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No.211:side・ryuzi「真古竜、復活」

 高高度からの超自由落下。

 あまりにも長すぎるそれのせいで途中で気絶してしまっていた俺は、谷底に叩きつけられた衝撃で目を覚ました。


「ぶ、がぁ!?」


 あまりの衝撃に、全身の骨が砕け散るかと思ったが、かろうじて砕け散らずに堪えることができた。これも覇気の修練の賜物ってことにしておこう。


「っづぅ……」


 痛みに顔をしかめながら体を起こす。

 竜の墓場の底は、一寸先すら見通せそうにない闇の中。上を見上げても光の恩恵すら受けられそうにないほどの深さだった。暗さの原因は、あたりを漂う霧のせいもあるのかもしれないが……。

 ただ、思ったほど見えづらくはない。少なくとも、地面の形とかはわかるし、上を見上げれば、まるで糸のような細さの空が見える。


「ああ、くそ……案の定、上が見えないほど深いし……」


 誰にともなくつぶやく。聞いてくれる奴がいるわけじゃないけど、気を紛らわせる程度の効果は期待できる。

 俺は一緒に落ちてきたはずの骨剣を握り締めようとして……。


「あれ?」


 肝心のブツが手元にないのに気が付いた。

 あわててあたりを探ってみるが、それらしいものが落ちている気配もない。


「っかしいな……?」


 思わぬ事態に首をかしげる。

 もちろん、落ちている途中で手放したわけじゃない。気絶してしまう寸前までしっかり握っていたのは覚えている。むしろあの骨剣の重さに引きずられるように落下していた気さえする。

 だってのに、俺の落着地点付近にあの骨剣が落ちてないとか……。


「――どういうことだかわかるか?」

―グルルル……!―


 聞こえてきた唸り声に振り返ると、そこには巨大な猛獣が立っていた。

 トラのような姿の獣だが、その大きさはトラなど比較にならない。ちょっとしたダンプカーくらいはある。

 ……やっぱり、突然生まれたような感じがしたな。


「そのあたりも含めて、いろいろ教えてもらおうか……!」

―ガァァァァァ!!―


 大トラが勢いよく飛び掛ってくるのに合わせて腰を落とし、高く飛び上がる。

 俺のいた場所に、大トラの爪が突き刺さり、轟音を立てて地面が砕け散る。

 少し前までの俺なら一方的な試合展開になってたんだろうが、今の俺の敵じゃねぇな。


「っしゃ!」


 鋭く呼気を吐き、首筋に蹴りを叩き込む。

 筋肉が軋み、骨が砕け散る音が響き、大トラの体がひときわ大きく跳ね上がり。


―……!?―


 大トラは声もなく倒れ伏した。

 そのそばに難なく着地し、俺はその毛並みをゆっくりと撫ぜる。

 と、トラの体がまるで溶けて消えてなくなるように、端から煙状の何かに変化していった。


「………」


 無言のまま、俺は少し下がる。

 頭から消えていった大トラは、さほど時間もかけず、そのまま消えうせた。

 後にはもう、そこに大トラがいた痕跡はなくなっていた。やつが砕いた地面以外には。


「……どういうこった? さっきのトラは、何かの魔法だったのか?」


 突然の出来事に、首をかしげる。

 出現の仕方といい、消え方といい、わけがわからねぇ。

 わけがわからんといえば、谷底に死体らしいものがまったくみあたらねぇのもげせねぇ。

 俺がここに落っこちてくるまでの間にも、結構な数の化け物や翼蛇をはじめとする生物なんかも叩き落してやったはずなのに、それらの死体はなかった。

 人モドキはともかく、翼蛇の死体がないのはおかしい。人モドキ程度の大きさなら、俺みたいに頑丈ならともかく、この高さから落ちたら消えうせたように砕け散ってもおかしくはない。だが、翼蛇の大きさなら、砕け散ったとしても破片くらいは残るはず……。

