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No.217:side・Another「仕切り直し ―サンシター編―」

 自分を含め、ほとんどの人たちがリュウ様の咆哮を聞き、活力を取り戻したのに反し、マコ様はそのお体が消えてしまったであります。


「マコ様、大丈夫でありますか!?」


 慌てて落ちかけた混沌玉(カオス・オーブ)を受け止めたでありますが、微かに明滅するばかりでマコ様のお声が聞こえてこないであります。


「マコ、大丈夫かい!?」


 ラミレス様もあわてて駆け寄ってくださって、マコ様に手を伸ばそうとしたであります。

 瞬間。


転移術式(テレポート)


 混沌玉(カオス・オーブ)からマコ様のお声が聞こえ、その姿が消え、一瞬でリュウ様の顔面辺りまで飛び上がっていたであります。

 リュウ様のお顔の前に上がった時には、マコ様のお姿も元に戻ったであります。


「マコ様!? 何を!」


 驚いて思わず声を上げてしまったであります。

 リュウ様も、突然目の前に現れたマコ様を不思議(?)そうなお顔をなさりました。

 そんなリュウ様にマコ様はばっと両手を伸ばし。


「喰らえ目潰しみかん汁スプレー!!!!」

―目ぇーーーーーーーー!!??―


 マコ様の両手から噴霧されたオレンジ色の霧を朱い瞳に受け、リュウ様は地面に後頭部を叩き付けるように大きくのけぞったであります。


―ひ、卑怯な!! レーザービームとかならともかく、みかん汁スプレーは卑怯だ!!―

「だまらっしゃい反則生物!! レーザービームならともかく、みかん汁スプレーならあんたにも効くでしょうが!!」

「「「「「えー……」」」」」


 思わず自分たちはそんな声を出してしまったであります。どんな、と言われても説明に困る、とにかくそんな声であります。

 というか、レーザービームより、先ほどのみかん汁スプレーとやらの方が威力高いでありますか。いったい、何で出来ているのでありますか、みかん汁スプレー。


―落ちろカトンボォ!!―

「甘い!! みかん汁に加え、レモン汁も目に入る恐怖を味わえぇ!!」

―やめろ割とまじで怖いから!!―


 叫びながら両手を振り回すリュウ様。やはり叫びながら両手のひらからさらに黄色い霧まで噴き出し始めるマコ様。

 止めようにも、肝心の戦っている場所の高度が高すぎるせいで、誰も止めに入れないであります。

 普通に空を飛んでいるあたり、さすがマコ様という辺りでありますが、こういう場合ツッコミに困るであります。


「……どうしようであります」

「もう飽きるまでほっといていいんじゃないかい?」

「いや、さすがにほっとくのはまずいのでは?」


 そんな感じで自分たちがあーでもないこーでもないと話していると、ふらりとコウタ様が一歩前に出たであります。


「? コウタ様、何を?」

「二人とも……いい加減にしろぉーーーー!!!!」

「きゃ!?」

―ギャァ!?―


 そうコウタ様が叫ぶと同時に、コウタ様の全身から強い意志力(マナ)の輝きが発せられ、マコ様とリュウ様の頭に、実に正確に……。


「……桶?」

「いえ、深さから言って、タライだと思うであります」


 そう、金色に輝くタライを降らせたのであります!

 タライに頭を直撃されたマコ様はまっすぐに落下し、リュウ様は大きな音を立てて倒れてしまったであります。

 コウタ様は、そんな二人にずんずんと近づいていくと、肩を怒らせて大きな声で叫んだであります。


「二人ともいい加減にしてよ!! 礼美ちゃんや、大勢の人たちが大変なことになってるっていうのに……ふざけてる場合じゃないだろう!!??」

「……うう、ごめん、ちょっと興奮してた……」


 素直に謝るマコ様と、何故かビクンビクンと体を痙攣させているリュウ様。

 ……とりあえず、お二人を止めていただいたので結果オーライでありますね。

 ケンカが終わったのを確認してから、自分はマコ様へと駈け寄ったであります。


「マコ様、大丈夫でありますか!?」

「あ、うん。大丈夫」

「よかったであります……。突然お体が崩れてしまったので、心配したでありますよ……」

「ああ、あれは隆司の覇気まともに受けちゃったからだから」

「リュウ様の、覇気でありますか?」

「うん。竜種言語(ドラゴン・スペル)の一つでね。効果範囲内にいる生物の覇気を活性化して、混乱やら精神的な異常を正すってやつでね。まあ、あたしの場合混沌言語(カオス・ワード)で体が構成されてるから、どんな力でも、覇気が絡んでたら問答無用で混沌玉(カオス・オーブ)に戻っちゃうんだけど」

「そうだったのでありますか……」


 今のが竜種言語(ドラゴン・スペル)……。

 先ほどまでぐったりしていたマコ様や、心ここにあらずといった様子のコウタ様が意識を取り戻したのはその竜種言語(ドラゴン・スペル)のおかげであったのでありますか……。

 確かに、さっきまでと比べて皆、ずいぶんと落ち着いて見えるであります。たった一声で、皆の正気を取り戻してしまうとは……リュウ様、すごいであります!

