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No.169:side・ryuzi「穏やかな日に、災禍」

今回のパーティ分離では、交互視点変更を行います。

しばらくの間、目まぐるしく視点が変わりますので、ご了承ください。

「ハッハァ! フルハウスだ! さすがにこんだけの手が出りゃ」

「ごめん、ロイヤルストレートフラッシュ……」

「私も……」

「チックショー!!」


 得意満面に繰り出した役に、最上位切り札を繰り出され、俺は思わず持っていたトランプを机の上に叩きつけた。

 フルハウスだって、けして負ける役じゃねぇのに、最上位役とかバカじゃねぇの!?


「おらぁ! もう一回だ! 今度こそ負けん!!」

「皆様、いったい何をしておいでですの?」

「あ、アンナ王女」


 威勢よく啖呵を切って、散らばったトランプを集めていると、アンナがひょっこりと顔を見せた。


「お、アンナか。フィーネもジョージもいなくて寂しくなったんか?」

「そんなわけございませんわ!! ただ、トランドが仕事を回してくれないので、手持無沙汰なだけですわ!」

「あれ? そうなんですか? てっきり、トランドさん、アンナ王女にも仕事を回してあげてるものだと……」


 俺と一緒にトランプを回収した光太の言葉に、アンナが少しだけ肩を落とした。


「ええ、まあ、いくらか回っては来るのですけれど……。ホントに重要な案件は、お兄様にしか判断が付かない物ですから……」

「そーなのかー」


 しょんぼりとした雰囲気を醸し出すアンナだが、その辺り(政治関係)にとんと興味のわかない俺は適当に流して、アンナをトランプに誘うことにした。


「まあ、暇なら一緒にやるか? 俺たちの世界の遊びだけどさ」

「皆様の世界の? というか、遊んでいたんですの?」

「ああ、いや、そのー」


 まるで詰問でもするかのようなアンナの言葉に、レミが視線をあちらこちらへとさまよわせた。

 そんな礼美の様子を見て、アンナが首をかしげる。


「?」

「ああ。礼美の奴、真子が今、向こうにいるせいか気がそぞろでな」


 気まずそうな礼美に代わって、俺と光太が説明してやる。


「いまいち訓練に身が入ってねぇんで、適当に切り上げたんだよ」

「礼美ちゃん、真子ちゃんが心配なのはわかるけどね?」

「う、うん、私も、わかってるんだよ……?」


 光太が肩にポンと手を置くと、言い訳するように礼美が光太を上目遣いで見つめる。

 瞳までうるませて友達を心配する礼美を、光太は優しい声色で宥めた。


「真子ちゃんは大丈夫。礼美ちゃんの一番の友達じゃないか? だから、安心して待っていようね」

「う、うん……わかったよ、光太君……」

「…………今のコウタ様の声を聞いて、特別動揺もしないって、信じられませんわ……」

「この辺、俺たちも頭が痛いところでなー」


 光太と礼美に聞かれないように、アンナとボソボソ話をする。

 っていうか、今の光太の声のトーン、明らかに女を口説き落とす時のもんだよな……。

 光太と礼美が程よく離れたところで、仕切り直すようにアンナがゴホンと咳払いした。


「まあ、それはわかりましたわ。私にも、レミ様の御気持ちはわかりますもの」

「アルト王子のことですか?」

「ええ……」


 アンナの表情がわずかに暗くなる。


「お兄様が自ら決意なさり、そして諌めに向かったのはよいのですけれど……よくないことが起きないとよろしいのですが……」

「そうですね……」


 アンナに同意するように、光太の表情もわずかに陰る。

 アルト率いる反乱鎮圧のための部隊がフォルクス領に向かう際、真子は懸念材料として、ガルガンドがこの反乱を扇動していることを上げた。

 もちろん、推測以上の域を出ない話ではあるが、俺の話を聞いていたアンナにとってはかなり痛い懸念なのだろう。話で上がる限りでも、ガルガンドには目的の見えない恐怖と悪意を実行に移す恐怖、この二つの恐怖が付きまとうのだから。

