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No.209:side・ryuzi「急襲」

 スカイ・シップはそのままの高度を保ちながら、ついに竜の墓場付近までやってきていた。

 竜の墓場を満たす濃い霧は、かなりの高度を保っているスカイ・シップの上からでも対岸を確認できないほどだった。

 墓場の底も同様だ。白い霧が見えるばかりで、その下にいったい何が潜んでいるのかすらよくわからない。

 ……いや、そもそも……。

 この下、何かいるのか……? さっきから覇気は感じるけど、霧の下に何かいるような感じはしねぇぞ……?

 覇気で相手の実力やら位置やらを把握するというのは、相手の存在感を感じ取るということだ。

 どっしりとした、何か芯のようなものがそこにあるという感覚……。この霧の向こうからは、それを感じ取ることができないでいた。

 存在感は感じ取れても、そいつがどこにいるのかわからない……。そんなことって、あるのか……?


「なんか不気味だねぇ……。言われてみれば確かに……」

「いつ来ても、ここは好きになれません……」


 俺と同じように甲板から下を覗き込みながら、カレンとマナがポツリとつぶやく。

 今、甲板には、ブリッジでのスカイ・シップコントロール要員を除く、全員が出てきていた。

 いつ何があってもいいように、と真子が呼び集めたのだ。

 その意見には俺も賛成だったが……。


「正直、これっぽっちの人数でここを渡るとか勘弁してもらいてぇよ……」

「そこまでビビる必要ねーじゃん。特に何かいるようには見えないぜ?」

「まあ、パッと見はな」


 俺の不安を欠片も感じ取っていないジョージの言葉に、俺は思わずがっくりと肩を落とした。

 元魔導師のジョージにはわからんわなぁ……。

 ただ、さすがにこの距離まで近づいてこれればある程度覇気を収めている人間であれば俺たちが感じた感覚を感じ取ってはいるようだ。


「……気味ぃ悪いな……」

「……いったい、どうしたというのだ……?」


 その筆頭は、騎士団長とヴァルトの二人だ。二人とも、油断なく自分の武器を構えている。


《そろそろ竜の谷上空に差し掛かるぞー!!》

「みんな! 気を付けてね! 何が起こるか予測不可能だから!」

「マコー! 不安を煽るんじゃないよ!?」


 ブリッジから響き渡ったギルベルトの声に真子の発言も重なり、甲板に立っている全員に緊張が走る。

 高音を立てながらプロペラは回転を続け、後方のブースターが緩やかにスカイ・シップを竜の墓場の上空へと……。

 瞬間、俺は鋭く叫んだ。


「……っ! 真子!」

「あ? なによ――」


 だが、数瞬遅かった。

 次の瞬間、スカイ・シップが猛烈な勢いで下降を始めた。


「ぎゃぁぁぁぁ!!??」

「きゃぁぁぁぁ!!??」


 ガオウとフィーネのひときわ大きな悲鳴とともに、数多の叫びが木霊する。


「くっ!? 風王結界(レークス・ウェントス)!!」


 さらに遅れて、真子の呪文とともに、俺たちの体を強い風がまとわりつき、スカイ・シップへと縛り付けられた。


「何!? なんなの!?」

「わからん! とりあえず、光太!! 防壁使って弾けぇ!!」

「わかった!!」


 訳も分からず叫ぶ真子に代わって、光太がスカイ・シップの甲板に触れ……。


「……光よっ!!」


 膨大な意志力(マナ)を瞬間的に放った。


 バチィッ!!


