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No.186:side・Sophia「魔族という存在」

「どうぞであります、魔竜姫様」

「ああ、すまない」


 マコの謎の発言の後、小休止ということで丁稚らしい男が会議室にいる全員に、メイドと手分けして菓子と飲み物を配っていく。

 紅色の液体が、木製カップの中で小さく湯気を立てる。紅茶、と呼ばれる飲み物らしい。一緒に配られた、ケーキなる菓子と相性の良い飲み物だとか。

 全員に配り終えたのを確認した丁稚は一礼し、メイドと一緒に会議室を退出していった。

 ……それにしても、どうして丁稚が騎士団の制服を着ているのだ?


「さてと。会議は休憩するけど、質問は受け付けるわよー」

「ほい、じゃあ俺から」


 ケーキをおいしそうに頬張るマコの言葉に、さっそくリュウジが手を挙げた。


「はい、リュウジ」

「さっきの情報生命体、って発言だけど、それって宇宙人が作った対有機生命体コンタクトなんちゃらと同じでいいのか?」

「あれとは別物よ。どっちかといえば、その親玉のほうが概念的には近いわよ」


 ……奴の言っていることの意味が分からない以上、奴の質問には意味がないも同然だったな。

 私はため息を一つ付き、手を挙げた。


「お、ソフィア? なにかしら?」

「……魔族が情報生命体という話だが、そもそも情報生命体とはどういう存在だ?」

「言って字のごとく、よ」

「真面目に答えてくれ」


 マコの言葉に、私はため息をつく。

 彼女の言うとおりだとするのであれば、情報生命体とは、文字や数字といった媒体によって伝達される存在ということになる。

 いくらなんでもそんな生物がいるわけなかろう。


「んー、真面目に説明するとなると、割とこの世界の根っこに突っ込むことになるんで、長くなるけどOK?」

「……むしろ興味があるねぇ。あんたの胸の中の混沌玉(カオス・オーブ)とやらに関しても」


 ラミレスが、興味深げにマコの胸元の水晶球に視線を送る。

 魔導を伝える存在であるラミレスにとって、名称からして魔導に関わっていそうな混沌玉(カオス・オーブ)は強い興味を引くのだろう。


「んー、そうねぇ」


 ラミレスの言葉を受け、マコは周りをぐるりと見回す。

 周りの全員、特別反対意見もなくマコの視線を受け入れる。……二名ほど、まともな反応を返さなかったが。


「……わかった。じゃあ、命の定義から話すわね」

「本気で長くなりそうだなオイ」


 リュウジが口元をひきつらせた。

 私も、まさか命の定義から始まるとは思わず、口元が引きつる。

 だが、私たちの反応など意に介さずマコは口を開いた。


「――命の定義ってのは、世界ごとに異なるものだけど、この世界の場合は三つの定義が存在するの」

「三つぅ? 生きてるかどうかなんて、心臓が動いてるかどうかくらいなもんだろ」

「それは肉体的な定義ね。より強く、より頑強な肉体を持っていれば命であるっていう定義よ」


 団長の言葉にうなずきつつ、マコは指を二本立てた。


「それとは別に、もう二つ命の定義があるの」

「……その定義とは?」

「うち一つが思考の定義」

「思考の定義?」


 ヴァルトの言葉にそう言って、マコは指を折る。


「この定義は、思考実験を繰り返し、世界法則をコントロールできるほどの演算能力を持つ者は命であるとするもの。あたしの言っている魔族がそれに相当するわ」

「思考実験……? 演算能力……?」

「つまりあれか。たとえ無機物でも、考える能力を持ってたらそれは命だってことか?」

「そういうことね」


 またわけのわからない単語に混乱する私でもわかるたとえを、リュウジが出した。

 なるほど、そういうことなのか……。だがしかし納得はいかないな。


「無機物が命などと、そんなことがあり得るのか?」

「ありえるわ。だって、あなたたちの目の前に実例がいるんだもの」

「……え?」


 私の言葉に、マコは自分を指差した。


「今はあたしがこの世界唯一の魔族だもの」

「……待て。それはおかしい」


 マコのあまりの説明に、思わず頭を抱えてしまう。

 馬鹿なことを……。肉の体を持つ人間が、無機物だなどと……。


「では目の前をご覧ください」

「ん……?」


 マコの言葉に顔を上げる。

 そこには、両手を大きく広げ、私たちに見せつけるように、テーブルの中ほどまで体をめり込ませたマコの姿があった。


「ぬ、ぶ、あぁっ!!??」

「ば、ばかな……!?」

「おいおい、どうなってんだ!?」


 のけぞる私に、驚愕するヴァルト。

 騎士団長など、テーブルの下から覗き込んで、種を暴こうと必死になっている。


「残念ながら、種も仕掛けもないわよー」


 手品か何かだろう、と高をくくる我々をあざ笑うように、マコはそのまま歩いて見せる。

 マコの体はテーブルに引っかかることもなく、するりとすり抜け前進していく。

 当然、テーブルに穴など開いていない。

 あまりのことに硬直する我々を置いて、マコはテーブルからするりと抜けだし、振り返る。


「どう? 信じてもらえた?」

「いや、信じるも何も、わけがわからん!? なにがどうなってるんだ!?」


 平然とのたまうマコに対し、私はたった今マコがすり抜けて見せたテーブルをたたいて抗議した。

 うむ、確かに硬い。樫の木か何かを使ったしっかりした造るの立派なテーブルだ。


「こんなテーブルを、肉を持った人間がすり抜けてたまるか! 何か魔法を使ったのだろう!?」

「いや、今マコからは魔力を感じなかったよ。詠唱も聞こえなかった。あの子は、間違いなく素のままでこいつをすり抜けて見せたよ」

「なら余計にわからんわ!」


 おそらくこの中で、一番魔導に長じているだろうラミレスの言葉に、私はさらにテーブルを叩く。

 魔法なしで、こんなテーブルをすり抜けてたまるか! よしんばできたとしても、テーブルのほうが無事ではない!


