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No.18:side・mako「魔王軍、連戦」

 流血表現有につき、念のためR-15及び残虐表現有を今回から入れようかと思います。

 そういった表現が苦手な方はご注意ください。

 結局なんの情報も持ち帰らなかったアホを氷漬けにして放置した翌日。

 つつがなく凍死しかけたアホを沸騰したお湯で溶かして戻しつつ朝食を頂いていると、血相を変えた伝令の人がまた飛び込んできた。


「勇者様方! 魔王軍がまた……!」

「またぁ?」


 二日連続の侵攻に眉根を寄せる。昨日の時間破りといい、魔王軍妙に張り切ってるわね……。


「はい。今度も《勇者を出さねば王都を攻撃する》と……」

「あー、もう……。わかったわよ。今度はみんなで出るって団長さんに伝えておいて」

「は! かしこまりました!」


 あたしがそう伝令の人に伝えると、王子と王女が心配そうにこちらを見ていた。


「あの……本当に大丈夫なのですか?」

「昨日はリュウジ様のおかげで負傷者はおりませんでしたし、今回は騎士団に任せても……」

「そうはいうけど、王都まで来られる方がたまったもんじゃないわよ。向こうが勇者を見に来たってだけなら、あたしたちで出たほうがいいわ」


 あたしの言葉に、礼美と光太も力強く頷いた。


「昨日はいきなりだったからびっくりしたけど、今日は大丈夫です!」

「隆司ばかりに戦わせるわけにはいかないからね! それに……」


 光太が隣に座っているアホに目を向ける。


「今の隆司に戦わせるのは、ちょっと……」


 そこに座ってるのは丸々一晩氷漬けにされたせいで半死半生になっている隆司の姿があった。

 体をガチガチ震わせ、少しずつ温かいスープを飲んでいるその姿は冬山の遭難者を思わせる。

 頑丈さと回復力が上がってるっていうから、このくらい平気だと思ったんだけどなー。


「まあ、隆司は自業自得よ。まさか何も聞かずに相手を返すとは思わなかったし」

「人生目標を達成したと思ったら地獄を見たでゴザルの巻………」


 なんか震えながらぶつぶつ言ってるけど無視。

 あたしは今の自分たちの戦力を頭の中で確認する。

 あたしはある程度基本的な魔法が使える。殺傷力は高めだけど騎士団にも魔法が使える人がいることを考えると当たらないと考える方が無難かしら。

 礼美は魔法以外に、祈りというか意志ひとつで回復と防御が使える。ただし防御がどのくらいの堅さなのかはわからないので、後ろで援護担当させるのが無難ね。

 光太の剣の腕前は一応普通の騎士より高いらしいけど、魔族とやらの身体能力がネックね……。魔法剣でうまく相手を足止めできれば、あたしの魔法も当てる機会があるかしら。

 で、アホもとい隆司。昨日の会戦でも相手の将校とほぼ互角だったらしいから魔族と戦うときの要にできるわね。……問題は戦ったのがほんの一瞬だったのとその敵将校に惚れてるらしいってことだけど……。


「とりあえず隆司を矢面に立てて、あたしと礼美で援護。光太は遊撃ってことでいいわね?」

「うん、わかったよ真子ちゃん」

「僕もそれでいいよ」


 あたしの確認に頷き返す礼美と光太。隆司も一応うなずいてくれた。震えが収まりかけてるのを見ると、多少は回復してきたか。


「じゃあ、ご飯食べ終わったらさっさと行きましょうか。相手を待たせて癇癪起こされても面倒だしね」

「わかりました……どうかお気をつけて……」


 不安そうな王子にひらりと手を振って答えてから、あたしは食事を再開した。

 何はともあれ、食べないと力も出ないしね。




 やたら気持ち悪い哺乳系のデンギュウに連れられたあたしたちは、前線哨戒キャンプまでやってきていた。

 道中の団長さんによると、ここまで後退してきた奪われた領地の騎士団の人たちで構成されているらしい。たまに王都の騎士団とも後退しているので、今いるメンバー全員がそうではないらしいが。


