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No.208:side・ryuzi「竜の墓場」

 さて、俺たちが空の旅を初めて、そろそろ二日ほどだろうか。

 動力炉が不安定であることさえ除けば、空の旅路は至って順調と言えた。

 スカイ・シップの高度は、下に地面が見える程度。途中領地らしい色の変わった地面も目に入ったが、すぐに後ろへとすっ飛んで行った。それなりの高さではあるらしい。

 やはりジェット機ほどのスピードは出ていないのか、風圧を防ぐ防護障壁から外に手を出しても、そこまで強烈な風を感じない。

 ちなみにこの防御障壁、内側からの、魔法をはじめとする点攻撃に関しては素通りするが、高位魔法(ハイ・スペック)をはじめとする面攻撃にはきわめて弱く、俺が覇気によるでかい一撃を内側から撃とうものなら、それだけで障壁は消滅するのだとか。代わりに、外側からの攻撃すべてに関しては、一切を遮断できるらしいんだけど。

 それはともかくとして、極めて平穏に続く空の旅は、何とも退屈なものだった。


「ふぁ~……!」

「おい、あくびなどするな。弛んでるぞ」

「弛みもするって……。空飛んでるおかげで、敵の襲撃は一切ないうえ、周りの景色はほとんど変わらねぇ……。正直、退屈で仕方ねぇよ」

「退屈なのは否定しないがな……感心はしないぞ」


 俺の隣でやはり退屈らしいソフィアが、フンスと鼻を鳴らして俺を睨みつける。

 退屈な魔竜姫様の暇つぶしは、どうやら俺の怠け癖の修正らしい。

 甲板は結構な広さだが、空の上を飛んでいるという不安定さのせいで訓練なんかをしようとしている奴はいない。っていうか、ケモナー小隊の連中は船室の中にこもって想い人とイチャイチャする作業に忙しいらしい。

 一応訓練している人間もいるが、周りを手伝おうにも仕事がないせいで手持無沙汰な光太と、空の上ということで落ち着かないらしいガオウがそれぞれに無心で素振りをしているくらいだ。

 ヴァルトとラミレスは、それぞれに交代で動力炉周りの調整を行っている。実験も試験もなしで飛ばしたせいで、結構不安定らしい。二人も、門外漢ながらよく働いてくれている。

 本来は、そのあたりは四天王のひとりである、ドワーフのリアラの役割らしいんだけど……そういえば、あいつ結局なんで死霊団に協力してたんだ?


「――だからな? おい、聞いてるのか」

「ん~聞いてるよ~」

「聞いてないだろう貴様! 大体お前は――!」


 説教で忙しそうなソフィアに適当な返事を返しながら、俺は進路に目を向ける。

 まあ、愛する魔竜姫様の退屈の種をどうにかするのも俺の役目……っと?


