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No.174:side・mako「滅星、来やる」

「団長! また一人確保しました!」

「よーし、さっきの連中と一緒にふんじばっとけ」

「はっ!」

「………」


 また一人、操られた騎士を捕獲する副団長さん。

 捕まえた騎士の人数は、二十人前後か。十人くらい固まって表れたのは始めに遭遇した一団だけで、後は一人か二人くらいぽつぽつと突っ立っているのを捕まえるばかりだ。


「……あたしの、考え過ぎだったのかしら?」


 あまりにもあっさり騎士たちを捕らえることができていることに、あたしは毒気を抜かれていた。

 ガルガンドのことだからもっとこう、こっちは死ぬ気で捕まえに行っているのに、向こうは完全に殺しにかかってくるとかそういうのを想像していたんだけど……。

 捕まえることができた騎士たちは、だいたい大人しく捕まってくれた。

 暴れることもなく、ただ立っているだけなのだ。むしろおとなしく捕まってくれないと困る。

 けど、それならなんで騎士たちはただ立たされているのだ?

 これじゃあまるで、あたしらに捕まえてくださいと言っているようなものだ……。


「その疑問、答えて進ぜよう」

「っ!」


 突如、騎士たちがざわめき、聞き覚えのあるしわがれ声が聞こえる。

 弾かれたように声の方へと顔を向けると、そこには見覚えこそないがみんなに聞いていたのと特徴が合致する皺だらけのジジイの姿があった。


「あんたがガルガンドね……!」

「如何にも」


 あたしがその名を呼ぶと、ガルガンドは鷹揚に頷いた。


「あれがガルガンド……!」

「なんだ、いきなりあらわれたぞ!?」

「いや、それより、彼らは無事なのか!?」


 その名を聞いて、騎士団の中に緊張が走る。

 今回の反乱の黒幕であるだろうという予測は、騎士団にも伝えている。

 捕らえた騎士の中に知り合いもいたのか、中には声に怒りを含ませている者もいた。

 あたしはそんな騎士たちの声を背に、慎重に相手の様子を伺った。


「わざわざあたしらの前にやってくるとはね……。ご主人様に、あたしらを出迎えるように頼まれたのかしら?」

「左様。今の主はせっかちで困る。待てば来やると言うておるに、今すぐ迎えに行けと言うて仕方がないのだ。我も暇ではないというのになぁ」


 あたしの挑発に対し、ガルガンドもまたこちらを挑発するように軽口を叩く。

 ……まあ、無駄よね。フォルクスみたいに単純な性格をしているはずがないんだ。

 なら、回りくどくやるより……。


「……まあいいわ。それより、あんたはいったい何が目的でこんなことをするのよ」

「目的?」


 あたしのストレートな言葉に、ガルガンドは首をかしげる。

 この手の相手にまともな反応を期待するだけ無駄だ。

 それなら、逆にまっすぐに問いかけてそれに対する小さな反応も見逃さないようにした方が得られる情報は多い……。


「そうよ。フォルクスなんてボンクラ、魔王軍に鞍替えするような対象とは思えないけど」

「ボンクラ……ボンクラかぁ。くくく……」


 ガルガンドが愉快そうに笑い声を上げた。

 だが、あたしの質問に答えることはなく、ツイッと片手を振り上げた。


「そのボンクラより、プレゼントを預かっておる」

「なんですって?」


 そうして口から混沌言語(カオス・ワード)を唱えるガルガンド。

 不快な音の連なりは空間をゆがめ、一人の騎士をこの場に呼び寄せた。

 呼び寄せられた騎士は、顔色こそ悪いものの、今まで捕まえた騎士のようにヒルが寄生しているわけでもなく、しっかりと両の足で地面に立った。


「……?」


 騎士を一人だけ呼び寄せる、という行為に不可解さを覚えるあたし。

 今更一人増えたくらいで、こっちの数を上回れるはずも……。

 と、騎士の頭がガクッ、と震える。


「喜んでもらえるとよいのだがなぁ……。我の渾身の作故に」


 にやりと笑うガルガンド。それに呼応するようにガクガクと頭を揺さぶる騎士。

 不穏な気配に、騎士団と一緒にあたしは下がった。


「あんた……いったいその人に何したのよ!?」


 あたしの叫びにガルガンドが答える前に、その答えがわかる。

 ガクガクとヘッドバンキングを続けていた騎士の頭は、一瞬不気味な形へ膨れ……。


 ぶしゅぁぁぁぁ!!


「「「「「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁ!!??」」」」」


 水っぽいものが弾ける異音を残し、その頭がはじけ飛ぶ。

 砕けた頭の代わりに生えたのは、無数の触手……。

 ジョージの右腕に生えたものと、ほぼ同型の触手が騎士の頭から生えてきた……!


