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No.173:side・Another「王都、激闘 ―アスカ編―」

「ええ~い~!」

「はぁっ!!」


 アルルの魔法と私の剣が、王都に現れた化け物の身体を打ち崩す。

 頭が吹き飛び、右半身に大きな刀傷を負った化け物はそのまま後ろへ向けて倒れていき、そのまま泡ぶくとなって消滅していった。


「……っ! これで、何体目だ!?」

「私は~十体~数えたあたりで~もうあきらめたわ~」


 私の質問に、辟易した様子で答えるアルル。

 今私たちは、北区へとやってきていた。

 アンナ王女の指示により、少しでも戦闘力のあるハンターたちを他の区への援護にあてるために、北区を素早く解放したいと言われ、我々がその任に当たることなった。

 だが、当初の想定を大きく上回り、敵の増援はほぼ尽きることなく現れた。


「はぁっ!!」


 大きく掛け声をあげ、ヨハンの拳が化け物に大穴を開ける。

 コウタ様からの通信により、これらの化け物には源理の力と呼ばれるものが有効とのことだった。

 そのため、覇気を使える私は元より、意志力(マナ)を自由に使えるヨハンも化け物退治に参加しているのだ。


「見たか、王都を脅かす化け物め! これぞ信仰の力なり!!」

「思えば~思うほど~威力が~上がるって~、意志力(マナ)は~反則よね~」

「だが、この場においては至極有効な手だ」


 化け物を相手に大見得を切るヨハンを見て呟くアルルに、私は小さく頷いて同意した。

 あの化け物退治のエースは、間違いなくヨハンだった。

 レミ様を想い信じることで、彼の意志力(マナ)はほぼ際限なく上がっている。

 意志力(マナ)は意志による力。消耗のし過ぎも当然命に係わるはずなのだが……。


「ある種のトランス状態に陥ることで、ほぼ無制限に意志力(マナ)を使えるのだな」

「これは~発見よね~」

「でぇりゃぁ!!」


 再び現れた化け物の胴体に回し蹴りを決めて上半身を消し飛ばすヨハン。

 かれこれ十体以上は軽く化け物を屠っているはずだが、欠片も消耗しているように見えない。

 おかげで私自身の消耗を極めて低く抑えられているのだが、逆に不安になってくる。

 ……あれだけ盛大に意志力(マナ)を使って、彼は本当に無事なのか?


「ヨハン! あまり力を使いすぎるな! もし今お前に倒れられたら!!」

「心配無用!! 女神(レミ)様を想う我が意志力は無限大なり!! ハァァー!!」


 そう叫び、また現れた化け物を粉砕するヨハン。

 ヨハンの叫びを聞き、私の胸の奥がズキリと痛んだ。


―ウラヤマシイナァ。アンナニマッスグニ……―


「……まあ、本人が言うなら別にいいのだろう」

「そうね~」


 ヨハンが一人で化け物を相手にしてくれている間に、私は周囲を確認する。

 一応道すがら、ハンターらしい人間たちに化け物退治に協力してくれるよう要請したが、ほとんどの者が自分の身を守るので精いっぱいだと答え、そのまま逃げていった。

 ……無理もない。元々、ハンターズギルドに所属するハンターたちは、別に本職を持つ者がほとんどだ。戦うことを目的とした騎士団とは、目的意識も実力も違う。

 そんな者たちに、前に立って化け物たちと戦えというのは酷な話だろう。

 それでも一応、非戦闘員の避難誘導とその護衛くらいは請け負ってもらえたので、今私たちがいる住宅街に人はほとんどいない。順調に行けていれば、今頃は教会に到着しているだろう。


「……アルル。アンナ王女に連絡を取り、他の区の状況を伺ってくれ」

「それを~聞いて~どうするの~?」

「ハンターズギルドの協力は得られそうにない。……遺憾ではあるが、北区を放置して、他の区の援護に回る。この区の住宅街には一通りまわり、避難勧告は出した。教会の防衛自体は、神官たちとケモナー小隊でなんとかなるだろう」

「う~ん~。わかったわ~、とりあえず聞いてみるわね~」


 アルルは私の考えに疑問を持つように首をかしげながら、ヨハンから受け取っていた水晶球を通じて連絡を取り始める。

 ……確かに、化け物を残して住宅街から離れるのは駄目だろうが、それよりも重要なのは化け物を退治することだろう。物事の順列は、正しく行わなくては――。


「っ!? アスカ~!!」

「ん……?」


 ぼうっとしていた私の耳に、アルルの緊張した声が響く。

 その声になんだと思うこと一瞬、自身の頭上に影が差しているのに気付くのに二瞬。


「……え?」


 背後の化け物が腕を振り上げて、私の振り下ろそうとしているのに気が付いたのは、瞬き三つを数えた時だった。

 油断、した?

 視界の端で、アルルが呪文を唱えているのが見える。

 ダメだ、このタイミングでは回避も間に合わない……!


―アア、コンナトキニアノヒトガタスケニキテクレタラ……―


 ばちゅん!!


