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No.219:side・ryuzi「人体生成の記録」

 意識を取り戻したらしい礼美の姿を見て、安堵の笑みを漏らす真子。

 そんな真子の姿を見て、さらにサンシターが安心したように息をついた。


「ああ、よかったであります……レミ様が無事で……」

「……ん、そーだな」


 俺はサンシターを見てから小さく頷く。

 そのまま俺はぐるりとまわりを見回した。

 大勢の人間が忙しそうにあちらこちらへと走り回っている。

 まあ、スライムから人間に戻ったばかりでほとんど意識不明だしな。忙しさもひとしおだろう。

 と、そこで気づいた。

 主要人物は結構集まっているが、ちらほら欠けている人物がいることに。


「……そういやフィーネやアルトはどうしたんだ?」

「え? ああ、そういえばであります」


 サンシターは俺に言われて今思い出したというように、腰から通信用らしい水晶を取り出した。


「マコ様たちが巨大スライムへと向かう際、アルト王子やフィーネ様は引き続き、周辺の探索をお願いしていたのでありますよ」

「ああ、そういうことか」


 確かに、アルトやフィーネ辺りは巨大スライムと戦うときにはあまり役に立たないだろう。

 戦闘経験とかもあるけど、真子の心情的に。フィーネのことを妹か何かに見てる節があるし。

 なら、なるべく遠いところで探索でもしててもらった方が安心だろう。


「それで、折を見て、こちらから連絡する予定だったのでありますよ」

「ほー……って、ん?」

「みんなー!!」


 聞こえてきた声に振り返ると、シュバルツに跨ったフィーネがこちらにやってくるところだった。


「おい、フィーネこっちきてんぞ」

「え、あれ!? フィーネ様何故!?」

「何故も何も、あんなスライムが現れたんじゃ、私もこっちに来なきゃ……って思ったんだけど……」


 こちらまでやってきたフィーネは、囚われていた連中の救助現場となっている広場を見て、しょんぼりと肩を落とした。


「私、出番なかったね……」

「そう気を落とすなよ。人たちの気付けとかには魔法が必須だろ。むしろ出番はこれからだろ」

「そ、そうだよね!!」


 肩を落としたフィーネをそう慰めてやると、一転して元気になったフィーネが、シュバルツから降りようとする。


「っと、あぶねぇ」

「あ、ありがとう!」


 慌ててフィーネの体を抱え上げて、ゆっくりと地面に下してやる。

 そのまま急いで周りの人たちを手伝おうとして。


「――って、そうだ! こっちが終わったら、向こうに行ってほしいって言わなきゃいけないんだった!!」

「向こう?」

「うん! 町の外れの方に、大きなお屋敷があったんだけど、今そこをギルとアルト王子が調べてるの!! 私はスライムが現れたのを見てから、シュバルツにお願いしてこっちに着ちゃったんだけど……」


