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No.17:side・ryuzi「魔王軍、侵攻」

 今回、若干変態描写がございます。

 そういうものが苦手な方はご注意ください。

「のろしが上がった、だって!?」


 いつもの朝食。最近の主食になりつつあるウッピー肉をかじっていると、王子の驚愕の声が耳に入ってきた。


「はい、前線の物見係からの報告があり……!」

「そんな……!」


 そちらの方に目を向けると、さっきやってきた伝令の報告に愕然としている表情の王子が目に入った。

 でも、なんでそんな驚いてんだ?


「……ちょっとアンナ。魔王軍って確か二週間に一回くらいのペースで進行してくるんじゃなかったの?」

「そのはずです! 一週間なんて早すぎますわ!?」


 真子とアンナの会話のおかげで記憶のサルベージに成功する。

 そういやこっちの魔王軍、二週間に一回くらいのペースでしか侵攻しないうえに、のろし上がってから三日くらい間を開けるんだっけ?

 改めて考えると、侵略戦争しかける軍としてどうなんだそれはって感じだな。確かに補給とか必要だとは思うけど、連戦連勝なら間を挟む必要はないはずだし。

 まあ、こっちとしてはありがたい話、だったんだな。


「でものろし上がってから三日くらいで攻めてくるんだろ? その間に準備したらいいんじゃねぇの?」

「そ、そうですね。今から騎士団に命じて……」

「伝令ー! 伝令ー!」


 俺の言葉に王子が若干落ち着きを取り戻したのもつかの間、また伝令が息を切らして走ってきた。

 ああ、もう嫌な予感しかしねぇな。


「何事です!?」

「前線より報告! 魔王軍将校より《今すぐ勇者を出せ。さもなければ、王都侵攻を開始する》と……!」

「なん……だって……!?」


 ああ、やっぱりな。しかもまさかの御指名ときたよ。


「勇者がいることがばれてる……? どういうことよ」


 真子がいぶかしげな様子でつぶやいている。

 確かにまあ、ばれてるのは問題かもしれねぇな。外に情報漏れてるってことだし。

 でも今重要なのはそこじゃねぇな。


「……アルト王子。僕たちが行きます」

「そんな!? まだ皆様の修業が終わって……」

「大丈夫です、アルト王子。私たちには力があります。なら、皆さんのために戦うのは怖くありません!」


 光太と礼美が勢いよく立ちあがって力強く頷いている。

 出てこなければ王都侵攻を開始するといわれて、この二人が黙ってるわけはねぇな。

 だがその隣では真子が渋い顔をしてやがる。

 今戦うのは避けたい、って顏してんな。真子の表情も案外読みやすいよな。


「おいおい、待て待て」


 なら一番槍は、俺がもらっていこうじゃねぇか。


「お前らまだ実戦すらこなしてねぇじゃねぇか。ここは俺に任せとけよ」

「隆司君!?」

「隆司、でも!」

「……確かに、あたしたちの中で実際に戦いの経験があるのは隆司だけよね」


 俺の言葉に光太たちが反論しようとするけど、真子の冷静な声が二人の言葉を詰まらせる。

 さらに言うなら、俺たち四人の中で一番死ににくいのは俺だろう。体の頑丈さと回復力が桁外れだもんな。


「真子ちゃん……でも……!」

「あたしだって隆司だけ戦わせるのは嫌だけど、今すぐ戦えって言われても準備ができてないのよ……仕方ないわ……」


 礼美の言葉に真子が仕方がないというように首を振っているが、その眼は何より雄弁に語っている。

 死んでも情報持って帰れ、と。

 腹黒軍師殿の厳命にゲンナリしている俺の肩を、うつむいて唇を噛んでいた光太ががっしり掴んだ。


「……隆司」

「なんだよ?」

「ごめん、今回はお願いしてもいいかな……?」


 うつむいたまま目を合わせようとしない、光太。親友を危険な目に合わせようとしているのが分かっているから、どうしても自分が許せないんだよなこいつは。

 だからまあ、俺のセリフは決まってる。


「ああ。任せとけ、ダチ公」


 にやりと笑って、力強く宣言する。

 そう簡単に、やられたりはしねぇさ。




 急ピッチで進められた防衛準備。でたらめにあわただしく準備を整えた騎士団は、大慌てで王都を出発した。

 今、俺はデンギュウとかいうムカデみてぇに大量の足が生えたきわめて気持ち悪い哺乳類系の何かが引っ張るでっかい車輪付きの箱の中に座って前線へと向かっていた。ちなみに屋根はない。