 そんな二人の不安に、俺はトランプを混ぜながら答えた。


「そんな心配することねぇぞ」

「隆司? いったい、どういう意味さ」


 俺の言葉に、光太が首をかしげる。

 トランプをトントンと揃えながら、俺は続ける。


「なに。そのうち、そんなことする暇がなくなるだろうって話だ」

「……えっと、どういう意味かな……?」


 俺の言葉の裏を呼んだのか、礼美がやや汗を流しながら問いかけてきた。

 俺はその期待に応えることにする。


「今この城にいる戦力は、魔王軍との戦闘を一回程度凌ぐことを想定してるよな?」


 俺の言葉に、その場にいた全員が頷く。

 反乱軍鎮圧に向かったのは、騎士団の主力ほとんどと、魔導師団と女神教団から有志数名。

 そしてこちらに残ったのはケモナー小隊全員と魔導師団と女神教団の人間だ。

 魔王軍との戦闘に関しては、ケモナー小隊がいれば、一度凌ぐ程度訳はない。前線を押し進めるには、真子の力も必要になるだろうが。


「ただ、逆に言えば魔王軍との戦闘は一回凌ぐのが限度。それ以上の事態は想定していないわけだ」

「まあ、そう言うことになるわけですけれど……」


 俺が何を言いたいのかいまいち理解していないらしいアンナが小さく首をかしげる。

 そんなアンナにわかってもらうため、俺ははっきりとこう口にする。


「早い話、この城には今十分な人数の戦力がいない」

「………………あの、つまり?」


 やっと俺が言いたいことを理解してくれたのか、滝のように汗を流し始めるアンナ。

 俺がその先を口にするより早く、ドバンと俺たちのいる部屋の扉が開かれた。


「た、大変ですアンナ王女!! 城下町に、謎の化け物たちが出現したとの報告が!!」

「……そんなタイミングを、あの外道魔導師が逃すわけはねぇわな」

「したり顔でのたまってる場合ですの!?」


 軽く肩を竦めた俺の頭を、アンナが手に持ったスリッパで、スパーンと景気良くはたいた。




「スリッパとかどっから出したんだよお前……」

「乙女の秘密ですの! そんなことより、状況報告!!」


 王城の中に存在する礼拝堂。普段は城勤めの教団員たちの祈りのための場所だが、突然の化け物の出現に前線基地の様な様相を呈していた。


「南区に数にして四確認! 神官たちで応戦していますが、押されているようです!」

「北区で十との報告あり! ハンターズギルドの応援もありますが、戦況は厳しい様子!」

「西区にも発見の報が! 至急応援をとのことです!」

「東区より続報! 地下洞穴を通って、続々と化け物が現れているとのことです……!」


 水晶球を通してそれぞれの地区にある教会と連絡を取り合っているらしく、連絡担当の神官たちが慌ただしく報告を寄越してくる。


「各地に即座に応援を! ただし戦闘は最低限に! 怪我人の搬送を最優先で行いなさい!」

「化け物の対処は!?」

「ケモナー小隊と、勇者様たちを当てます! 絶対に無理をしないように伝えなさい!」

「ハッ!」


 俺たちへの確認も取らずそう答えるアンナ。

 ……っつってもまあ、やる気満々の奴らがここに入るわけなんですけどね。


「……皆様、申し訳ありません!」

「頭を上げてください、アンナ王女」


 こちらへと振り返り、勢いよく頭を下げるアンナに、光太は力強く答えた。


「この国が何者かに襲われているというのであれば、僕たちはその災禍を払うために動きます」

「どうか謝らないでください。私たちは、自分の意志でこの国を助けたいんです!」

「……はい! ありがとうございます!!」


 光太と礼美の言葉に、感極まったように涙ぐむアンナ。

 俺は首をコキリとまわしながら、光太と礼美を見回した。


「で? どう動くよ?」

「状況が不透明だから、各区をみんなで回ろう。まずは敵が湧いてるっていう、東区から……」

「他の区はどうするの?」


 光太の案に、不安そうな声を上げる礼美。

 誰かが犠牲になりやしないかと、不安で仕方がないのだろう。

 光太は、自身も歯を食いしばりながらその声に応えた。


「……ケモナー小隊の皆さんに頑張ってもらうしかない……」

「まあ、妥当だわな。化け物ってのがどんなのかわからねぇが、さすがに束になりゃ何とかなるだろ」

「レミ様!!」