「……で、隆司?」

「なんだよ?」


 あたしはその前線哨戒基地のすぐそばで、たった一人仁王立ちしているオオカミの顔をした獣人を指差して隆司に尋ねた。


「あんたの嫁ってあれ?」

「いや、ソフィア(俺の嫁)はあんなゴツカワ系じゃねぇよ。あのフルモッフフェイスもあれはあれで心惹かれるけど」

「惹かれるんかい。あと心の声が漏れてるわよ」


 まあ、遠目から見ても明らかに男だってわかるしねぇ。

 でもなんで一人だけなのかしら。昨日はもっといたっていうのに……。


「隆司、僕は隆司のことを応援するからね!」

「私もです! 頑張ってね隆司くん!」

「応援ありがとう!」


 あたしらの隣から隆司にそれぞれ声援が上がる。

 まあ、この二人は元々魔族とも仲良くしたいと考えちゃうような奴らだからねぇ。

 そんな会話を繰り広げながら魔族に近づいていくと、オオカミ魔族はニヤリと笑って見せた。口が裂けそうな笑みって、こういうのを言うのかしら。


「貴公らが、此度召喚されたという勇者たちか。魔竜姫閣下を退けたというからどれほどの猛者かと思いきや……」


 あたしらを面白そうに観察しているオオカミ魔族の前に、隆司の奴が一歩出た。

 そして恭しく礼を一つ。何する気かしら。


「どうもこんにちは。魔竜姫ソフィア(俺の嫁)は元気ですか?」

「隠せ、少しは」


 至極真面目な顔でそんなこと言い放つアホの後頭部に氷の塊をぶつけてやる。

 隆司の言葉にかあるいはあたしの行動にか。ともあれよほど愉快に映ったのか、オオカミ魔族は豪快に笑い声をあげた。


「ああ、元気だとも! ただ、昨日の会戦で少々ショックを受けたのか寝込んでいるがな」

「それはいけない、ぜひそっちに行って看病しないと」

「もう黙れお前はぁぁぁぁぁぁ!!!」


 今すぐにでもオオカミ魔族に近づきそうになったボケナスを竜巻の魔法で上空に吹っ飛ばしてやる。

 そんなあたしたちの漫才をさておいて、礼美と光太が一歩前に出た。


「僕の名前は、櫻野光太といいます」

「春日礼美です」

「これはご丁寧に」


 敵を前にしての変わらない二人の礼儀正しさに、嬉しそうに笑ったオオカミ魔族は堂々たる名乗りを上げた。


「我が名はヴァルト・ルガール! 魔王軍四天王が一人にして、魔王軍の精鋭たる戦士たちをまとめる長! 魔王軍最強の将なり!」


 うへぇ、四天王で最強の将がいきなり来ちゃったよ……。

 あたしの後ろに胴体着陸を決める隆司を無視して、あたしも一歩前へと出た。二人の名乗りには少し遅いけど、一応名前くらいは言っておこう。


「少し遅れるけど、あたしは琴場真子。で、後ろに落ちてきたこのアホが……」

「タツノミヤリュウジだな? 話には聞いているよ」


 何やらうめき声をあげながら体を起こす隆司を見ながら、その眼を眇めるヴァルト。

 その視線に険はない。相変わらずこちらを面白がっているような表情だ。

 まあ、異世界から来た上にみんな揃いの黒髪黒瞳の子供だ。面白くないわけはないだろう。


「突然閣下に求婚した挙句、その太ももをしっかり堪能した勇者が一人いると」

「何してんだお前はぁぁぁぁぁぁ!!!」

「ぬわー!?」


 振り返ったあたしの蹴りをまともに食らって悲鳴を上げる隆司。

 太ももを堪能!? そんな話ひとかけらも聞いてないんですけど!?

