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No.158:side・ryuzi「意志力を使いこなせ!」

「? 今の、フィーネとジョージだよな?」


 ちらりと見上げた渡り廊下。そこに小さな魔法使いが二人連れ立って歩いているのを見て、軽く首をかしげる。

 確か、グリモ婆さんが混沌言語(カオス・ワード)教えてるはずだけど……なんかあったか?


「えぇーい!!」

「っと」


 少し思考が目の前のことから逸れた俺の頭部に襲い掛かる黄金のピコピコハンマー。

 俺は軽くステップを踏み、それを避ける。

 ぴこっ!と軽快な音を立ててハンマーは砕け散った。

 ピコピコハンマーを振り切った礼美は、そのままペタンと座り込んだ。


「見た目だけじゃなくて音もかよ」

「はぁっ!!」


 ピコピコハンマーの完成度に思わず顔を引きつらせる俺に、気合とともに光太が斬りかかってくる。

 手に持っているのは螺風剣(エア・キャリバー)……そして、シュネー何ちゃらとか呼ばれていた、豪雪の魔剣。

 投げ飛ばした後、平原にぽつりと突き刺さっていたそれを回収して、光太に手渡してたのだ。

 まさか回収されずに放置されてるとは思わなかった。魔剣とか言うから、てっきり自動回収機能も搭載してんのかと思ってたぜ。

 それはともかく、軽く風と吹雪を纏った刃を手に、光太が勢いよく斬りかかる。


「はっ、てぇい!!」

「おう、あぶね」


 光太曰く、二刀流は初めてとのことだったが、ほとんど普通に剣を振るのと遜色ないスピードで振り回してきた。真子が開発したとかいう、強化Tシャツのおかげらしい。

 覇気を纏った腕で、迫る刃を弾き返す。

 ぢりん、ぎゃりんと甲高い音を立てて、二つの剣が弾かれた。

 さすがに慣れていないせいか、あっさり光太の手を離れて飛んでいく二振りの剣。


「ったぁ!?」

「おりゃ」


 剣を弾かれ体勢を崩した光太の腹に、軽く蹴りを打ち込む。

 そのまま後ろへともんどりうつ光太。


「……そこまで!」

「コウタ様~。大丈夫ですか~?」


 相変わらずへたり込んだままの礼美と、腹を押さえてうずくまる光太を見て、団長が模擬戦の終了を告げる。

 アルルが光太に駆け寄るのを横目で見つつ、俺は礼美の方へと近づいた。


「大丈夫か? 礼美」

「う、うん……なんとかぁ……」


 大丈夫、と本人は言うが、慣れない意志力(マナ)の行使にへたばっているのは明らかだった。


「光太ー。こっち来れるようなら、礼美の回復ヨロ」

「人のこと蹴倒しといて……」


 俺の言葉に、光太は苦笑いしながらも立ち上がり、礼美のそばへと近づいていく。

 そして礼美のそばに屈みこむと、そっと手を差し伸べた。


「礼美ちゃん、手、いいかな?」

「あ、うん……」


 礼美が光太に手を伸ばすと、光太は両手でそのさし延ばされた手を包み込んだ。


「光太君?」

「こうすると、意志力(マナ)が回復しやすくなるんだ」

「へー、そうなんだ」

「お一人より~、二人ですよ~。レミ様~、お手を~」

「あ、はい」


 二人の仲睦まじい様子に、大慌てで光太の反対側に回ったアルルも、礼美の手を握って意志力(マナ)の回復を促す。

 何やってんだかと思いつつ、俺は軽く肩をすくめた。

 ……俺と光太たちが何をやっているのかといえば、単純に覇気や意志力(マナ)の使用訓練だ。

 混沌言語(カオス・ワード)を利用しないと源理の力として顕現しない魔力と違い、覇気と意志力(マナ)は使い方さえ知っていれば呼吸をする感覚で使うことができる。

 逆に言えば、混沌言語(カオス・ワード)と違って、威力やら強度を上げたければひたすら練習するしかないわけだ。


「しかし、お前さん、もう覇気に関しちゃ十分なレベルだな」

「いやぁ、俺なんかまだまだですよ」


 模擬戦の監督役を務めてくれている団長の言葉に、俺は首を横に振った。


「だって、師匠とか、普通に空中散歩するじゃないですか。あんなのどうしろと」

