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No.161:side・ryuzi「乱世を望む奴」

「大事な会議中に眠るとかいい根性してるわよね、つくづく……」

「だからってしこたま殴るこたぁねぇだろうが……」


 ようやっと会議が終わり、快適な眠りを噛みしめていた俺を起こしたのは、真子の強烈な右ストレートだった。

 混沌言語(カオス・ワード)あたりで強化されてんのか、頬骨が砕けるほど痛かった……。


「授業中とかもそうだったけど、長い話になるとすぐ寝るよね、隆司……」

「元々俺の頭は難しいこと考えられねぇ様にできてるんだよ」


 呆れ顔の光太にドヤ顔で開き直ってやると、追加でため息をつかれた。

 とはいえ、これは半分くらい本当のことだ。難しいことを考え過ぎてドツボにはまってたわけだからな……。

 俺が深く考えるべき事柄は一つ……。いかにして嫁を口説き落とすことだけさ……。


「いい加減、頭骨開いて脳みそかき回すわよ?」

「今のお前だとリアルで出来そうだからやめてくれ」


 どこからともなくスプーンまで取り出して凄む真子に平伏する。っていうか、どっから出したそのスプーン。


「ったく……。ただでさえ、アホ貴族の反乱で頭が痛いのに……」

「うん……。これから、どうなるんだろうね、真子ちゃん……」


 ずっと不安げに顔を俯けていた礼美の言葉に、真子は真剣な表情で考える。


「……まあ、フォルクス公爵の反乱自体を収めるのは簡単よ。でも、その過程や結果如何では、アメリア王国そのものに亀裂が入っちゃうかもしれないわ……」

「というと?」

「一番怖いのは、王国に対する貴族たちの不信ね」


 俺が促すと、真子は首を横に振って見せる。


「この国、貴族領からやってくる貿易品……っていうのは正しくないと思うけど、ともあれ交易の品で基本的に成り立ってるからね……。貴族たちが王族を信用しなくなって、そこを断たれると今度は国民たちに不満が溜まっちゃうわ」