「そこな少年魔導師のおかげで、ここまで育ったのだ。感謝しておるぞ」

「う……うるせぇ!!」

「ぐ……うぇ……!」


 実に愉快そうに微笑むガルガンドに気勢を上げるジョージ。聞こえてくる嗚咽は、フィーネか。

 胃の中から中身が逆流しそうになりながらも、あたしはガルガンドに吠えた。


「あんた……ずいぶん趣味が悪いわね……!!」

「ふぅむ? 気に入ってはもらえなんだか……」


 うねうねと触手を震わせる騎士を見下ろしながら、ガルガンドは不思議そうな声を上げた。


「こんなもん気にいるわけがないでしょう!!」

「そうか? その割には、ずいぶん抱え込んでいるようだが」


 そう言って、ガルガンドはツイッと一方を指差した。

 あたしたちが捕まえた、ヒルに寄生された騎士たちを。


「ほぅれ。それほどに抱えているではないか。故に、気にいると思って連れてきたのだが……」

「「「「「!?」」」」」


 ガルガンドの言葉に、ヒルに寄生された者を捕らえていた騎士たちが一斉に距離を取る。

 彼らの頭もまたはじけ飛び、触手になるのだと考えたのだろう。

 瞬間、触手騎士の頭の触手が唸り、ヒルに寄生された騎士たちの戒めを解いた。


「うっ!? ……ちょっと!? そいつら自由にしちゃダメ!!」

「あ……! 申し訳ありません!!」


 あたしの叱責に、騎士たちが慌ててヒルに寄生された騎士たちを捕らえにかかるが、先ほどまでとは打って変わって機敏な動きで近寄ってくる騎士たちを跳ねのける。


「う、うわっ!?」

「明らかに動きが……!?」


 突然の変貌に目を剥くけれど、すぐに気付いた。

 さっき頭が触手に取って代わられた騎士の印象、ジョージが寄生されていた時に似てる……!


「みんな! その触手頭がそのヒル騎士たちとガルガンドの中継係よ! そいつをどうにかすれば、そっちのヒル騎士たちはどうにかなるはず!!」

「おう、わかった! リーク!」

「ええ!」


 あたしの言葉に、団長さんと副団長さんが真っ先に反応し、駆けだした。

 目標は触手頭。彼らの攻撃なら、奴の動きを止めるのも容易いはず……!

 けれど、それは希望的観測。実際はそんなに甘くなかった。

 触手頭の触手が唸りを上げて、団長さんたちに襲い掛かり、さらにガルガンドから解き放たれる魔法まで彼らの進行を防ぐ。


「ぬぁ!?」

「く!」

「はっはっはっ……! さぁせぇぬぅさぁ!」

「えぇい、うっとうしい……! 魔導師団、団長さんたちを援護!!」


 魔導師団の人たちが、ガルガンドに向けて魔法を放つ。

 だが、散発的なそれはガルガンドが一声で発した障壁にたやすく弾かれる。


「なんだそれは? 児戯でももう少し気合が入っておるぞ!?」

「「「「「うわぁぁぁぁぁ!!??」」」」」


 逆に、ガルガンドが放った光弾に、一撃で吹き飛ばされる魔導師たち。

 えぇい、役に立たん! あたしが天星を召喚しきるだけの時間も稼げないとか!!


集え天(サテライト・スター)……!」

「させぬといったぁ!!」


 やむなく魔法を発動しようとするけれど、それを見逃してくれるほどガルガンドも甘くない。

 奴の指先から放たれたレーザーが、あたしの肩を射抜いた。


「あうっ!?」

「マコ様!!」


 焼けるような痛みに、思わず地面に倒れ込んでしまう。

 駆け寄ってきてくれたサンシターが、あたしの体を起こしてくれる。


「大丈夫ですか、マコ様!?」

「た、戦う分には……」


 そう、サンシターには答えるけれど、触れた傷跡は完全に貫通し、しかも血が一滴も出ていない(・・・・・・・・・・)

 やっばい、完全に焼きつぶされた……。しかも穴の開いた位置、左肩の関節だし……。

 動かないことはないが、とても役に立つとは思えない。

 痛みのせいで、呪文に集中することもままならない。最悪だ……!


