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No.175:side・remi「ソフィアを助けるために」

「……本当に、無条件降伏してくれるのか、ガオウ?」

「無論だ! これは我ら魔王国軍、騎士団総隊長、ヴァルト将軍の決定でもある!!」


 半信半疑な光太君に、ガオウ君が力強く答えます。

 しばらく、光太君が一人で孤軍奮闘していると、王城からガオウ君とマナちゃん、そしてギルベルトさんに化け物対策の薬品を預けられた魔導師の人たちが援軍に現れました。

 驚いた私をよそに、ガオウ君たちは光太君と協力して化け物たちを蹴散らして、化け物が湧いてくる穴を素早く封印してくれました。

 そうして落ち着いてきたところでアンナ王女に連絡を取ると、何と魔王軍が無条件降伏するとか。


「今、この国には暴走したソフィア様がいらっしゃってるんです……! ソフィア様をお止めするには、この国の皆さんの……勇者の人たちの協力が必要不可欠なんです……!」


 マナちゃんの悲痛な声を聞いて、光太君の顏も真剣身を帯びます。

 さらに、ガオウ君も膝を突き、光太君に向かって頭を下げます。


「ソフィア様をお止めするためであるならば、どのような恥辱も飲み下そう……! 頼む!! どうか協力してくれ!!」

「ガオウ……」


 恥も外聞もかなぐり捨てたガオウ君の態度。

 ソフィアさんの暴走という事態は、彼らにとってすべてを捨ててでも止めなければならないということなのでしょうか……。

 私たちは、彼らとの和平をずっと望んでいました。けれど、今この状況は余りにも唐突過ぎて……。

 思わず、光太君と一緒に疑問の声を上げてしまいます。


「ガオウ、どうしてそこまで……?」

「魔王軍の人たちにとって、ソフィア様を止めることは、戦争に勝つことより大切なことなんですか……?」

「もちろんだ! ソフィア様をお救いすること以上に、優先すべき事柄なぞない!!」


 ガオウ君、即答。

 思わず気圧されてしまいます。

 ガオウ君がどれほどソフィアさんを慕っているのか……それが一発で分かってしまいます。

 それだけに……。


「………………」

「えっと……マナ、ちゃん……?」


 がっくり両膝と両手をつくマナちゃんに、かける言葉が見つかりません……。

 ええっと、多分、ガオウ君の言葉に他意はないと思うよ……?


「……ええっと、ガオウがソフィアさんを助けたいっていうのはわかったよ。けど、今彼女がどこにいるのかわかるのかい?」

「いいや!!」

「なんでそんな自信満々なの」


 今度は首を横に振るガオウ君。光太君も、呆れたように彼を見つめます。


「だが、なんとしてでもタツノミヤとソフィア様が衝突する前に、ソフィア様をお止めしないと……!」

「え? いや、もう会っちゃってるよ?」

「「…………え?」」

「いや、だから……会ってるよ。というか、今隆司と戦ってるはずだけど……」

「な、なんということだ……!」


 光太君の言葉に、ガオウ君も両手両膝をついてしまいます。

 ひょっとして、魔族の人たちは、隆司君とソフィアさんを出会わせたくなかったんでしょうか? でも、どうして……。


「オオーイ!!」


 と、私たちを呼ぶ声が聞こえてきます。

 そちらの方に顔を向けると、私たちに向かってフォルカ君が駆けてくるところでした。

 隣で一緒に走っているミミルちゃんと手を繋ぎながら。


「ミミルァァァァァ!!!」

「うにゃー!?」


 その二人を見た途端、一気に走り出してドロップキックを放つガオウ君。

 ミミルちゃんは、危なげなくそれを回避しました。


「なにするにゃ! 危ないにゃ!?」

「なにするもあるかぁ!! 何をのん気に手なんぞ繋いどるんだ貴様ぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

