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No.184:side・Sophia「魔竜姫、王都で目覚める」

 何やらとてもいい夢を見ていたような気がする。

 とてつもなく痛いが、とてつもなくいい夢だ。

 今まで見ることができなかったものを、しかとこの目で見ることができた……気がする。


「にゅふふ……」


 思わず笑みがこぼれ、いつもそうするように、枕を抱きしめて顔を押し付ける。

 そのままスゥッと大きく息を吸い込む。


「リュウジの匂いだ~………」


 とても覚えのある、どこか安心できそうなそんな匂いに私は。


 … … … … … … … … … … 。


「っ!?!?!?!?!?!?」


 急いで起き上がり、辺りを確認する。

 そこは見知らぬ部屋だった。

 さほど大きくはない。おそらく用途は客間か何かだろう。ベッドは二つあり、そのうち片方に私は寝かされていた。

 ここを使っている人間は、この部屋にはあまり留まらないのか、生活感はあまり感じられない。

 部屋の片隅に脱ぎ捨てられた服が積み重ねられている程度だ。


「え!? なに!? ここどこぉ!!??」


 ……もっとも、起きてすぐの私にそんな判断力があるわけない。

 ただただ混乱の極みの中で右左を見回すばかりだ。……枕を抱きしめたまま。


「……お目覚めになられましたか」

「だ、だれ!?」


 不意に聞こえてきた声に、そちらへと振り返るとメイド服を着た妙齢の女が出入り口に立っていた。

 というか、入ってきた気配にも気が付けなかった……。混乱しすぎだろう、私……。


「お初にお目にかかります。アメリア王国王女、アンナ・アメリア付きのメイド、およびアメリア王国メイド長、レーテと申します」


 レーテと名乗ったメイドは、深く礼をすると私の方へと近づいてくる。


「魔王国、魔王軍司令官、ソフィア様ですね?」

「え、へ……あ、ああ、うむ」


 メイドの冷静な様子に、少しずつではあるけれど、私は冷静さを取り戻していく。

 メイドは私の手が届かない範囲で立ち止まると、じっと私の方を見つめてきた。


「お目覚めになりましたら、お連れするように言われております。どうか、私についてきてはいただけませんでしょうか?」

「……」


 メイドの言葉に、私はしばし沈黙する。

 私がここに……おそらくアメリア王国の城内にいるということは、私は負けたということだ。

 ならば、敗者は勝者に従うのが道理だろう。


「わかった、従おう」

「ありがとうございます」


 メイドに頷き、私はベッドから降りる。

 ふと、自分がまだ手にしている枕が誰のものなのか気になった。


「そう言えばこれは、誰の寝具なのだ?」

「ああ、そちらは、リュウジ様が普段使用なさっているベッドです」


 メイドの言葉に、私は無言で枕を壁に投げつけた。




 その後、メイドの案内で私は城内の一室へと導かれた。

 道中、メイドはほとんどしゃべらず、私も何か話しかけることはなかった。

 何を聞いていいかわからなかったし、聞いたところでこのメイドが説明してくれるとも思えなかった。


「こちらです」


 メイドはそう言って、扉を開ける。

 中に入ると、そこは医務室か何かのようだった。薬品のにおいが、つんと鼻を突く。

 そして、中にあるベッドの上には、リュウジが横たわっていた。

 ……着ている衣服を、真っ赤な鮮血に染めて。


「なっ……!?」


 思わず駆けより、その身体を見下ろす。

 おびただしい量の血液によって、着ている服は染まっているところがないほどに濡れている。

 ずたずたに引き裂かれているのは、恐らく私の攻撃によるものだろうが、胸部……心臓の有る辺りに目に見えて大きな傷ができていた。

 おそらく心臓を貫かれたのだろう……。


「これは……どういうことだ!?」

「リュウジ様は、先ごろの戦いで……」


 メイドに説明を求めると、彼女はそう言って目をそらした。


「ば、ばかな……! この男が、その程度で!」

「……リュウジ様は、魔竜姫様が暴走し王都へと飛来した時、真っ先にそれを止めるために飛び出していかれました」


 淡々としたメイドの説明に、私は思わず胸を抑える。

 そうだ……私は、あの時ガルガンドの術にかかり……。


「我々は、あなた様とリュウジ様の戦いを見たわけではありません。ですが、リュウジ様は最後まで貴方様を止めようと奮戦され……」

「ふ、ふざけるな!? この男、殺しても死ぬような玉では……!」


 目の前の事実が信じられず、私はリュウジを指差す。

 目を瞑り、ただ眠っているだけのようにも見えた。


「はい……しかし、リュウジ様の持病の癪と妄想癖は、我が国の医学をもってしても……」

「そ、そんな……!」


 メイドの言葉に、私はよろめく。


「く……タツノミヤ・リュウジ……! 奴は、奴は勇敢な戦士……ではなかったかもしれん……! むしろいっそ死んで一回生まれ変わったほうがいいと思ったことも無きにしも非ずではない……! 人のことを散々嫁だなんだと言い触れおって……! 私はまだ未婚だし、結婚願望だってないわけじゃないけど、まだ早すぎるっつーの」


