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No.197:side・Sophia「私と奴のデットヒート」

 さて。

 ガルガンドの名が、えーっと、うちゅうせん?とやらの記録から出てきたという報告を受け、奴に関する謎がさらに増して数日。

 真子や光太、そしてアメリア王国騎士団に魔王国軍のものたちが最終決戦に向けて各々の準備を進めている中、私はといえば。


「ああああぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

「はっはっはっー。待てよーこいつぅー」


 何故か、逃げていた。

 しかも、全速力で。地面を走って……!

 王都の街路を一目散で走る私の姿と奇声に何事かと道行く人々が振り返り……。


「ああ、なんだ。魔竜姫さんとリュウジさんか」

「いつも仲いいなー」


 その原因が私とリュウジであることを確認すると、何事もなかったかのように、それぞれの日課へと戻っていく。うう……。

 ここ数日、毎日のように王都中の街路という街路を走り回っているせいで、私たちのことはもう日常として受け入れられてしまった……。順応早すぎるだろう。

 ……今「なんで空を飛ばないんだよ?」と考えた者がいるかもしれない。

 そしているものとして話を進めるが、一番最初は飛んで逃げようとしたんだ。

 そしたら、私が飛び上がるより素早く飛び掛かられたんだ……。

 奴曰く「飛ぶタイミングは覇気でわかっちゃうからなー」とのことだった。がっでむ。

 ……まあ、空を飛ぶにはどうしても覇気を利用しなければならない。それを察知するというのであれば、地面を走ればいいだけだ。私は空を飛ぶばかりではないということを教えてやる…………つもりだったんだけど。


「なんで貴様そんなに速いんだよぉぉぉぉぉぉぉ!!!!」

「これぞ秘技“○傑集走り”!! いやー、やればできるもんなんだなぁ」


 私の悲鳴にのほほんと答えたリュウジは、上半身をビシッと伸ばして腕を組みながらも、両足はせわしなく動かして、街路を素早く駆け抜けていた。なんていうか、ダカダカッ!って感じの効果音が鳴り響きそうな走り方である。

 何故こんな態勢でこんな素早く動けるのか謎でしかない。両足の負担がマッハというレベルじゃないはずである。どうなってんのホント。

 どうも悔しいことに、純粋な身体能力は奴の方がずっと上のようだった……。ただの人間にしては、強力すぎるだろう、今更だけど……。

 ……やはり、こいつが勇者をやっているのはこれが理由なのだろうか? リュウジを含めた四人が、いったいどこからやってきたのかは大体聞いた。

 聞けば、異世界から召喚された、勇者なのだとか。にわかには信じがたい話ではあるが、彼らの知識や能力を考えれば不思議なことでもないのかもしれない……と思っていたのだが。

 マコにせよリュウジにせよ、今持っている能力は元の世界にはなかったものばかりなのだとか。

 マコの考えでは、こちらの世界に来る途中で何らかの意思が介入して、今のような能力を持つにいたったとのことだったが……。

 だとするのであれば、いったい何者の意思が……。


「はっはっはー。考え事してるとスピード落ちるよー?」

「いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!??」


 なんて考え事している間に、いつの間にか楽しげなリュウジがすぐ背後まで迫ってるー!!??

 音は忙しなく鳴ってるけれど、ホント気が付かないうちに迫ってきててかなり怖いー!?

 私は駆け抜ける両足に更なる力を入れ、隆司との距離を離そうとし――。


 スコーン!


「おうち!?」


 ようとした瞬間、リュウジの額に拳大の石がヒットして、砕け散る。

 その瞬間、すべての時間が遅くなったように感じられ、のけぞるリュウジの姿がスローモーで私の視界の中に飛び込んできた。

 今なら……!

 私はすべてが遅くなった世界でリュウジの方へと振り返り、グッと拳を握りしめ……。


「いい加減に……しろぉぉぉぉぉぉぉ!!!!」


 のけぞるリュウジの喉めがけて、上腕二頭筋を容赦なく叩きつけた!


「おぐっ!!??」


 リュウジの喉仏が砕け散る嫌な音が響き渡り、次の瞬間、世界に速さが戻ってくる。

 血反吐吐きながら倒れたリュウジが、轟音を立てながら街路の石畳の一部を粉砕した。

 周囲の人々が、突然の惨状に悲鳴を上げるが、こいつの所業を考えればまだぬるい……!

