隆司に投げられた雷は一直線に偽神・マルコに向かって言ったけれど、偽神・マルコの目の前に張られたバリアのような膜に遮られて、飛び散ってしまった。

 このままじゃ、らちが明かない……!


「チィ! このままじゃ、ジリ貧か……!」

「……隆司、そのまま偽神の気を引いて! 僕が接近して……!」


 僕は言いながら、礼美ちゃんと真子ちゃんから離れる。

 隆司があんな感じで気を引いていてくれれば、僕が近づくくらい……!


「馬鹿!! 二人から離れるんじゃねぇ!!」


 僕が二人から離れた瞬間、焦ったように叫ぶ隆司。

 僕がその言葉の意味を理解するより早く。


 ゴォゥ!!


 僕の全身を灼熱の炎が襲った。


「!!??!?!?」

「イヤァァァァァァァ!!?? 光太君!! 光太君!!」

水王結界(レークス・アクア)!!」


 声を上げることすら許されず、僕はのた打ち回る。

 礼美ちゃんの悲鳴と真子ちゃんの呪文が聞こえ、僕の全身を舐めていた炎が消え去った。


「ガ、ゲフッ!!」

「馬鹿野郎!! うかつに俺たちから離れるな!!」


 たまらず咳き込む僕を庇いつつ、隆司が周囲に睨みを利かせる。


「今までのフィールドを偽神が作ってんなら、奴はいつでもお前と礼美を殺せる!! 俺や真子と違って、お前らはただの生身の人間なんだ!! 真空にでも放り出されたら、終わりだぞ!!」

「で、でも私たち、まだ生きて……!」

「マルコの目的が、神位創生をもう一回するためでしょ! 礼美、右!!」

「え!?」


 僕を治癒しようと、屈みこんだ礼美ちゃんが、真子ちゃんの指示に合わせて右に壁を生み出す。

 同時に、とんでもない音を立てて何かが防御壁にぶつかった。


「な、なに!?」

「次が来るぞ! 光太を治癒させねぇつもりだ!!」

「ど、どうして!? 神位創生を狙ってるなら、私と光太君が……!」

「違うわ! 奴の狙いは――!!」


 次々と現れる何かを必死に防ぐ礼美ちゃんを援護しながら、真子ちゃんは叫ぶ。


「奴の狙いは隆司を消耗させること(・・・・・・・・・・)よ!! あたしたちの中で、一番とっ捕まえにくいのは、隆司! それと違って、あんたと光太は、アルトとアンナでも替えが効く! 思い出しなさい! 偽神の意志力(マナ)を元々賄ってたのは!!」

「そんな……!?」


 じゃあ、つまり、今の僕は……偽神にとっては隆司を消耗させるための……。

 僕は、あいつの思い通りに、動いちゃったのか……? くそぉ……!!


「隆司、僕にかまわないで、偽神を……!」

「それができりゃ苦労はしねぇよ! 一足飛びじゃ近づけねぇ距離を保ってやがるからな……!!」


 ギリッと僕にも聞こえるほど大きな歯ぎしりを立てる隆司。

 彼の悔しさが、僕にも伝わってくる。

 いや、何より悔しいのは……。


「くそぉ……!!」


 何の役にも立てなかった、自分。

 何が、勇者だ……! 僕は……!


「光太君、しっかりしてぇ!」

「礼美、気を抜かないで!!」

「うおぉりゃぁ!!」


 好きな、女の子も守れない……!!

 拳を握り、何とか体を起こそうとするけれど、焼かれた全身は僕の命令に反して身じろぎするだけで激痛が走る。

 僕はただ、地面に倒れて偽神・マルコに嬲られ続ける皆の背中を見守ることしかできない……。


「くっ……!!」

―………―


 空を見上げると、偽神・マルコがどこまでも冷徹な瞳で僕たちを見下ろしていた。




 圧倒的な力で勇者たちを翻弄する勇者たち。

 彼らの危機に、異世界のものたちは?

 以下、次回。


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