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No.189:side・mako「遺跡へGO!」

「それで、マコ様……」

「なに?」

「ここに、魔王国に向かうための秘策があるのでありますか?」

「一応ね」


 会議が終わって翌日。あたしはサンシターを伴って、王城の地下にある錬金研究室へとやってきていた。

 会議は魔王国へ向かうという方向で固まったけれど、そのための方法がない、という問題が持ち上がってしまった。

 もともと魔王軍が使っていた移動手段である翼竜は、たぶんガルガンドたちが持って行ってしまっただろう、と推測される。わざわざ移動手段を残してやるほど、あの爺も優しくないだろうし。

 そこであたしは心当たりがあると皆に告げ、そのための準備期間が欲しいことを伝えた。

 みんな、一応は納得してくれたけれど、半信半疑って様子だったわねー。

 まあ、この国には大隊規模の人間を一気に運んでくれるような巨大生物はほとんどいないものね。デンギュウなら行けるんでしょうけれど、空は飛べないから深い渓谷を渡るのは不可能ね。

 まあとにかく、その心当たりを確認するために、私とサンシターはこの錬金研究室までやってきたわけだ。

 この部屋の主であるギルベルトさんは不在なのか、部屋の中に姿が見当たらなかった。


「ギルベルト様は……どちらかへお出かけでありますかね?」

「いやー、王城の中にいないっぽいし、たぶん違うわね」


 あたしはサンシターにそう答える。

 ちなみに当てずっぽうじゃなく、無言詠唱で城内の人間の位置やらその人物やらを調べているわよ?

 ……っていうか隆司のやつ、なんで尖塔のてっぺんで寝てんのかしら……?


「ではいったいどちらに? 城下の方へと向かわれたのでありますかね?」

「あの引き籠り魔導師が自分から外へ出ること自体があり得ないわね」


 あたしは目的のものを探す。

 魔力で動いてるはずだから、あたしの感知にも引っかかるはず……。


「では、いったいどこに?」

「それはね……っと、見つけた!」


 逆さに置かれた箱やら、乱雑に広がった書類やらをひっくり返し、あたしはようやく目的のものを見つける。

 それは木枠で覆われた卵形の光輝石(マナクリスタル)。その中には、転移のための魔術言語(カオシック・ルーン)が刻まれているのが見える。

 よーし見つけたぞ、転移用の魔法道具……。これは二つ用意しないと転移できないタイプみたいだけど、安定度は前にギルベルトさんが用意した奴よりも全然いいみたいね。

 あたしの肩越しに、サンシターがその物体を不思議そうな顔で見つめた。


「これが、マコ様の心当たりでありますか?」

「さすがにこれじゃないわ。これを使った先にあるのが、あたしの心当たりよ」

「はあ……」


 曖昧に頷くサンシターの手をむんずと掴み、転移道具にグイッと押し付けた。


「ちょ、マコ様!?」

「転移開始っと……」


 喚くサンシターをよそに、あたしは光輝石(マナクリスタル)の中の術式を起動させる。

 次の瞬間、あたしたちの体は錬金研究室ではないどこかへと転移していた。


「………え? え? どこでありますかここ」


 周囲の景色が突然変わったことに驚き戸惑うサンシター。

 光輝石(マナクリスタル)による明りで充実していた錬金研究室と違い、ここはかなり暗い。

 明かりは今あたしたちの足元にある転移用魔方陣から放たれるものだけ。

 さらに外観も全く異なる。石造りでまさに古風なお城といった感じの錬金研究室から一転、あたりは無機質な素材で覆われている。触ってみるとわかるけれど、これは合金素材っぽいわね。

 装飾というか、見た目もむしろ近代よりも近未来っぽくて全然落ち着かない……。


「な、なんでありますか、ここ……。全然見たことがない、って、あ」


 と、時間が来てしまったのか、転移魔方陣から明かりが消える。

 あわてず騒がず、あたしは明かりをつけるための魔法を唱える。


出でよ紅き霊王(サモン・エリクシル)


