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No.195:side・ryuzi「報告と説明」

「はーい、それじゃあ、私が発見したものに関して、報告と説明を行うわよー」

「うぇーい」


 どっかの穴倉に潜っていたらしい真子が帰ってきて速攻で俺たちを会議室へと集めた。

 自分で言った通り、報告と今後に関しての説明を行うんだとか。


「報告か……真子ちゃん、何を見つけてきたのかな?」

「さあなぁ。今更何を見つけてこれるってんだ?」

「………」


 光太と囁き合いながら、ぐったりと椅子にもたれかかったソフィアの隣に座る。

 途端、ガタガタと椅子を鳴らしながらソフィアが俺から離れた。


「………」

「………」


 俺も椅子を鳴らしながら、ソフィアが逃げた分だけ近づく。

 すると、今度は倍くらいの距離ソフィアが逃げる。


「………………」

「………………」


 再び、ソフィアを追う。

 ソフィア逃げる。


「「 … … … … … … 」」


 ガッタガタガタガタガタガタ!!!!


「なんで逃げるんだよソフィアー」

「来るなケダモノォ!!!!」


 椅子を鳴らしながらソフィアと会議室の中を追いかけっこする。

 半泣きになりながら逃げるソフィアもかわいいなぁ。

 ひょっとしたら、椅子から降りて追えば追いつくだろうと考えている諸兄もいるかもしれない。

 だが、こういうのは対等な条件で追いかけっこするからおいしいんだろうが!

 だからそういう電波はぜひソフィアの方へと飛ばしてやって――。


「え、ちょ、二人とも……!?」

「ああ、もう。痴話喧嘩はそこまでにしときなさいって」

「うわっ!?」

「ごべっ」


 と、俺たちの行動を見かねた真子が指パッチンひとつでソフィアと俺を転移する。

 ソフィアは自分の隣で、俺は部屋の隅っこにわざわざ逆さまにして落とされた。

 ……まあ、パッチン一発で真っ二つにされなかっただけ良しとしとくか。


「ソフィアも。このバカがあんたのそばにいたがるなんて、いつもの事でしょうが」

「う~!!」


 真子がなだめるも、ソフィアは俺を睨んで歯をむき出しにして威嚇する。

 フ。ソフィアがそんな顔をしてもかわいいだけなんだぜ。むしろ俺にとっては栄養なんだぜ!!


