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No.229:side・ryuzi「それぞれの戦い」

 前だけを見据えて走る俺の耳に、聞こえてくるはずのない第三者の足音が聞こえてきた。

 今の状況で、俺たちについてこれる人物なんざ、直前まで一緒に来ていたあいつらのどっちかだけだろう。

 足音の感じからして……。

 振り返って確証を得る。


「……ん? 礼美がこっち来てんな」

「え、うそ!」


 今まで気づいていなかったらしい真子が、俺の言葉に慌てたように振り返る。

 礼美の奴は、顔を俯かせたまま猛然と突っ込んできて。


「真子ちゃぁぁぁぁぁぁん!!!!」

「おぶ!?」


 そのまま真子に体当たりを決めた。

 危うくひっくり返りそうになったので、背中を押して支えてやる。


「ちょ、いきなり何すんのよ……」

「だって光太君が! 光太君がぁぁぁぁぁぁ!!」


 真子に抱き着いたまま、喜んでんだか悔しがってんだか泣いてんだか、もう何が何だか分かんない状態の礼美が叫ぶ。

 なんだろう。「恋人と別れる直前に口づけを交わす」なんてベタな死亡フラグでも立てたんだろうか、あのバカ。

 大声で喚く礼美を引きはがし、真子はその頭に一発、拳骨を打ち込んだ。


「はいはいどーどー……っていうかうっとうしいわバカたれ」

「痛いよ!?」


 涙目の礼美が頭を押さえて抗議するが、真子は意にも介さない。


「……で、どうすんのよ? さっそく予定が狂い始めてるけど」

「んなこと言っても、はじめっから行き当たりばったりじゃねぇか、続投だ続投」


 呆れたような顔でつぶやく真子に、俺も似たような表情で返す。

 この戦場で、誰が一番死亡率高いかって言ったら、ぶっちゃけ光太の奴だからなぁ……。

 俺はもう一般的な物理攻撃じゃしなねぇし、真子も似たような感じだ。

 礼美の場合は超硬度の盾が生み出せるからいいが……光太の場合、魔剣操作による回避はあっても、防御はない。

 なので出来れば礼美とコンビでいてほしかったわけだが……あのバカ、見事に死亡フラグ立ててくれおって。


「今から戻るわけにもいくめぇ。先を急ぐに越したことは」

「先になんて、いかせないよ!!」

「え!? 隆司君!」


 背後から声が聞こえてくると同時に、礼美の切羽詰まった悲鳴が聞こえる。

 俺はあわてず騒がず振り返り、ついでに背後まで迫っていた鋼の腕を受け流した。

 人間が喰らえば一発でミンチになるであろう一撃は、そのまま地面を粉砕するに留まった。


「ここは私が相手になるよ!! どっからでもかかってらっしゃい!!」

「……またずいぶん懐かしい顔が出てきたなオイ。いつ以来ぶりだよ」


 思わずそう呟いてしまうほどに懐かしい、四天王のリアラ。

 今回はパワーローダーと呼ばれるような、コックピットがむき出しのタイプの機械に乗り込んでいる。

 相変わらずゴリラっぽい姿勢から察するに……。


「リッキーちゃんMk-Ⅲ、ってとこか」

「甘い! リッキーちゃん参式・改だよ!!」

「俺たちと相対する以前から改良型とか!?」


 なんだよそれスゲェ途中経過が気になるじゃねぇか!?


