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No.227:side・mako「最後の戦いの始まり」

 気が付くとあたしは、見知らぬ荒野に立っていた。

 見渡す限り地肌をむき出しにした岩山が乱立しており、命というものを欠片も感じさせない、いわば死の大地。

 そんな場所に、あたしはみんなと一緒に立っていた。


「……あれ。ここどこ?」

「って、おいおい、まさか今まで意識が朦朧としたまんま歩いてたのか!?」

「え、うそ!? 真子ちゃん、割としっかり歩いてたよね!?」

「まさかサンシターさんが手を引いてたから歩いてたとか……?」

「それか!」

「それなの!?」


 なんか周りでワイワイみんなが騒いでいる。

 あたしはぼんやりしたままの頭を少し振り、周りに説明を求めることにした。


「ええっと……誰でもいいから状況よろしく」

「状況も何も、最終決戦秒読みだっつの!」

「アルト王子の演説とかいろいろあったのに、そういうのすっ飛ばしちゃったよね真子ちゃん!?」

「ああ、予定には一応あったけど、やったの? あたし聞いてなかったんだけど」

「サンシターさんの隣に立ってばっちり聞いてたよ……?」


 周りに立った礼美たちは、あたしの方を呆れたような眼差しで見つめている。

 ええっと…………思ってた以上に、あたし、舞い上がってたみたいね……。


「うん、ごめん……。あたし、自分で思ってた以上にちょろかったみたい……」

「何ぼなんでもちょろすぎんだろ……。サンシターの子を授かったくらいで」

「「「え゛」」」


 隆司がやれやれという感じで吐き出した言葉に、あたしたちは濁点付きの声を発する。


「え、ちょ、ま……え、マジで?」

「マジでも何も、お前そういうつもりだったんじゃねぇの!?」

「い、いや、そのつもり! そのつもりだったけど……マジで!?」

「やらかした本人がビビッてどうするんだよもー! 大丈夫、ご懐妊です! 真古竜エンシェント・ドラゴンを信じなさい! まあ、一発で懐妊とかさすがにビビったが。あいのちからってすげー」

「あ、え、ふぐぅ……こういう時どういう顔したらいいの!? ねえ!?」

「わわわわ、私に言われても困るよぉ!?」

「マコ様落ち着いてください!!」


 あまりの出来事に、思わず礼美の両肩を掴んでガックンガックン揺さぶってしまう。ヨハンさんが仕事をほっぽりだして止めに来るくらいの勢いだ。

 いや確かに、そういう行為だし、その気だったけど! 昨日の今日で!?


「っていうかマジなの隆司?」

「割とマジで。真子の体、完全の子育てモードに入ってますよ?」

「マコ様って~情報~生命体とか~言うやつでは~?」

「まあそうだけど、情報を再現してるうちは人間だからなぁ。ただまあ、真子が慌ててるようにヤバいのは間違いねぇんだが」

「って、え? それもマジ?」

「きゃふん!?」

「ああ、レミ様!?」


 隆司の声に不安を覚え、礼美から手を離してそちらの方へと近づく。

 礼美の非難の声も聞こえず、ただ隆司の言葉に集中した。


「……お前みたいに体を作って妊娠しようとした魔族ってのは結構いるが、まともに育った例がほとんどねぇ。大半が、子供の成長スピードの遅さに耐え切れず、情報組成を解いちまうんだ。そうすると、腹ん中の子は情報に分解されて、魔族に吸収されてるようだった。そっからの予測だが、今お前の体の一部でも情報に戻すと、育ちかけてる子供も情報になる」

「………」

「あくまで予測でしかねぇが……子供が生まれるまでは、人間でい続けろ(・・・・・・・)混沌言語(カオス・ワード)を使うことはかまわんと思うが、混沌玉(カオス・オーブ)になるのだけはやめとけ」