 逃げようという思考が蘇り、何とか体を捻ろうとした瞬間、化け物の頭部が一撃で霧散する。


「……な、なんだ!?」

「なんだじゃねーよ! 大丈夫か!?」


 突然の出来事に混乱する私に声をかけたのは、いつの日かコウタ様たちと一緒に王都でネズミ探しをした、ハンターの少女だった。

 声のする方へ顔を上げると、確か……カレンと名乗った少女は住居の屋根を器用に飛び跳ねながらこちらへと近づいてくるところだった


「なにボーっとしてんだよ!? 死にたいのか!?」

「あ、ああ……いや、助けてくれてすまない」

「あなたは~ハンターズギルドの人~かしら~?」

「ああ、そうだよ!」


 屋根の上から油断なく周囲を見回しながら、カレンは答える。


「いきなり化け物が現れやがって、親父と一緒に退治して回ってたのさ! 人がいないんじゃ、商売にもならねぇ……!」

「聞いたアスカ~!? 私たち以外にも~戦ってる人たち~いたのよ~!」

「あ、ああ……そうだな」


 嬉しそうなアルルに、私は曖昧に頷く。

 にわかには信じがたい話だが……だが、さっき私を助けてくれた一撃を考えれば、納得か。


「……そうか、君は覇気が使えたんだな」

「一応な! 親父にチョロッと習った程度で、そんなに威力でないんだけどさ。こいつらには妙に効くんだよなー」


 不思議そうに首をかしげるカレン。

 ……どうやら、べつにケモナー小隊の誰かに話を聞いたわけではなく、本当に化け物が現れたから撃退してくれていたらしい。


「……ところでさ。あんた確か騎士団のアスカだよな」

「ああ、そうだが……」

「……リュウの奴は今どこで戦ってるんだい?」

「リュウ? ……ああ、リュウジ様のことか」


 何故か少しだけ頬を赤らめながら、問いかけてくるカレン。

 そんな彼女に、アルルが答えた。


「それが~、今~敵の一人と~戦ってて~どこにいるかわからないんのよ~」

「敵の一人と? ……あいつが苦戦するような敵がいるのかよ?」

「なんでも、かの魔竜姫が単身乗り込んできたらしい」

「はぁ!? 敵の大将が自らぁ!?」


 めまぐるしく表情を変えながら、カレンが屋根の上から降りてきた。


「ちょっと! なんであんたたちこんなとこにいるのさ! 今すぐ助けに行かないと……!!」

「そ、そうは言っても、二人とも空へと飛んで行ったのだ!! 我々ではどうしようも……!」

「……空?」


 今度はキョトンとした顔になる。


「……リュウの奴、いつから空が飛べるようになったんだい?」

「……いや、知らんが。少なくとも、コウタ様から伺った話では、そうとしか」

「ところで~、あなた~、リュウジ様とは~どういう御関係で~?」

「え!?」


 カレンのことを良く知らないアルルがそう問いかけると、カレンがなぜか目に見えて狼狽した。


「い、いや、関係って……そんな、深い関係とかそういうわけじゃなくて! でもそういう関係もやぶさかじゃないっていうか、とにかく違うんだよ! 確かにあいつはかっこいいし強いし、なんか横顔とか見てるとドキッとする上、考えてるだけで胸がぽーっと熱くなるけど……でもでも、そんなんじゃないんだよ! って、あたいったら何言ってるんだろ、忘れて忘れて、今の忘れて!!」