 同時に、静電気が走るような音とともにスカイ・シップが下降を止め、真子が魔法で姿勢制御を取り戻す。


《ふんぐ、ががが!? な、なんだ!? 敵の攻撃か!!》

《マコさん、今のは!?》

「わかんないわよ! わかってんのは、隆司だけ!! ――隆司!?」

「……俺にもよくわからん」


 俺は真子の質問に、首を横に振ってこたえた。


「反射的にやばいって感じただけで、何があったのかまでは……」

「……じゃあ、ソフィアは? ソフィアは何か感じた?」

「私にも……わからない……」


 悔しそうに唇をかみしめながら、ソフィアが首を横に振った。


「そもそも、私はリュウジから遅れて脅威を感じ取った……。リュウジにわからないのであれば、私には……!」

「ソフィア様! ソフィア様のお力、決してタツノミヤに劣るものでは!」

「はいはい、太鼓持ちはあとでにゃ! ……でも、とりあえずは大丈夫にゃん?」

「だよな。当面の危機は……」


 ミミルとフォルカの言葉に、ヴァルトが無言で首を横に振った。


「……確かにとっさには凌いだ。だが、次も凌げるかわからん」

「そもそも、何が仕掛けてきたのかもわからねぇからな。次どうくるかの予測もつかねぇ」

「僕も、さっきみたいに何かを弾くのは何度もできないです……」


 さらに騎士団長と、光太も追随し、現状のやばさを伝える。


「というかなによりもさ……」


 そして最後に、顔をひきつらせたカレンが締めくくる。


「霧のせいで、ほとんど周りが見ないじゃないか……」

「「「「「………………」」」」」


 そう。さっき、スカイ・シップを猛烈に下降させたなにか(・・・)は、見事にスカイ・シップを竜の墓場の霧の中まで引きずり込んでいた。

 船の先はおろか、防護障壁から数センチ先すら確認できそうにはない。

 今この状況で、さっきのなにか(・・・)が襲い掛かって来たとしたら……。


「大体にして、方向はあってるのかい?」

「……引きずり込まれてから、船首が傾いてはいないわ。ブリッジ!!」

《こっちでも確認していますが、進行方向がずれている様な形跡はありません》

「なら、いいんだけどね……」


 ラミレスは言いながら、ヴァルトのそばへと寄っていった。

 ヴァルトはラミレスの肩を叩き、それから真子へと向き直った。


「コトバ、周囲の様子はどうだ?」

「……軽く確認したけど、覇気が濃すぎてよくわかんない……」


 真子は暗い表情のまま首を横に振った。


「予想以上の濃度よ……。いくらあたしが混沌言語(カオス・ワード)で再構成したレプリカとはいえ、仮にも賢者の石を使って増幅してる魔法すら通さないなんて……」

「マナ、そちらは?」

「私も、同じです……。以前より、はるかに危険になってます……」


 真子から遅れて、符を撒いて周辺を探ってくれていたらしいマナは絶望的な表情で首を横に振った。


「正直、このまま進むのは自殺行為だと思います……」

「と、言いましても、引くのも危険では?」

「その通り。そも、レミ様をお救いせぬままに撤退など……!」


 ヨハンのいうことはともかくとして、ナージャのいうことももっともだ。

 こうして話している間にもスカイ・シップは先に進んでいる。これを戻るために停滞何ぞしようもんなら、どうぞ狙ってくださいと言ってるようなもんだろう。


「アルルさん。アルルさんの魔法で、周囲の様子を探るのは……?」

「今の~マコ様に~出来ないことは~、私には~無理ですよ~」


 意志力(マナ)を回復するためにか、光太の腕にすがりついていたアルルが首を横に振った。


「……弱ったな。隆司、覇気で調べたりとかって、できない?」

「俺に振るな俺に。そんな器用なことができるわけが……」

「「「あぎゃー!?」」」


 俺が弱り切った光太の無茶ぶりに首を振ってこたえようとしたとき、甲板の後ろの方からABCの悲鳴が聞こえてきた。


「なにこれ不気味!? 気持ち悪い!!」

「えぇい、寄るな寄るな!! 寄ると吐くぞ! ホントだぞ!?」

「とか言ってる間にドーン! はい、撃墜数(スコア)いただきぃ!!」

「なんだお前ら何を騒いで……!?」


 確認に向かった騎士団長が、言葉を詰まらせる。

 俺と光太は顔を見合わせ頷き合い、急いでそちらへと向かった。


「団長! どうしたんですか!?」

「なんだよ、何がいたんだ!?」

「……お前ら、これいったいどうしたんだ」


 冷徹とさえいえそうな声色で団長が掴みあげたそれを見て、俺と光太も言葉を詰まらせる。


「うっ……!?」