「だって久しぶりに会えたんだもの!! 手を繋いで、ダーリンのぬくもりを感じたいというのは当然の権利にゃ!!」

「なぁにぃがぁだぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

「まあ、落ち着けって」


 吠え猛るガオウ君を落ち着かせようと宥めるフォルカ君。

 と、そんな彼にマナちゃんが近づいていきました。


「あ、あの……」

「ん? なんだよ?」

「いえ、ミミルちゃんと一緒に、マオ君もそちらに行ったはずなんですけど……」

「ああ、あいつなら」


 フォルカ君が後ろの方を振り向くと。


「……えーっと」

「ああ、夢にまで見た瞬間がついに……!」


 マオ君にお姫様抱っこされているナージャさんがいました。

 ただし、鼻から大量の血を流してましたけど。


「ちょ、ナージャさん!? どうしたんですか、その鼻血!? け、怪我したならすぐに治療を……!」

「ああ、大丈夫ですよ、レミ様!」

「単に幸せすぎて、限界突破してるだけですから!」

「ただし、幸せは鼻から出るって奴です!」

「は、はぁ……」


 さらに一緒にいた騎士のABCさんの言葉に、とりあえずは大丈夫そうだということだけはわかりました……。


「ところで、皆はなんでここに?」

「ああ。援軍のおかげでだいぶ楽になったんで、一番大変そうな東区を手伝いに来たんだけど……」


 光太君の言葉にフォルカ君が肩を竦めました。


「もう終わってるとはな。さすがだぜ」

「いや、ガオウ君が来てくれなかったら、かなり危なかったよ……」

「そう言えば、隊長はいずこに? 騎士ABCから、どこかで戦ってるとは伺ってますけれど」

「そうだ!? ソフィア様がぁ!!」

「ちょ、落ち着くにゃ、ガオちん!!」


 ナージャさんの言葉に反応して、暴れはじめるガオウ君。

 何とか皆で宥めて、私たちは現状をケモナー小隊のみんなとミミルちゃんに説明しました。


「……マジか」

「意外と状況、待ったなしだったのにゃ……」


 ミミルちゃんの顏が、いつになく真剣味を帯びます。

 宥められても、興奮は収まらないガオウ君は今にも飛び出しそうな様子で叫びました。


「こんなところでグズグズしていられん……! 今すぐ二人を見つけて止めんと!!」

「見つけるって、どうやってニャ? 広い王都の中、少ない人員でなんとか防衛してるにゃけど、その中で二人を発見した報告なんてあったにゃ?」

「ううん……特にそういう報告はないよ」


 ミミルちゃんの言葉に、私は首を横に振ります。

 隆司君とソフィアちゃんのことは、アンナ王女にも報告していますけれど、まだ発見の報告はありません。

 王都に残っているのは、神官と魔導師団の大半と、ケモナー小隊の人たちです。

 人数で言うなら、王都全体に目が行くほどではありませんけれど、それでもあれだけの動きができる二人を見落とすなんてことはないと思います。

 何しろ、馬車の発着場にソフィアさんが下りてきたときもかなり暴れたんです。あれだけの騒ぎがあれば、さすがに誰かが気が付くはずです。


「となると……単純にまだ下りてきてないってことじゃにゃいかな? ソフィア様は空中戦が一番得意だし……たぶん、満足するまで降りてこないんじゃにゃいかねぇ」

「馬鹿な……! そもそもタツノミヤは空を飛べまい!? だというのに、いつまでも空中戦など……!」

「ソフィア様がリュー君を嬲るつもりなら……どうにゃ?」

「………」


 ソフィアさんが、隆司君を……嬲る……。

 そんなこと、ありえるのかと思いましたけれど、黙り込むガオウ君たちの様子から……そういうこともありえると……。


《――えますか!? こちらアンナ! 聞こえますか、レミ様!?》

「……ぇ、あ!? は、はい! こちら礼美! 聞こえてます!!」


 不意に、水晶球から聞こえてきたアンナ王女の声に、慌てて返事をします。


《ああ、よかった! レミ様、大変です!》

「いったい、どうしたんですか?」

《南区の方に、魔竜姫とリュウジ様が落下してきたと報告があったんです!》

「え、ええっ!?」


 噂をすれば影が差すとは言いますが、タイミングが良すぎるよ隆司君!?

 驚く私をよそに、アンナ王女の言葉を聞いて、ガオウ君が勢いよく駆け出そうとしました。


「南区だな!? 今参ります、ソフィアさ――」

「待つんにゃ、ガオちん! 皆で行かにゃいと、返り討ちにゃ!!」

「ごべ!?」


 けど、ミミルちゃんに尻尾を掴まれて、勢いよく地面に倒れてしまいます。

 い、痛そう……。


「な、なにをするミミルゥ!?」

「一人で突っ走らにゃい! ここに来るとき……もっと言えばソフィア様を相手にするとき、皆で決めたことじゃにゃい!」

「そ、それはそうだが……!」


 焦るガオウ君を諌めるミミルちゃん。


《ともあれ、大急ぎでそちらに回ってくださいな! そちらには、手の空いた者を回しますので!》

「そんなにまずいんですか?」

《まずいも何も、リュウジ様が一方的にやられてるんですのよ! 助けて差し上げないと、嬲り殺しにされてしまうかもしれないんですの!》

「……隆司が?」


 横から口を挟んできた光太君が、怪訝そうに眉根をしかめました。

 隆司君がやられっぱなしになっている……そんな状況を訝しんでいるようです。

 ですが状況は待ったなし。早く救援に向かわないと……!