 それはつまり、肉体の情報化による攻撃回避ができないってこと……。

 あたしは今まさに子が宿っているおなかを軽くさすった。

 こんな調子であるならば、サンシターにお願いすれば、何度でも子供は作れると思う……。

 けど、やっぱり……。


「……他に、注意するべきところは?」


 この子は、ちゃんと育てたいわよね……。

 あたしの質問に、隆司は首を横に振りながら答えてくれた。


「すまんが、それくらいしかわからねぇ。ただ、今のお前の体からは覇気を感じる。お腹の子のもんだろうが、それが防御膜になって、俺の竜種言語(ドラゴン・スペル)からは守ってくれるだろうさ。なるべく冒険はしねぇつもりだが」

「……ん、わかった。ありがとう」


 隆司の覇気からあたしを守ってくれる、か……。

 まだ名前も、そして体もないはずのお腹の子を撫でながら、あたしは少しだけ微笑んだ。

 あなたは、やっぱりサンシターの子なのね……。


「……ごめん、皆。いろいろ騒がせて」

「う、ううん! 全然大丈夫だよ、真子ちゃん!!」

「礼美ちゃんのいうとおり。気にしないで」

「まったく……。御子を成したのは祝福すべき事態ですが、まずは落ち着かれるべきです」

「そ~ですけど~。少し~硬いですよ~ヨハンさん~? まずは~おめでと~ございます~、マコ様~」


 礼美と光太も、少し驚いた様子だったけれど笑顔であたしに答えてくれる。

 周りに立っていた、他の人たちも同様だ。

 ……あたしが原因だけど、緊張感ないなぁ、まったく……。

 あたしは笑顔で俯き、すぐに顔を上げる。

 さて、気持ちを切り替えないと……今日を超えなきゃ、明日はないんだ。


「……それで!? 状況はどうなってるんだっけ?」

「今は両軍睨み合いの状態だな。こっちは陣を敷いてる最中で、向こうはこっちを睨みつけてる最中だ」


 隆司のいうとおり、あたしたちの背後では、急ピッチで陣が展開されているところだった。

 隆司が魔王城の中から運び込んだ、こっちの魔法を強化するための本陣だ。設置することで、戦場の魔力を活性化することができるはず……。

 けれど、それは向こうにとっても同じだ。こればかりは仕方ない……。この陣を敷かなきゃ、こっちの策は始まらないんだ。

 そして、あたしたちがいる正面。よく見れば岩山が開けた場所には、大量の骨軍団と、その先頭には漆黒の騎士が仁王立ちしていた。

 いったいどこにこんなにいたのかというほど大量の骨軍団に目の前は埋め尽くされているけれど、その中にはちらほら自然の摂理を完全に無視した生き物の姿が見える。

 あたし自身が見るのは初めてだけれど、混沌玉(カオス・オーブ)の中に知識はある……。あれは混沌の獣。かつての世界では、世界の傷がから染み出た瘴気より現れる怪物だったらしい。その特性を利用して、この混沌玉(カオス・オーブ)はかつて自分の周辺に意図的に瘴気を生み出し、自身を守っていた。……ガルガンドには通用しなかったけれど。

 今は、さらに向こう側に見える偽神の遺骸から湧き出ているようだ。


「……でかいわね、さすがに」

「そりゃ、仮にも神だからな」


 岩山の奥。拓けた大地の端の方に存在するはずの、偽神の遺骸らしきものは、黒く汚れた、できそこないの人間のような物体だった。

 だが、遠近感が分からなくなるほどに離れた場所にあるはずなのに、一目見てそれが偽神の遺骸だとわかった。

 一目見て感じたのは……いうなれば違和感(・・・)。この世界にあるはずがないという、どこか、奥の方から感じる確信。疑問を挟む余地がないほどのそれを、あの偽神の遺骸から感じる。