「だーかーらー!」

「ちょい待ちソフィア。なんか見えねぇ?」

「ごまかそうとしても、そうはいかな――?」


 説教を遮られたソフィアは、なおも不満そうに俺に詰め寄ろうとするが、スカイ・シップの進路に見える巨大な亀裂を目にして、大きく目を見開いた。


「あれは……竜の墓場か!? もう着いたというのか!」

「障害物もねぇ空の旅だしな。スピードもあるし、それはいいんだけど……」


 驚きの声を上げるソフィアとは違う意味で、俺は驚いた。


「あの谷、どんだけ幅広いんだよ……」


 ソフィアのいう、竜の墓場……アメリア王国での名は竜の谷。

 双方の国から違う意味の名前で呼ばれるそれは、どこまでも広い亀裂を大地に刻み込んでいた。

 スカイ・シップから見える竜の墓場は、距離のせいもあるかもしれないが、深い霧のせいでやや黒い線が大地に引かれているようにも見えた。

 ……その線は、地平線の向こう側にも続くかのように、大地を一直線に横断していた。

 まるで、大地を二つに割ろうとして失敗したようにも見える。かなり異様な光景だ。


「竜の墓場は、ほぼこの大地を横断している。ほぼ途切れなく続くその亀裂は、実際に調べようとすると一年以上かかるほどの距離ひらいているのだ」

「そりゃとんでもねぇな……」


 竜の墓場の想像以上のスケールに、俺は思わず息を呑んだ。

 調べるとなれば、基本徒歩になるだろう。それで一年以上となると、もうどれだけ距離があるのかは、明確に数字にしても想像を超えた領域だろう。

 少しずつ近づいてくる竜の墓場を前に、俺は軽く拳を握り……。


「……っとぉ!?」

「きゃぁ!?」


 突然スカイ・シップが傾いたので、あわてて甲板の縁をつかみ、転びかけたソフィアの腰を抱きしめる。


「っ、大丈夫かソフィア!?」

「だ、大丈夫だ! だから離せ!」

「っと、失礼!」


 俺の手を振りほどこうとじたばたし始めるソフィアから手を離し、俺は剣の素振りをしていた光太とガオウの方へと声をかける。


「そっちは無事か!?」

「う、うん! なんとか!」

「キャインキャイン!?」


 光太は螺風剣(エア・キャリバー)を甲板に突き立てて、船の傾斜に耐え、ガオウは恥も外聞も捨てて甲板にしがみついている。あまりの恐怖に悲鳴まで上がってる辺り、ホントに怖いんだな……。

