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No.221:side・ryuzi「世界の始まりを識る者」

「この世界が元々どうなってたのかってのは、お前も大体掴んでんだろ?」

「そりゃぁね」


 広場で気絶していた人たちもだいぶ回復してきたということで、あとのことをケモナー小隊と魔王軍の連中に任せ、俺たちやアルト、そしてヴァルトとラミレスといった魔王軍の主要陣は一路魔王城へとやってきていた。

 ちなみにソフィアは俺と顔を合わせることができないらしく、カレンと二人で別行動である。くすん。

 俺は肩を落としながら、ヴァルトの紹介によれば玉座と呼ばれる場所に足を踏み入れた。


「けど、ぼんやりと概要を掴んでる程度よ。あんたほどはっきり把握してるわけじゃないわ」

「それもそうなんだけど……結局隆司って、今どういう状態なんだ? 角は生えるし、大きな体からその大きさになるし……」


 礼美を支えながら歩いている光太の、当然と言えば当然の疑問に俺はクルリと振り返りながら答えた。


「大きさだけじゃねぇ。尻尾も羽根も自由自在よ」

「あの、そんな得意げな顔で語られても困ります……」

「なおのこと意味不明だぞ貴様!?」


 フフンと微笑みながら尻尾と羽根を出現させてみると、マナとガオウから手厳しいツッコミが入った。


「もう、リュウ様をどういう分類の生き物としてみればよいのかわからないでありますよ……」

「竜だって言ってんだろう、何べんも言わせんな」

「あたしの知ってる竜はそんなエグイ鉤爪してないよ……」


 さらに両手を龍のような三本指の鉤爪に変化させてみると、いよいよ辟易したラミレスのやる気のないツッコミが刺さる。

 いよいよ興が乗って来たので、さらに尻尾の先っぽを一振りでふさふさにしてみたり。

 そんな俺を見て、さすがにとめないといけないと思ったらしいヴァルトが一歩前に出て俺を咎める。


「そのあたりにせよタツノミヤ。このままではらちが明かん」

「俺の七変化はいよいよこれからだってのにぃ」


 ぶー垂れたように言いながらも、俺は素直に姿を人間のものにする。

 まあ、さすがにこのままオンステージってわけにもいかねぇしな。


「……まあ、かいつまんで話すとだ。今の俺は真古竜エンシェント・ドラゴンの記憶を継いで真古竜エンシェント・ドラゴンになったわけだ。ここまではOK?」

「その時点でよくわからないよ……記憶を継いだってどういうことなのさ」

「そこは俺もよくわからん!!」

「ちょっとぉ!?」


 力強く言い切った俺に対し、光太が呆れたように叫ぶ。

 まあ、確かにそう言いたくなる気持ちもわかる。だがハッキリ言ってよくわからん!


「わかってんのはあの腐りトカゲが骨剣と俺の体を核にもう一度蘇ろうとしたってことと、その説明に腹が立って勢いで叫んだら主導権を取り戻したってことか」

「……え? ってことは、あの腐ったオオトカゲみたいなのが真古竜エンシェント・ドラゴンだったの?」

「元だけどなー」


 アレ(・・)真古竜エンシェント・ドラゴンと知って、少なからずショックを受ける光太。

 そうだよなー……お前、異世界のドラゴンとかに幻想抱いてたもんなぁー……。


「アレが真古竜エンシェント・ドラゴンとかどうでもいいけど、骨剣を核にって?」

「ああ、アレ、どうも前の真古竜エンシェント・ドラゴンの爪だったらしくてな。それを人間にも使えるサイズに直して、初代アメリア国王に使わせてたみたいなんだわ」

「え、あの石……じゃない骨剣、初代アメリア国王縁の品だったのですか!?」


 初代アメリア国王の名に、アルトが超反応を示す。


「おう。あれで偽神に止めを刺したって、スゲェ曰くつきのシロモンだった」

「そ、それを知っていたら……知っていたらぁ~………!」


 ヘナヘナとアルトの全身から力が抜けている。

 初代国王の縁の品だもんな……。現王家のアルトからしたら、それこそ喉から手が出るほど欲しい品だったに違いねぇ……。


「まあ、残念なことに、あの骨剣は溶けて俺の爪や牙に変換されたわけですが」

「偽神に止め……そこよ、聞きたいのは」


 真子は真剣な顔をして俺に詰め寄ってくる。

 岩くらいなら貫通しそうなほどに真剣な眼差しが、俺の両目を射抜く。


「アメリア王国が誕生するより前に偽神が現れ、そして世界が滅びかけたのまでは知ってるわ。その後はどうなってんの?」

「その後は単純明快さ」


 俺は歩いていき、そして玉座らしい椅子に腰かける。

 その上で、両手を広げながら続けた。


「勇者と魔王とドラゴンが手に手を取り合い偽神を倒し、世界に平和を取り戻したんだよ。アメリア王国は、その後脱出不要になった生き残りの人間たちを勇者がまとめ上げて作った国なんだよ」

