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No.2:side・mako「勇者が四人?」

 そしてあたしたちは、大きな意志の流れ……のような?

 なんだろう、形容しがたい何かだってのはわかるの。

 ともあれ、そういうものに流され続けた。

 一秒に満たない短い時間だったのか、それとも一時間以上流されたのか、それはわからない。

 時間感覚も、完全に狂った空間だったんだと思う。

 唐突に始まったそれは、やっぱり唐突に終わりを告げた。

 あたしたち四人は、いきなり石畳の地面に放り出される。

 ちなみにあたしはうつ伏せだった。


「あぶっ!?」


 そのせいで、鼻打った……。

 たぶんその隣では、礼美を抱きかかえた光太が背中から落ちたのだろう。あたしが落ちた時よりも大きな音がする。

 その向こうでは……両足でしっかり着地したような音がした。

 ちくしょう、隆司の奴はしっかり受け身とったのね!? 運動神経いいのはわかってたけど腹立つー!


「あいたた……」


 まあ、何はともあれ起きないと。

 あたしは鼻をさすりながら、ゆっくり体を起こして……。


「………」


 目の前の、何とも受け入れがたい事実を目にする。

 ……どこの、セットでございますか?

 石造りの、おそらく神殿か何かなのだろう。支柱が規則正しく幾柱も立っているのが見える。

 あたしたちが今いるのは、魔法陣の上らしい。幾何学的な……これは、文字、かしら? とにかく、いろいろ書いてある大きな魔方陣の上に座ったり立ったりしている。

 そしてあたしたちの目の前に、顔の青いあたしたちと同い年くらいの少年がいて、その奥に十人くらい、神官のような服を着た人たちがいる。

 こいつらが、あたしたちを召喚したってことかしら?


「う、うーん……」

「大丈夫、礼美ちゃん?」

「う、うん。ありがとう、光太君」


 隣で光太に支えられて立ち上がる礼美も、目を丸くして周りをきょろきょろと見つめた。

 光太は礼美をかばうような立ち位置に移動して油断なく目の前の少年と、奥にいる神官たちをにらんでいる。

 で、隆司は……へっぴり腰のような体勢で目の前の光景を受け入れがたい様子で見ていた。どうでもいいけど、その体勢辛くないの?


「あ、あなたがたが……」


 とりあえず小石でもぶつけて隆司を再起動させるか、と周りを見回していたあたしの耳に、やや低めの少年の声が聞こえてきた。

 そちらを見ると、今にも倒れそうなほど顔の青い少年がこちらにふらふらと近づいてくるところだった。……っていうか本当に大丈夫なのこいつ? 近くで見ると、病人一歩手前って感じなんだけど。顔はいいだけに台無しねぇ。


「あなたがたが……勇者様、ですか……?」


 ……………。

 おーけー。お約束ですよね?