「まあ、落ち着きなさいって」

「誰のせいかぁ!!」


 混乱極まる私の肩を、何とも気軽にマコがポンと叩く。

 その気安さが、あまりにもよく知っているものだったので、私は遠慮なく裏拳をマコの側頭部に叩き込む。

 ミミルにいつもやるように、よけられること前提の一撃を。

 マコの驚いたような顔が見え、彼女がよけられないことに気が付く。


「しまっ!?」


 あわてて拳を引っ込めようとするが、勢いのついた拳は止まらない。

 このままではマコの頭が砕けるか、よくても頭の中がぐちゃぐちゃに――!


 スルリ。


 ――なるかと思った瞬間、私の拳は勢いよくマコの頭を通り過ぎた。


「ぬわ!?」

「あっぶなー。あたしかリュウジじゃなきゃ、死んでるわよこんなの」


 頭を拳が通り過ぎて行ったマコは、私の拳を見ながらのんきにそんなことをのたまう。


「? ? ?」


 訳が分からず、マコの顔と自分の拳を見比べる。

 マコの顔は、きちんと肉のある質感が見て取れるし、私の拳が霞になったわけではない。

 思わず、マコの顔をペタペタ触る。


「ちょっと。くすぐったいじゃない」


 マコは身をよじりながら、本当にくすぐったそうにそう言った。

 うん。ちゃんと、ある。幻術の類じゃない。


「本当になんなんだ……?」

「からかってごめんね。でも、実体験したほうが、わかりやすいでしょう」


 マコはいたずらが成功した子供のような表情になりながら、元の席へと戻っていく。

 拍子抜けしたように椅子に座りこむ私と、楽しそうな顔で席に戻ったマコとを見比べ、リュウジが首をかしげながら問いかけた。


「……つまり、お前は実体のあるホログラムか何かなのか?」

「まあ、その考え方が一番近いと思うわ。もっと正確に言えば、混沌言語(カオス・ワード)で人間だったころのあたしの情報をこの混沌玉(カオス・オーブ)を中心に再現してるの。ソフィアの拳をよけたり、テーブルをすり抜けたときは、見た目だけ再現したってわけ」


 そういってマコは胸元の水晶球に手をかざす。

 マコの行動に反応するように、混沌玉(カオス・オーブ)が淡く明滅した。


混沌玉(カオス・オーブ)の能力は、混沌言語(カオス・ワード)による情報の蓄積と演算。その演算能力を利用して今あたしがやってるみたいに情報を再現したり、混沌言語(カオス・ワード)を使った法則の書き換えをできるようになるっていうのがこれの能力よ」


 ……やはりさっぱりわからない。それが無機物生命体と、どういう関係が……?

 と、リュウジが手のひらを叩いた。


「ああ、そういうことね」

「そう。そういうことよ」

「おいまてって。二人で分かり合ってないで、きちんと説明しろよ」


 何らかの相互理解を得たらしい二人に、騎士団長が割って入る。

 うん。ぜひ説明してほしいんだけど……。

 リュウジはしたり顔で頷きながら、口を開いた。


「さっきの命の定義を思い出せよ、団長」

「さっきの? 確か、思考実験やら演算能力がどうとかいうあれか?」

「そうそれ。マコの言葉が本当なら、混沌玉(カオス・オーブ)の持ってる能力は命の定義にあてはまるんじゃねぇの?」

「―――あ」


 言われて気が付く。

 マコの言葉は、確かにさっき彼女が話して見せた命の定義に通ずるものがある。


「じゃあ、なにか? 魔族ってのは混沌玉(カオス・オーブ)で構成された生命体だったってのか?」

「そのとおり」


 半信半疑な様子の団長に、マコは拍手を送った。


混沌玉(カオス・オーブ)を核に、混沌言語(カオス・ワード)を使って演算を繰り返し、その果てに世界というものの答えを導き出そうとしていた存在……それがかつて存在していた魔族ってわけ」

「……信じられん。本当にそんな生き物が存在したのか……?」


 いまだにマコの言うことが信じられない。

 そんな私を見て、マコは軽く肩をすくめた。


「ま、そう簡単に信じてもらえるとも思ってないわ。今は、私は「混沌言語(カオス・ワード)で構成された無機生命体」だってことだけ信じてもらえればいいの」

「うん、まあ、それなら……」


 目の前で散々見せつけられた私は、とりあえずそれだけはうなずいておく。

 と、リュウジが手を挙げた。


「じゃあよ。最後の一つの命の定義ってなんなんだ?」

「それは意志の定義。強い意志を……それこそ運命を曲げてしまうほどに強い意志があれば、それは命と定義できるってもの」

「へぇー…………ん?」


 最後の命の定義を聞き、感心したように頷いたリュウジが何かに気が付いたように首をかしげた。


「肉体に、情報演算に、意志……? なんか引っかかるような……」

「ちょっと言い換えましょうか? 体に、言葉に、意志っていう風に」

「……!」


 そこまで言われれば、私にもわかる。

 命の三つの定義、それは……!


「命の定義とは、源理の力につながるものを言うのか!?」

「そう、その通り」


 私の言葉に、マコは嬉しそうに頷いた。

 源理の力はこの世界の根源にかかわる力……。

 いったい、どういうことなのだ……!?




 とりあえず、今回一番重要なのは、真子ちゃんが本気で人間やめてるということですな。

 次もまた説明会です、なんかもうしわけない。

 以下、次回。


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