 血を吐きながら細かく痙攣しているが、この程度で死ぬほど柔い作りじゃない、絶対。

 私が怒りのままに拳を握りしめ、もう一撃食らわせてやろうかと思っていると、背後から笑い声が聞こえてきた。


「あっははは! もうその辺にしといてあげなよ、ソフィア!」

「ぬ! ……なんだカレンか」


 突然の笑い声に藪睨みで振り返ると、そこにはフリフリの給仕服を着た知り合いが立っていた。

 彼女の名はカレン。リュウジの仕事仲間とやらで、普段はハンターズギルドで働いているんだとか。ただ、休日のは実家で給仕をやっているとからしいので、今日は休日なのだろう。

 見上げてみれば、彼女の実家である喫茶店“アメリアの泉”の看板が。

 カレンは本当に愉快そうに笑いながら、手に持ったスリングを指に引っ掛けてくるくると回していた。


「いやほんとに、ソフィアもリュウも飽きないねー」

「私に言わないでくれ……言うならこいつに言ってやれ……」


 私は全身の倦怠感をごまかすように頭を振りながら、相変わらず血の泡吹きながら痙攣しているリュウジを指差してやる。

 そんな私のしぐさを見て、カレンはコテンと首をかしげた。


「そいつは構わないけれど、言って聞いてくれるのかい?」

「……いやまあ、聞かないけどさ」

「でしょー?」


 ケラケラとまた笑い声を上げるカレンの姿に、私は大きなため息をついた。

 こんな奴だが、カレンは王都における、私の数少ない友人だ。

 リュウジとの追いかけっこの初日から、こうしてちょいちょいちょっかいをかけて、私の反撃の隙を作ってくれる、優秀な戦士でもある。

 頬についた鋭い向う傷も、おそらく戦いの中でついたものだろう。彼女は特別語ろうとしないので、私も突っ込んで聞いたりはしないが。


「フゥ……とりあえず、今日も援護、ありがとう。本当に助かった……」

「いいってことよ。あんたんとこの兵隊さんには、しっかり儲けさせてもらってるからね~♪」

「商魂たくましいな、相変わらず」


 カレンの言葉に、思わず私は苦笑する。

 ……カレンこそ、こんな態度で私に接してくれるが、やはり今回の戦争で被害をこうむった者はいる。そういった者たちの中には、私たちの存在を快く思わないものも少なからずいた。

 中にはわざわざ王城へと出向いて、その旨をアルト王子に陳情としてあげる者もいるほどだ。そういうことは、我々へと直接向ければよいというのに……。もちろん、そういう者がいなかったわけではないが。

 そしてカレンは我々と真っ向から向き合い、文句を言った数少ない者の一人だ。

 やはり、物資の流通が滞り、彼女の実家である喫茶店も少なからずの被害を受けたらしい。

 しかし、同時に礼も言ってきた。なんでも、少なくない数の魔族たちが、喫茶店に客としてお邪魔しているらしい。………リュウジの紹介で。


「ほぼ毎日のように来てくれる常連さんもいるし、もうリュウ様様だねぇ~♪」

「そうか……それはよかったな」


 もちろん、我々はこの国の貨幣を持っていないし、貨幣を稼げるような仕事をこなしているわけではない。

 しかし無銭飲食をしているわけでもない……お金を払っているのは、他ならないこの国の人間……ケモナー小隊のものたちだ。


「まあ、客のほとんどがカップル、っていうのはある意味目に毒かもしんないけどさ」

「すまない……! ホントすまない……!」


 つまりケモナー小隊たちにほだされた魔族たちが、デートの名目でカレンの実家を日参しているということだ……。

 ケモナー小隊たちのノリそのままに、喫茶店の中で騒ぐ彼らの姿を思い出し、申し訳なさに私は深々と頭を下げる。

 今日のように、ちょうどカレンの家の前でリュウジからの逃走劇が終わることが多いので、ちょいちょいリュウジのツケということで休憩させてもらっているのだが……。

 中にいる者のほとんどが自分たちの世界に入り込み、周りなど目に入らない、むしろ存在しないとでもいうように睦言をささやき合っているのだ……。あれは目に毒というレベルではなく、存在が害とでもいうべきだろう……。

 一回、ミミルが周囲をわきまえることなく濃厚な口づけを、男と交わしていた時は……思わず縦に押しつぶしてしまった……。

 ホントなんで、あんな自重知らずになったのかなぁ……?