「いや、隆司も。なんかソフィアさんが嫌がってるっぽいから、その辺にしておきなよ? 話も進まないしさ」

「いやがるソフィたんもよしッ!」

「何が良しだぁぁぁぁぁ!!!」


 俺がぐっと親指を立てると、ソフィアが手近なイスを投げつけてきた。

 俺はそれを軽く受け止め、そのまま上へと放り投げる。


「もー。ソフィたんてばお転婆☆」

「ガルルル……!」

「……もうほんと話が進まないから、いい加減にしてくんないかしら……?」

「はっはっはっ、めんごめんご」


 謝る俺を見て、真子はこれ見よがしにため息をつく。

 んー、さすがにふざけすぎたかね。

 綺麗に椅子が着地するのを待ってから、俺はその椅子に改めて座りなおした。


「じゃあ、はじめようぜ」

「あんたが引っ掻き回したんでしょうが……」


 俺の音頭を受け、真子が恨みがましい視線をこっちによこしながらも改めて説明を始めた。


「……結論から言うけれど、向こうにわたるための手段は何とか確保できそうよ」

「ん、そうなのか?」


 ソフィアが首をかしげると、真子は小さく頷いて返した。


「一応ね。問題は、その手段を用意するのに時間がかかりそうってことなんだけど」


 時間がかかるの言葉に、光太が真剣な表情で真子の顔を見つめた。


「……時間って、どのくらい?」

「それもちょっとわからないのよね……」


 難しい顔をしながら、真子はどこからともなく取り出した水晶の中に何かを映し出した。

 妙に幾何学的な形状で、ファンタジックなこの世界に似合わないこと甚だしい物体だが。


「これが、今日、あたしが探しに行ったものなんだけど」

「……なんだこれ。宇宙船か何かか?」

「そのとおりよ」


 冗談半分で口にした言葉を肯定されて、俺は目が点になる。


「……マジで?」

「マジで。より正確には、超巨大移民船の中にある、探査船なんだけどさ」

「なんでそんなものがこの国にあるかはともかく……この船を使うの?」

「んー、それがこの国の地下に埋まってるから……」

「……あの、すまない」


 と、なんだか俺たちの話についてこれていない様子のソフィアが、申し訳なさそうに片手を上げた。

 そうして水晶球の中に浮かんでいる宇宙船を指差して、首をかしげた。


「これが、船?」

「……まあ、見慣れないとは思うけど一応」

「いやだってこれ、帆も舵もないように見えるんだけど……」


 あー、この世界で船っていえば、普通帆船だよな。

 光太がどう説明したものかと、頭を掻きながら、宇宙船の後部についているブースターらしい部分を指差す。


「えーっと、ソフィアさん。この後ろについてる部分から火を噴いて進むんですよ、この船は」

「……え? え? どういうこと?」

「あー、そのー……」


 やっぱりというかなんというか、この手のオーパーツに関する説明はソフィアには厳しいよなぁ。

 俺は光太の肩を叩いて、首を横に振った。


「いや、もう説明しない方が早く済むんじゃねぇの? ソフィたん、とりあえずこれに関する説明はあとに置いとこうぜ?」

「ソフィたん言うな。だが、貴様の言うとおりだな……すまない。話の腰を折った」

「気にしなくていいわよー。当然の疑問だろうし」


 ソフィアの謝罪に鷹揚に頷いた真子は、説明の続きを再開した。


「……まあ、ソフィアがこんな調子なことからわかると思うけど、これをそのまま使うわけじゃないわ」

「それじゃあ、どうするの?」

「機構やらなんやらを参考に、この世界の技術で移動用の乗り物を開発しよう、って話になったのよ」

「え、それ大丈夫なんか? 主に製作時間的な意味で」


 もし仮に、これをそのまま作るとか言い出したら、製作期間一ヶ月とかじゃきかないだろこれ。

 だが、俺の懸念は当然真子の頭の中にもあったようだ。


「当然駄目よ。時間が足りなさすぎるもの」

「いや、それではだめだろう!?」

「だからね? 今ある船を改造しようって話に落ち着いたのよ」

「あー、なるほどねぇ」


 真子の説明に、俺は納得したように頷いた。

 元あるものを改造するだけなら、一から開発するよりは時間はかからねぇだろ。

 空を飛ぶとなりゃ、そう単純な話にはならねぇだろうけど、魔法があるならそれで何とかできるだろうし。


「ちなみに、どこで作ってんだ? 王都にゃそんなにでけぇ海湖(ソルト・レイク)はないはずだろ?」

「ヨークで作ってもらってるわ。現地には、陣頭指揮を執ってもらってるギルベルトさんと向こうの船大工との交渉役としてアルト王子に向かってもらってるわ」

「お前、仮にも王子を使いっ走りみたいに使うなよ……」


 アルトを交渉役に向かわせているという一言に、思わず俺の顔が引きつる。

 だが、真子は大して気にした様子もなく肩をすくめた。


「別にいいでしょ? そもそも、今の王子には何かしら専念できる仕事があった方がいいでしょうし」

「……だろうな」


 ……アンナがさらわれてからのアルトの憔悴具合はひどいものがあったからな……。

 自分が王都から離れていたから、アンナが攫われてしまった、みたいなことを考えている節があった。

 今はとにかく、余計なことを考えさせないようにしないと……。変に思いつめたら、とんでもないことしでかしそうだ。戦争の真っただ中でアンナに王位を譲るとか言い出すくらいだし。


「うん、そうだね……その方が、いいよね」


 そして、同じように礼美が攫われてから相当追いつめられていたはずの光太は、いつの間にかどこか吹っ切れたような雰囲気を醸し出していた。

 俺がソフィアと戯れてる間に何かあったかね? まあ、持ち直してんなら別にいいけど。


「そうか。その船の改造に、どれほどの時間がかかるかの予測がつかないというわけなのだな」

「その通りよ。予想としては、一週間前後なんだけどね」


 ……ふーむ。一週間も手持無沙汰とはな。


「……いそがねぇとまずいんじゃねぇのか? ガルガンドが向こうに戻ったってことは、少なくとも必要なものは全部そろっちまったんだろ? 神位召喚とやらにどれだけの準備期間がかかるかわからねぇが、早いに越したことはねぇだろ?」