「あれが、偽神……」


 光太がポツリとつぶやく。

 その声の中には、緊張が満ちていた。

 さすがの光太も、アレの存在をひしひしと感じとっているってわけだ。


「……で、今まさにその足元でガルガンドの爺が儀式の真っ最中ってわけだ」

「あたしには見えないんだけど……そうなの?」

「いや、僕らにもわからなくて……」

「見えてるの、隆司君だけだから」


 困ったように首を横に振る光太と礼美。

 けれど、隆司が言うなら間違いないんだろう。

 偽神の遺骸の付近で、誰かが何かをしているのがかろうじて見える。それがなんなのかはわからないけれど……。状況を考えれば、ガルガンド以外には考えられないはずだ。


「……つまり、あたしたちは目の前の軍勢を突破して、ガルガンドのところまでいかなきゃいけないわけね」

「そう言うわけだな。途中、クロエをはじめとする妨害は当然あるだろうな」

「……アスカが~出てくるなら~、ここですよね~」

「……そうですね」


 いつものんびりとした口調のアルルも、さすがに声が固い。

 アルルにとっては、親友を取り戻せるかどうかの瀬戸際でもあるんだ。ガルガンドに操られている以上、ジョージのように改造されてるのは間違いないでしょうね……。


「……場合によっちゃ、覚悟決めときなさいよ」

「うん。でも、最後まで足掻かせてもらうよ」

「好きになさい」


 決意を込めた光太の言葉に、礼美も無言でうなずいた。

 昨日の話し合いの中で、この二人はアスカを救出するためにまず動くことが決まっている。

 そして、可能であれば残った四天王たちはヴァルトとラミレスが。そして、ガルガンドはあたしと隆司が担当することになっている。

 とはいえ乱戦になるだろう。立てた作戦通りに事が運ぶことなんて、まずありえない。

 結局のところは臨機応変に動くことになるでしょうね。

 この骨の大群と、混沌の獣の配備を潜り抜けて、どれだけの人間が偽神の足元まで行けるのやら。


「……まあ、辿りつけたとしても、混沌言語(カオス・ワード)が使えるガルガンドに、どれだけ食いつけるか……」

「最低でも、俺かお前、光太と礼美のペアのうちの誰かが辿り着けなきゃ、ガルガンドに致命傷を与えんのは難しいだろうな」


 源理の力に抗するには、源理の力を使うのが一番効果的だ……。

 一番、確率として高いのは隆司があそこに到達すること……。

 なら、あたしがすべきは。


「みなさん。陣の設営が終わりました」

「おう、お疲れアルト」


 聞こえてきた声に振り返ると、アルト王子と、そのそばに控えるようにサンシターの姿があった。きっと、陣の設営を手伝っていたんだろう。


「サンシター」

「マコ様」


 あたしたちはお互いの名前を呼んで、少しだけ微笑んだ。


「ちょっと、行ってくるね」

「はいであります。いってらっしゃいでありますよ」


 サンシターのいってらっしゃいの言葉を聞いて、あたしは胸の中に小さな灯をともす。

 ……さあ、て。いっちょ蹴散らしますか……!


「あーあー! リア充爆発しねぇかなぁ!? ばぁーくはぁーつしねぇーかなぁー!!??」

「いや、第一リア充の隆司がそれ言うかな?」

「オラ男子ども! 戯言ほざいてないで、行くわよ!?」

「真子ちゃん、無理はしないでね!?」


 アルト王子が前線に赴くにつれ、熱いほどの熱気が、アメリア王国と魔王国連合軍を包み込んでいく。

 アルト王子が腰の剣に手をかけ、引き抜く。


「―――」


 そのまま無言で剣を掲げ上げ、まっすぐに敵を睨みつける。

 クロエを先頭とした敵軍にも、緊張が走っていく。

 そして、アルト王子の剣の切っ先が微かにぶれ。


「――全軍突撃ぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!!!」


―オオオオオォォォォォォォォォォォォ!!!!―


 その号令と同時に、戦端が斬って拓かれた。




 ついに始まる最後の戦い。

 戦場を真っ先に駆け抜ける隆司の背中で、光太は刃を握りしめる。

 自分のせいで、堕ちてしまった人を救うために。

 以下、次回。


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