「ゆ、勇者?」

「勇者……ですか?」


 さすがに光太も礼美も困惑したような声を上げた。

 まあ、いきなりわけのわからないところへ呼び出されて、勇者呼ばわりされればねぇ。

 あたしが隆司の方を見ると、無事に再起動を果たしたらしいあいつと目があった。

 あたしたちは小さくうなずくと、黙って目の前の病人の次の言葉を待つ。


「ま、待ってください! 僕たちは――」

「お願いします! 私たちを……アメリア王国を御救いください!」


 光太が「勇者」の言葉の意味を思い出して何かを言うより先に、目の前の病人が地面に頭をこすり付ける。

 おー、見事な土下座の体勢。いきなりすぎて、光太も面喰って目を白黒してるし。これが演技だったら、見事なもんだわ。


「お願いします……! もう、すぐそこまで魔王軍が迫っているのです……!」

「ま、魔王軍……ですか?」


 魔王、の言葉に反応する礼美。

 すると、しゃらん、と衣擦れの音を立てながら、神官の中で一番偉そうなおじいさんが前に出てきた。

 おじいさんは病人の隣に並ぶと、自分も地面に深々と頭を下げた。


「はい、勇者様……今この国は、魔王の軍勢によって滅びる危機に直面しているのです……!」

「滅びの……!?」

「はい……!」


 光太が驚いたような声を上げるのを皮切りに、奥にいた神官たちが手に持っていた杖を次々と放り投げて、病人やおじいさんにならって地面に頭をこすり付け始める。


「どうか、どうか勇者様!」「この国を、お救いください……!」「もう、我々には手がないんです!」「どうか……!」


 あまりもその真剣な様子に、光太たちは困惑を隠しきれず。


「う、ふぐっ……!」


 おそらくは、必死にこらえていたであろう、病人のうめき声と、その顔の下に点々とついた染みを見て。

 二人の顏色が決意に染まる。

 光太が一歩前に出て、一番先に頭を下げた病人の肩を叩く。


「みなさん、顔をあげてください」

「……はい」


 顔をあげた病人の顏には、やはり幾筋もの涙の跡がついていた。


「僕には、皆さんの事情も、みなさんが僕に何を求めているのかもわかりません。でも、助けを求められているのだけはわかっているつもりです」


 その言葉に続くように、礼美が光太の隣に座り込んで病人の目の前に自分のハンカチを差し出した。


「どうか、涙を拭いてください。私たちに何ができるのかはわかりませんけど、皆さんのために精いっぱい頑張らさせてもらいます」

「勇者様……っ! ありがとう、ありがとうございます……!」


 病人は目の前に差し出されたハンカチを握りしめ、それを額に押し当ててまたうめくように涙をこぼし始めた。

 おや、礼美を前にしても頬を染めるでもないし、呆然とするわけでもないとは。よほどせっぱつまってるのかしら。それとも美的感覚の違い?

 そんな病人の様子を見て、光太と礼美は痛ましそうに顔をゆがめるが、すぐに決意の表情に戻って立ち上がる。


「……隆司」

「……真子ちゃん」


 そして振り向かぬまま、私たちの名前を呼んだ。

 大方私たちは何もしなくて大丈夫、だから安心してとかそういうことを言おうとしているのだろう。

 でもね、あんたら。


「みなまで言うな。だいたいわかるからよ」


 この状況は、あたしたちにとっても好都合なのよ?


「どーせ、この城でおとなしくしてろ、とかいうんだろ?」

「うん。隆司は、こういうのはあまり……」


 光太が二の句を告げるより先に、隆司の奴が光太を小ばかにしたように鼻で笑い声をあげた。


「おいおい! お前が知ってる辰之宮隆司は、こんな状況でダチをほおっておけるほど野暮な男だったか?」


 そして芝居がかった調子で、大仰な身振り手振りでそう告げる。

 いや、あんたが吹っ切れるとそういう面があるってのは短い付き合いでも知ってるけど……ノリがいいわねー。


「隆司……」

「心配すんな。いつもと何も変わらねぇ。やることしっかりやって、満足して帰ろうじゃねぇか」

「うん……!」


 力強さのこもった隆司の言葉に、光太の顏が感極まったように歪んだ。不安はあったのね、光太にも。

 男二人の暑苦しい友情劇を見届けたあたしは、横目に礼美の顔を見る。


「……礼美? あんたもまさか、光太みたいに考えてるんじゃないでしょうね?」


 礼美は当然といったような顔でうなずき、当たり前だといわんばかりの表情で口を開いた。


「だって、真子ちゃんは女の子だよ?」


 何たわけたことぬかしてるんだこの娘は。


「じゃああんたは何よ?」

「私は……私だよ」


 意味不明な抗弁を聞いて、一瞬頭に血が上る。私は私って、こいつ……!