 私はそこで振り返る。


「そこんとこわかっとんのかタツノミヤこら、何死んだふりしとんじゃー!!」

「うぼぁ!?」


 起き上がって今まさに私を背後から抱きしめようとしていたリュウジが、顔面に一撃貰ってもんどりうって倒れる。

 そのまま一気に私は接近し、うつ伏せで倒れていた奴の背中に跨って手で顎を、尻尾で両足を取って、間接を決める。


「私がお前の生死に気が付かんとでも思ったか……!? 心臓の音がバックバック聞こえるに決まってるだろうが!!」

「あががががが!!?? 痛い痛い痛い、ギブギブギブ、へるぷみー!!」

「まあ、そもそも趣味の悪い冗談でしたしね、リュウジ様」


 私とリュウジのやり取りを見て、メイドが呆れたような声を上げる。


「ご自身が死んだふりをして、ソフィア様の反応をご覧になるなど……」

「いやだって「リュウジ、死なないでー」って泣き叫ぶソフィアの姿が見たかった」

「リュウジ死なないでー。首の関節とか決められて死なないでー……!!」

「あ、が、ちょ、やめ、それはわりとまじでげっ!?」

「茶番は終わったー?」


 グキリとさらにリュウジの関節を決めてやっていると、マコが姿を現した。


「む? 魔導師か?」

「真子よ。あんただって知ってるでしょう?」

「うむ。すまん、マコ」

「まあ、別にいいけどね」


 リュウジの関節を決めたまま私はマコへと返事をする。

 そんな私を見て、マコが小さくため息を吐いた。


「……そのバカのことだけど、まあ、許してやってよ」

「許す? どういうことだ?」


 相変わらず関節を決めてやりながら、私は首をかしげた。


「……あんたが眠っている間に、いろいろあったのよ」

「……そうか」

「それはよろしいですが、そろそろリュウジ様の顔が蒼くなっておりますが」

「「ん?」」


 メイドの言葉に見てみれば、リュウジの首からは泡が噴き出て、顔色もかなり悪くなっていた。




 その後、本当に半死半生になりかけていたリュウジは放置して、私はマコとメイドに連れられて、皆が集まっているという会議室とやらへ向かった。


「ちなみにみんなっていうのは、ヴァルト将軍とラミレスも含まれているわよ?」

「なにをしているのだあいつらは……」


 臣下が敵と一緒にいると言われて、私はげんなりと肩を落とした。

 本当に私が倒れている間に一体何があったというのだ……。


「……軽くで構わん。今まで何があったのか教えてもらっても構わんか?」

「いいわよべつに」


 真子は軽く頷くと、何があったのかを軽く説明し始めてくれた。

 アメリア王国の貴族が反乱を起こしたこと。

 アルト王子がその鎮圧に赴いたこと。

 その数日後、私がこの王都へ単身攻め込んだこと。それに合わせるように、王都に化け物が現れたこと。

 そして……それらすべての事件の裏にガルガンドが関わっていたこと。


「どっちの方でも一々顔見せしてるから、ガルガンドの関与は確実だと思うわ」

「……そうか」

「で、今度はこっちが聞きたいんだけど……ガルガンドって何者なの?」


 マコの質問に、首を横に振って答える。


「……正直、よくわからんというのが本音だ」

「戯言言ってると素っ裸にして隆司の前に放り出すわよ」

「ちょ、やめて! ホントのことだから!」


 ギラリと瞳が輝くマコに、叫んで主張する。


「も、元々あの男は私の直属の配下というわけじゃないんだ! 四天王のひとり、マルコの臣下で、マルコが創造したアンデットのうちの一人だ!」

「……つまり、マルコの命令しか聞かないわけね」

「? う、うむ、その通りだ」


 私の説明を聞くことなく、なぜか納得してくれるマコ。

 ……まあ、アンデットの知識くらいはこの国にもあるんだろう。


