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No.201:side・ryuzi「間合いと線引き」

 アルトのためにやってきた差し入れのパンを一つマグマグと食べながら、俺はポツリとつぶやいた。


「煽るだけ煽ったんだけど、果たしてあれでよかったんだろうか……」


 いや実は、あの救護室だか医務室だかに運び込まれたまではアルトに話した通りだったんだけど、アルトが運び込まれたとき、真子のやつに一つ頼まれていたのだ。

 すなわち、とにかくアルトのやつの気分を盛り上げろと。

 早い話、アンナが誘拐されてえらい気落ちしていたアルトのことをしっかり励ませってことだったんだろうけど、あれで正解だったのかなー。


「うーむ不安が残る。いっそ、某世紀末汚物みたいな感じで攻めとけばよかったかしら」


 ぶっちゃけあのタイミングでシャーロットさんからの差し入れが来てなかったら、アルトの説得が失敗していた可能性大だったろうし。危ない橋にもほどがある。

 ……あるいは、あれこそアルトの引き寄せた絆の力、なのかもしれない。


「……なーんてな」

「あ、リュウジ! もう平気なの?」


 自分で言ったことに対して思わず噴き出していると、曲がり角からフィーネとジョージのちびっ子コンビが姿を現した。


「よう、アメリア王国の癒し系コンビ。今日も元気かね」

「元気も何も、あんたが丸焦げにされたときに会ってるじゃねーか」

「もー、だめだよ、リュウジ。ソフィアさんにあんまり、その……えっちなことしちゃ……」


 俺の姿を見るなり呆れたようにため息をつくジョージと違い、フィーネは俺をきっと見据えたかと思うと、自分の言葉に恥ずかしくなったのか、顔を赤くしつつ俯いてしまう。

 ふむ。初々しいねー。とても他の誰かが見ている前でジョージとディープキス(薬入)をやらかしたとは思えんね! ……まあ、あれは緊急事態だったけど。


「他の人が見ている前で、そういうのされるの……すごく恥ずかしいんだからね!」


 めっ!という感じで俺に注意を促すフィーネ。

 だが、俺の言い分も聞いてほしいところだ。

 別に俺は自分の欲望を優先してあんな行動をしているばかりではないということを。


「そうは言うがな、フィーネ。ああ見えてソフィアはかまってほしい系のさびしがり女子だと俺は睨んでいるんだぞ」

「え? どういうこと?」


 俺の確信を持った言葉に、驚くフィーネ。


「うむ。何しろ俺がまじめに仕事や訓練していると、さびしそーな顔をして俺の背中をじっと見つめているんだからな!」

「……それって、リュウジの気のせいじゃ」

「いやいや、覇気の習得者をなめてはいけない。周辺にいる人物がどっちを向いているかや、慣れればどんな視線を向けているかがはっきりとわかるのだ!」

「うさんくせー」


 疑いの眼差しを向けてくる二人に俺は自信満々に答える。まあ、半分は嘘だけどさ。


「それに、俺が何気ない仕草でソフィアの方を振り向くと、同じタイミングでさりげなくあらぬ方向を向くんだぜ? しかも毎回。これはもう、俺に向かって視線が釘付けの証拠だね!」

「それはどうかなー……」

「さらにさらに、昨日なんかは俺にぎりぎりまで近づいてて、俺が振り返ると極めて自然な動作で俺から離れようとしたんだぜ。何あのかわいい生き物!!」

「興奮すんな」


 自分の体を抱きしめて身もだえする俺を見るジョージの眼差しは汚物を見るそれだった。


「まあ、それを差し引いてもソフィアはさびしがりだと俺は思う。そもそも魔竜姫なんてポジションにあの歳で据え置かれてるんだ。魔王軍の連中も、どっか一線引いて接してるように見えるしな」

「ちょっと前までのフィーネみたいなもんか」

「そんなもんだな」


 地位ってもんは、あればあるほど見えないくせに分厚い壁を人と人の間に据え置いちまうもんだ。

 もちろん、そういうのを全く気にしない人間はいるが、大抵の人間は地位を前に線を引く。


「ソフィア自身も、周りから一歩引いて接していたように見えるしな。四天王や親衛隊みたいな例外はいても、基本的には“魔竜姫”として周りに接していたんだと思う」


 さらに言うなら、魔王軍の大将としての役割まで背負ってる。相応に経験を経た人間ならともかく、俺と同じだけの年月しか経ていない(らしい)ソフィアには、相当な負担だったはずだ。