 そのリュウ様は、痙攣こそ収まったものの、じっと体を横たえたまま動こうとしないであります。


「コウタ様~、今~リュウジ様を~一撃したのは~なんだったんですか~?」

「あ、ああ……。あれは礼美ちゃんの意志力(マナ)ハンマーを参考に、とっさにやってみたんだけど……」


 アルル様の質問に、コウタ様が戸惑いながら答え、不安そうにリュウ様を見やるであります。


「ただ、二人のけんかを止めるためだけに使ったんだけど……隆司、大丈夫?」

―………る―

「え?」


 心配そうに近寄るコウタ様に、リュウ様はこう答えたであります。


―ソフィアが起こしてくれたら起きる―

「光太。今の隆司には意志力(マナ)の一撃がこの上なく弱点だから、最大威力で一発ぶっ放してやんなさい」

「おーけー」

―待てやめろそれは割と真剣にまずいから―


 マコ様の一言を聞いて、巨大な意志力(マナ)ブレードで素振りを始めるコウタ様を見て、リュウ様があわてて立ち上がったであります。

 自分はと言えば、思わずソフィア様のお姿を探したでありますが、何故かリュウ様から離れた場所で、カレン様に寄りかかって震えているであります。

 はて。リュウ様の竜種言語(ドラゴン・スペル)が効かなかったのでありましょうか。

 首をかしげていると、何故かコウタ様とリュウ様の言い合いが始まっていたであります。


「まったく……隆司はどうしていつもそうなんだよ! 真剣な場面になってもマイペースっていうか……もちろん悪い意味だからな!?」

―あー! お前がそれを言うか!? いついかなる時も自分の調子を崩さないまま、厄介ごとに首つっこんできたお前が!!―

「今それは関係ないじゃないか!! 大体隆司は!!」

「あの。お二人とも。それこそ、今はケンカしてる場合じゃないと思うのでありますが」

「あ、はい」

―それもそうだな―


 慌てて自分が仲裁に入ると、割合あっさり二人とも大人しくなったであります。

 案外、この程度のケンカくらいは日常茶飯事なのでありましょうか。


「……って、そうだ礼美ちゃん! スライムは!」

「スライムだったら……あんな具合だぜ」


 フォルカ様がスライムの方を指差したであります。

 そちらの方へと目をやると、ぐずぐずに体の崩れたスライムがそこにいたであります。

 何とか体の形を取り戻そうと、うごめいているでありますが、なかなか元に戻らないようでありますね……。


「どうしたのでありますか……?」

―あれか? 覇気を喰らって体の形状が戻らなくなったのか?―

「たぶんね……。体のつなぎに使ってる混沌言語(カオス・ワード)が、一時的に使用不可能になったんでしょ」


 スライムの情報を読んだ時のことを思い出したのか、マコ様が顔を少し青くしながらスライムを見つめているであります。

 自分がそっと肩に手を置くと、マコ様は自分の手を重ねてそっと微笑んだであります。


「……大丈夫だから」

「マコ様……」

「それで……真子ちゃん……礼美ちゃんを、救う方法はあるのかな……?」


 マコ様の前へと立たれたコウタ様は、緊張の面持ちでその問いを再び持ち出したであります。

 そんなコウタ様の問いを聞き、周りにいた者たちがはっと息を呑んだであります。

 先ほど、同じことをコウタ様が聞いたとき、マコ様は首を横に振ったであります……。

 なら、今それを問いただしたところで……。

 すがるようなコウタ様の様子に、それを指摘するのも憚られてしまうであります……。

 痛々しいほど沈黙が場を包み込む中、マコ様がゆっくりと口を開いたであります。


「あるわよ」


 ………………………。


「………………え? あるのでありますか?」

「うん。正確には、できただけどね」


 あまりにもあっけらかんと答えられたマコ様。

 思わず再度確認してしまうと、マコ様はぺしぺしとリュウ様の足を叩いたであります。


「このバカが真古竜エンシェント・ドラゴンの記憶を持って復活してくれたからね」

「え、でもさっきはできないというような……?」

「……ああなった人間を元に戻すことは、あたしにはできない。あたしにできるのは、あのスライムを縛っている混沌言語(カオス・ワード)を分解することだけ。それだけじゃ、スライム状の何かが複数出来上がるだけだけど……でも、隆司にはできるのよ」

真古竜エンシェント・ドラゴンが使う竜種言語(ドラゴン・スペル)の中に、覇気を通じて崩れちまった体を元に戻すってのがあんのさ―


 マコ様のお言葉を肯定するように、リュウ様が続けるであります。


―ただまあ、それだけだと、俺のイメージした形にしかならねぇ。完全に元に戻すには、スライムの中に残ってる連中の意志力(マナ)に訴えかける必要がある―

「だから、仕上げはあんたの仕事よ? 気張って意志力(マナ)を引き出しなさいね?」

「――ああ! わかったよ!!」


 マコ様のお言葉に、先ほどまでとは一転して気合が入ったように、コウタ様は手にした剣に意志力(マナ)を込め始めたであります。

 しかし、混沌言語(カオス・ワード)に覇気、そして意志力(マナ)を使う……。

 この三つ、最近よく聞く言葉でありますね。

 ……まさか。


「……マコ様、あのスライム、まさか神位創生で……?」

「……あれ自体は違うけれど、実験の過程で生まれた可能性は否定しないわ」


 自分の質問に、マコ様はそう呟いたであります。

 ガルガンド……なんて非道な……。

 実験のために、多くの人々を犠牲にするなど、許しがたいであります……!

 ですが、ここにいる皆さまが、その非道を必ず正すでありますよ……!






「違う、違う……あれは、違うのぉ~……!」

「ああ、はいはいわかってるわかってる。……リュウの覇気、受けたせいで正気に戻るなんて、いろいろと難儀な子だね、ホント……」




 若干の茶番を挟みつつ、皆はスライムへと立ち向かう。

 囚われのものたちを救うために!

 以下、次回。


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