 呼び出す紅玉は一個。明かりとして十分な光が、紅玉から放たれる。

 ……しまった、びっくりしたふりしてサンシターに抱き着けばよかった……。


「あ、ありがとうございます、マコ様」

「いいって別に。……それより、ギルベルトさんはどこにいるのかしら」


 あたしは紅玉で辺りを照らす。

 あたしたちが転移してきたのは、そこまで広い部屋じゃない。

 転移用の魔方陣を除けば、ほとんど装飾らしい装飾もなく、壁にはモニターらしい物体と、そのそばには制御用のパネルも見える。

 ……グリモさんから聞いてはいたけれど、実感わかないわねぇ、こういうの。こっちの生活がそれなりに長引いてるから、違和感も強いし。


「でも、なんだか不気味であります……。まるで、異世界に来てしまったような……」


 と、こういうものに馴染みが全くないサンシターが、怯えたように体を震わせた。


「あー、サンシターには馴染みないわよねぇ、こういうの」

「えっ?」


 納得したように頷いたあたしを見て、サンシターが驚きの声を上げる。


「マコ様……ここがどこなのかご存じなのでありますか!?」

「いや知らないけど。まあ、異世界じゃないことは確かよ」

「え、そうなのでありますか……? それにしては、なんていうか……」


 相変わらず怯えたままのサンシターは、不安げに周囲を見回す。

 ……じゅるり。


「……マコ様?」

「ハッ!? え、なに!?」

「あ、いえ。ここは結局どこなのでありますか?」

「あ、ああ、えーっと……」


 怯えたサンシターの小動物的な気配に思わず見とれてしまった……。

 こういうとこもいいわよね……。

 まあ、それはともかく。


「ここはね……」

「くっそぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!」


 あたしが説明しようとした瞬間、野太い男の声があたりに響き渡り、サンシターがビビッて飛び跳ねた。

 ん、あー。いたいた。


「い、今のは誰でありますか!? 我々のほかにも、ここに……!?」

「落ち着きなさいよ。今のはギルベルトさんの声よ」

「え……あ、言われてみれば」


 必要以上にビビるサンシターをなだめながら、あたしたちはこの部屋を出ることにする。

 扉は無理やり全開にされたかのようにこじ開けられ、セメントのようなよくわからない物体で固定されていた。

 ……やっぱり動力は生きてない、か。


「落ち着いてください、ギル。調査が滞るのはいつものことじゃないですか」

「わかってる! だがここでつまずいてもう一週間近いんだぞ!? いい加減開けぇぇぇぇぇ!!」

「叫んだところで開くとも思えませんが」


 声のする方向から、さらに涼やかな女性の声も聞こえてくる。

 これは……メイド長の声ね。


「……お二人はここでいったい何をしているのでありますか?」

「少なくとも逢引じゃないわねー」


 あたしは軽口を飛ばしながら、彼らのいる方向へと歩みを進める。

 しばらく歩くと、大きな扉の前でがっくりとうなだれているギルベルトさんと、その煤けた背中をよしよしとあやしているメイド長の姿が見えた。


「元気出してください、ギル。少なくともここまではこれたじゃないですか」

「そうはいってもお前、ここに来るまで半年近くかかってるんだぞ……。転移装置がようやく完成して、さあこれからって時に……ん?」


 紅玉の明かりに気が付いたギルベルトさんがこちらの方へと振り返った。


「ヤッホー、元気してる?」

「ど、どうもであります」

「お前ら……どうしてここに!?」


 ギルベルトさんが立ち上がり、あたしたちに指を突き付けてきた。

 ちょっとイラッとしたので、すっと近づいて指の関節を逆の方向に曲げてやる。


「あだだだ!?」

「どうしてと聞かれれば、ギルベルトさんが作った転移装置で?」

「そういうこと聞いてるんじゃ、がぁぁぁぁぁ!?」

「マコ様、もうそのあたりで」


 関節極められて獣のような咆哮を上げるギルベルトさんを見て不憫に思ったらしいメイド長の仲裁に、あたしは素直に従った。

 あたしが指を離すと、ギルベルトさんは涙目になりながらこっちを睨みつけてきた。


「えぇい、いったい何をしに来たんだ! こっちは今忙しいんだぞ!?」

「それはこっちもですよ。早急にこの遺跡の中で、使える部分を使って魔王国にまで行かなきゃならないんですから」

「え、遺跡? ここって、遺跡なのでありますか?」


 あたしの言葉を聞いて、サンシターが驚いたような顔になる。