「そこへきて、そんな線の内側にずかずか踏み込んで“ソフィア”に触れようとする俺が現れた。今のソフィアの反応は、そのことへの戸惑いが含まれてると俺は思う」

「含まれているだけで、それが全部じゃないんだな」

「当たり前だろう」

「そんなマジ顔で言われても」


 あれだけやって恥じらいもないなんて……それはそれでありですけど。むしろご褒美ですけど。


「恥じらいと戸惑いが絶妙にブレンドされたあの赤い顔! そこからつながる俺への罵声! そして怪力から来る必殺の一撃! 一挙手一投足、すべての生の感情が俺へとぶつけられる瞬間! それこそ俺が求めるソフィアへの反応!!」

「さらに力説されても」


 力説する俺に対してどう反応したらいいのかわからない二人が困ったような顔になる。

 まあ、お前らにはわからんわな、俺の気持ちは。ずっと一緒に暮らしてきたお前らには。


「こう、ソフィア自身も忘れていたような、そんな、生の感情を解きほぐす快感! 俺は生の感情丸出しのソフィアを見てみたいんだよ……!」

「「だからって泣かれても」」


 サラウンドで困ったようにツッコまれてしまう。

 これが真子辺りだったら、そろそろ攻撃魔法による強制シャットダウンと相成るところだな。


「まあ、あんまり周りに被害が出ないようにうまくやるさ」

「急に真面目にならないでよ……」


 疲れたように肩を落とすフィーネ。うむ。幼子に恋バナはまだ早かったかねぇ。


「……線引きと言えば、レミってそういうのはきちんと区別つけてんのか?」

「おん? なんだね少年。実はまだ礼美の事狙ってたり?」


 ジョージの問いかけに俺がそう返すと、失恋少年は否定のために首を横に振った。


「ちげーよ。ただ、コウタのやつがレミへの気持ち自覚したみてーだから、肝心のレミはどうなのかなって思って」

「………………………」


 ジョージの発言に俺はしばらく沈黙。

 そして柔らかく微笑んでこう言ってやった。


「うん? すまん。なんだって?」

「なんで聞かなかったことにしてんだよ。コウタがレミへの気持ちを自覚したんだって」

「なん……だと……」

「なんでそんなありえないものを見たみたいな顔になってるの……?」


 驚天動地の事実を聞いてしまった……。

 光太が? 礼美への? 何それワロエナイ……。


「もし仮にその話が事実だったのなら、俺たちが今までやってきたことっていったい……」

「今までも何も、あんた何もしてないじゃねーか……」


 がっくり手をついてうなだれる俺に、ジョージが厳しい言葉を投げかける。

 お前、それはほら、あれだよ。


「こっちに来る前での話だよ! つか自覚とかそれマジかよいつからだあのバカくそ!」

「さーな。なんか色々悩んでたっぽくて、その話聞いてたらその流れで自覚したみてーだぜ」

「マジか……。光太の礼美ルートへの条件がロリショタコンビとか誰が気付くんだよ……!」

「ろりしょたって……なに?」


 怪訝そうな顔つきになるフィーネには答えず、俺は涙を拭いた。


「いや、けどいいんだ! あいつが礼美に対する思いを自覚しただけでも……! それだけでも、この世界に来た甲斐はあったってもんだ!」

「この世界には呼ばれたんじゃなかったっけ、あんたたち」

「しかも私が呼んだんだよね……」

「まあ、気にすんな。向こうじゃ絶対解決しないことが解決したんだよ」


 ジョージとフィーネにそう答え、俺は今まで積もり積もっていたものを吐き出すように大きなため息をついた。

 定番のイベントとはいえ、まさかこのタイミングで光太が自覚とはな……。運がいいんだか悪いんだか……。

 場合によっちゃ最悪な方向に流れちまうかもしれねぇ。そこは体張りますかね……。

 そこまで考えて、そういえばなんでこんな話になったんだっけと俺は首をかしげた。


「……で、なんだっけか?」

「レミの線引きの話だよ。ソフィアさんみてーな線引きって、どうなってんのかなって」

「ああ、その話ね」


 ジョージの言葉に一つ頷き、俺は答える。


「必殺の間合いが遠すぎて、正直意味はねぇな」

「どういうことそれ……?」

「これは光太もなんだけどよ。生まれた星ってのが眩すぎるせいで、いろんな人間引き寄せて、しかも大体のやつには好かれちまう。ジョージもその口だろ?」

「……そーだな」


 何ともいわく言い難い顔になりつつ、ジョージは頷く。こいつにとっちゃほろ苦い思い出だわな。

 その隣じゃフィーネがはらはらした表情になるし……そこでそういう顔になるのは君じゃないでしょ?