「ああ、いや、そうだけどな」


 俺の言葉に、何か苦い思い出でも蘇ったのか顔をしかめる団長さん。

 だが、すぐに気を取り直して俺の顔を見つめた。


「前見たときにゃ漏れ出たまんまだった覇気も、ほとんど収まってる。今のお前にまともにダメージ与えられる奴ぁ、この国にゃいねぇだろ」

「ハッハッハッ、いやまあ、そうですねー」


 団長さんの言葉に、俺は照れ隠しに口を大きく開けて笑い声を上げる。

 そんなに長い間師匠のところにいたわけではないが、その方面に関しては、もう完全に修め切っている。

 というか。


「俺の身体から覇気が駄々漏れてるって気づいてたんなら、教えてくださいよ」

「俺じゃ、まともに覇気を教えられねぇからな」


 ジト目で睨みつけると、団長さんは申し訳なさそうに頬を掻いた。


「自分で使うので精いっぱいだったんだ。余裕ができたら、師匠のことを紹介するつもりだったんだが……」

「そうなる前に、俺が自分で向こうの方に行っちゃったと」


 団長さんの言葉に、俺は小さく頷いた。

 確かに、覇気のことは他人に教えられる気がしねぇなぁ……。理屈で使う技術じゃねぇし。

 さらに王都の現状を考えれば、団長さんにしろ、俺にしろ、気軽に離れるわけにはいかねぇしな。

 ……もっと言うと、団長さんは俺がすでに何回か覇気を使ってるなんて知らなかったわけだしな。


「……うん! 隆司君、お待たせ!」

「おーぅ」


 そうこうするうちに、礼美の意志力(マナ)が回復したらしく、勢いよく礼美が立ち上がった。

 意志力(マナ)に関しちゃ一日の長がある光太が回復に協力していたとはいえ、思ってたより早い――。


「……って、テメェ光太! 何顔色青くしてやがんですか!?」

「え、そうかな?」


 と首をかしげる光太の顔色は、明らかに青白かった。

 たぶん、礼美を回復させようとするあまり、無意識に自分の意志力(マナ)を礼美に譲り渡していたんだろう。

 そんな光太の様子に、団長さんは呆れたような目線を送り、アルルもさすがに首を横に振った。


「コウタ様~……。レミ様のために~頑張るのは~構いませんけど~、ご自分が~蒼くなってたら~意味ないですよ~……」

「い、いや、大丈夫だって! まだまだやれるよ!?」

「ていっ。」


 馬鹿なことを抜かす光太に、デコピンに覇気を乗せて、空打ちしてやる。

 デコピンによって飛んで行った覇気が、光太の額を打ち抜く。


「あう!?」


 そのまま仰向けにぶっ倒れる光太。

 光太の様子を見た礼美は、びっくりしたような顔つきになり、しかしすぐに憤慨したような様子になる。


「光太君!? これは訓練なのに、そんなに無理しちゃだめだよ!」

「い、いや、無理はしてないって……」

「駄目、起きちゃ!」


 体を起こし上げようとする光太の身体を押し止め、毅然とした表情でアルルの方を向いた。


「アルルさん! 光太君を見張っててください!」

「はい~♪ お任せください~♪」

「ちょ、ちょっと!?」


 光太の見張りをアルルに任せて、礼美はフンスと鼻を鳴らしながら立ち上がった。


「これでよし! じゃあ、つづきをやろっか、隆司君!」

「……ああ、うん。そうな」


 役得といわんばかりに、背後から光太を抱きすくめるアルルに、それを振りほどこうにも無理に振りほどけない光太。

 何とも言えない光景を視界に収めながら、俺は礼美の方へと向き直った。

 ……まあ、光太は自業自得ということで。


「えーっと、今んとこ礼美ってどのくらい意志力(マナ)が使えるんだったか?」

「このくらい?」


 俺に問われて、礼美は手の中にピコピコハンマーを呼び出す。

 ああ、あれって普通の大きさでも出せるんだな。


「これ一個くらいなら、疲れないで出すことができるんだけど……」

「さっきくらいデカいのや、もっと数をいっぺんに出すと、つかれて動けなくなる、と」

「うん、そうだよ」


 ピコハン嵐や、デカピコハンが光破旋風刃ライトニング・ストームエッジと同じくらいの消費力ってことか?