「っ!?」


 それは、奇妙な肌色をした蝙蝠のようであり。

 あるいは、ガリガリに痩せ細った人間のようでもあり。

 体毛ひとつない、皺だらけのそれは裸ネズミのようでもあり。

 おそらくABCに頭部を滅多打ちにされたのか、顔はひどくはれ上がり、手足は痙攣したようにぴくぴくと動いていた。


「まったくもってわかりません!!」

「やることなくて、哨戒しておりましたところ、防護障壁にくっついてこっちをじっと見ていた次第です!」

「あんまりに気味悪かったんで、思わず引きずり込んで滅多打ちにえろろろろ……」

「吐くなぁ!! 吐くなら外!!」


 堪えていたものを、一斉に口から吐き出し始めたABCにそう叫びながら、硬い表情の団長が俺たちの方へと振り向いた。


「……お前らは、なんだと思う……?」

「「………」」


 俺と光太は、無言で首を横に振る。

 少なくとも、俺たちの知りうる知識で該当する生物ではない。

 ありうるとすれば……。


「……ガルガンドが、やらかしたなにか?」

「………」


 団長は無言のまま、掴んでいたその生き物を外へと放り投げた。

 障壁をすり抜けたそれ(・・)はまっさかさまに谷底へと落ちて行った。


「もしガルガンドの攻撃なら、これで終わるわけはねぇよな」

「……でしょうね。まだ第二陣が」

「きゃぁぁぁぁぁぁ!!??」

「言ってる傍から……ちったぁ休ませろ!!」


 叫んで駆けだす俺たち。

 元々立っていた甲板へと戻ると、さっきの生き物が甲板の上でのた打ち回っていた。


「っ! っ! っ!?」

「おいおい、誰だ、こんなの引き込んだの?」

「あたしよ。なんか文句でも?」


 俺の軽口に、真子の重苦しい返答が返る。

 じっとその生き物を見つめる真子の瞳の中には、様々な激情が駆け巡っているようだ。


「………」


 黙り込んだ真子が片手を上げる。

 四つの赤い宝珠がその生き物の周りを飛び回り、さらにその体を浮かび上がらせる。


「っっっっっ!!??」


 いったい真子に何をされているのか、体をビクンビクンと跳ね回らせるそれ(・・)は、やがて少しずつ動きを止めて行った。


「……っ」


 それを見て唇をかみしめた真子は、瞳を閉じて大きく腕を横に振る。

 次の瞬間、まだわずかに動いていたそれ(・・)の体は大きく吹き飛び、そのままスカイ・シップの外へと飛び出していった。


「…………」


 ギュッと瞳を閉じて、手を握りしめ、体を震わせる真子は。


「…………よかったぁ」


 心の底からの安堵の声を上げた。

 俺たちが無言のままに真子の姿を見つめていると、真子は何をしていたのか話し始めた。


「今のやつが一体何なのか……調べてみたの……」

「……結果は?」

「……用途は不明だけど、あれは初めからあの形で生み出された生き物……。決して、人間を何か別の生き物とかと合成させたとか、そういうのじゃなかった……」

「……そっか」


 俺が一つ頷くと、いつの間にかやってきていたサンシターが真子の両肩に手を置いた。


「マコ様、お疲れ様であります」

「うん、ありがと……」


 ……いつ来たのか全く分からんかった。


「……となれば、遠慮はいらない、か?」

「……まあ、そういうこと?」


 腰のレイピアを引き抜くソフィアに答えながら、俺も腰の後ろにがっちり結びつけていた骨剣を手に取る。真子のおかげで、かなり頑丈な剣帯ができたんだよね。

 顔を上げると、障壁の真上にはびっしりとさっきの化け物たちがへばりついていた。

 見れば、どいつもこいつも全くの無表情で俺たちのことを見下ろしている。


「つーわけだお前ら。マコのお墨付きで、あいつらは人外確定だ」

「話も通じまい。我らが道をふさぐというのであれば、手心は不要」


 団長とヴァルトの言葉に、甲板に立つ戦士たちの士気が上がっていく。

 さっきから続く予測不可能な状況に、いい加減リミット値も限界だったんだろう。


「「――残らず叩き落とせぇ!!!」」

「「「「「おおおぉぉぉぉぉ!!!!」」」」」


 恐怖や不安を吹き飛ばすように、甲板の上で鬨の声が上がる。

 俺も、久しぶりにやりますかね……!!




 ガルガンドからのアクションは、化け物の大量生産だった。

 騎士たちは甲板に取りつくものを。魔導師たちは空を飛びかうものを。

 そしてソフィアと隆司は遊撃を行う。この危機を、乗り越えられるか?

 以下次回。


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