 二人の様子に困ったように頭を掻きつつ、俺はまたため息をついてしまう。


「だが、二人は基本的に他人との線を引きたがらない。招けるものはみんな招いて、どんどんつながりを広げようとする」

「レミさんとか、すごいよね……ヨハンさんを中心に、レミさん派閥ができつつあるもの」

「コウタはコウタで、女騎士とかメイドとかが中心になってファンクラブができてたな」

「そんなことになってたんかい……」


 思ってた以上に感染拡大してやがるし。


「……あの二人なら、それも咎めないだろうが問題はそこなんだよ。他人を自分の中に招き入れる半径が広すぎるせいで、ソフィアみたいな防波堤がねぇ。周りの人間を次々虜にするくせに、本人らにとっちゃそれは自然な態度が招いた結果。気にすることもほとんどねぇ」

「なんていうか……怖すぎるね……」

「まったくだ。そんな二人が一緒にいたもんだから、向こうじゃかなりカオスな光景が展開されてたなー……」


 在りし日の情景を思い浮かべながら、俺はどこか遠くを見つめる。

 なんかもう、懐かしくすらあるな……。


「まあこっちじゃ、勇者の肩書のおかげで、相手が自動で線引いてくれるから、ある程度楽だったんだけどな。そうなってもお互いがそばにいるのがいつも通り過ぎて、何の進展も望めねぇと最近諦めてたんだけど……」


 なんかまた涙が出てきて俺は思わず鼻を啜る。


「グスッ……。そうかぁ、光太がついに礼美のことを……」

「泣くほどなのか……」

「今の状況じゃなきゃ、城を上げて祝いたいくらいだ! 赤飯をもてぇい! 今宵は無礼講じゃぁ!!」

「ちょ、落ち着いてってば! ハッキリとレミさんの事、好きだって言ったわけじゃないから!」


 興奮して今にも踊りだしそうな俺を、フィーネがあわてて押しとどめた。


「ん? どういうこと?」

「なんかレミとずっと一緒に居たいってニュアンスのことは言ってたけど、それが好きなのかどうかは分からねぇってさ」

「ああ、そういう……」


 なんていうか、あいつはどこまでもあいつなのな……。

 まあ、いいや。一緒に居たいってそうあいつが自分で想ったのなら、それで十分だ。


「まあ、中身はどうあれ、あいつ自身が自主的に礼美を助けたいといったんだよな?」

「うん、まあ」


 フィーネが頷くのを見て、俺も頷いた。

 ならばよし、だ。今のところありそうな課題は一通りクリアしてるってことだ。


「ならノープロブレム、だ。あとは飛行船の完成を待つだけってわけだ」

「そうだけど……大丈夫かな」

「なにが?」

「だって、相手はガルガンドだし……ひょっとしたら、神位創生で生まれた神様とかも相手にしなきゃいけないんだよ?」


 フィーネが不安を隠さないまま、俺にそう問いかける。

 彼女の不安もわかる。今までは、ただ単に国と国との問題だったものが、いきなり世界レベルの危機に発展しちまったんだ。スケールが違いすぎる。

 だが問題はない。俺はニヤリと笑ってフィーネの頭をポンと撫でる。


「そう怯えんな。心配しなくとも、アメリア王国が誇る筆頭勇者がやる気なんだ。世界が傾こうが、あいつならきっと何とかしてくれるのさ」

「……うん」


 フィーネは不安がぬぐいきれない様子だが、それでも俺の様子を見て小さく頷いた。

 光太に対し絶対の信頼を寄せる俺を見て、ジョージが不思議そうに首をかしげる。


「にしても、妙にあいつのこと信頼してんじゃん。何か理由でもあんのか?」

「あん? それはな――」


 俺は一瞬ジョージになんていうか迷い、そして……。


「――絆の力、ってやつだ」


 そういって、にやりと笑った。

 アルトにそうはっきりと宣言したんだ……。なら、俺も実践しねぇとな。




 絆。それは世界を救う力(棒)。

 それはそれとして、隆司に光太君の今の気持ちの情報が入りました。今後、彼は光太君を生かすために全力を尽くすでしょう。最悪、命犠牲にしかねませんしね、フラグ的に……。

 そして、思われている礼美ちゃんはと言えば?

 以下、次回ー。


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