「そうだけど、現実問題として向こうへの移動手段がなきゃ、どうしようもないでしょ?」


 それはそうなんだが、神様とやらとバトる前にどうにかしてぇんだよな。どうせろくなことにならねぇだろうし。

 と、何かを思いついたらしい光太が手を上げて提案してきた。


「……少し思ったんだけど、真子ちゃんの混沌言語(カオス・ワード)で向こうに渡るのはだめなのかな?」

「ん? 言われてみりゃ、そうだな。真子の混沌言語(カオス・ワード)があるんじゃねぇか」


 混沌言語(カオス・ワード)魔術言語(カオシック・ルーン)と違って、魔法ではありえない事象を引き起こすことができる。

 騎士団と魔王軍を竜の谷の向こう側に飛ばすくらいは楽なはずだが……。


「あー、それねぇ……」

「竜の墓場の近辺では、ほとんど魔法が使えんのだ」


 ナイスな光太の提案に、まず真子が気まずそうな顔になり、そしてソフィアがその理由を口にした。


「魔法が使えない……?」

「そりゃまたどうしてだ?」

「……理由は不明だが、竜の墓場には、濃厚な覇気が充満していて、それがどういうわけか魔法の発動を阻害するのだ」


 濃厚な覇気が……? 源理の力には源理の力を防ぐ力があるが、魔法にまで作用するもんか?

 真子の方を窺うと、真子は難しい顔で頷いて見せた。


「この場合は、魔法というよりは魔力の方に作用してるんだけどね。覇気と魔力が相互干渉を起こして、魔法の発動が阻害されてるみたいね、この場合は」

「なるほど、そういう理由だったのか」


 真子の説明に、ソフィアが納得したように頷いた。

 魔法不発の原理が解明できて、なんだかうれしそうだな。


「……うん、それなら、大丈夫かな」

「あん? 何がだ?」

「いや、実は試したいことがいくつかあったから、あんまり早く向こうに行っちゃうと困ってたから……」


 そう、照れたように笑う光太。

 ふーん、こいつが試したいこと、ね……。ひょっとして、礼美を助けるために発奮してんのか?

 もしそうなら、小躍りしながら赤飯炊くレベルだが……ねぇわな。

 俺はあきらめたように首を横に振りながら、光太にツッコミを入れる。


「じゃあなんであんな提案すんだよ」

「移動手段の作成途中で気が付いちゃうと、突貫工事的に向こうに行くことにならない? まあ、無理だったわけだけど」

「ありえる……」


 仮に可能であれば、今すぐに行くって流れになってたろうしな。ソフィアも、ガルガンドの所業にはトサカに来てたみたいだし。


「……では真子。報告と説明は以上でいいのか?」

「――ああ、最後に一つ」

「ん?」


 ソフィアの確認に、真子はそう言った。

 だが、その一言が妙に緊張しているように聞こえた。

 思わずいぶかしむが、とりあえず真子の言葉を待つ。


「―――実はね」


 しばしの沈黙ののち、真子はこう言った。


「あたしがこの宇宙船のデータを見つけた場所で、ガルガンドの名前が見つかったのよ」

「……はぁ?」


 その言葉のあまりの突拍子のなさに、驚愕よりも先に呆れてしまった。

 っていうか、ガルガンドの名前が宇宙船の中で見つかるとか、どういうことだよ。


「どういうことだ?」

「あたしにもわかんないのよ……。単なる偶然か、あるいは……」

「あるいは?」

「……あるいは、あたしらが考えてる以上に、今回の事件の根が深いのか……」


 真子は疲れたように首を振る。


「……ごめん、うまく考えがまとまってないの。報告はするけど、この件に関する結論は、少し待ってもらっていい?」

「……もちろんだよ、真子ちゃん。ゆっくり、考えてね」


 戸惑っている真子に、そう優しく語りかける光太。

 真子の事は光太に任せながら、俺はソフィアの方に近づいて行った。


「近づくな、ケダモノ!」


 フーッ!と威嚇してくる。まだ今日のハグの事は許してもらえないらしい。結構ねっちりやっちまったからな。仕方ないっちゃ仕方ない。

 しかし……うむ。怒った顔もまた素敵。まあ、それはともかく。


「で、ソフィア。このことに関しては、どう思う?」

「ぬ……」


 ソフィアは何故か俺の質問に戸惑ったような声を上げる。


「? どうした?」

「い、いや、なんでも! ・・・・・(いつもこう)・・・・・・・(真面目なら私も)・・・」


 何かぶつぶつ言っていたようだけど、すぐにソフィアは首を横に振った。


「私にもわからない。そもそも、ガルガンドはマルコが作った死霊術師(ネクロマンサー)だ。マルコが指示を出して、その指示で動いているはずなのだ」

「ふぅむ」


 結局、真子が持ち帰った情報は、真子の予測頼りになるか……。

 仮にガルガンドがマルコのいうことを聞いているなら……マルコとやらの目的は、いったいなんだ……?

 俺は魔王国のあるであろう方向を、ちらりと見る。

 夜に差し掛かろうとしていたアメリア王国に刺す夕日が、いやにまぶしく見えた……。




 報告と説明パート、終了。

 そして、マルコと礼美ちゃんが対面いたします。

 以下、次回。


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