 俺以外には騎士団長以下十数名の騎士たちの姿がある。騎士団は王都にいるだけで三百人前後くらいいるらしいが、前回の会戦の傷が癒えてなかったり非番だったりで、今回の戦いに出てこられるのがこれだけしかいないらしい。

 聞くところによると、魔王軍が攻め込んでくる人数がだいたい同じくらいらしいので圧倒的不利が確定してるわけだ。どうすんだよこの状況。


「なんか作戦あんのか団長さん。この戦力だと、確実に前線押し込まれちまうけど」

「それについてだがな。今回戦うのはお前だけだ、リュウジ」

「はい? どういうことだよ?」

「実は魔王軍との戦闘は全戦力をぶつけ合う総力戦と将校同士の一騎打ちが選べてな。前回は総力戦だったんで、今回は一騎打ちが選べるんだよ」


 したり顔でうなずく団長さんだけど、総力戦はともかく一騎打ちに勝ったらおとなしく帰るのか? 相変わらず意味不明だな魔王軍。


「勇者を指名してきた以上、お前が戦うことは決まってる。さすがに勝てはしないだろうが、向こうも勇者の調査が目的だろう。なら、お前一人が戦えば今回は終わるさ」

「すげぇ楽観的だなおい」


 さすがの俺も呆れざるを得ない。ホントに戦争中なのかよ?

 っと、そういえばひとつ確認しておきたいことがあったんだよな。


「魔王軍だけど、基本的に人型なんだっけ?」

「ああ、そうだな」

「でも人間じゃねぇんだよな?」

「おう。少なくとも人間の頭に耳が生えてたり、ケツに尻尾があったりはしねぇな」


 なるほど……。

 俺は人知れずほくそ笑んだ。

 これは光太にも教えてない、というか理解は得られそうにないんで黙ってるんだけど。

 俺の好みはいわゆるモンスター娘である。

 擬人化分野の中でもモンスター系に特化しているジャンルで、基本的に人間に化け物のパーツをくっつけたような姿が大半、ごくたまにモンスターに人間の特徴をくっつけたようなものもある。

 俺はどうしようもなくこのジャンルが好きだった。なんでかといわれても困るけど、好きだった。

 でもあれだ。ぷりてぃこぬこと美少女くっつけられたらどうしようもなく萌える。だろ?


「なんだよ急に笑い出して気持ちわりぃな」


 俺の表情を見て若干引いている団長さんを置いといて、俺は笑みを深めていった。

 この世界にはどんなモンスター娘がいるのかなぁ……。




 で、前線に到達した俺たち。

 俺の目の前には、まさに夢のような光景が広がっていた。

 犬耳尻尾なだけじゃなくて肘と膝までモッフモッフなワーウルフに、肉球まで完備したワーキャット。肉球プニプニしてぇぇぇぇぇぇぇ!!

 もちろん軍というだけあって、女の子だけじゃなくて野郎もいて、割合としちゃ半々くらいだけどもうこの際そんなことはどうでもいい。今すぐ撫でたいさわりたい超モフりたい。

 だが、前線に到着した俺の目の前にいたのはそんなフワカワ系モンスターだけではなかった。


「ほう? お前が勇者か?」


 流麗蒼美の差しが俺を射抜く。サファイアのような瞳が面白そうに揺らめいた。


「異界より顕現したものと聞いていたが……なるほどな」


 ゆらりと大きな尻尾が彼女の心を表すようにくるりと揺れた。だが力強さを感じる尻尾は決して地面に触れないように丁寧に丸められていく。


「見たことのない黒髪黒瞳とはな。だが……」


 ばさりと背中に生えた大きな翼を広げ、凶悪な笑みを浮かべてこちらに華麗な礼装が施されたレイピアを突きつけた。


「黒は私の色だ。その色を纏うのは不遜と知れ」


 その身を覆うのは漆黒の鱗。起伏に富んだその体を包む鎧もまた漆黒。

 その両の手には鋭いかぎ爪。牙を備えた美しい顔には不釣り合いな禍々しい角が生えている。


「我が名は魔竜。魔竜姫ソフィアだ。名を名乗れ、勇者」


 見紛うこともない。ファンタジー世界につきものの生き物。最強と名高い、伝説の生物。


ドラゴン娘(俺の嫁)キタァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!!!!」


 ブラックドラゴンの姿がそこにあった!