 そんなサンシターの反応を見て、メイド長も驚いたそぶりを見せた。


「サンシター様、何もご存じではないのですか?」

「ええ。マコ様に連れられてここまで来たのでありますけど」

「もう少し、自分の行動の意味というか、そういうのを知る努力をしろお前さんは……」


 サンシターの言葉に呆れたように首を振り、しかしながら説明できるのがうれしいのか目を輝かせながらギルベルトさんが立ち上がった。


「仕方ない! 某が説明してやろう! ここは――」

「この場所は、太古の昔、アメリア王国よりも前に存在していたと思われる先史文明の遺跡です」

「フフフ……わかっていたさ、わかっていたとも……」


 けれどその説明をメイド長にとられ、何かをあきらめたように壁に手をついて黄昏るギルベルトさん。

 まあ、お約束よね。


「アメリア王国よりも以前? いったいどれほど前なのでありますか?」

「さてそこまでは……ギルの調査も、遅々として進んでおりませんし」

「お前某のこと嫌いだろう」

「そんなことはありませんよ?」


 睨みつけてくるギルベルトさんの視線を涼やかに受け流すメイド長。

 ギルベルトさんはしばらくそうして睨みつけていたけれど、あきらめたようにため息をついて説明を始めた。


「……レーテが言ったように、この遺跡がどれほど前のものなのかはわかっていない。少なくとも、アメリア王国が建国されてからの記録がない以上、この国よりもずっと古いのは確かだ」

「ずっと……でありますか。なぜ、そのようなものがこんなところに……?」

「それもわからん……何しろ、ほとんどの扉が閉じっぱなしになっていて、開けることもままならん。お前さんがたが出てきた転移場所の扉も、止む無くこじ開けたくらいだからな……」


 疲れたような溜息を吐くギルベルトさん。実際疲れてるんだろう。何の資料もなしに、明らかに技術が発達している遺跡を、ほぼ一人で解析しているのだから。


「とりあえず、目についた扉を片っ端から開こうとしているのだが、鍵穴もない取っ手もないで、文字通りとっかかりがないのだ……」

「いや、それでもギルベルトさんはすごいわよ」

「む……?」

「だって、グリモさんからのあやふやな依頼で、少なくともこの遺跡までの転移ルートは確立したんですもの。普通なら、そこでリタイアするわよ」

「そ、そうか?」

「そうよそうよ。ほかの魔導師ならあきらめるところを、あなたはここまでやってきた。ほかの誰にもまねできないわよ、こんなこと」

「さすが、アメリア王国一の錬金術師ですね」

「ギルベルト様サイコー!」

「そうかそうか! うむ、そうだよな!」


 あたしたちのおだてに乗って一気に回復するギルベルトさん。

 チョロすぎる……。


「申し訳ありません、お二人とも」

「いえ、急いでいるのは事実ですし……」

「自分、太鼓持ちは得意でありますから……」

「ん? どうかしたのか?」

「「「いいえ、なんでも」」」


 復活して元気になったギルベルトさんに、あたしはここに来た経緯を説明する。


「……ってわけで、とにかく時間がないのよ」

「そんなことになってるのか……。王都の騒ぎが終わった後はすぐにここに戻ったからな……」

「で、必要なものがここにあるはずなんだけど、あたしが調べてもいい?」

「それは構わんが……大丈夫か?」

「大丈夫よ。今のあたしにはこれがあるし」


 そういって胸の宝玉を示して見せる。

 ……もちろん、根拠はこれだけじゃない。たぶん、ここの解析はあたしじゃなきゃ無理だろう。


「それじゃ、さっそく……風王結界(レークス・ウェントス)!」


 風を操り、遺跡全体の構造を解析する。

 極めて大きく、広く、そして深い位置に沈んでいる。

 その広さは、アメリア王国王都の敷地を覆ってそれでも余りあるほど。

 その大きさ、そして深さはもはや一つの大陸かと錯覚させるほど。

 そしてその形は……まるで外宇宙を航行す(・・・・・・・・・・)る宇宙船のようだった(・・・・・・・・・・)


「やっぱりね」


 みんなに聞こえないように呟きながら、あたしは戦艦で言えば艦橋にあたる部分を探す。

 きっと、そこに答えがあるはずだから。




 アメリア王国の地下にあった巨大な遺跡は……宇宙船だった!?

 はたしてそこで真子は何を探すのか……。

 一方、光太は深く沈んでいた。

 以下、次回。


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