「それがアメリア王国建国の由来……」

「……で、真古竜エンシェント・ドラゴンと魔王は大陸を二つに割り、片方に偽神の遺骸を封じ込めた。これがだいたい千年くらい前だな」

「偽神の遺骸?」

「文字通りのものさ。勇者が止めを刺した偽神の肉体。魔法で消すことも覇気で粉々にすることも叶わず、元より意志力(マナ)にはどうすることもできず、結果として放置するしかなかった」


 軽く一息つきつつ、俺は周りを見回す。

 やはりというか、ほとんどの連中はついてこれていないようだ。アルトやガオウたちは言うに及ばず、光太や礼美でさえ俺の方を疑問の眼差しで見つめている。

 だが、真子とラミレス、そしてヴァルトは俺をじっと見つめていた。

 やや濁ってさえいるヴァルトの瞳が、少し揺れる。


「……その遺骸を、真古竜エンシェント・ドラゴンと魔王様は何故こちらに封じたのだ?」

「一つはさっき言ったように、遺骸そのものを消滅させられなかったからだな。偽神の遺骸は新しい世界になるって特性を持っていたからなのか、無限の瘴気と混沌の獣を放出し続けた。これを変に拡散させないためにも、ひとところに押し止めるのがベストだと魔王も考えたみたいだな」


 そこで俺は息を止め、そして軽く吐いた。


「……もう一つは真古竜エンシェント・ドラゴンと魔王が人間を信用していなかったからだな」

「……え?」


 礼美が、呆けたような声を上げる。


「人間を……信用していなかった?」

「でも、さっき光太、勇者と魔王とドラゴンは手に手を取り合ったって……」

「あくまで利害が一致しただけさ。魔王とドラゴンだけじゃ手に負えなかったってんで、肝心なところを勇者任せにしてたんだよ。うまく行けば儲けモノ、って程度の考えしか持ってなかったのさ、前の真古竜エンシェント・ドラゴンは」


 俺は吐き捨てるようにはっきりと言う。

 やな感じだぜ、まったく。俺が元人間ってのを差し引いても、前の真古竜エンシェント・ドラゴン、とても出来た竜だなんていえやしねぇ。生まれたばかりの偽神に立ち向かう同族のことを、責任の置き所もわきまえない愚か者とか考えてやがるし……。

 ……まあ、竜って種族自体が傲慢な傾向にあったみたいだからな。それは仕方のねぇことなのかもしれねぇ。理解も納得もしたくねぇが。


「……もともと、偽神誕生のきっかけが、人間が始めた別世界創造の研究だったってのもあった。寿命を終えようとしていた世界から、新しい世界に……これは生存意志のない魔族にとっても、死を嫌う感情の薄い竜族にとっても魅力的な提案だったからな……。それだけに騙された感もひとしおだったんだろうさ」


 いやな話題はさっさと終えるに限る。

 俺は口早にそう言い切ってから。軽く手を打つ。

 ぱぁんという乾いた音にみんなが少しびっくりするのを見て、少しだけ満足。


「……まあ、そんなこんなで混沌の獣を狩り続ける系の仕事について、大体五百年が経過するわけだ」

「その間にアメリア王国は文明復興に勤しみ、何とか人々が大陸の片側に生活の版図を広げられるようになっていった、と」

「ああ。で、五百年くらいたったある日、前の真古竜エンシェント・ドラゴンが唐突に寿命を迎える」

「ん、どういうことだい? 真古竜エンシェント・ドラゴンって、名前からしてかなり長命な感じだけど?」


 ラミレスの疑問も当然だろう。


「まあな。前の世界でも両手の指の数で足りる程度しか代替わりしてねぇ。個体差にもよるが、一万年くらいは平然と生きるな」

「それがたった五百年で寿命って、どういうこと?」

「どうもこうも、飲まず食わずで五百年だぞ? そんなもん死ぬに決まってんじゃねぇか」

「え? 実は真古竜エンシェント・ドラゴンって馬鹿なのでありますか?」


 サンシターの割と容赦のないツッコミが入る。貴重だなオイ。


「世界がほとんど崩壊しちまったせいで、食うもんがほとんどなくなってたんだよ。竜族は結構長い間飲まず食わずでいられるが、食う時はとことん食うからな。人が版図を広げた程度のレベルの生産力じゃ、一回の食事で世界が滅ぶぜ」