 やべぇ超興奮する! 俺の気合に呼応して羽織っていたマントがバタバタ音を立てて靡いちゃうくらい興奮してる!

 俺の反応にびっくりしたらしい、目の前のドラゴン娘……ソフィアが手に持っているレイピアを取り落しかけた。


「お、おれの?」

「ああ、すいません思わず本音が」


 素早く紳士的に頭を下げつつ、俺はソフィアの姿を隅々まで脳裏に焼き付けるように観察する。

 きめ細かい鱗は、彼女が身に着けている鎧に負けないほどの輝きを放っている。

 髪は戦いに邪魔なのか肩口あたりで切りそろえられているショートヘアだが、勝気な雰囲気の彼女にはとてもよく似合っている。むしろそれ以外の想像が……ポニテも捨てがたいな。

 スタイルはグンバツ。出るところは出て引っ込むところは出ているだけじゃなくて、鎧のスカート部分から除く生足はむっちりしているとか凶器ですか。俺を挟み殺すんですねわかります。

 目の前の俺の様子に戸惑ってひそめられている形の良い眉、瞳、鼻、唇。すべてのパーツが黄金比を保って俺の向けられている。おっとヨダレが。

 思わずたれそうになったヨダレをぬぐい、俺は礼を逸しないうちに自己紹介を始める。


俺の名前は辰之宮隆司(まさかこんなに早く嫁)。この世界に召喚され(に出会えるなんて超幸)た勇者の一人だ(運じゃねぇかグェヘヘ)

「心の声がダダ漏れになってんぞオイ」


 隣に立っている団長さんが何か言ってるけど無視。

 俺は手に持った石剣を右手に持って、ソフィアに突き付けた。

 気味悪がって引いていたソフィアも、そんな俺の様子を見て力強い笑みを取り戻し、手に持ったレイピアをこちらに突き付けてきた。


「言っていることの意味は分からないが、勇者には違いないのだな? ならばその力、私に見せてみろ!」

「欲しいものは自分の力で手に入れる……。今! 男のロマンを叶えさせてもらうぜ……!」


 俺とソフィアは、合図もなく同時に飛び出した。


「おおぉぉぉぉ!!」

「どりゃぁぁぁ!!」


 俺たちが振りかぶった刃は轟音を立ててお互いの剣に牙を立てる。

 想像通りの力強さに俺は笑みを深める。そうだ、ドラゴンはこうでなくっちゃなぁ!

 だがソフィアは想像以上の俺の力に圧倒されたのか、一瞬後ろに体が揺れる。


「ぐっ!?」

「しゃぁっ!」


 俺はその隙を逃さずレイピアを上へと弾き飛ばし、石剣を大きく振りかぶる。


「おらぁっ!」


 勢いよく振り下ろされた刃は、しかしソフィアの翼の制動によって見事に後方回避されてしm。


 キィン!!


 あれ、なんかすごい甲高い音がしたんだけd。


 ブチィン!!