「そうなると、後は芋づる式にこの国が崩壊しちゃうよね……」

「うん……」


 真子の言葉に同意するように光太と礼美も真剣な表情で頷く。

 そんな三人を見て、俺は首を横に振った。


「……そこまで深刻になるようなことか? いや、いろいろものがなくなったら困ると思うが」

「……あんたねぇ。誰もが肉だけ喰って生きてるわけじゃないのよ?」


 心底呆れたという風に、俺を睨みつける真子。

 たぶん、俺がハンターズギルドに所属しているから、食料には困らないといいたいと思ってるんだろう。

 だが、俺が言いたいのはそこじゃねぇんだよな。


「いや、そりゃそうだがな。アルトが王……というか実質の国の代表になってりゃ、特に問題はねぇと思うぞ?」

「……なによ? どういうこと?」


 自信たっぷりな俺の言葉に、真子が不審げに眉をひそめた。


「アルト王子が国の代表やってるから、貴族たちは反乱を起こしたんでしょうが」

「いやそりゃそうだがな。だが、あんなのぁボンクラ貴族がファビョってるだけだろ」

「ファビョ?」

「火病にかかってるって意味で、ストレスを周りにまき散らす人のことをそう言うスラングだよ」

「そうなんだー」


 俺の言っている言葉の意味が解らない礼美に光太が教えてやっているのを脇目で見ながら、俺は自分の確信の元を話してやった。


「……なんで俺がそう思うかって言えば、単にアルトのことが国民の間でまったく話題に上がらねぇからさ」

「……はぁ?」


 俺の言ってることの意味が解らない、という風に顔をしかめる真子。

 光太も同じく首をかしげている。


「……ああっ! 確かに!」


 ただ一人、礼美だけが俺の言いたいことを理解してくれたらしい。

 礼美は神官たちと仲がいいからな。国民たちの噂話にゃ詳しいだろ。

 俺と礼美を比べるように見て、そして真子は俺の方を睨みつける。


「……あたしはあんたたちみたいに、直観で物事を判断しないのよ。もっと、正確な根拠を話しなさい」

「直感とか、そこまで単純じゃねぇと思うが……まあ、いいや」


 俺は小さく肩をすくめて、今度はちゃんと説明した。


「……この国の人間の間じゃな、アルト王子の噂話なんてのは、ほとんどあがらねぇのさ」

「……? どういう意味よ」

「えっとね、真子ちゃん。これは神官の人たちから聞いたんだけれどね」


 まだ理解してくれない真子に、横合から礼美が補足説明を入れてくれる。


「お祈りに来る人たちは、日々の平穏をいつも祈るんだけれど……アルト王子のことはほとんど話してはいかないの」

「……それって、アルト王子が単に何もできてないからとかそういう話じゃ……?」

「うぅん、そうじゃなくてね? アルト王子に対する、批判的な噂話すらほとんど上がらないんだって」

「……? ……!? どういうことよそれ!?」


 首を傾げ、何かに気が付いたようにハッとなり、そして叫び声を上げる真子。


「どうもこうも、そのままの意味だよ」

「ちょ、そんなアホな話が……!?」


 あまりのことによろめく真子。

 そんな真子の代わりに確認するように、光太が俺に問いかけた。


「……隆司、それホントなの?」

「今ここで嘘言っても、誰も得しねぇじゃねぇか」

「それはそうだけど、まさか……」


 光太まで色々と考え始める。

 そんな中、今までずっと俺たちの話を邪魔しないように黙ってついてきていた現・騎士及び御付きの人であるサンシターが、質問するように片手を上げた。


「あのぅ、リュウ様……? どういう意味でありますか……?」

「わからねぇか? ……まあ、この国に住んでりゃわからねぇわな」


 いまいち理解してくれないアメリア王国代表のサンシターに苦笑しつつ、俺はもっと噛み砕いて説明してやった。


「この国の国王は、一年以上前に死んで、しかもその直後に魔王軍の侵攻が始まったな?」

「はいであります。それで、半年ほど前に皆様がこの世界に呼ばれたであります」


 うむ、その通りだ。

 素直に頷くサンシターに、改めて確認するように俺は問いかけた。


「国の指導者が没した挙句、理由不明の侵略者がこの国を襲ってるってのに、国民からは不平不満が一切上がってねぇ……。これって、地味だけどスゲェことだとは思わねぇか?」

「え? うーん……?」


 俺の質問に、サンシターは首を傾げ……。


「確かにすごい気がするであります」

「すごい気がする…程度じゃすまないわよぉ!!」


 ぽんやり頷くサンシターの肩をガッと掴んで前後にがくがく揺さぶり始める真子。


「あんたわかってる!? あんたの国を治めてきたのは、ただの王子であって、最後まできちんと教育を受けた王じゃないのよ!? いくら大臣の補助があるとはいえ、そんな国から一切の不平不満が上がらないなんて、あるわけがないでしょうが!? ねえ、ちゃんと理解してんの!?」

「くぁwせdrftgyふじこlp!?」

「ちょ、落ち着け落ち着け」

「真子ちゃん、ドウドウ!?」


 サンシターの口から怪しげな叫びが聞こえてきたため、慌ててヒートアップする真子を止める俺と礼美。

 礼美に羽交い絞めにされ、ゼーゼーと荒く呼吸を繰り返す真子をなだめつつ、俺はサンシターの方へと顔を向けた。


「まあ、真子の興奮っぷりはちょっと異常だが、未熟であるはずの王子が、仮にも戦争なんて混乱の中にある国を平穏無事に治めつづけるってのが、どれだけ難しいか……これはさすがにわかるよな」