 団長さんをじろりと睨むと視線をそらされた挙句、口笛まで吹かれた。

 つまり事実か。

 足元に転がるゴミをどう処刑するか真剣に考えるあたしの耳に、またも豪快な笑い声が上がった。


「そう怒るな魔女よ。あの方に対してそんな態度がとれる男はそういない」

こんな奴(変態)がそんなポコポコいてたまるかぁぁぁぁぁぁ!!!」


 振り返った怒声にも動じずさらりと受け流すヴァルト将軍。

 涼しい顔しやがって、暑苦しい毛皮持ってるくせに……!

 憤るあたしだが、頭の片隅が警鐘を鳴らした。

 今、何か違和感がなかったか?と。


「それに巫女よ。そう恥じることもあるまい。男が女性のそういう部分を魅力に思うことはままあることよ」

「え、え? こ、光太君もそうなの?」

「え、そんなこと聞かれても……」

「そういう時は、胸を張るものだ、若き騎士よ。そうすれば、だいたいどうにかなる」

「は、はあ……」


 隆司が太ももを堪能、の部分で顔を真っ赤にしてしまったらしい礼美に変な質問をされてうろたえる光太。

 珍しいショットな上にあたしが望んだ展開だが、素直に喜ぶだけの余裕はない。

 ……今この男、光太と礼美を何と呼んだ(・・・・・)


「そう思わないかね、勇敢なる戦士よ」

「まったくだな。世の男はもっと欲求に正直になるべきだと常々思う」


 いつの間にか復活していた隆司が、胸を張って堂々とそう答える。

 そして、片目を眇めてヴァルトを睨んだ。


「ところで将軍?」

「なにかな?」

「ソフィアたんを嫁にください」


 もうこの男に対する期待は一切捨てることにした。

 隆司の言葉に今度こそ爆笑し、にじむ涙を指先で拭うオオカミ将軍。まさに抱腹絶倒よね。あたしも笑っとこうかしら、アッハッハッハッ。


「ああ! むしろもらってくれるとありがたい。あの気性ゆえ、国のものにも恐れられる始末でなぁ」

「なぜあの性格の良さがわからんのだ……気の強い女性が羞恥に顔を染める姿こそ至高だというのに……!」


 そこまで言ったゴミクズはふと何かに気が付いたように将軍の顔を見つめる。


「そういや、将軍。光太はともかく、良く真子が魔女で礼美が巫女だってわかったな、あんた」

「「――!?」」


 その言葉に礼美と光太の顏が驚愕に染まる。

 っていうか気が付いてたんならさっさと言えよコンチクショウが。


「……フフ」


 隆司の言及に、ヴァルト将軍は黙して語らない。ただ、小さく微笑むのみだ。

 今のあたしたちの格好は、基本的に元の世界に来た時のもの……つまり学校の制服姿だ。

 その上から、隆司はマント一枚のみを羽織った状態であり、光太は革製の鎧をつけている。この二人に関しては、特に推測が難しいわけじゃない。隆司に関しては向こうも知ってるだろうし、光太の着ている鎧は騎士団のものだし。

 問題はあたしと礼美だ。あたしたちは持っている能力の関係上、特別に何かの補助が必要にはならない。そのため、今のあたしたちの格好は学校の制服。この姿から、それぞれのポジションが魔女と巫女と推察するのは困難のはずだ。

 ……あたしたちが、訓練している姿を見ていなければ。


「そういえば、ここ最近の魔王軍、王都に勇者がいると決めつけて行動していた節があるわね」

「真子ちゃん……?」

「あんたたち、アルト王子に国の中を案内してもらったわよね?」

「う、うん」

「その時、自分たちが勇者だって言って回った?」

「い、いいや。僕たちのせいで、王子に余計な迷惑がかかるのは困るから、偶然知り合えた王子様にいろいろ案内してもらってる田舎の子ってことにしておいたけど……」


 一般人を王子が連れまわしてることの方がよほど怪しいけど、この際それは置いておこう。

 隆司も、外で活動するときは偽名を名乗り田舎者だって言い張ってるらしい。

 つまり、あの国に勇者が召喚されたことを知っているものは、王城にいる人間のみということか。

 ………まさか、ね。


「……さて、立ち話もなんだ。せっかく来たのだし、一つ太刀合いでもお願いするとしよう」


 ヴァルト将軍はそういうと、自分の後ろに突き刺していた斧を肩に担ぎなおした。

 片方の刃だけであたしや礼美が体を丸めたくらいの大きさがある巨大な斧だ。人間程度なら一撃で両断できるだろう。

 顔は笑顔のまま視線を強くし、隆司をまっすぐに見つめる。

 ……直接睨まれたわけじゃないのに、体がすくむ。礼美も光太も息をのんだ。礼美なんか、顔から血の気が引いている。殺意も殺気もないはずなのに、どうしようもなく恐ろしい。