「……っていうか誰よあのちびっ子は」

「えーっと、体格から察するに、あれが四天王のリアラちゃんじゃ……」

「え、あれが? ……普通に子供にしか見えないんだけど」


 俺の背後では、礼美と真子がこそこそと会話を交わしている。

 ああ、そういえば真子は実際に会うのは初めてだったか? 簡単な特徴位は伝えてるけど、まあ、ここまでちんちくりんだとは思わんわな。

 俺は振り返って真子に注意を促す。


「まあ、見た目はこんなだが、メカの実力は確かだ。舐めてかからん方がいいぞ?」

「そうね。なんかいきなり腕が四本に代わったし」

「え?」

「どっかーん!!」


 ずしゃぁ!!と嫌な音を立てて俺の背中に鋼の拳が突き刺さる。


「うはははは! なめてかかったな!! リッキーちゃん参式・改には今までの技術がすべて利用されているのだ!! 今まで通りだと思ったら――」

「いかんというわけか。そりゃ悪かった」


 俺は背中に突き刺さった剛腕を、後ろ脚蹴りで真上へと蹴り飛ばす。

 甲高い金属音を立てて、リッキーちゃんの腕が空高く舞い上がった。


「うにゃぁ!? ダメージゼロ!?」

「この程度が効いてて、真古竜エンシェント・ドラゴンが名乗れるかよ」


 振り返ってみると、ちょうど舞い上がっていた腕が音を立てて元の位置につながっているところだった。

 つながる瞬間に見えた青い液体みたいなものは……流体金属か。

 最初から見えていた腕は電流みたいな感じの何かでつながってるようだし、よく見ると足はがオンちゃんのような節足型で、装甲はキッコウちゃんのものを模したようにも見える。

 今までの技術の集大成ってのは嘘じゃなさそうだな。


「ぐ、ぐぬぬ!! で、でも負けないもん! あと少し……あと少しでマルコのやりたいことができるんだもん! そのために、私は――!!」

「乙女の想いを踏みにじるみたいで心苦しいが、先を急ぐんでね。あとは女同士で姦しくやってくれ。真子と礼美、あとよろー」

「はやぁ!? もう突破されちゃったぁ!?」

「え、あ!? い、いつの間に!?」

「あんたの方もしっかりやんなさいよー」


 文字通り一瞬の隙をついてリッキーちゃん参式・改を突破し、あとを礼美と真子に任せる。

 後ろでリアラがリッキーちゃんパンチとか喚いてるけれど、その一撃が俺まで届くことはなかった。たぶん、礼美辺りがブロックしてくれたんだろう。

 ……さて、ここまでは一応予定通りか。

 一応の予定としては、偽神のところまで向かうのは、俺一人ということになっていた。

 これは単純に、戦闘力の差だ。自分で言うのもあれだが、今の俺は間違いなくこの世界で一番強い。真古竜エンシェント・ドラゴンになるというのは、つまりはそういうことだからだ。

 もちろん、全員で偽神の元まで到達できれば、それに越したことはなかった。

 とはいえ、それがほぼ不可能なことは簡単に予想もできた。そもそも、光太や礼美が向こうにとらわれっぱなしのアスカさんを放置してここまで来れるとも思わんかったし。

 そして真子には、今回の戦いの命運を分ける重要な役目がある。そっちに集中してもらうためには、むしろ途中で離脱してもらう方が都合がいいわけだ。


「まあ、その役目も、ここで俺が蹴躓いたら終わりなわけだけどな」


 ひとりごちながら、俺はついに偽神の遺骸の元まで辿り着く。

 その体からあふれ出る濃い瘴気は、空気の色を黒く澱めかせ、辺りから際限なく混沌の獣を生み出していた。


―オロロロロ……―

―シュリーン……シュリーン……―


 だが、生まれたはずの混沌の獣たちは、即座に瘴気の中へと埋もれて行ってしまった。

 ……瘴気とは、この世界では世界が傷から流す血。固定されていない原理法則そのものである。

 覇気でも意志力(マナ)でも魔力でもないそれは、世界へと溢れ出るとき何とか形を保とうとして、いずれの法則にも当てはまらない偶像を生み出す。故に、混沌の獣には一般的な生物の法則が当てはまらず、源理の力なんかに極端に弱いことが多い。

 そしてこの場は、瘴気が濃すぎる。絶え間なく溢れ続ける、定まらない法則が、新たに生まれ出てくるはずだった混沌の獣を飲み込み、また瘴気へと還してしまっているのだ。

 溢れ出るこの瘴気を何とかするには……その大元を完全に消し去らなければならない。

 すなわち、世界にとっての致命傷である偽神の遺骸を。


「………」


 俺は無言で偽神の遺骸を見上げる。

 山ほどの大きさもあるそれは、黒々とした体表を晒し、地面に横たわっていた。……よく見れば、この偽神の体が黒くなっているのは全身から噴き出す体液のようなもののせいらしい。遠目からは分からなかったが、やたらぬめぬめしてやがるぜ……。