「は、はいであります……」


 ヒートアップ真子にやらされたヘッドバンキングのおかげでふらふらになってはいるが、サンシターはしっかり頷いてくれた。


「し、しかし……確か、アルト王子に対する好意的な噂もほとんど上がっていないはずでありますが……」

「ああ、それが?」

「それなら、国民にとってアルト王子はいなくても良い存在、ということにはなりはしないでありますか?」

「そうかもしれねぇし、そうでないかもしれねぇ」


 サンシターの言葉に俺は一つ頷く。

 とはいえ、何らかの好意的な意見というのは逆に言えば何らかの不満があったからこそ発生するわけで……。

 先代国王の不満すら上がらないこの国には、これ以上手を加える必要はなかったはずなのだ。

 自らが国王……その代理になったからと下手な手を加えようとせず、そのままを維持し続けようとしたアルトに対して、国民から何かを言う必要はなかったという風にも取れる。

 つまり、沈黙こそが、アルト王子に対する最大級の賛辞になっているかもしれないのだ。


「……まあ、その辺は実際に確認しねぇとわからねぇな。だが、不満意見が出ていない以上、国民が今すぐアルトに対して蜂起する……なんてことにはならねぇはずだ」

「……例え貴族たちがアルト王子に対して不信を抱いたとしても、国民がすぐに離れることはないかもね」

「だろう?」


 光太の言葉に、俺はニヤリと笑った。

 ただ単に、先代国王のやり方をなぞるだけじゃ、不満が上がらないなんてことはないはずだ。

 特に今は戦時中。王都への補給線も、一時期絶たれていたはずなのだ。

 そんな状況で、最低でも王都に住む国民から不満が上がらないような采配を続けてきたアルトの手腕……ぶっちゃけ、天才なんて言葉で済むレベルじゃねぇよな……。


「まあ、そういうわけだ。今回の反乱に対して、俺はそんなに心配はしてねぇ」

「……楽観しすぎな気もするけどね」

「それよりも、だ」


 まだ不満そうな真子に、俺は今考えている懸念を話す。

 反乱のことを考えるのは、アルトの役目。だから、俺たちは俺たちの役目を果たす。


「問題は、ボンクラ貴族がどうやってフォルクス領にもどったか、だ」

「………」

「どう、って?」


 俺の言葉に、真子が黙り込む。

 その隣で首をかしげる礼美。

 そんな彼女を横目で見つつ、俺は続けた。


「あのボンクラ貴族に、自分で持ってる戦力なんてあるとは思えねぇ。騎士団は王国直属だから、貴族には基本的に協力しねぇし、ハンターズギルドなんて言うまでもねぇ」

「そうでありますね」


 騎士団とギルドの両方を知っているサンシターが頷く。


「だが、むかわにゃならねぇのは魔王軍の本営の向こう側。貴族どもだけで突破できるとは考えられねぇ」

「さすがに無理……だよね?」

「うん、だよね……」


 光太と礼美が、顔を見合わせる。


「さらにゃ、この反乱のことを一々煽るやつまで現れる始末……」

「……何が言いたいわけ?」


 そして、真子は少し押し黙ってから、押し殺したような唸り声を上げた。

 俺は、ぐるりと真剣な表情で周りを見回した。


「貴族の反乱と、アメリア王国の混乱。俺たちは、こういう展開を喜ぶ野郎を知っている……だろう?」

「「「………」」」

「まさか……?」


 光太たちが押し黙り、代わりにサンシターが声を上げる。

 信じられない、そう顔には書いてあった。


「……ガルガンドが、此度の反乱を手引きしたと考えているでありますか?」

「というか、このタイミングでこんなことやらかすなんて思いつく奴ぁ、他にいねぇだろ」


 慄くサンシターに、肩をすくめてみせる。

 ……もちろん、推測でしかねぇ。確たる証拠がねぇ以上、アメリア王国の貴族と、魔王国・死霊団の長であるガルガンドをつなぐ線なんか、ありゃしねぇ。

 だが、俺の感が告げている。奴が、今回の首謀者であると。


「注意する必要はあるだろうな。この混乱に乗じて、あいつが何か行動を起こすかもしれないと」

「……そうね」


 俺の言葉に、真子が頷く。

 俺はそれっきりで黙り込む光太たちに背を向け、ゆっくりと歩き出す。

 何をする気かしらんが……お前の思い通りにさせるつもりはねぇぜ、ガルガンド。




 反乱の裏で糸を引くものの匂いを敏感に感じ取る隆司。

 だが、確証がない限りは動けない。真子は、少しずつでも前進するために、ギルベルトの元を訪れる。

 以下、次回。


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