「はぁっはぁっはぁっ! ずいぶん苦しそうだなぁ、魔導師よ……?」

「自分で、やっておいて、言い草じゃない……!」


 サンシターの肩を借り、何とか立ち上がる。


「なぁに、貴様を評価しているが故よ。この場において、汝が一番厄介故な……」

「ハッ! 過大評価どーもありがとー……!」


 吐き捨てるようにあたしは軽口をたたくが、正直あいつの言ってることに間違いはない……。

 自意識過剰、という声もあるだろうけど、この場においてあいつが真っ先に狙ってくるのはたぶんあたしだという考えもあった。

 何しろ、この場において混沌言語(カオス・ワード)を一番操れるのはあたしなのだ。源理の力というなら、団長さんたちの覇気や、一緒についてきた神官さんたちの意志力(マナ)もそうだが、破壊力はともかく混沌言語(カオス・ワード)の利便性はそれらを上回る。

 あたしでも、真っ先に封じるわ。こんな力が使える奴。


「故の処置よ。ありがたく……」

「ハァッ!!」

「おおっと」


 裂帛の気合とともに斬りかかったアルト王子の一撃を、ガルガンドは危なげなく回避する。

 って、いつの間に……。


「ずいぶん勇ましいことよ。一国の王子としては、いささか軽率であるがな」

「黙れ、大逆の徒よ!! 我が国の貴族をたぶらかすだけでなく、我が友さえも傷つけるなど……!」


 怒りに塗れた王子は、刃をまっすぐにガルガンドへと向ける。


「今、我が一撃にて処断してくれる! そこを動くな!」

「否や、動くよ。斬られるのは御免故に」

「王子……!」


 王子の宣言を小馬鹿にするように、右に左に身体を揺らすガルガンド。

 だが、王子はそんな挑発に乗ることなく、慎重に剣を構えた。

 あたしはサンシターに連れられて、王子の背中まで近づく。


「……マコさん、怪我の具合は」

「……戦う分には、ってとこだけど……ごめん。魔法はすぐに使えない……」


 ガルガンドに聞こえないように、小さな声で王子が語りかけてくる。

 先ほどまでとは一転して、至極冷静な王子の言葉に、あたしは申し訳なさそうに答えた。


「では、私が時間を稼ぎます。その間に、後退して神官たちの治療を」

「……そんな時間、くれるとも思えないけど、了解」

「行くぞ、ガルガンドぉ!!」


 あたしが頷くと、すぐさま怒りの仮面をかぶり、ガルガンドに躍り掛かる王子。

 あまり目立たないけれど、光太と同じか、それより少し上くらいには剣が立つらしい。

 一応強化Tシャツは手渡しているから、ガルガンドにも引けはとらないだろうけど……。


「マコ様、こちらへ!!」

「うん、わかった」


 サンシターに連れられて、あたしはやや後方で一塊になって防御に専念している神官たちの元へと向かう。

 正直、神官たちの祈りでこの大怪我が治るとも思えないけれど、無いよりは……。

 そう考えながら歩みを進めるあたしに、ふと小さな音が聞こえてきた。


「……?」


 耳を澄ませると、戦いの乱音の中に、小さく紛れ込んでいる音がある。

 その音の正体は……混沌言語(カオス・ワード)


「!?」


 慌てて周囲を見回す。

 見れば、いつの間にか乱戦になっている、ヒル騎士と騎士団たちとの戦いの最中、幾人かのヒル騎士は足を止め、口から混沌言語(カオス・ワード)を唱えていた。

 多くの騎士たちはそのことに気が付かず、自分たちへと襲い掛かっているヒル騎士の対処に追われている。

 聞こえてくる混沌言語(カオス・ワード)の内容は……。


「……まさか……!?」


 思わずガルガンドの方へと振り返る。

 踊りかかる王子を華麗に躱しながら、あたしの視線を受けたガルガンドはニヤリと笑って見せ、上へと指を向けた。

 それに従い、天を仰ぐ。


「……やられた……!!」

「どうしたであります、マコさ……っ!?」


 あたしと一緒に天を仰いだサンシターが、あたしたちの頭上にあるそれを見て絶句した。


「な……なんでありますかあれ!?」

「はじめっからこれが目的だったか……!」


 あたしたちの頭上……あたしたちを覆い尽くすように現れていたのは、巨大な魔力の塊。

 今にもはじけ飛びそうなほどのそれを見て、あたしはヒル騎士たちがアッサリ捕まっていた理由を悟った。

 ガルガンドとつながって、自由に動かせるということは、彼らの口を通じて混沌言語(カオス・ワード)を使うこともできるということ。ならば、あたしたちへの一撃を正確に行うためのガイド代わりにすることもできるはずだ。

 だから、捕まってもらう必要があったのだ。確実に、あたしたちのあの魔力を叩きこむために……!

 妙にヒル騎士たちの数が少ないのも納得だ。おそらく、フォルクス領内で円を描くように、あの魔力を溜め込む役割を果たす結界を生成するのに使われている……!


「やられた……!!」


 完全に、相手の術中にはまってしまった。

 歯を食いしばるあたし。だが、あれに抗するすべが今のあたしには……!


降れ滅星よデガ・ディメント・ステラ


 ガルガンドの言葉を撃鉄に、魔力が降り注ぐ。

 あたりを、轟音が包みこんだ―――。




 窮地に追い込まれる真子たち。果たして、無事なのか……!?

 一方礼美たちは、敵であった者たちに救われていた。

 以下、次回。


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