 とはいえ、元々礼美は前線に出すようなタイプじゃねぇからな……。


「じゃあ、盾の方はどうだ? あれも、意志力(マナ)を利用してるんだろ?」

「あ、そっちはほとんど消費しないで出せるようになったよ!」


 礼美は笑顔でそう言って、瞬時に無数の盾を出現させた。


「ほら! 五枚くらいなら、ほとんどラグなしで出せるようになったんだよー」

「あ、ああ、そうなの……。スゲェな、これ」


 礼美の目の前に展開された五枚の盾を見て、思わず顔を引きつらせる。

 礼美の盾、ただでさえ硬いのに、それがラグなしに五枚いっぺんに呼び出せるとか……もはや不沈艦だな……。


「でも、盾の移動とかはできないから、防御くらいしかできないんだけどね」

「いや、この数と速さなら、それだけできりゃ充分だろ」


 残念そうな顔つきになる礼美にそう言いながら、軽く盾を叩いてみる。

 コンコンと硬い音を立てた盾は、確かに動きそうにない。

 ……これって、うまく使えないもんかね?

 ためしに聞いてみることにする。


「礼美。この盾って、横にして出すこととかできないのか?」

「? 横?」

「ああ、地面に平行にする感じで」

「うん、ちょっと待ってね」


 俺の説明を聞いて、礼美はすぐに実行してくれる。

 他の盾はすぐに霧散し、俺の胸くらいの高さに、地面に対して平行な、丸い盾が現れる。


「これでいい?」

「ああ。そのまま維持してくれよ?」


 礼美にそう頼み、軽く飛んで上に乗ってみる。

 コン、とガラスの上に立った時のような音が立つ。盾が沈む込んだり消えたりする様子はない。

 盾の上に立つ俺を見て、礼美が目を丸くして手を叩いた。


「隆司君すごーい! そんなところまで飛んじゃうなんて!」

「いやすごいのはこっちだろう?」


 すっとぼけたことを言う礼美に、俺は盾を軽く蹴って見せる。


「え? そうかな?」

「いやそうだろ。これってつまり、お前の盾が足場になるってことじゃねぇか」

「……ああ!」


 俺の言いたいことを理解した礼美が、パンと手を叩いた。

 空中に足場が作れる、というだけで戦術はいくらでも広がるはずだ。

 幸いにして、俺も光太も上空へと跳び上がることができる。真子にしたって、転移魔法を使えば上に上がることが可能だろう。

 たいてい、魔王軍と競り合う場面は平原だから、上から強襲することができるというのは、かなりのアドバンテージになるはず……。

 相手に足場を利用されるかもしれないという問題も、礼美の意志ひとつで出したり消せたりする時点であってないようなものだ。

 軽く考えて、俺は口を開いた。


「……礼美は無理に攻撃方法を身に付けんでも、その盾の使い方にもっと慣れるでもいいかもな。別に直接戦わにゃならん相手がいるわけでもねぇし」

「うーん……確かに、今の光太君や隆司君についていくのは大変かも……」


 俺の提案に、礼美は少し迷ったようなそぶりを見せるが、すぐに力強く頷いた。


「……うん、そうだね! それじゃあ、どういう風に練習しようか?」

「やっぱり、強度とか発生速度の訓練だから……俺が攻撃するし、それを防ぐ形でいいんじゃね?」

「うん、わかったよ!」


 礼美が頷いたのを確認して、俺は軽く構える。


「それじゃあ、寸止めはするけど、ちゃんと防げよ?」

「うん!」


 笑顔で頷く礼美に、俺も笑顔を返し、拳を握りしめる。

 そして、そのまま礼美に向かって打ち掛かっていった。






「……なんだか~、構図的に~リュウジ様が~暴漢にしか~見えませんね~」

「いや、まあ、それは否定できないけれど……」

「それ以上に、リュウジの攻撃にレミが全部対応してるってのが怖いな。あれ、ちゃんと見えてんのか?」

「礼美ちゃん、普通の女の子と比べて、そういう感覚が鋭いみたいですから……」

「そこはお前らの仲間だな……」




 その後も、一方的に殴りかかる隆司の攻撃をみんな防ぐ礼美という、シュールな図が展開されたとか。

 それぞれに、学び、力を付ける勇者たち。

 そんな彼らの元に、魔王軍襲来の報が告げられる……はずだったが。

 以下、次回。


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