 と、指令本部である礼拝堂にヨハンとアルル、そしてアスカさんが駈け込んできた。

 三人とも、光太と礼美がこちらに残るなら我々も、と言ってきた連中だ。

 特に否もなかったので残ってもらったが、今回の場合は僥倖というよりほかはない。彼らの戦闘力は、一般の騎士よりも上なのだから。


「ちょうどいい。俺たちがいない区には、ヨハンたちを回せばいい」

「うん、そうだね……。お願いできますか!? ヨハンさん!」

「もちろんです、お任せくださいレミ様!」

「私は~コウタ様と~ご一緒したいの~ですけど~」

「こんな時にわがままを言うな。我々は勇者様方とは別行動だ」


 不満げなアルルをアスカさんが窘める。

 さて、ひとまずの行動指針は整ったか。


「んじゃ、時間もあんまりねぇだろうし。化け物退治といきますかね」

「ええ、お願いしますわ! ケモナー小隊の皆さんには、私が指示を出します!」

「皆さん、これを! 連絡用の水晶球です!」

「おう。礼美、持っとけ」

「うん!」


 神官の一人より手渡された水晶球を、そのまま礼美にパスする。

 ヨハンも同じような水晶球を受け取ったのを見てから、俺たちは東区に向かう門へと駆け出した。


「にしても化け物ねぇ。詳しい話は聞かなかったが、どんな奴だと思うよ?」

「さあ、わからないな……。ひょっとしたら、この間サンシターさんを襲わせてたやつかもしれないけど……」

「ネズミが固まったとかいう例のアレか?」

「うん」


 地下洞穴で、ガルガンドが混沌言語(カオス・ワード)らしい呪法で組み上げたという化け物だ。

 もしそうなら、地下洞穴から湧いて出てきているというのも納得だが。


「……ねえ、隆司君」

「んだよ」

「ガルガンドは、どうしてこのタイミングで王都を襲ったのかな……?」


 礼美の言葉に、俺は首をかしげて見せる。


「さあな。単純に、戦力がないと見たからじゃねぇか?」

「そうだとしても、おかしくないかな? 戦力がなくなったのは、二日前なんだよ? 王都の地下のネズミを手なずけてるガルガンドなら、すぐに手を出してくるんじゃないかな……?」

「……まあな」


 礼美の疑問に頷いて見せる。


「だけど、現実問題、ガルガンドは俺たちを攻撃して来てんだ。今はそっちの方を考えろよ」

「……うん、そうだね」


 礼美は俺の言葉に素直に頷いた。

 ……と口では言ったが、気になるのも確かだ。

 ただ単に組し易いと考えて攻め込んだのであれば、主力部隊が反乱領へ向かった次の日にでも攻め込んでくるだろう。

 なにか、ガルガンドが攻め込むことを決意した出来事があったはずだよな……。

 今回の襲撃への疑問を胸に抱きながら、俺たちは東区が眼前に広がっている城門を潜り抜ける。

 早馬馬車があれば、一息に問題の場所へといける――。

 そう、考えた俺の耳に何かが聞こえてくる。


「――!?」


 耳鳴りにもよく似た、空気が震える音。

 方向は、真上。

 これは……風斬り音!?


「隆司!?」

「どうしたの!?」


 足を止めた俺の方へと振り向いて、光太と礼美が駆け出そうとする。

 俺は音の正体がなんなのか悟り。


「離れろっ!!」


 素早く二人に叫んで、一息に飛び退く。

 光太と礼美が俺の忠告に従い、俺から離れるように飛ぶのと同時。


 ゴオォォォォンンンン!!!!


 岩石の砕ける音と、落下してきた物体が纏っていた風が、一気に周辺を吹き荒らす。


「うぐっ!?」


 猛烈な風と石つぶての勢いに、思わず目を閉じかけるが、何とか腕で庇ってそれに耐え。

 さらに遅れて降り注いだ風によって開けた視界に飛び込んできた、その艶姿に俺は思わず叫び声を上げた。


「ソフィアぁ!? なんでこんなところに!?」

「シャァァァァァァァァ!!!!!」


 だが聞こえてきたのは、まるで獣の様な咆哮。

 いつもの理性が欠片も見当たらないソフィアの姿に、俺は愕然となった。

 いったい、何があったってんだ、ソフィア!?




 巻き起こったのは化け物の嵐。やってきたのは魔竜姫。

 この事態に、勇者たちは対処しきれるのか?

 一方、反乱領地では、制圧戦が始まっていた……。

 以下、次回。


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