「……飲み水も、大半が海のこの世界じゃ望み薄よねぇ」


 その通り。今や世界に唯一の大陸であるここを飛び出しても、広がっているのは満開の青海。

 残念ながら湧水なんてのはこの世界にはほとんど存在しねぇ。いてもボトルスライム程度……巨大な肉体を誇る竜ののどを潤すには足りなさすぎる。


「とまあ、五百年前後飲まず食わずでいた真古竜エンシェント・ドラゴン(馬鹿)は、無事に餓死を迎えたのでした。まる」

「……それって、今のリュウジさんも結構危ないんじゃ……?」


 恐る恐るといった様子のマナに、俺は心配無用というように手を振って見せる。


「だいじょぶだいじょぶ。体を圧縮してる分、入る量もそれなりに減ってるから! ……・・・・・・・・・・(その分回数は増えるか)・・・・・・(もしれねぇが)

「ボソッと言うなボソッと」


 鋭く俺の発言を聞きとがめた真子がツッコミを入れ、そのわきから光太が何やら気難しい顔をして訪ねてきた。


「……それじゃあ、女神は?」

「んお?」

「女神は確か……魔王に攫われたんだよね? それなら、ここには女神がいるはずじゃ……」


 ああ。そういえばいたねそんな存在。すっかり頭から吹っ飛んでたが。


「……そうでした。我々はレミさんの奪還以外にも女神さまの救出という目的があったんでした」

「いろいろありすぎてアルトの頭からも吹っ飛んでるし。……で、その辺実際どうなんよ?」


 俺が話を向けてみると、ヴァルトとラミレスは申し訳なさそうに首を横に振った。


「すまないが、我らも女神という存在を目撃したことは……」

「そもそも、レミがマルコから聞いたとおりに、我らも魔王様と謁見が叶ったことはないんだよ。ソフィア様も、今リュウジが座っている玉座に突然現れたくらいだからねぇ」

「ソフィアのゆりかご! 丁重に保護せよぉー!!」

「今の今までケツに敷いてたやつが何を今更」

「そもそも、玉座なのでありますから、保護されてしかるべきなのではありませんか?」


 琴場夫婦の辛辣なツッコミにも応えない俺!

 ……という冗談は心の引き出しにしまいつつ。言ったら絶対しばき倒されるし。


「俺も死んでからこっちの事はまったくわからねぇからなぁ。女神が攫われたのって、正確には何年くらい前の話だっけ?」

「確か……四百年ほど前かと」


 若干うろ覚えっぽいが、王族であるアルトの言葉はある程度信用できるはず。

 となると……?


「……百年ちょっとばかりは耐えてってことか?」

「それでまた耐えられなくなったから女神の力をってこと? 安直すぎない?」

「つっても、魔王自体は人造の人型に混沌玉(カオス・オーブ)埋め込んだってだけで、俺らの世界で言うアンドロイドに近い存在のはずだからなぁ。駄目だと判断すれば、迷いなく女神の力を攫いに行くぜ?」

「あんどろいど? それはいったい……」

「えっと、アンドロイドっていうのは――」


 言葉の意味が分からないヴァルトとラミレスに、レミが説明してやっているのを横目に見つつ、俺は話を続ける。


「……まあ、魔王の行方は置いとこう。実際、今いたとしても真子以上の役割は期待できんし。むしろ応用が利かない分、真子以下と考えた方がいい」

「……で、あんたの推測じゃ、連中は偽神の遺骸を利用するとかって話だけど」

「ああ、そうだ」


 俺は一つ頷きその根拠を話す。


「偽神は形を成し、動いている間は一個の世界として機能するが、“死んだ”場合は物質として元々あった世界の一部となる。……故に、最強の肉体の素材としてはうってつけなわけだ。今にして思えば、リアラの発明のほとんどがロボット然としてたのも、偽神の遺骸を外殻か何かに利用するためだったんだろうな」

「前もって作り置きくらいはしてるだろうとは思ってたけど、まさか偽神の遺骸とはね……」


 厳しい表情の真子。

 とはいえ、あまり根詰めてもしょうがねぇ。


「要は時間が足りねぇってだけさ。やること自体は変わらねぇ。気楽に行こうぜ?」

「誰もかれもがあんたみたいにお気楽じゃないのよ。まったく……」


 俺の一言に呆れたようにため息をつく真子。

 そんな真子を見つつ、俺は大きな笑い声をあげた。

 ただ単にお気楽じゃねぇのさ。

 今回は、ホントの意味で勇者と魔王とドラゴンが手に手を取り合うんだからよ……。

 うまく行かねぇわけがねぇのさ。

 偽神の遺骸が残された場所へと顔を向け、俺は中指をおったててやる。

 今度こそ……微に砕いて撒き散らしといてやるよ、偽神さんよぉ……!




 隆司の話も、スライムのその後もひと段落し、皆はそれぞれに休息を取る。

 世界の命運を定める、明日のために。

 以下、次回。


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