「わかりました! すぐに、隆司君を助けに行きます!」

《よろしくお願いしますわ! 化け物たちの行動は、若干鎮静に向かっております……! 南区には、すでにヴァルト将軍とラミレスの二人が回っておりますので、合流して魔竜姫の制圧に臨んでくださいな!!》

「はい、わかりました! それでは!」


 アンナ王女からの通信が切れたのを確認してから、私は皆を見回します。


「それじゃあ、南区に向かおう!」

「うむ! 急ぐぞ! ソフィア様をお止めしなければ!!」


 私の言葉を聞いてくれたのか、シュバルツもそばに寄ってきてくれました。

 私はシュバルツに跨ろうとして、すぐに全員は一度に移動できないことに気づきました。


「どうしよう!? 皆シュバルツに乗れないよね!?」

「まあ、この馬に全員が乗れたら奇跡だけどにゃー」


 あたしの言葉に、ミミルちゃんが頷きます。

 ど、どうしよう!? 今すぐいかないと隆司君が……!

 慌てる私を見かねてか、マナちゃんが一枚の呪符を私に差し出してきました。


「これを持って行ってください」

「え? これは……」


 呪符に書いてあるのは魔術言語(カオシック・ルーン)で、意味するところは転移に関係するものでした。


「これは、転移するときの基点に使う呪符です。これを持って行ってもらえれば、この場にいる全員を、一度に転移することができます」

「そ、そうですか……! わかりました!」


 私はマナちゃんから手渡された呪符をぎゅっと握りしめて、シュバルツの鞍に跨ります。


「光太君! 行こう! 隆司君を助けに!」

「……うん、わかった」


 光太君は少し何かを考えているようでしたが、すぐに私の前に跨って、シュバルツの手綱を握りしめます。


「それじゃあ、僕らが先行します! 皆さんは、マナちゃんの転移であとから来てください!」

「了解にゃー! なるべく早く到着してにゃ!」

「向こうに着いたら、私の水晶球に連絡をください!」

「はい、わかりました!」


 鼻血を拭いたナージャさんの言葉にうなずき返します。

 そして、シュバルツが嘶きを上げて、足を振り上げました。


―ヒヒィーン!―

「ぐ、むむぅ……! やはり俺も……!」

「空気読むにゃ! ここで待つにゃ!!」


 焦って一緒について来ようとするガオウ君をミミルちゃんが止めます。

 敬愛する主を助けたいのはわかるけれど、今はぐっとこらえてもらいます!


「ごめんなさい! すぐに、向こうに着きますから……!」


 駆け出すシュバルツの上で、私はみんなに向かって叫びます。

 すぐにみんなの姿は後ろへと消え、シュバルツはまっすぐに南区へと向かいます。

 さっきは思いもよらない速度にびっくりしたけれど、二度目となれば、多少は慣れます……!


「……隆司が一方的に、か……」

「光太君!? どうしたの!?」

「あ、いや……」


 シュバルツの手綱を握りながら、光太君が呟きました。


「いくらソフィアさんが暴走して、容赦がなくなってるからって、隆司が一方的にやられるなんてありえるのかな……?」

「どういうこと!?」

「そのままの意味だよ。いくら惚れてる相手だからって、ただ一方的にやられるなんて……隆司らしくないっていうか……」


 光太君はしばらくうつむいていましたが、すぐに顔を上げました。


「……いや、ごめん。なんでもないよ。向こうに着いてみれば、どうなってるのかはわかるんだ」

「うん、そうだよ! だから、いそご! 光太君!」

「ああ、わかった!


 私は光太君に発奮をかけました。

 けれど、光太君が隆司君を心配しているのはわかっています。

 一方的に隆司君がやられているなんて……私も信じたくないけれど。

 南区に行ければ全部わかる……!

 駆け抜けるシュバルツの背中で、私は祈ります。

 隆司君、無事でいて……!




 魔王軍の者たちは、ソフィアのためにアメリア王国の軍門へと下る。

 彼女は隆司とともに、南区へと落下したというが……?

 そして滅星が落ちたフォルクス領では、真子が……。

 以下、次回。


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