「というか、ホント大丈夫なのか……? ほかの客、ほとんど入ってないんじゃないか……?」

「あはは、大丈夫だよー。代わりにガッツリ延滞料金とってるからね!」


 嘘か真かそんなことをうそぶくカレン。


「いっそのこと、割高なカップル専用商品でも開発して、もう一儲けしようかって、親父と話をしてたとこだからね!」


 いやほんと商魂たくましいな! この機会に割高な専用商品とか! ピンポイントにもほどがあるわ!?


「い、いやそれは大丈夫なのか!? ホントにやるのか!?」

「今は企画段階だけどねー。むしろ儲けられるうちに儲けとかないとねー。うちは、言うほど儲かってるわけじゃないし」


 カレンは軽い調子でそういうが、目の輝きが如何に本気でそれを考えているのかを窺わせる。

 うわぁ……。なんていうか、今のうちにケモナー小隊の連中の冥福を祈るべきだろうか。主に財布の中身的な意味で。

 げんなりと肩を落としていると、不意にカレンが真剣な表情で私を見つめてきた。


「ところでさ、ソフィア」

「なんだ、カレン……」

「どうしてこんな追いかけっこに付き合ってんのさ。本気で嫌なら、そういやいいじゃないか」


 カレンの言葉に、私はしばし沈黙する。


「………」

「あんた、いやなことをじっと黙って耐えるなんてキャラじゃないだろ?」

「……ああ、まあな」


 私は頷いて、ちらりとリュウジの方へと振り返る。

 ちょうど血を吐きながら復活するところだった。意外と時間がかかったな。


「ごほ、ごほ!」

「……別に徹底掉尾いやなわけじゃないさ」

「ふぅん? じゃあ、好きなのかい?」

「……きらいではない」

「ふぅん? そっか」


 私の素っ気ない返事に何を思ったのか、カレンは満面の笑みを浮かべると、リュウジに向かってこう叫んだ。


「リューウー! 今度ー、新作ってことでカップル商品出すんだけどー、試食してくんないー? ソフィアと一緒に!」

「んな!?」


 私はあわててカレンの口をふさごうとするが、時すでに遅すぎた。

 一瞬で復活したリュウジが懐から分厚い札束を出してカレンへと一気に近づいて行った。


「金ならあるんだよぉぉぉ!!」

「毎度ありー♪」

「金の使いどころ間違えすぎだお前はぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

「ははっ! リュウのおごりだ! 一緒に食べていきな、ソフィア!」


 さっきの話、聞いていたんじゃないかっていうくらいの反応に思わず全力でツッコミを入れていると、カレンが急に肩を組んできた。


「っと!? カレン!」

「フフフ……素直じゃないねぇ……」


 私と肩を組んだカレンは、そっと私に顔を近づけると、ラミレスを思わせるねっとりとした声で私の耳元で囁いた。


「あんまりのんびりしてるとぉ……あたいが盗っていっちまうよ……?」

「は……はぁっ!?」

「はははっ! 親父ー! 例のカップルメニュー、一組分だよ!」


 思わず変な声を上げてしまうが、カレンはさっと私から離れると、素早く店の中へと駆け込み、父親へと例のメニューを注文している。

 彼女の発言の真意を測りかねた私は、何とももどかしい気分を味わってしまい……。


「……てぇい!」

「おうちっ」


 リュウジに尻尾ブローを叩きこんでおく。

 とりあえず、貴様が悪いっ!!

 私はそう心の中で叫びながら、ずんずんと喫茶店の中へと進んでいく。


「? ? どったのソフィたん」

「ソフィたん言うな! なんでもないわい!!」


 リュウジにそう返し、私は喫茶店の扉を乱暴に開いた。

 こうなったら、厨房の中が空になるまで食べてくれるわ!!




 魔竜姫様はご機嫌斜めー。うふふ。

 そんなラブコメいている間に、光太は少しでも強くなる努力を重ねているのであった。

 以下、次回。


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