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No.226:side・ryuzi「出発直前」

 夜が明け、日が昇り始めた魔王国、魔王城。

 裏のひらけた広場には、最終決戦に向け、参戦するものたちが勢ぞろいしていた。

 アメリア王国騎士団、ケモナー小隊。

 そして、魔王国魔王軍。

 それぞれに、想い人と最終決戦の前の最後のひと時を過ごしている。

 特に騎士ABCのテンションがひどい。


「この戦いが終わったらおれ、ミンちゃん(ワーシープ)と結婚するんだ……!」

「へ、ミンちゃんの事泣かすんじゃねぇぞ? それよりもアクアちゃん(マーメイド)がとっておきのサラダを作ってくれるってさ!」

「はっはっはっそいつは楽しみだな! 帰ってきたら、俺たちのとっておきの武勇伝を、エミルちゃん(スライム)たちに聞かせてやろうぜ!」

「「「HAHAHA!!」」」

「………」


 どうやら想いを遂げられたのがよほどうれしかったらしい。思わず死亡フラグ連発するほど。

 ……まあ、こっちの世界に死亡フラグなんてないし、そもそも過剰な死亡フラグは生存フラグとか言われてるし、ABCだし、大丈夫だろ。うん。

 テンションという意味では、こっちもなかなかひどい。


「……」

「……ふふ」


 最終決戦前だってのに、互いに見つめ合って微笑みあう光太と礼美。こっちに来る前だったら考えられない状況だ。

 ……こんな二人を見られただけで、こっちの世界に来たかいがあったというもんだ。この分なら、元の世界に戻ってもうまくやっていけるだろう。

 そして俺の背中の方では、三人娘がかしましく騒いでいた。


「ほら、せめて影くらいは踏める位置にいきなぁ……!」

「ま、まってまって! せめて心の準備をぉ……!?」

「ヘタれたこと言ってないで、少しは覚悟決めてくださいぃ……!」


 いやいやと首を振るソフィアの体を何とか俺の傍に押し込もうとしてくれているカレンとマナ。

 二人の涙ぐましい努力とは反対に、ソフィアの足は一ミリも動かない。

 ソフィアの顔は真っ赤だ。おそらく俺の姿を見るだけで恥ずかしさに殺されそうになっているんだろう。っていうか背中しか見せてないのに、心拍数ひどいし。


「………」


 少しだけ振り返ろうとしてみる。


「ぴゃっ!?」


 瞬間、ソフィアはカレンとマナを引きずって岩陰まで逃げ込んでしまった。


「ちょい、ソフィアいい加減にしなよ!?」

「そんな調子で戦えるんですか!? 割と本気で!!」

「だ、だってだってぇ……!」


 岩陰では割と本気でキレてるカレンとマナがソフィアを責めるが、当のソフィアは弱々しく首を横に振るばかりだった。

 ……もう、こればっかりはソフィアに慣れてもらうしかなかろう。そう思っとこう。

 はらはら涙を流しつつ、俺は今の今まで目を逸らしていた二人へと目を向ける。


「…………」

「…………」


 そこにはとびっきりの笑顔で前を向いている真子と、その隣でげっそりとやつれながらも菩薩のように何かを悟った微笑みを称えているサンシターがいた。

 あの後、けっこー長い間なんやかんやしてたみてぇだけど……。少なくとも俺が仮眠取るまではそういう音が聞こえてたけど……。

 俺は恐る恐るサンシターに近づいた。


「……おい、サンシター。無事か……?」

「……」


 サンシターはゆっくりと俺の方へと振り向くと、菩薩のような笑みのまま答えてくれた。


「――ええ、自分は大丈夫でありますよ」

「いや大丈夫じゃねぇよな。明らかに駄目だよな? 正直に言えって」

「大丈夫でありますよ。――ところで、何やら向こうで手を振っているのはひょっとして死んでしまった祖父では――」

「駄目だサンシター! そっち行っちゃだめだ! カンバックサンシタァァァァァァァァァ!!!」


 彼岸へと渡りかけているサンシターを必死の説得(竜種言語(ドラゴン・スペル)付)により、此岸へと呼び戻す。


「あ、危なかったであります……! じ、自分、何があったのかさっぱり……!」

「いいんだ……! 思い出すんじゃない……! お前は頑張ったんだ……!」


 何とか正気を取り戻してくれたサンシターを抱きしめ、俺は男泣きに泣く。

 あぶねぇ……! 危うく親友が腹上死するところだった……! 別にそういう場面じゃないはずなのに……!


