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No.185:side・Sophia「現状確認」

 会議室の中でまず目に付いたのは、やはりヴァルトととラミレスの異形コンビだった。


「姫様! 気が付かれましたか」

「ずいぶん長いこと寝んねしてたねぇ。リュウジのベッドはそんなに気持ちがよかったかい?」

「薄らやかましいわ」


 戯けた事を抜かすラミレスに毒づきながら、私は会議室の中を見回した。

 大臣らしい老年の男性や、騎士団長の姿も見える。

 だが、会議室の中で何より目を引いたのは、二人の少年の姿だった。


「………」

「………」


 一人は勇者コウタ。ひどい落ち込みようだ。まるで、自分のせいで世界が終わってしまったかのような顔つきである。

 そしてもう一人は、おそらく王族関係者だろう。上座の席に着き、一心に祈りを捧げている。

 ……一体、何があったのだろうか。とんでもない荒れようである。

 ひどい様子の二人に、私の後から入ってきたリュウジが近づいていった。


「ほれ。アルトも光太も。ソフィア連れてきたんだから、しゃっきりしろよ」

「隆司……。うん」


 リュウジの言葉に、コウタも顔を上げてうなずく。

 アルトと呼ばれた上座の王族は、小さく頷いただけだった。


「………一体、何があったのだ?」

「それは、これから説明するわ。適当に掛けて頂戴」


 どうやら何かしらの考えがまとまったらしいマコの言葉に、私はひとつ頷いてヴァルトとラミレスのそばへと近づいた。


「隣に座っていい?」

「だめだ阿呆」

「チェー」


 軽口をたたくリュウジにそう返答してやると、リュウジは大して残念そうでもなくコウタの隣に……私の向かい側の席に着いた。


「じゃあ、全員そろったってことで……」


 私たちを含めた全員が席に着いたのを確認し、マコはどこからか黒板を持ってきて、みんなに見えるように置いた。


「さっそくだけど、まずは情報の共有ってことで現状の整理を行うわね」


 まるで確認するかのような一言だが、有無を言わさぬ様子でマコは黒板を軽く叩く。


「まずわかってることを箇条書きにしていくけど……」


 マコがつぶやくのと同時に、黒板にはひとりでに文字が現れる。


「とりあえず、ガルガンドは共通の敵――」

「ちょ、待て待て待て!?」

「なにようっさいわね」


 誰一人、黒板に勝手に文字が浮かんでもツッコミを入れようとしなかったので、思わず立ち上がってツッコミを入れてしまう。

 マコはそんな私を煩わしそうに見やった。


「なんか気になることでも?」

「いやいや、何で白墨も持たないのに勝手に文字が黒板に浮かび上がるんだよ!?」

「そういうもんだと理解しなさい」

「ちょ、おま」


 あまりといえばあまりの言葉に絶句するが、マコに睨み付けられて続く言葉は飲み込んでしまう。

 ……今まで気が付かなかったが、マコの中にも相当な感情が渦巻いてるようだ。まるで私を射殺せそうなほどの眼光だった。

 おとなしくなった私を見て、マコは黒板へと向き直った。


「じゃあ、続けるわよ。まず、ガルガンドは私たちの共通の敵。これはいいわね」

「……うむ。本来であれば、奴の裏切り行為は我々でケリをつけるべきなのだが……」

「こちらも、勇者であるレミ様だけではなく王女であらせられるアンナさまが誘拐されております。もはや、そちらだけの問題ではございません」


 ヴァルトと、続く大臣らしい男の発言に、私は息を飲んだ。

 貴族領の人間だけではなく、レミとこの国の王女までさらわれていたのか……!?