「戦士よ。お相手を願えるかな?」

「……いいぜ」


 隆司はそんな視線をまっすぐに受け止めながら、マントの下から取り出した石剣を肩に担ぎなおした。

 しばし両者はまっすぐに互いを見つめ……。


 ズドンッ!


 踏み込むような轟音と同時に、斧を振り切ったヴァルト将軍と真横にすっ飛ばされる隆司の姿があった。

 え、なにが……?


「リュウジィ! まっすぐ踏み込むバカがあるか!」


 後ろで傍観者に徹していた団長さんの怒鳴り声が耳に入る。

 あたしはそっと隆司の立っていた場所を見下ろすと、土が隆起しているのが見えた。

 つまり、隆司が全力で踏み込んだのをヴァルトが迎撃した、と……?

 見えないほど早い隆司もだけど、それをあんな巨大な斧で迎撃するとかどんなパワーよ……!?


「む? いかんな……」


 呆然とするあたしの耳に、今度はヴァルトの声が聞こえてくる。

 それは何かに困惑するような声色だった。


「思わぬ速度にゴルトを相手にする感覚でやってしまった。死んでいなければよいが……」

「おおおおぉぉぉぉぉぉ!!」


 心配そうなヴァルトに答えたわけじゃないんだろうけど、血を吐きながら隆司が斬りかかっていった。そんな隆司の姿に、ヴァルトは嬉しそうな笑みを取り戻す。

 でも隆司の体の左側は、真っ赤に染まっている。まさか……!

 だが体が両断されているとは思えない俊敏さで飛びかかった隆司の刃を、ヴァルトは素早く斧で受け止める。

 隆司の石剣は、鉄か何かでできているはずのヴァルトの斧に食い込んでいった。


「く……!?」


 うめき声をあげながらも、笑顔を絶やさないヴァルトは勢い良く斧を振るって隆司の体を弾き飛ばした。

 吹っ飛ばされた隆司は、受け身も取らずに地面に叩きつけられる。だが、素早く起き上がってヴァルトを睨みつけた。

 その表情は、いつになく余裕がない。


「フフフ、ゴルトほどではないが良い動きだ。閣下の鎧のみならず、我が斧の刃を斬り裂くとはな……」

「っらぁぁぁぁぁぁぁ!!」


 再び突撃をかける隆司。だが、今度は縦一直線に振り下ろされた斧をまともに食らってしまった。

 血飛沫が、上がる。


「ご、ぐ、がぁぁぁぁぁ!?」

「そのうえ、この手ごたえ……。我が斧の刃が止まるなど。よほど鍛えているのか、一日や二日ではこうなるまい」


 それでも石剣を振るうが、今度はたやすく避けられてしまった。


「が、ぐそぉ!」

「フフフ。腕前としては閣下と同じ位か。その上、純粋な身体能力のみでこれとは恐れ入る」


 嬉しそうに笑い、隆司のみならずあたしたちにも刃を向けられる。


「さあ、どうした? いざ太刀合おうじゃないか勇者たちよ」


 冗談じゃ、ないっつーの……。

 もはや血に濡れていないところはないというような隆司の姿を見て、あたしは自分の認識の甘さを再認識させられていた……。




 そんなわけで魔王軍最強が喧嘩を売りに来ました。そして隆司が己に正直すぎて止まりません。どうしよう。

 しかしいきなりズタボロですねぇ、隆司。まあ、最強に挑むからこうなるわけですよね!

 次回も引き続き戦闘です。次回は隆司視点になります。


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