「あんただって女の子でしょーが! 普通はあたしと一緒にお留守番する立場なの!」

「でも……!」


 思わず反射的に激昂するが、真剣な礼美の表情を見て、すぐに頭を冷やす。

 落ち着けあたし。今回は礼美の考えに反対するわけじゃないんだ。


「……はぁ。わかってるわよ。あんたが頼みごと、断るわけはないもんね」

「うん。だから……」

「で・も! あたしだけ留守番は納得できないわ!」


 あたしがそう言い放つと、礼美の大きな目がさらに大きく見開かれた。

 そんなに大きく開くと、目玉が落ちるわよ?

 だがそんな可愛らしい表情も一瞬で険しいものへと変わった。


「だめだよ!? 危ないんだよ!?」


 言うに事欠いて危ないと申すかこいつ。


「あ・ぶ・な・い・の・は・あんたも一緒でしょうがぁー!!」

「ひゃうっ!?」


 たわごとぬかすボケ娘の両頬引っ張って、これ以上何か言えないようにしておく。

 そうして痛みに涙目になる礼美の額に自分の額を押し付け、噛んで含めるように言ってやる。


「それにね……知らない場所で、あんたのことを一人っきりで心配するあたしの身にもなってよ……」

「まこひゃん……」

「大丈夫だって。男二人盾にして、後ろでのんびりしてたら、危ないこともないでしょ?」

「まこひゃーん……」


 あたしが笑顔でそう言うと、なぜか礼美の目がジト目になった。

 我ながらナイスアイデアだと思うんだけど、何かおかしいのかしら?


「まあともかく。あたしも一緒に行くわよ。あんた一人で男二人と一緒にもしておけないしね」

「光太君も隆司君もいい人だよ!?」


 うん。二人が悪人じゃないのは知ってるけどさ。

 女が言ういい人ってのは「どうでもいい人」って意味でもあるのよ?

 あたしらの意見がまとまったのを見て、おじいさんが一歩前に出てあたしらの顔を見回した。


「それで、勇者様……」

「はい。僕ら四人、このアメリア王国のために尽力を尽くさせていただきます」

「おお……!」


 四人を代表して光太がそういうと、神殿の中が一気に歓声で包まれた。

 本気で嬉しそうな声を聴いて、光太も礼美も嬉しそうに顔を綻ばせる。

 そしてあたしと隆司も顔を綻ばせる。いや、どっちかというとニヤリと歪める。

 正直あたしにとってアメリア王国とやらの存亡はたいした問題じゃない。

 もちろんなくなってもらっては困るので、問題解決に尽力はする。だがそれが最重要ではないのだ。

 あたしに……あたしと隆司にとって一番重要なのは、非日常的なこの状況そのものなのだ。

 頼るべき大人がおらず、知り合いもいない。その上見も知らぬ他人に頼られ、魔王軍とやらと一戦やらかさなきゃおさまらないこの空気……。

 あたしたちにとって、本当の意味で頼れるのも信じられるのも、あたしたち四人だけだ。こんな状況で、恋に落ちない男女はいない……!

 いわゆる吊り橋効果だ。もちろん、あたしと光太、隆司と礼美がくっつく可能性も残ってる。でもあたしは鈍感も天然も礼美だけで間に合ってるし、隆司と礼美がくっついてくれても別に問題ない。むしろ厄介な問題を隆司に丸投げできるので万々歳だ。

 隆司の方もそう思っている可能性は高いので、当面は光太と礼美をくっつけることに腐心することになるだろうが。

 勇者として奉られ、病人――どうやらこの国の王子様らしい――から詳しい話を聞いている光太と礼美の後ろで、あたしと隆司は目線を交わして今にも高笑いをあげそうな顔で笑みを深めた。




―異世界ラブコメキタァァァァァァァァァァァァ!!!!―




 今、悪い顔してる真子ちゃんと隆司君には誰も注目してません。

 それよりも勇者してる光太君と礼美ちゃんの方が目立つからです。

 次は病人(王子様)から状況説明の回となります!

 早くストーリーを進めたい……!


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