 そもそも、この竜の墓場、名前の元となった竜人とか言う連中も身投げしてるはずじゃねぇのか? その痕跡すらないってのは、どういう……。


「気になるか? 気になろう?」

「――どういう風の吹き回しだ? テメェからわざわざ出向くなんざよ」


 らしくないとは思いつつ、怒気も殺気も隠すことなく声のしたほうに振り返る。

 そこには、胡坐の姿勢のまま悠々と宙に舞う、老人のミイラのような死霊使い(ネクロマンサー)の姿があった。


「……久しぶりだな、ガルガンド。生きてやがったか」

「然り。我もまた、アンデットゆえ」


 ガルガンドはにやりと笑い、俺のそばへと近づいてくる。


「気になるであろう? この谷に、生き物の死骸がないこと」

「っとべぇ!!」


 そしてうかつに近づいてきた阿呆に向けて、俺は一気に飛びかかりけりを打ち込む。

 全霊をこめた必殺の一撃は、ガルガンドの体を悲鳴さえ上げさせずに粉々に吹き飛ばす――。


「――気になるであろう?」

「チッ」


 だが、あっさりガルガンドは俺の背後からまた姿を現す。

 奇襲でも無理か。真子がいってたな。魂を複数の器に入れておく魔法があるとかなんとか……。

 ガルガンドがやってんのも、その応用だったか。


「気になるであろう? そも、この谷に残る多量の覇気に」

「……ああ、気になるよ。だからどうした」


 しつこく問いかけてくるガルガンドに根負けして、俺は肩をすくめながら肯定した。

 蹴り砕いてもまた現れたってことは、どうしても俺の相手をしたいらしい。

 真子によれば、複数の器があっても実際に意識が宿る体はひとつだけ。ほかの体は、機械のように命令されたことだけをこなすだけになるらしい。

 なら、ガルガンドがここで俺と話している限りは真子たちのほうが多少なり有利になるはず……。


「もし尋ねたら、その理由を教えてくれるのかい?」


 なら、今俺がすべきなのは、ガルガンドの足止めだ。

 いち早くあいつらの元に戻りたいところだけど、この壁を登りきるだけで何日もかかっちまいそうだからな。

 俺はなるたけガルガンドのやつをおちょくる様な調子でありえなさそうなことを尋ねてみる。


「無論、教えようとも」

「……なに?」


 帰ってきたのは、意外すぎる答えだった。

 この谷に覇気が残っている理由を、教えてくれるだと……?


「さて、何から話そう……いくつか、気になる事柄があろ? どれから話す?」

「………」


 逆に俺を煽るような表情で尋ねてくるガルガンドを、俺は睨み付けた。

 冗談で言っただけのことに、意外な食いつきだな……。


「……なら言ってみろ。この谷に覇気が充満してんのはなんでだ?」


 ためしに、俺は聞いてみる。

 まあ、どっちにしろ俺に事の真偽を確認する手段はない。会話を続けるのは単なる時間稼ぎだ。

 向こうも同じ目的なら御の字だが、俺相手に時間を稼ぐ意味はねぇよなぁ……。


「この谷に覇気が充満している理由……それは、この谷に満ちる霧に覇気が満ちているゆえよ」

「……答えになってねぇぞ」


 期待して損した。


「霧に覇気が満ちてるだ? 覇気ってのは、生き物が生きているときに使うエネルギー……つまり、覇気が満ちてる条件は生物であること。だってのに霧に覇気が満ちてるだと? ふざけるのも大概にしろよ」

「く、くくく……無理もなし。霧に覇気が満ちる。これは本来であれば道理の通らぬことよ」


 ガルガンドは愉快そうに笑いながら、俺を睥睨する。


「だが、主は忘れておらぬか?」

「忘れるだと?」

「そう。源理の力は法則の力……。強い力は、時として世界の理を歪める」

「………」


 言われて、思い出す。

 目の前のクソ野郎が、世の道理を曲げて、ミーシャとリッキーちゃんMk-Ⅱを融合させたことを。


「そしてそれは、覇気とて例外ではない」


 ガルガンドは、目の前の霧を掬うように手の平を動かす。


「元来、覇気とは主の言うとおり生き物にしか宿らぬ。ゆえに、ただの物質に宿ることは本来ありえぬ」

「………」

「だが、時として強すぎる力は、万物に宿る。特に、強い意志と感情を持った、強大な生物の覇気は、さまざまなものに宿りやすい」


 ガルガンドはにやりと笑った。


「その物体が、まるで生物であると世界に錯覚させるほどに」

「……だからこの霧に覇気が宿ってるってか」


 胡散臭い理論だが、同意せざるを得ない点もある。

 ここにきて感じていた、不明瞭な存在感。あれは、霧の向こうに何かいるのではなく、霧そのものに覇気を感じていたからだ。

 そして、これだけのことができるだけの覇気を持つ生き物を、俺は知っていた。


「……すさまじい生き物だな、真古竜エンシェント・ドラゴンってのは」

「然り。肉体が朽ち果てた後も、こうして霧となり、世界を守護しようとしている」

「守護だと?」


 ガルガンドの言葉に疑問がわきあがるが、奴はそのことに関して答えるつもりはなさそうだ。


「強い強い意志は、やがて自らの肉体となるものを求めた……。強い覇気の根源にして、すべての生物の始祖とも呼べる真古竜エンシェント・ドラゴン……。その存在は、この世界には必要不可欠であったがゆえ」


 と、何か音が聞こえてきた。


「……?」


 低い低い、重低音。まるで、巨大な生物が体を引きずっているかのような音だ。

 その音に気が付いてか、ガルガンドが凶悪に顔を歪めた。


「そう、世界を守護する……その指名のため、真古竜エンシェント・ドラゴンは求め続けた。強い強い肉体を……」


 やがて、その音はどんどんとこちらに近づき、ガルガンドの背後に影となって現れる。


「主のように、強い覇気を宿す肉体を……!」

「……なんだ……!?」


 今までと違い、ゆっくりと普通に現れたはずの影は、見るからに醜悪な姿をまとって現れた。

 その姿は四速歩行の獣に見える。しいて一番近いものをあげるとすれば、トカゲだろうか?