「大げさねぇ、隆司は」

「だまらっしゃい元凶。つかてめぇ、何涼しげな顔してんだよ」


 俺の様子を見ても微笑みをくずさねぇ真子を睨みつける。

 っていうか、なんでこいつがこんなに涼しげな顔してんだよ。いくら情報体っつっても、真子の場合は生前(正しい言い方ではない)の記憶そのままに体を再現してるはずだろうが。

 初夜の次の日にこんな平然としてるって、実はこいつ神経図太いんじゃ。


「――あ、リュウ様、ちょっと」

「あ? んだよ?」


 サンシターに袖を引かれ、俺はわずかに真子から離れる。

 真子も俺たちを追うことなく、また前の方をほほ笑みながら見つめ始める。

 そんな真子の様子を見ながら、サンシターは恥ずかしげに俺に耳打ちをした。


「いえ……ああ見えて、マコ様いろいろギリギリだと思うので、あまり突っつかないで上げてほしいでありますよ……」

「あれで?」

「ええ、あれで」


 俺は改めて真子の方を見やる。

 真子は相変わらず微笑みを称えたまま前を見続けている。いっそ、石像か何かのように……まあ、ある種の不気味さはあるわな。


「昨日も、情事の最中、謝ったり喜んだりと情緒不安定だったのでありますよ……。今は、余韻というか、後悔というか、とにかくそういうので一杯一杯になってるので、放っておいてあげてほしいでありますよ……」