 俺は一つ舌打ちし、甲板で混沌言語(カオス・ワード)の制御に集中しているはずの真子に向かって大声を張り上げた。


「ったく……おい、真子! 混沌言語(カオス・ワード)の制御サボんな!」

「じゃかーしーっつーのー!!」


 すると、真子は紅玉を片手に掲げながら、扉がたわむ勢いで出てきた。

 その顔には怒りと、何よりも強い焦燥が刻まれていた。


「これはあたしのせいじゃないわよ! 混沌言語(カオス・ワード)の方が勝手に歪んだの!!」

混沌言語(カオス・ワード)の方が?」

「そーよ!! すぐに安定させるために、プロペラ起動させるからちょっと待ってなさい!!」


 真子は一言怒鳴ると、即座に甲板のハッチから船底の動力炉の方に潜り込む。

 真子が下に向かってしばらくして、頭上にあった巨大なプロペラが高音を立てながら回転を始める。

 同時に、スカイ・シップの脇に据え付けられた姿勢制御用と見れるブースターが火を噴き、スカイ・シップが安定を取り戻す。


「おおー」

「どーよ!?」


 感嘆の声を上げると、それを待ち構えていたかのようなタイミングでドヤ顔した真子がハッチから顔を出した。


「いや、どーよとか言われも。そもそも原因はなんだったんだよ?」

「もうちょっとあたしの設計に戦きなさいよ! って、それはともかく……」


 プロペラが動いて興奮していたらしい真子も、すぐに落ち着きを取り戻したのか、咳払いひとつしてからハッチから体を引きずり出す。


混沌言語(カオス・ワード)が制御を失った原因だけど……原因はやっぱりあれね」

「あれって……」


 真子が指差す方向にあるのは、竜の墓場。

 安定を失っても進み続けたおかげで、もう目視で普通に確認できるだけの距離に近づいていた。


「……竜の、墓場がか?」

「そーよ。思ってた以上に影響力が強かったみたいね。この程度近づいただけで、混沌言語(カオス・ワード)が影響受けるなんて……!」


 苛立たしげに爪を噛む真子。

 だが、俺はそんな真子を茶化す気にはなれなかった。

 近づいてはっきりとそれを感じ…俺は顔を蒼くした。


「……いや、この程度じゃねぇな……」

「んあ?」

「……やべぇぞ、もう射程内じゃねぇか……!」

「何の話よ?」


 俺の様子を不審そうに見る真子は無視して、俺はソフィアの方を見る。

 俺と同じように顔を真っ青にしたソフィアは、俺の方を見てぶんぶんと首を横に振った。


「……違う、知らない。私の知ってる、竜の墓場はこんなのじゃない……!」

「となると、この感覚は異常ってことか? いったいどうなってやがる……!」

「ちょいちょい。二人で分かり合ってないで。あたしたちにも説明してよ」


 頭を掻き毟る俺の肩をぐいぐい引っ張る真子。

 同様に、説明を求める顔をした光太もやってきた。


「どうしたのさ隆司。竜の谷が、どうしたの」

「ああ、いや……ちくしょう、どう言ったらいいんだ……」


 俺は言葉を選びながら、竜の墓場から感じる感覚を説明した。


「今の竜の墓場だが……まるで何か生き物がいるみたいな感じなんだよ」

「「……え?」」

「しかも、ただ生きてるわけじゃねぇ。とてつもなく強くてでかい……今まで見たことないくらい凶悪なやつがそこに居座ってるみてぇだ」


 光太と真子が疑問の余地を挟まないように、一気に説明する。

 正直、今詳しい説明を求められても答えられねぇ……。


「覇気ってのは、そいつが生きている証であり、消費しているエネルギーの事だ。それがどういう風に感じ取れるかで、そいつが今どういう状態なのかを、俺やソフィアは感じ取ることができる」

「……あれかしら? 気を探ることで云々、ってイメージ?」

「おおむねそんなもんだ。で、今竜の墓場に満ちてる覇気だが……」


 俺はちらりと、いまだ沈黙を保ち続ける竜の墓場を見てから、つばを飲み込んだ。


「……まるで、今にもこっちに飛び掛かってきそうな猛獣みたいな気配だ。正直、近寄るのも勘弁してぇ」

「……ちょっとまってちょうだい。元々の竜の墓場って、覇気が充満してるだけの場所じゃないの? それも十分、不思議なんだけどさ」

「そのはずだ!」


 真子の疑問に、ソフィアが大声で答える。

 その声は、隠しようもないほど震えていた。


「普段の、竜の墓場は……まるで眠っているかのように静かな覇気が充満していたんだ! あんな……あんな風に滾っていたりはしないし、滾るはずがないんだ!」

「……あそこに充満してるのはただの霧で、そして覇気だ。生き物がいねぇ以上、あれだけの覇気を滾らせられる存在なんて、いるはずがねぇんだ」

「………」


 俺たちの言葉に、真子は瞑目。

 そして静かに呟いた。


「……なら、生きてたってことかしら」

「生きてた? 何が――」

真古竜エンシェント・ドラゴン


 短く告げられたその名前に、俺は動揺や怒りよりも何よりも、納得を得た。

 ああ、なるほど……。


「あれが世界最強の生物か?」

「そう言うわけじゃない? どういう理屈で生きてるのかなんて、あたしにはわからないけどさ」


 肩を竦める真子には答えず、俺は竜の墓場へと振り返る。

 グングン近づいてくる竜の墓場……。

 そこからは、まるで炎のように立ち上る強烈な覇気のイメージが伝わり、俺の肌を刺激した。

 まだ生きてるんなら……とっとと姿を現せよ、真古竜エンシェント・ドラゴン……!






「~~~~ッッ!!!」

「ってぇ……!!」

「おい、なんかすげぇ音がしたぞ。どうした?」

「いや、さっき船が傾いた時に、フィーネと俺の唇がぶつかって……」

「……ああ、さっきからフィーネが大げさにのた打ち回ってんのは二つの意味でか……」

「~~~~~~ッッッ!!!!」




 最後の会話文は、どっかに入れたかったネタです。入れる隙がなかった……。

 竜の墓場から、隆司は異様な気配を感じた。

 それは本当に真古竜エンシェント・ドラゴンなのか?

 その答えは、次回以降に……。


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