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No.207:side・mako「スカイ・シップ、テイクオフ」

「しかしこんな木造船が空を飛ぶとか信じられんな、オイ」

「心配しなくとも、計算上は飛べるはずよ」

「計算上なうえ、はずとかお前……」


 タラップをのぼりながらぶつくさうめいている隆司を無視しつつ、あたしは甲板にあたる部分に乗り込む。

 一応の物資の積み込みが終わったとはいえ、まだ細々したものを載せきっていないのか、乗組員や騎士団の人たちが慌ただしく駆けていた。

 そしてサンシターがシュバルツの引き綱を引っ張っている光景を目撃してしまい、思わずあたしは隆司に振りかえった。


「今更だけど、シュバルツ連れてくの?」

「ん? あー、一応な」


 長距離移動でない限り、一人しか使えない騎兵とか邪魔以外の何物でもないと思うんだけど。

 そんなあたしの懸念は分かっているのか、隆司は軽く肩を竦めた。


「ほら、チビどもも一緒に来るだろ? 場合によっちゃチビどもの移動手段にと思ってな」

「あー」


 隆司の言葉に、あたしは思わずうなずく。

 あたし個人としては、フィーネには留守番しててほしかったんだけど、本人がやる気なうえに、混沌言語(カオス・ワード)が使えるおかげで戦力としてはかなり貴重なせいで、連れて行かざるを得なくなっちゃったのよねぇ……。