「きゃぁっ!?」


 突然、ソフィアの胸がはじけ飛んだ。

 いや、違うか? 壊れた胸部鎧は縦一文字のまっすぐな傷を見せている。その間から見えるのは、染みひとつない肌色と、包帯のような細い布。

 なるほど。おっきいおっぱい気にして、普段はさらしで封印しているんですねわかります。

 突然の窮地に顔を真っ赤にして涙目になり、あわてたように左手で胸を抑え込むソフィア。その顔は悔しさと羞恥に歪んで、とてもそそる。誘ってんのか。

 そんな彼女の様子をじっと見つめていた俺に気づいた彼女は、ハッと気が付いたような顔になりすぐに取り繕おうとした。


「ふ、ふん! 思ったよりやるじゃないか! み、認めてやろう貴様の力を!」


 一生懸命胸を張ろうとしているけれど、素敵なロケットおっぱいを隠そうとしているせいで、すごい腰が引けてます。

 気丈に威厳を保とうとしているが、赤い顔に涙目のせいで、むしろ彼女の愛らしさを引き立ててしかいない。

 思わず、つばを飲み込む。


 ………ゴクリ。


 思った以上に大きな音が出た。

 そんな俺の様子に気が付かないソフィアは、じっとしている俺をキッと睨みつけると。


「ど、どうした! 遠慮せずかかってくるがいい!!」


 と、おっしゃってくださった。

 本人からOKも出たし、いいよね?


「……では遠慮なく」

「さ、さあ! 来るがいい!」


 俺は石剣を肩に担ぎなおすと、何とか背を伸ばそうとするソフィアに駆け出し。


「おぉっと足が滑ったぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」


 石剣を放り出して、内股になっているムチムチな太ももと鱗の間にヘッドスライディングを決めた!


「え、この状況でそっち行っちまうのお前?」


 また団長さんが何か言ってるけどガン無視。


「きゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!??」


 女の子っぽい悲鳴とともに、ソフィアの体が俺に引き倒される。

 あ、スパッツ。こっちにもあるんだなー。まあ、今はそんなことより。

 スリスリスリスリ。


「あ、ちょ!? ん……! やめ……!」


 んー、人間肌のムチムチ具合と鱗のスベスベ具合が相まって極上の触感に――。


「やめなさいっていってるでしょぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!???」


 ずごぉぉぉぉぉぉぉぉんんんん!!!


 エライ勢いで後頭部に剣の柄が叩きつけられた。さすがに痛い。

 俺の顏が地面に埋まるのと同時に、俺の頬に当たっていたソフィアの足が高速で撤退していった。

 少し力を入れてズボッ!と地面から顔を引き抜くと、荒い息でこちらを睨んでいるソフィアと目があった。

 顔は赤いし目つきは鋭い。ここは謝っておくべきだろう。


「思わぬ可愛らしさに興奮しました。ごめんなさい」

「可愛いなどとそんな褒め言葉で……!」

「だが後悔も反省もしていない!」


 俺が力強く言い切ると、ソフィアの顏と翼と尻尾がビクゥ!と跳ね上がった。かーいいーなー。


「え、え!?」

「というわけで、引き続きその太もも堪能させてください!」


 勢いよく立ち上がり、クラウチングスタートの体勢になる俺。狙いは当然……。

 俺の視線にまたビクゥ!と体を跳ねあげたソフィアは。


「い……イヤァァァァァァァァ!!??」


 胸を隠したポーズのまま、大急ぎで後退。空を飛ぶその速度は音速の勢いである。


「………あ!? ソフィア様、お待ちくださいー!?」


 俺とソフィアのやり取りを呆然と眺めていた魔王軍兵士諸君は大慌てで自分の上官を追いかけていく。移動用の乗り物もないのに馬並みのスピードで走る姿を見ると、やっぱり人間とは違う生き物なんだなぁ。

 そして最後まで残ったワーキャットは、面白そうに俺の顔をまじまじと見つめ。


「これからもソフィア様をよろしくですニャ♪」


 にやりと笑ってそう言い、そのままスキップしながら殿を務めていった。

 俺はゆっくり立ち上がると、額の汗をぬぐう。


「いやぁ、魔王軍は強敵でしたね……」

「後頭部にデカいたんこぶこさえながら、シリアスにそんなこと言われてもなぁ」


 やっぱり団長さんが何か言ってるけどスルーし、俺はソフィアが去って行った方向をじっと見つめていた。

 また会おう嫁よ……。




 己の欲望には直球で正直。それが辰之宮隆司という男です。

 こういう世界観だから魔族ってことにしてますが、本来なら獣人と表記すべき姿ですかね? 人間的なパーツの方が多いです。人間ベースに動物のパーツを加えてる姿を想像してくだしあ。男も女も同じ姿です。

 次回はもう一回魔王軍に出張ってもらいます。いやだって、戦いらしい戦い一切してねぇし。


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