 フィーネが困ったような顔で俺を見上げてくる。


「こんな状態じゃ、向こうに行けないよね……」

「ああ、じゃあ俺が行くわ」

「え? リュウ様が?」

「おう。今この場で俺にできること、そんなにねぇし」


 人々が倒れている広場を見回し、俺はそう口にする。

 一応、覇気で気付けを行うこともできなくはないが、方法としては人を起こすのに耳元で銅鑼を鳴らすようなもんだ。出来れば、自然に目覚めるのを待った方がいい。


「フィーネはこのまま真子辺りを手伝ってやれよ。サンシターも以下同文」

「うん、わかった!」

「自分のまとめ方に疑問を覚えざるを得ないでありますが、了解であります!」

「じゃ、あとよろしくー」

「あ、リュージ! お屋敷は――!」


 後のことを二人に任せ、俺は地面を蹴り飛ばし、屋敷らしいもがある方向を目指した。

 フィーネが屋敷の方向を教えてくれようとしたみたいだけど、彼女の匂いを辿ればだいたいの位置は分かる。

 ……んー。しかし匂いって、結構はっきりわかるもんなんだなぁ。

 二度三度、屋根を蹴り飛ばし、飛ぶような勢いで俺は目的地らしい屋敷を目指す。


「あれか?」


 魔王国首都の、郊外とでもいうべき場所だろうか。町からそれなりに離れた場所にその家は建っていた。

 豪邸と言っても差し支えないほどの大きさだが、人間の建築に見られるような、芸術性のある装飾がみられない、質実剛健を旨としたような屋敷だ。

 ……あんだけ質素なら、いっそ大きさもコンパクトにまとめとくべきだろう。

 そして、そんな屋敷の前にメイド長とジョージが座っていた。


「よっと」

「ご足労ありがとうございます、リュウジ……様?」


 屋敷の前に着地した俺を見て、メイド長が首をかしげる。

 いやまあ、様変わりしてるけどさぁ。

 止む無く俺は俺だとわかるようにあいさつした。


「オッスオラ隆司!!」

「ああ、うん。このノリはあの兄ちゃんしかありえねぇだろ」

「そうですね。失礼いたしました」

「いや、わかってくれればいいんだよ」


 某異星人風あいさつで俺だとわかってくれたようで、二人とも納得したように頷いてくれた。

 うむ、安心と信頼の俺クオリティ。

 ……なんてふざけてる場合じゃなくて。


「で、アルトとギルベルトのおっさんは?」

「はい。今は屋敷の見える部分の調査が終わり、地下の方へと」

「地下ぁ? この屋敷、地下まであんのか」

「ああ。しかも、隠し階段で続く隠し部屋だぜ。ギルベルトのおっさん、見つけたときに興奮して叫んでたぜ?」


 隠し地下室、ねぇ?