「そう言えば真子ちゃん。この船のマスト、妙に長いうえに帆が見当たらないんだけど……」

「ああ、あれはマストじゃなくてプロペラ」

「え、あれプロペラなんだ……」


 件のプロペラを見上げる光太に説明してやりながら、あたしも空を見上げた。

 三つのマストには、それぞれ干渉しないようにかなり大型のプロペラがくっついている。


「予想として、竜の谷付近だと進行に使う術式が阻害されるだろうから、そのあたりで切り替える予定よ」

「あんなものが回ったら甲板に立てんな……」

「心配しなくても、防護障壁を甲板に展開するから、風圧でつぶされる心配はないわよ」


 ソフィアの不安そうな声に答えつつ、あたしはブリッジにあたる部分へと向かう。

 この船、改造するときに例の宇宙船を参考にしているから、ところどころ近代的になってるのよね。

 と、みんなが一塊になって移動しようとしているのに気が付いて、あたしは隆司とソフィアの方へと振り返った。


「あ、ごめん。あんたたちは下」

「え?」

「なんで俺たちだけ?」

「まあまあ。そこから下に降りれば、あとは人が案内してくれるから」


 そういって、あたしは船底に続くハッチを指差した。

 隆司もソフィアも首をかしげていたけれど、素直に下に向かってくれる。

 あの二人が下行ってくれないと、話が始まらないからねー……。


「じゃあ、あたしたちはブリッジに行くわよー」

「あ、うん」

「はい、わかりました」


 光太と王子を伴って、あたしはそのまま飛行船最上部にあたるブリッジへと向かう。


「うわぁ……!」


 その中に入った光太が、途端に瞳をキラキラと輝かせ始めた。

 そこにはまるでSFに出てくる戦艦のような光景が広がっていたからだと思う。

 何かを示す計器。そしてそれぞれの席につき、コンソールらしい板をめまぐるしく操作しているメイドさんたち。

 彼女たちが触れているものやそれぞれの機器を構成する素材が木材であることを除けば、突然SF世界に放り込まれたように錯覚してしまうだろう。

 そんなブリッジのほぼ中央に立っていたギルベルトさんが、勿体つけた様子でこちらへと振り返った。


「ふっふっふっ……来たな、アルト!」

「ギルベルトさん? 何故ここに?」

「それは某がこの船の操舵士であるからだ!!」

「ギルベルトさんがヨーク出身とか意外すぎるわよね……」

「もとは漁師として一身の期待を背負っていたようですが、現在はご覧の有様ですね」

「あはは……」


 船の各所との連絡係を務めるメイドさんたちをまとめてくれているメイド長さんの言葉に、光太も思わず苦笑いした。

 あたしはそんなメイド長の様子は慣れっこなので、光太と王子をそれぞれの配置につかせる。


「それじゃあ、王子はあの一番高い椅子に座って。光太はその前ね」

「了解!」

「わかりました」


 光太が楽しそうに頷き、指定された席へと駆けていく。

 王子も一つ頷き自分の席へと向かいかけ、ふと何かに気が付いたように振り返った。


「席に着くのはよいのですが、私は何をすればよいのでしょうか?」

「ああ、アルト王子はポジション的に艦長だから、とりあえず席についてて。時間があれば、この船の仕様に関して説明もするから」

「はあ……」


 艦長、と言われていまいちピンと来ていなさそうな顔で席に着く王子。

 まあ、ぶっちゃけ王子に仕事はないしね……。こんなこと、口が裂けても言えないけど。

 そしてあたしが、光太の隣の席に着くと、それを待っていたのかメイドさんの一人があたしに報告してくれた。


「マコ様! 物資の積み込み、および人員の搭載が完了いたしました!」

「OK。あとは……」

「あ、マコ様! リュウジ様から通信が着ました」

「ん、好都合。こっちに回して」


 メイドさんにそう頼み、あたしは通信機代わりの水晶に軽く触れる。

 途端、ルームサイクリングもどきにまたがった隆司の姿が写し出された。


「ヤッホー、隆司。感度良好?」

《そりゃ良好だけどよ……。ここはなんなんだよ? 部屋は狭いし、変な自転車はあるし。ソフィアも似たような部屋に押し込められたし……》

「ああ、そこメイン動力炉。この船、主な動力が人間の覇気だから」

《俺たち燃料扱い!?》

「正確には種火かしら」


 この船は、動力炉がかなり大型化してしまった代わりに、少数の人員でも十全な稼働ができるように設計されている。

 主な燃料は覇気、魔力、意志力(マナ)。早い話が源理の力なわけなんだけど、後部に取り付けられているブースターは主に覇気を利用した駆動になっている。

 これに火を入れるには、高純度かつ大量の覇気を瞬間的に捻出する必要があるのだ。


「――というわけよ」

《……なるほど、そういうわけなのか》


 通信の途中でつながったソフィアが納得したように頷く中、それでもなお不満そうに隆司が自分のまたがっている自転車もどきを叩く。


《どうせなら魔力で駆動する方式にしとけよ……。今のお前なら、十分な量の魔力があるんじゃねぇの?》

「まさか。あたしがこの船動かそうとしたら、一瞬でガス欠するわ」


 ちなみにこれは本当の話だ。

 出でよ紅き霊王(サモン・エリクシル)のおかげで、かなり強大な力を行使できるようになったけれど、結局はあたしの魔力を増幅していることには違いない。

 あたし自身はそんなに魔力量がないから、これだけ大きなものを動かそうとすると、増幅した魔力は瞬間的に燃え尽きて終わりだ。


「それに、魔法は恒常的な駆動には適しているけど、瞬間的な出力にはあまり向かないのよ」

《代わりに覇気はそういうのに向いてるから俺たちに動力炉やれってか? 納得いかねぇ》

《いちいち文句を垂らすな。炉に火さえ入れば、あとは動き続けるのだろう?》

「そういうこと。ソフィアは理解が早くて助かるわ」


 あたしは小さく頷きつつ、ギルベルトさんの方を見やる。

 操舵輪を握ったギルベルトさんが、力強く頷いた。


「いつでもいいぞ、嬢ちゃん」

「――というわけよ。あたしの合図で、きりきり漕いでね?」

《わかった。リュウジ、貴様もいいな?》

《へーい》


 なおも不満たらたらな隆司は無視し、あたしは自分の役割を果たすために、呪文を唱える。


出でよ紅き霊王(サモン・エリクシル)


 呼び出した四つの宝珠を、それぞれあたしの周辺に空いた穴の中へセットする。

 そうして飛行船全体に埋め込んでおいた混沌言語(カオス・ワード)にあたし自身をつなぎ、全体の魔法が回路として動くよう、働きかける。


「……よし、うまく動いてるわね……。光太。あんたの仕事は、防護障壁の展開よ。要領は隆司の覇気エンジンと一緒。甲板にも人が出られるよう、あんたの意志力(マナ)で全体を覆ってちょうだい」

「僕一人で? 大丈夫かな……」

「あくまであんたの意志力(マナ)を呼び水にするだけよ。この船に乗ってる人間の意志力(マナ)が、そっちに向かうようにね」


 不安そうにつぶやく光太を安心させるようにそう言いながら、あたしはタイミングを計る。


「計器異常なし。機関各部、正常に稼働!」

「各ブロック、問題なし。タラップ、外れます!」


 メイドさんの言葉と同時に、飛行船全体がわずかに揺れる。

 タラップから飛行船が外れ、海湖(ソルト・レイク)の上に浮いたのだろう。


「船内各部へ通達。本船はこれより離陸を開始します。所定の位置につき、じっとしていてください!」

「……アルト王子、合図よろしく」

「わかりました」


 あたしの言葉に答えるように、アルト王子が立ち上がり、大きな声で宣言した。


「……飛行船、スカイ・シップ発進!!」


 王子の言葉に合わせて、あたしは動力炉の方に合図を送る。

 途端、周辺の計器が勢いよく動き始めた。


「覇気式動力炉、稼働開始!」

「メインブースター、点火!」


 キィー……ン、ゴゥ!


 船内に、鋭いエンジン音が響き渡り、グイッとあたしたちの背中の方に力がかかる。


「速度上昇! 同時に、混沌言語(カオス・ワード)活性化!」


 船が動き出したのを受け、あたしが船に施した魔法が動き始める。

 あとは一定以上のスピードが出れば、自然に浮かび上がるはず……!