 形は人のものとも獣のものとも呼べず、これを言い表す言語は俺の小さな言語野には存在しなかった。

 そして、そんな偽神の麓では三人の人間が小さな儀式台の周りで何かに勤しんでいた。

 ……もっと正確に言えば、二人の人間と一人の生贄か。

 生贄となっているのは、我らがアメリア王国王女、アンナ・アメリア。魔法か何かで固定されているのか、攫われた時の格好のまま、儀式台の上に浮いている。瞳は閉じており、意識がないことが分かった。

 ……いや、意識を搾り取られてるのか。彼女から立ち上った黄金の意志力(マナ)が、少しずつ偽神の体に注ぎ込まれているのがわかる。偽神の遺骸を母体に、新たな偽神を生み出そうって予想はどんぴしゃか。

 そして、儀式台の前で一心不乱に混沌言語(カオス・ワード)を唱えているのは当然ガルガンド。俺の方など見向きもせずにひたすら呪文を詠唱している。あとどの程度まで時間があるのか……やっぱり聞いただけじゃわからんな。前の真古竜エンシェント・ドラゴンも、生で聞いたことがあるわけじゃねぇみてぇだし。

 最後一人残ったのは、文官みたいな恰好をした色白……というか青白い肌をした、奇妙な人間だった。


「――……。……。……おや」


 その男はどこか茫洋とした眼差しでガルガンドの儀式を眺めていたが、近づいてくる俺に気が付いたのか、クルリと振り返った。


「そのお姿は――ひょっとして、魔王様のかつての御盟友でしょうか?」

「言った覚えも、聞かれた記憶もねぇな。なんでそう思う?」

「いえ。ガルガンドから聞いていた気配に至極似ていたようですので」


 片眼鏡(モノクル)をかけた男は、俺の正体自体には興味がないようで、すぐに別の問いを俺に投げかけてきた。


「それで……あなたは何をしにいらっしゃったのでしょうか?」

「神位創生の阻止……っつったらどうよ?」

「やめていただきたい。これのみが、私が魔王様の御許へと至る道なのですから」


 俺の返答に即答で返した男は、剣呑な光をその瞳に湛えた。


「もしそれでも事を為すというのであれば…この宰相マルコ、容赦いたしません」

「俺たちの足止めのために、魔王国の連中をスライムに変えといてよく言うぜ」


 俺は肩を竦めながら臨戦態勢を取る。

 対する宰相マルコも、だらりと腕を下げた姿勢のまま殺気を迸らせた。

 辺りを包むのはガルガンドが唱え続ける混沌言語(カオス・ワード)のみとなり――。


 ゴォン!!


 一瞬で間合いを詰めてきたマルコの拳は、見事俺の顔面をとらえ、俺を地面へと叩き伏せていた。


「ぅぉ……!?」


 強いだろうとは思ってたが、ここまでか……!?

 度肝を抜かれつつ、俺は反撃を試みる。


「ぜぇあ!!」


 地に伏せたまま、足を勢いよくマルコの股下に向けて蹴り上げる。

 男なら即死しかねない一撃だったが、マルコは致死の一撃を回避した。

 その体を霧のように変貌させることで。


「!?」


 マルコの体は、俺から少し離れた場所にすぐ現れる。

 俺は即座に立ち上がり、マルコが立っている場所に向けてこぶしを突き込む。

 狙うは人中。鼻と口の間、人体急所の一つ。


「っし!!」


 鋭く呼気を吐いた一撃は、空を貫いた。

 マルコにあたりはした。だが、当たった瞬間マルコの体は霧へと変じ、また少し離れた場所へと現れたのだ。

 竜種にも引けを取らない剛力。そして、体が霧に変わる、青白い肌を持った人間。


「……そういや、誰にも聞かなかったから知らなかったな」


 誰にともなく言いながら、俺はマルコを睨みつける。


「お前がどういう生き物かを」

「……フフ」


 マルコは俺を見据えながら、小さく微笑む。

 絶えず、ゆらゆらと体を霧のように変じながら。

 ……体が霧にように変わる強い力を持った化け物。

 死人のような肌を持つ、その生き物の名前は……。


「……吸血鬼」

「はい」


 俺の小さな呟きに、吸血鬼マルコは小さく応えた。




 それぞれの戦いを始める勇者たち。

 その頃本陣付近では、魔竜姫たちが陣頭指揮を執っていた。

 以下、次回。


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