 ……というか。


「そもそもなんでこの屋敷を調べようと思ったんだよ。町から離れてんのは確かだが、そこまで怪しくは見えねぇぞ?」


 俺は小高い丘に建てられた屋敷から、街を見下ろす。

 それなりに離れちゃいるが、不便というほどでも怪しいというほどでもない。

 ちょっとした金持ちが、町の喧騒からプライベートな空間を切り離したいと考えたら、まあこのくらいの距離になるんじゃないかって程度の離れ方だ。

 隠し地下室があるのは驚きだが、そこに至るまでに気づける要素なんて……。

 という俺の疑問に、メイド長さんが扉を指差して答える。


「……この屋敷を調査しようと言い出したのはギルですが、それを決定づけたのはこちらです」

「おん?」


 メイド長さんの細くて長い指が指示したのは一枚のネームプレート。

 それは魔術言語(カオシック・ルーン)で描かれた、誰でも同じ文字に読める共通文字と呼ばれるもので、こう書かれていた。


「……“宰相マルコ”……なるほどね」


 今魔王国を取り仕切る人間で、ガルガンドの主と目されている輩の家か。

 こりゃ調べねぇわけにはいかんわな。


「……で、地下への入り口って外なの?」

「ええ。こちらです」


 メイド長さんの誘導のままについていくと、庭先にぽっかりと穴が開いていて、そこには階段が作られていた。

 自然を小さく再現したというような、穏やかな庭園という感じの庭に、地下へと続く階段……。なかなかシュールな光景だ。


「ここか?」

「ええ。ギルも王子も、入ってから三十分ほど経つのですが、連絡もなく……」


 不安そうに眉根をひそめるメイド長。

 ああ、わざわざ人を呼んだのはそれが理由か……。


「……まあ、心配しなくていいと思うぜ。血の匂いは欠片もしねぇ」

「え? わかるのですか?」

「ああ。ただ、妙に生臭いんだけどな……」

「生臭い?」

「おう。まあ、行ってみりゃわかるか……」


 ガシガシと後ろ頭を掻きながら、俺は階段を下りていく。その後に、ジョージとメイド長さんもついてくる。

 薄暗い光源が、かろうじて足元を照らしている。

 下手すると踏み外しそうだけど、今の俺にとっては真昼と同様に見える。いやぁ、便利便利。


「気をつけろよー。特にジョージ」

「わかってるって」


 しばらく歩くと、階段が途切れ、代わりに扉が目の前に現れる。

 特別装飾もプレートらしいものもないそれを、俺は無造作に開けた。

 途端に、むせ返るような生臭さが扉の向こうから漂ってくる。


「っ……」


 思わず顔をしかめるが、かまわず進む。

 後から入ってきた二人も、漂ってきた臭気か、あるいはいきなり目に飛び込んできた光景にか驚きの声を上げる。


「うげ……!?」

「こ、これは……!?」


 扉を超えた俺たちを出迎えたのは……大量の人モドキ。

 その姿は、竜の墓場を乗り越えようとしていた俺たちへと襲い掛かった、あの化け物に相違なかった。

 大きなシリンダーのようなガラス瓶の中にプカプカと浮かぶように人モドキが収められている。

 それがずらりと……例えるのであれば、B級SFのバイオ兵士量産場のごとく並べられているのだ。壮観というよりほかあるまい。


「……なる。ここで作ってたってわけだ」

「……しかし、だとしたらなぜ宰相がこんなものを……?」


 メイド長が恐る恐るといった様子で、シリンダーの傍に近づく。


「ヴァルト将軍の話であれば、自国防衛にも十分な戦力は残っていたはずです。こんなものを作る必要があるのでしょうか?」

「戦力にするにしてもしょっぱいけどな。つーか、防衛戦力として必要なら、自家製じゃなくてちゃんと量産体制取るだろ」


 俺もまたシリンダーの一つを撫でながらひとりごちる。

 大量に並んでこそいるが、そこは個人が作った程度。防衛のための必要戦力を量産するには数が足りなさすぎる。

 それとも、ここ以外にこれを量産する場でもあんのか? 飛行船の上でも、結構な数が襲い掛かってきたわけだし……。

 ……ん?


「ハァッ!!」

「っと」


 突然の掛け声とともに、アルトが俺に斬りかかってきた。

 俺は人差し指一本でそれを受け止める。

 そんな光景を見たせいか、あるいは俺の顔を見たためか、アルトがあわてて剣を引く。


「!? リュ、リュウジさん!?」

「おう、隆司さんですよ? どうしたんだいきなり?」

「あ……いえ、ジョージ君とレーテさん以外の気配が入って来たので、てっきり敵かと」

「傷つくわー」


 冗談めかして言いながら、俺はアルトがやってきた方を覗き込む。

 奥の方は研究のためのスペースになっているのか、興奮した様子のギルベルトのおっさんがあっちこっちをべたべた触っている。


「すいません……」

「ああ、気にすんなって。我ながら人離れしてんのに自覚はあるしよ。それはそれとして、ここはなんだったんだ?」

「それなんですが……」


 アルトが困惑したように、剣を収めてから懐に納めていたらしい一冊の冊子を取り出す。

 革表紙で作られた、黒い丁装の本で、そんなに厚みはない。日記帳みたいな雰囲気だな。


「なんだそれ? 日誌か?」

「おそらく……ただ、私には読めない文字だったんですけれど」

「どれ、拝見」


 俺はアルトの手から本を受け取り、ページを開く。

 そこに書かれているのは……ああ、これは読めんな。


「こりゃこの世界じゃ古語だな」

「古語、ですか?」

「ああ。というより、前の世界での主要言語だ。魔王に作られたって言ってたからその関係で知ってんのかもな」


 アルトに説明してやりながら、俺はページを読み進めていく。

 ふむ……こりゃ研究記録だな。日誌も兼ねてるっぽいが。

 研究内容は……人体生成にかんして?


「なんだこりゃ……? 人間でも作りたかったのか?」

「どういうことです?」

「いや、人体生成に関する記録のノートなんだよ。ここに並んでる人モドキは、その過程で作られたものらしいだな」


 俺はさらにページをめくっていき。


「―――」


 とあるページで、手が止まる。


「……そういうことか」

「リュウジさん?」


 アルトが俺の様子を窺ってくる。

 だが、俺はそれにかまわず問題のページを読み上げた。


「……“ついに、自意識のある個体を生成することに成功。だがしかし製法としては私自身を模倣したものに過ぎない。人間には程遠い。だが、この個体が持つ前世の記憶とやらは極めて有用だ”……」

「自意識のある、個体……?」

「――“彼は自身をガルガンドと名乗った。”」

「――!?」


 つまりは、これが始まりか……。


「リュウジさん、これ……!!」

「……本人がいねぇとなれば、数少ねぇ情報源だ。持っていこう」


 俺は言いながら、日誌を読み進めていく。

 あとは……クロエや骸骨連中を生成したいうような話しか書いてないな……。ななめ読みだから、あとでもっと読み解く必要はあるけど。


「他にめぼしいもんは?」

「とくには……私にはわからないものばかりですし……」

「なら、ここはもういいな。行くぞおっさん!!」

「うげっ」


 子どものようにはしゃぐギルベルトのおっさんの首根っこをひっつかみながら俺は外を目指す。

 ……礼美の奴が、何か知ってりゃいいんだけどな。




 マルコの居城で、すべての末端を掴む隆司。

 そんな彼がもたらした情報から、礼美は知る。宰相マルコの目的を。

 以下、次回。


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