「光太!」

「わかってる……!」


 あたしの言葉に応じて、席に座っていた光太が全身から意志力(マナ)を発する。

 光り輝く力は、そのまま船へと伝わり、全体を強化する防御障壁へと変換されていく。

 ……よし、問題なし!

 船体の揺れが徐々に激しくなっていき、さらに上下までするようになってきた。

 まさに、船が離陸しようとしているんだろう。


「光太はそのまま! それで、スピードの方は!?」

「はい! ――」


 メイドさんが真剣な表情で計器を睨み……。


「……駄目です! 予定しているスピードをわずかに下回っています!」

「あー、くそ!」


 返って来た報告に、思わず舌打ちしてしまう。

 一応予想していたことではあるけど、覇気の出力は本人のコンディションに強く左右される。

 さすがの隆司も動力炉扱いは気が乗らなかったらしい。

 えぇい、仕方ない。

 あたしは隆司へと通信をつないだ。


「ちょっと隆司! もっと気張って!」

《そんなこと言ってこっちも全力だっつーの! っていうかこの部屋狭いし熱い! 今すごい苦しい! 換気どうなってんだ!?》


 隆司は言葉通りに全力でペダルを漕いでくれているようだが、非常に苦しそうだ。顔は汗だらけで、着ている服ももうすでにぐっしょり濡れている。……覇気って、発汗効果もあるのね。

 瞬間的な出力さえ出れば後は安定するはずだったから、快適さとかは考慮してないのだ。そのため、換気のための窓とかはないし、部屋も窮屈に感じるようになっている。

 ……そして、隆司に関してはもう一つ理由があっての設計だ。


「まあ聞きなさい隆司!」

《何を!?》

「薄壁ひとつ隔てた向こう側にはソフィアがいるわ!」

《それから!?》

「ソフィアはあんたと同じ状況、そしてあんたは汗まみれ!」

《だから!?》


 あたしは一つ息を吸って、こうつぶやいた。


「ほぅら、想像してごらん……。壁の向こう側にいる、汗だく濡れ濡れのソフィアの姿……」

《いぃよっしゃぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!》


 いまだかつてないほど瞳をギラギラと輝かせながら、床ごと破砕せんばかりの勢いで隆司がペダルを漕ぎ始めた。

 メキメキと、木材が耐久力の限界を伝える音がここまで聞こえてきた。

 だがそれも、エキサイティングしている隆司の耳には届かない。


《飲めるっ! ソフィアの汗ならバケツ単位で飲める! 有り金全部積んでもかまわん! むしろウェルカムッ!!!!!》

「いや、さすがのソフィアもバケツ単位の汗かいたら死ぬと思うけど」

《な、なんか対面から異様な気配を感じるんだけど!? リュウジはどうした!?》


 今度はソフィアから通信が繋がった。

 ちょうどいいので、ソフィアにも伝えてやる。


「いや、今しがた覇気の量でソフィアを上回ったら、あんたの汗をペロペロしていいって隆司に伝えたとこで」

《イッ……イヤァァァァァァァァァァァァァァ!!!!????》


 ペロペロされる未来を想像したのか、耳どころか全身真っ赤に染まったソフィアが勢いよくペダルを漕ぎ始める。こちらもリュウジに負けず劣らずの勢いだ。今にも部屋が粉々になりそうなのが雰囲気で伝わってくる。

 おかげで、ブリッジの計器が異常数値を叩きだし、さらに危険状態であることを伝えるレッドアラートが引っ切り無しに鳴り響いた。


「は、覇気式動力炉、出力急上昇! スカイ・シップのスピードも予定したものをはるかに上回りました……」

「真子ちゃん」

「緊急事態よ。見逃して」


 前をじっと見つめたまま冷めた声であたしを呼ばわる光太に、同じく前を見つめたまま返す。

 次の瞬間、下から勢いよく突き上げるような衝撃が伝わり、スカイ・シップが空へと浮かび上がったのが分かった。


「っとぉ!? スカイ・シップ浮上! このまま、魔王国を目指すぞぉ!!」

「あー、うん。よろしくー」


 自分が作ったもの、が空を飛んだことで興奮しているギルベルトさんに投げやりに伝えながら、あたしは厨房区にいるらしいサンシターに通信をつなぐ。


「サンシター。悪いんだけど、動力炉で頑張ってくれてる二人に冷たいものを差し入れて、ついでにもう止まってくれていいって伝えてくれる?」

《わかったでありますよー》


 サンシターへの頼みごとを終えたあたしは、混沌言語(カオス・ワード)の制御を怠らないようにしながら、そのまま椅子の背中に全体重を預けた。

 あとは魔王国へ向かうだけ、ね……。




 スカイ・シップ、無事にテイクオフ!

 そして短期間で竜の谷へと到着した一行は、そのまま霧の中へと突入していく……。

 以下、次回。


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