 二人の荒れ具合も。納得がいった。コウタにとってレミは大切なパートナーであるし、王女というからにはアルトの親族なのだろう。であれば、気が気ではないはずだ……。


「で、アメリア王国の被ってる被害だけど……要人、および国民の誘拐。王都における騒乱なんかが上げられるわね」

「王都の騒乱……」


 マコの言葉に、私は胸が締め付けられる思いがした。

 ガルガンドの姦計に嵌められたとはいえ、私もまたその騒乱の片棒を担いでいるのだ……。


「そんで、魔王軍が被ってる被害は、司令官であるソフィアへの反逆行為に、仲間たちの誘拐……あたしが聞いてるのはこれだけだけど、他に何かある?」

「後は……そうさね。意図的な情報の隠蔽とかもあったかもしれないね」

「そう。じゃあ、それも追加ね」


 ラミレスの言葉に、マコは黒板へと記す文字を増やしていく。

 そうして黒板の上半分ほどが埋まったあたりで、一度マコは手を叩いた。


「ざっとこんなもんかしらね……」

「しかしまあ、いろいろ裏でやらかしてるとはいえ、たった一人にずいぶんやられたよな俺たち」

「まったくね。今のところは、完全にガルガンドの手のひらに踊らされてるって思ったほうがいいわね」


 リュウジの言葉に同意するように、マコは苦々しげに吐き捨てた。

 奴のいうとおり、事実上ガルガンド一人にしてやられているわけだ……。


「じゃあ次は傾向と対策。さっきソフィアにも聞いたけど、ガルガンドが何者なのか、あんたたち知ってる?」

「……姫様に伺っているのであれば、それ以上のことは我々にもわからん」

「あの男のことを、完全に理解してるのはマルコだけだろうしね」

「そう……」


 申し訳なさそうなヴァルトとラミレスの言葉に、マコは落胆した様子もなく頷いた。

 予想が付いていたようにも見える。おそらく、私から聞いた情報を確定させたかったのだろう。


「じゃあ、ガルガンドってのはマルコが生み出したアンデットで、基本的にはマルコ以外の命令は聞かない……ってことでいいのね?」

「うむ」

「……アンデットってのがどういうものなのかは知らんが……ガルガンドがマルコとやらの命令しか聞かないなら、今回の騒動の首謀者はそのマルコになるのか?」

「……さあ、どうかしらね」


 的を射ているようにも聞こえる騎士団長の言葉に、マコは慎重な様子で答え、私のほうを横目で見る。

 マコの期待にこたえるように、私は首を横に振った。


「……確かに、アンデットは創造主の命しか聞かん。だが、マルコにこの国を襲う理由があるかといわれれば否だ。マルコは、魔王国の安寧以外には興味を持たない男だ」

「そうか? お前らが知らんだけで、マルコとやらには何か目的があるのかも知れんぞ?」


 かんぐるような騎士団長の言葉に、いささかムッと来る。

 だが、彼の立場からすれば当然の疑念だろう。私は反論の言葉を一度飲み込む。


「疑うのはもっともだ。だがなゴルト、マルコは国の安寧以外に興味を持たない……正確には持てない男なのだ」

「? どういうことよ?」


 不審をあらわにするマコに、ラミレスが肩をすくめながら答えた。


「ヴァルト、リアラ、マルコ、そしてあたしを含めた魔王軍四天王には、それぞれの役割があるのさ」

「役割って、何よ?」

「それは魔王国に住まうものたちを正しく導くために、魔王様より与えられた英知を指す」


 ヴァルトがラミレスの後をついで、自らを指差しながら説明を始めた。


「私は外敵より身を守るための戦いの技術。ラミレスが、魔王様より授かった魔導の知識」

「で、リアラが魔導に頼らない機械技術を、肝心のマルコは国を治めるための政治技術を授かってるのさ」


 そう、それが魔王軍四天王の本来の役割。

 魔王様より授けられた四つの知恵を持って、魔王国の国民たちを導き、魔王国の安寧のためにあるべき存在……それこそが魔王軍四天王なのだ。


「そしてマルコは、魔王国の国民たちの心の安寧を守るという関係上、特に強く魔王様より知識を与えられている。故に、使命に対する矜持も、われわれなど問題にならないほど強い」

「なるほどね。強い矜持を持つから、その矜持から外れた行動をとるはずがない……ってわけだ」

「うむ。故に、ガルガンドの離反を予測することができず、後手に回ってしまったわけだが……」


 だが、それゆえの疑問も残る。

 ならば、なぜガルガンドは我々を裏切った?

 この戦争は、もともと新たなる領土拡大のために行ったもの……。であれば、ガルガンドがマルコの意図を離れるとは思えん……。


「問題はそれだけじゃないわ。ガルガンドは、初めからこれ(・・)を知って行動していたように思えるわ」


 そういって、マコはその胸に収まっている水晶球を指差した。

 ……そういえば、マコの着ている衣服も変わっているが……あれはなんだろうか?


「我々はそれのことを知らんのだが……それはいったい何なのだ?」

「これ? これは混沌玉(カオス・オーブ)。源理の力の一つ、混沌言語(カオス・ワード)を司る一つの証みたいなものよ」


 そういったマコの周囲に、突如として大量の文字が現れた。

 その文字は周囲に一気に広がったかと思えば、次の瞬間、私たちのいる場所は暗い闇へと変貌した。


「うわぁ!?」

「かつて、この世界で栄華を誇った種族の一つ……魔族の真核」

「魔族の真核だって?」


 あまりのことに悲鳴を上げる私の目に、今度は小さな灯が見えた。

 その灯は数を増し、やがて周囲すべてを覆い尽くす。


「こりゃまた。壮大なプラネタリウムだな、おい」

「この混沌玉(カオス・オーブ)の中には、魔族たちがその生涯をかけて計算し続けた、法則演算が込められている」


 リュウジの軽口にこたえることなく、マコは淡々と説明を続けた。

 あたりに輝く明かりたちが、ゆっくりと私たちの周囲を回り、ワルツを踊っているかのように見える。


「世界を再現する言語……魔術言語(カオシック・ルーン)。それに長けていた彼らは、それらを使って新たな法則を導き出そうとした」

「ちょいとお待ち、マコ。あんたの言っている魔族ってのは……!」


 幻想的な光景に目を奪われている私の耳に、焦ったようなラミレスの声が聞こえてくる。

 そうだ、そういえば……マコの言っていることに理解できない部分がある。

 マコは、自身の胸にある水晶球が魔族の真核だというが……。

 魔族にそんなものは存在しないはずだぞ……?


「法則っていうのは、実験し、臨床し、体感し、体験し……自意識を持つ存在によって認識されることで、初めて世界に確立することができる」

「んー、マコ。わりぃが、もう少しレベル下げてくれ。言ってることの意味が分からん」


 混乱する皆の心境を、リュウジが代弁した。


「まあ、そりゃそうね」


 マコもそれは分かっていたようで、小さく頷いてはっきりとこう言った。


「まあつまりよ? あたしの言ってる魔族っていうのは、いわゆる情報生命体、ってことよ」


 ………………すまない。何を言っているのか、結局わからないんだが。




 真子ちゃんの語る衝撃的な事実。魔族とは、情報生命体だった!?

 すべてを置いてけぼりに、真子ちゃんは語り続ける。ガルガンドが、何をしようとしているのか。

 以下、次回。


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