 あちらこちらがドロドロに腐り果て、ベチャベチャと不愉快な音を立てながら汚らしい液体を撒き散らしている。


―カロロロ………―


 こちらに向かって、一歩歩く。

 ベチャリと嫌な音を立てて、その足からまた体液が漏れ出す。

 その強烈な臭気に、思わず俺は鼻をつまんだ。


「ぐ……なんだこいつ……!? 腐ってやがるのか!?」

「くくく……こいつとは失礼ぞ。このお方こそ、万物の生命体の頂点におわすお方……真古竜エンシェント・ドラゴンなるぞ?」

「はぁ!? これが!?」


 思わず素っ頓狂な声を上げ、ぶしつけに目の前の腐りかけドラゴンを指差す。


「ふざけんなバカ野郎!! こんな早すぎた化け物がソフィアと同種族とかみとめねぇぞ!! 寝言はあの世に言ってほざけ!!」

「主のそれももはや病気よな。しかし事実」


 ガルガンドは俺の発言にあきれながらも、にやりと笑ってはっきりと言った。


「だが、この姿もやむなし。何より、蘇るための条件が足りなかったゆえ」

「だから早すぎたんだろうが! とっとと培養槽にでも戻せ!!」

「その必要もなし。なぜなら――」


 ガルガンドが何か言うより先に、ドラゴンの首がいきなり伸びた。


「――完全復活のための条件はすでに整っているゆえ」

「ぐおっ!?」


 唐突過ぎて反応が遅れ、胴体に腐りドラゴンの牙が叩きつけられる。

 だが、不思議なことに、痛みはない。

 いや、むしろ牙のほうが俺の体に負けてしまったかのようにドロリと溶けた。


「………?」


 そんな光景に思わず動きを止めてしまう。

 だが、それがいけなかった。

 俺は、腐りドラゴンの残ったの体が、ドロドロに液状化して今まさに俺を飲み込もうとしているのに気が付くこととができなかった。


「っ! しま……!」

「そう。霧にその身を落とし、数百年の永きを待ち続けた真古竜エンシェント・ドラゴンの欲したもの……。それは己の体より切り落とした爪の欠片……」


 俺の全身に、覆いかぶさる腐りきったドラゴンの体。

 ベチャリと嫌に粘っこく俺の体にまとわりつき、不快な臭気とその異様な冷たさで俺の体から力を奪い取っていくかのようだ。

 ……いや。


「んぐ、が……!?」


 それだけじゃ、ない。

 足の先が、少しずつ分解されているのがわかる……!

 溶かされているわけじゃない、まるで、俺の体が腐りドラゴンの一部になっていっているかのようだ……!


「そして……強い覇気の持ち主……」

「くそっ!!」


 あわてて半分ほど引っかぶってしまったドラゴンの体を引き剥がそうとする。

 だが、飲まれてしまった下半身は次々と腐りドラゴンへと取り込まれていき、さらにドラゴンを引き剥がそうと突っ込んだ左手までドロリと飲み込まれてしまう。

 ずにゅる、と水っぽい音を立てて引き抜いた左手からは、小指と薬指が溶けて落ちた。


「………は、ちょ………」

「案ずることはない、辰之宮隆司」


 あまりの事態に呆然となる俺の目の前に飛んできたガルガンドが、嫌らしい笑みのまま、俺に告げた。


「主の魂……そして記憶は真古竜エンシェント・ドラゴンとして生きる。ゆえに、そのまま溶けていなくなるがよい。世界を守護する、強大な存在のために」

「っざけんなぁぁぁぁぁ!!!!」


 大きく吼え、俺は左手をドラゴンの体に叩きつける。

 今度は、肘から先が飲まれて消えた。


「俺は、こんなところで死なねぇんだよ!!」


 ずるりと、ひときわ大きな音を立てて、体がドラゴンの体に引きずり込まれる。


「俺は……!」


 もがけばもがくほど、体は沈んでいく。

 少しずつ、自分が自分でなくなってしまうかのような感覚に、俺は歯を食いしばる。


「俺は……俺は………!!」


 やがて口元まで飲み込まれ、頭も、そのまま引きずり込まれていく。


「俺はぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」


 最後の叫びもむなしく、俺の体は完全に飲み込まれ。

 やがて、意識は大きな記憶の流れの中へと、流されていってしまった―――。




 真古竜エンシェント・ドラゴン復活のための贄として、消えてしまった隆司の体。

 果たして、彼はどうなってしまうのか……?

 一方、魔王国付近に落着した真子たちは、王国首都の異様な光景に唖然となった。

 以下、次回。


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