「なら、そのマルコってのは今どこに?」

「マルコは今、魔王国の王都にいるはずだ。確認を取る方法はないが……」

「そう……」


 マコは私の言葉を聞いて、何かを考え始めた。


「そうなると、ガルガンドの次の目的地は……」

「……にしても、何故ヴァルト達がお前たちと一緒にいるのだ?」

「それはだなー」

「チッ、もう復活したか」

「舌打ちくらい隠してくれよー」


 いつの間にか私たちに追いついていたリュウジに聞こえるように舌打ちをする。

 しかし堪えた様子もないリュウジは、軽い調子で続ける。


「で、ヴァルト達が俺らと一緒にいる理由だけど……魔王軍がアメリア王国に無条件降伏したから」

「………………………へ?」


 リュウジの口から聞こえてきた言葉が信じられず、思わず呆けたような声を上げる。


「だから、魔王軍が」

「そんな馬鹿な!? 信じられるかそんなもん!!」


 私が聞き逃したと考えたのか、もう一度同じことを言おうとするリュウジの口を封じるように、着ているものの襟を締め上げようとする。

 けれど、襟が広すぎて絞め上がらずに、服だけ持ち上がる形になった。


「まあ、落ち着こうぜ?」

「落ち着けるかぁ! ヴァルトやラミレスが、そう簡単に降伏などと……!」

「本人たちが戦争どころじゃなくなったって言ってたんだよ。ガルガンドの裏切りで、魔王軍の人間も何人か誘拐されてるしな」

「……なんだと?」


 リュウジの言葉に、私の手から力が抜ける。

 魔王軍の者たちが、何人か……?


「どういう、ことだ?」

「アルトが制圧に向かった領地、フォルクス領っていうんだが……元々は魔王軍に制圧されていた場所でな。そこを制圧していた魔族たちの姿が影も形も見えなかったんだとか」

「……貴族たちが奪還する際、逃げ出したのかもしれん」

「かもな。……けど、その領地にいたらしいフェレスって魔族によれば、他のみんなは全員牢屋に囚われてたんだと

「……フェレス?」

「ん? 知り合いか?」

「ミミルの妹だ……」


 ミミルにはまったく似ておらず、素直ないい子だ。

 戦士としてみれば、まだ幼く、あまり前線を連れまわすのもかわいそうなので、早いうちに制圧できた領地の防衛ということで置いておいたのだが……。


「フェレスは、無事だったのか?」

「ああ。けど、他の魔族の姿は見えなかったんだと。領地に住んでいた、こっちの国の人間と一緒に」

「この国の人間まで……!?」


 リュウジの話を聞き、ヴァルト達が降伏した理由が分かった。

 もしすべてがガルガンドの独断であれば、これは重大な越権行為だ。この裏切りは決して許すことはできない。

 そして、ガルガンドはこの国の人間をその裏切りに巻き込んだ。本来、内輪で解決すべき問題を外にまで広げてしまったのだ。

 であれば、その責任を取るために、降伏するのもやむ形無し、か……。


「………」

「ん? どした?」

「……別に」


 リュウジに答えて、私は前を向く。

 この男と本気で戦う機会が失われてしまったのは、残念だが……。

 いや、少しな? ほんのすこーしだけ残念だがな。


「……こちらが会議室になります」


 メイドはそう言って、大きな両開きの扉を指差す。


「ここに、皆がいるのか」

「ああ。今後について、話し合ってるはずだ」


 リュウジは頷いて、扉を開ける。

 私はその背中を追う様に、会議室の中へと足を踏み入れたのだった。




 全員が合流したところからスタートです。

 ソフィアさんも合流し、ついに全員が揃ったわけです。

 以下、次回ー。


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