「……まあ、お前が言うんならその通りなんだろうけどさ……」


 サンシターの言葉に半信半疑になりつつも、俺はとりあえず核心だけ聞いとくことにした。


「いいのかお前は?」

「はい、問題ないでありますよ」


 いくつもの意味を持たせた俺の言葉に。

 サンシターは、たった一つの意味で答える。

 揺ぎ無い意志を感じさせるその一言に俺は安心して顔を上げ。


「マ、マコ……? どうしたの……?」

「フィーネ様待ってほしいでありますよ!?」


 破裂寸前の不発弾みたいになってる真子に不用意に近づくフィーネを大慌てでサンシターが保護に向かった。

 いや、むしろ保護しに行ったのは真子の方か……。


「え、サンシター!? でも、マコ、なんか変だよ!?」

「大丈夫であります! 大丈夫でありますから! さあ、まいりましょうマコ様!!」

「うふふ、あはは。さんした~」


 サンシターにぎゅっと抱きしめられてなんかいろいろまた思い出したのか、顔が崩れる真子。

 そんな真子を抱えて、サンシターはどこかへと駆け出していった。……出発までには戻ってくるよな、あいつ……。


「……ねえ、リュウジ。マコ、どうしたの……?」

「……そうだな……」


 不安そうなフィーネに、俺はなんて答えるか少し考え……。


「……サンシターに告白したおかげで舞い上がってんだろ。すぐ元に戻るさ」


 俺はそう答えた。……おk、嘘は言ってねぇ。


「マコが!? サンシターに!?」

「マコが、サンシターに」

「ふえぇぇ……」


 フィーネは真子が去っていった後を、物珍しい眼差しで見つめていた。

 まさかの組み合わせと思ったのだろう。……そういやこいつはその辺知らねぇのか?  あるいは、自分以外の事には鈍いのかもしんねぇな。


「まあ、そこまで意外ってわけでもねぇさ。真子みたいなごり押しタイプはサンシターみたいな世話焼きタイプに弱いもんなんじゃねぇの?」

「あ、それはなんかわかるかも」


 そういって、フィーネは俺が昨日運び出した荷物をいじっているギルベルトと、その周りで彼の作業を手伝っているメイド長の方を見た。


「ギルとレーテとか、最初はすっごい意外だったもん」

「だろ? けどまあ、こういうのは結局流れっつーか、縁っつーか……」


 俺は頬を掻きながら、その言葉を口にした。


「……“運命”ってやつなんだろうさ」

「運命、かぁ」


 フィーネはその言葉に少し瞳を輝かせ、そしてグッと拳を握って俺を見上げる。


「……なら、私たちは勝てるよね!?」

「ん?」

「運命があるんなら…私たちに勝てる運命はあるんだよね!!」


 そういって叫ぶフィーネの瞳の奥の方には、わずかに不安の影が揺れていた。

 ……真子の傍に寄ったのは、そういうわけか。


「さあな? おれにはわからん!」

「えええぇぇぇぇぇぇぇ!!??」


 力強く断言する俺を見て、悲鳴を上げるフィーネ。

 まあ、今のさっきでこんな否定されりゃねぇ?

 俺を見上げたまま、涙目になるフィーネ。


「そ、そんな……!」

「だからな?」

「にゃ!?」


 俺はそんなフィーネの頭に手を置いて、ぐりぐりと撫でてやる。


「自分で何とかしに行くのさ。どっかで見てるであろう、運命の女神ってやつに振り向いてもらうために」

「………」

「結局は動かんと運命も何もねぇし、努力しなけりゃ結果もついてこん。そこだけははっきりしてるんだ。よくわからんもんに頼る前に、まずは自分で何とかしようぜ?」

「……うん、わかった」


 俺の言葉に、しかし満足はできなかったらしいフィーネは、少しだけ不満そうに俺を見上げる。

 そんな彼女の様子にため息をつきながら、首根っこひっつかんですぐ近くまで来ていた保護者に放ってやる。


「うにゃ!?」

「つーわけだ。手綱離すんじゃねぇよジョージ。お前が保護者だろうが」

「むしろ俺が手綱握られてる側じゃねーか……」


 俺の言葉に呆れたような顔になりつつ、ジョージは残った左手でフィーネの手を握りながら、彼女を引っ張っていった。


「ほら、来いよフィーネ。ギルベルトのおっさんが、転移術式(テレポート)の最終調整するって言ってるんだ」

「……うん!」


 ジョージに手を握られ、声をかけられ。

 現金なもので、フィーネの顔からはさっきまでの不安はどこかへと消し飛んだようだ。

 やや引きずられるままだったその足取りも、あっさり軽く、ジョージの後をついて行った。

 ふ……かわいいねぇ、あのくらいの年頃ってのは。


「……まあ、一番かわいいのはソフィアですけどね!!」

「……きゅ~」

「あ、ソフィア様!?」

「ちょいとリュウ!? ただでさえオーバーヒート気味なのに、とどめ刺さないでおくれよ!!」

「え、あ、その。スンマセンでした……」


 どうやら俺の鬨の声はソフィアにクリティカルヒットしてしまったらしい。なんか湯気上げながら倒れてるソフィアを必死に介抱するカレンたちの姿が見える。

 ちょっと肩を落として黄昏ている俺に、騎士団団長さんとヴァルトの二人が近づいてきた。


「タツノミヤ、皆の準備が終わったぞ」

「あとは、ギルベルトの奴の調整が終わるのを待つだけだ。……って、どうかしたのか?」

「なんでもねぇッス。ちょっと恋愛の難しさについて思案してたとこッス」

「何いってんだお前は」


 俺の言葉に首をかしげる団長さんと、意味を理解して申し訳なさそうな顔になるヴァルト。

 ……まあ、いいよね。これが終われば時間なんていくらでもあるし。

 俺は目の端の涙をぬぐって、顔を上げる。

 さて、じゃあ行くとしますかね……。




 刻一刻と迫るタイムリミット。

 皆が飛ばされた、大陸の果て。偽神の骸の傍らに、奴らがいた。

 ……終わりと始まりが、今、動き出す。

 以下、次回。


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