「……よくわかったわ~。ありがとう~」

「わかってないだろその顔ー!?」


 ひどくいやらしい顔をして笑うアルルの肩を、カレンはがくがく揺さぶった。

 ……リュウジ様も罪なお方だ。ここまで一途に想われているのに、敵の総大将を嫁と呼ぶなど……。


―アア、ネタマシイ……。コンナニマッスグニヒトヲアイセルナンテ……―


「と、とにかく!! ……リュウはいないんだね?」

「そうね~。現在位置も~不明だわ~」

「じゃあとりあえず、あんたたちについていくよ。一人でいるより、化け物とも戦いやすいだろうし」

「それはこちらとしてもありがたいな」


 カレンの申し出を素直に受ける。

 ここに来ての戦力増強は、ありがたい。

 ヨハンの無双っぷりだけでかなりありがたいが、もし彼が動けなくなった時のことを考えると戦える人間は一人でも多いほうがいい。


「……それで、アルル。私たちが他の区へ援護へ向かおうことはアンナ王女に伝えたのか?」

「ああ~、そのことだけれども~」


 アルルがアンナ王女からの指示を手短に伝えてくれる。


「こっちに~援軍を~向かわせるから~、その援軍が~来てから~他の区に~向かってくれって~」

「……援軍だって?」


 どういうことだ? 今城には必要最低限の人員しかいないはず……。とてもではないが援軍を送るような余裕は……。


「ふっふっふっ……」


 不意に、笑い声が聞こえてくる。


「こんなこともあろうかと……こんなこともあろぉかとぉ!!!!」

「……ギルベルトさん~?」

「なんだいこの変態は」

「某のどこが変態かぁ!?」


 バサバサと白衣を翻しながら現れたのは、魔導師団唯一の錬金術師であるギルベルト殿だった。

 ……まさかとは思うが……。


「……アンナ王女が言っていた援軍とは、貴方のことか?」

「うむ! 当然秘策も持って来た! ……ヨハン! 一人で無双してないで、とっととこっちに来い!!」


 ギルベルト殿が大きく怒鳴り声を上げると、それに気が付いて、今まで延々と化け物を退治していたヨハンがこちらへとやってくる。


「ギルベルト殿ではありませんか。いったいいつこちらに?」

「ついさっきだが。お前さん、一人でずっとあれらを倒してたのか?」

「ええ。信仰心の前に化け物など物の数では!!」

「そこは物の数にしておけ、人として」


 ワラワラとこちらへと向かってくる化け物たちを見てゲンナリとギルベルト殿はいい、一歩前へと出た。


「まあよい。これからは、某が相手をしよう……」


 不敵に微笑んだギルベルト殿は、白衣の懐から一本の試験管を取りだし。


「そぉい!!」


 それを化け物の群れへと投げつける。

 パリンと割れた試験管の中から、薬品が飛散。音を立てて白い煙を上げ始め……。


「……ええっ!?」

「うそ~……」


 驚くカレンとアルル、そして私たちの目の前で泡ぶくとなって消滅していった。


「おお、これは……!」

「一体……!?」

「はっはっはっ!! これぞ殺鼠剤改め殺モンスター剤!」


 大きく胸を張り、そう叫んだギルベルトさんの白衣の裏に、大量の試験官が縫い付けられている。おそらく、先ほど投擲したものと中身は同じなのだろう。


「ここ数日で完成していた殺鼠剤に手を加え! 化け物を殺傷するための薬品へと改造したものだ!!」

「すごい~! でも~、そんなのよく作れましたね~?」

「まあ、元々押さえ込んでおいた殺傷力を元に戻しただけだからな」

「ちょ、大丈夫なのかい!?」

「心配するな! 下手に人が吸い込まんように、成分が白い煙となってみえるようにしてある! 原液か煙か、どっちかを摂取せん限りは平気だ!!」


 乱暴極まりないギルベルト殿の説明に、その場にいた全員が胡乱げな表情になる。

 だが、効果は今見た通りだ。煙が晴れるまでは化け物たちもバッタバッタと倒れていた。扱いさえ気を付ければ、源理の力に頼らずとも、化け物たちを退治できるだろう。


「……ですが、ギルベルトさんは、元々非戦闘員でしょう? 例え薬の力があると言えど、お一人では……」

「いや一人でこんなところに来るわけなかろう」

「はい~?」


 煙が晴れ、迫り来る化け物たちを前に、ギルベルト殿はそういった。

 けれど、ギルベルト殿以外にそれらしい人影なんて……。


「はぁっ!」

「せい!!」


 次の瞬間、一時の旋風とともに、化け物たちが薙ぎ払われる。

 頭に耳を。尻に尾を。

 人とは明らかに異なる特徴を兼ね備えた、二人の戦士の手によって。


「………………え?」

「貴様ら! 遅いぞ!!」

「いや、貴方が速すぎるんですよ!!」

「転移使って先に行くくらいなら、一緒に連れて行ってよ、もー!!」


 怒鳴り声を上げるギルベルト殿に反論する二人の魔族。

 思い掛けない輩の出現に、思わず剣を構えるが、ギルベルト殿はさっさと二人の魔族へと近づいていった。

 私と同じように弓を構えていたカレンが、そんなギルベルト殿の様子に驚愕の声を上げる。


「まさか援軍って……!?」

「うむ。魔王軍の者たちのことだが」

「ど……どういうこと~……?」

「魔王軍は倒すべき敵であったのでは?」


 疑問の声を上げる我々に、ギルベルト殿はあっけらかんと答えた。


「よくは知らんが。無条件降伏するらしいぞ? なんでも、姫様が危ういとかで」

「そう! そうなんです!」

「早く姫様を助けて、リュウジさんの誤解を解かないと……!!」


 ギルベルト殿の言葉に、魔族が過剰に反応する。

 誤解だって? 誤解も何も、お前たちは元々……。


―ゴカイヲトクナンテ、モッテノホカダロウ。イマノヒメノスガタコソ、シンジツノスガタ……―


「……どういうことか、説明してもらいますよ。ギルベルト殿」

「某、ただ援軍に来ただけなのだが……」


 詰め寄る私をめんどくさそうに見下ろすギルベルト殿。

 だが、説明してもらわねば、動くに動けん……!

 そんな私の気迫を見てか、ギルベルト殿が大きくため息をついた。

 ……胸の奥から湧き上がりつつある、自分でもよくわからない物に蓋をしながら私は彼の説明に耳を傾けるのだった。




 魔族が味方になった! けれどそれは何故か?

 大きく流れが変わろうとしている王都。

 フォルクス領もまた、大きな流れが動こうとしていた。

 以下、次回。


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