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No.157:side・mako「混沌言語を覚えよう」

《あんたがマコだね? フィーネから話は聞いてるよ》

「はぁ」


 隆司の話を聞き終えた翌日。

 あたしは奴の提案に従い、混沌玉(カオス・オーブ)から混沌言語(カオス・ワード)を学ぶために、フィーネの元へと訪れていた。

 隆司から出た特訓の提案。それは、源理の力の使い方を学ぶという物。

 混沌言語(カオス・ワード)を学んでしまったガルガンドには、今までのような方法ではあっさり蹴散らされてしまう可能性がある。だから、奴に対抗するために今まで以上に強力な技術を学ぶべきだというのがあいつの主張だった。

 ……といっても、マジメに学び直すのはあたしだけで、光太と礼美は、今まで通り意志力(マナ)の使い方の訓練なんだけどね。


《あたしの可愛いフィーネが、ずいぶんお世話になったみたいだねぇ。礼を言うよ。今のあたしは、この通りの身だからねぇ》

「……いろいろ言いたいことはあるけど、それは良いです」


 あたしの目の前にある混沌玉(カオス・オーブ)……かつての宮廷魔導師であるグリモに、あたしはそういった。

 本当は、いろいろどころか腐るほど、目の前の混沌玉(カオス・オーブ)に対して言ってやりたかった。フィーネのこととか、フィーネのこととか、フィーネのこととか。

 ただまあ、それは今はいい。わざわざフィーネの目の前で掘り返すような話ではない。

 しかし、それでも見逃せない点は一個だけあった。


「ところで」

《ん? なんだい?》

「わざわざジョージの頭を台座にしてんのは何でですか?」


 そう。混沌玉(カオス・オーブ)のグリモは、なんでか知らないけれどジョージの頭を台座代わりに鎮座していたのだ。

 あたしの質問に、グリモは身体をグリングリン勢いよく回転させながら、答えてくれた。


《だって、今のこのバカ助の身分は奴隷だろ? 相応の扱いをしてやってるだけさね》

「イテッイテッ、アチッ、イテッ、イテッ……」


 頭皮を激しく刺激され、台座にされているジョージが小さく痛みを訴える。

 けれど、どかそうとはしないところを見ると、今の自分の立場を理解しているってところかしら。納得してるかどうかはともかく。

 そんなジョージの様子を哀れに思ったのか、フィーネが困ったような表情で混沌玉(カオス・オーブ)に訴えかけた。


「おばあ様、もうそのくらいで……。ジョージも、反省してるから」

《んー? あたしゃ怒ってないよ? ただ、ジョージが人様のお役に立てるポジションになったって聞いたから、その訓練のためにこうしてんのさね》

「だから、だからそのくらいでぇ!?」


 どんどん回転の勢いを増す混沌玉(カオス・オーブ)を見て、フィーネも悲鳴を上げる。

 そしてそんな仕打ちを受けながらも、ジョージは黙って我慢する。

 なんだか三人の関係が分かりやすい構図ね。

 微笑ましいっちゃ微笑ましいけど、正直今は一分でも一秒でも惜しい。

 あたしは一つ咳払いしつつ、グリモに語りかけた。


「あー、旧交を温めるのもいいけど、そろそろはじめてくんない?」

《ん? ああ、悪かったねぇ》

「アダッ」


 あたしの言葉に、ひときわ強くこすりつけるように回転を停止したグリモが、ようやく混沌言語(カオス・ワード)の授業を始めてくれた。


《それじゃあ、はじめるね。さしあたって、あんたが魔術言語(カオシック・ルーン)を一切の補助なしに理解、利用できるのは知ってるよ》

「その辺は、フィーネに聞いてるわけね」

《ああ。そんなあんたなら、混沌言語(カオス・ワード)のことを理解するのは、そんなに難しくないはずさね》


 グリモはそう言って、ジョージの頭の上で二、三度跳ねる。

 それは何かの合図だったのか、ジョージは黙ったまま、紙とペンを取りに向かった。


《まず、混沌言語(カオス・ワード)だけど、既存の魔術言語(カオシック・ルーン)を組み合わせて発動する言語だよ》

「既存の? それって、普通に魔法発動するってわけ?」

《いいや。文字通り、魔術言語(カオシック・ルーン)を組み合わせて、発動するのさね》


 言って、また一度跳ねるグリモ。

 ジョージはおとなしく、紙に一つの魔術言語(カオシック・ルーン)を書いた。


魔術言語(カオシック・ルーン)による魔法が、法則の再現であるとするならば、混沌言語(カオス・ワード)による魔法は法則の再構築。魔術言語(カオシック・ルーン)を重ね合わせ、既存の法則に新しい法則を重ね合わせて、この世界に顕現させる魔法技術さね》


 ジョージはその魔術言語(カオシック・ルーン)の上に、さらに重ねるように魔術言語(カオシック・ルーン)を描いていった。

 本来であれば、こんな風に魔術言語(カオシック・ルーン)の形を崩すような真似をしてしまえば、魔法発動どころか、魔術言語(カオシック・ルーン)自体が効果を為さないはずだが……。

 重ね終えた瞬間、魔術言語(カオシック・ルーン)が淡く発光する。

 その発光自体はすぐに収まったが、一目見てこの魔術言語(カオシック・ルーン)に何らかの力が宿ったのが分かった。


《さて、魔力を流してごらん?》

「はい、おばあ様」


 グリモの言葉に素直に頷いたフィーネが、出来上がった混沌言語(カオス・ワード)に手を重ね、直接魔力を流し込む。

 すると、混沌言語(カオス・ワード)の真上に青白い炎が湧き上がる。

 フィーネが驚いた顔になるが、混沌言語(カオス・ワード)から手を離そうとはしない。

 っていうか、熱くないの?

 そんなあたしの疑問に、フィーネはすぐに答えてくれた。


「冷たい……?」

「うそ!?」


 フィーネの言葉に、思わず火の中に手を突っ込んでしまう。

 が、あたしの手は火に焼かれることなく、むしろ涼やかな冷気のおかげで癒される。

 科学的には、青い焔は高温であるはず。つまり、これが混沌言語(カオス・ワード)の力……?


《わかりやすいだろう? 本来、ありえないはずの現象を起こすことができる……それが混沌言語(カオス・ワード)の力さ》

「……転移の魔法も大概ありえないと思うんだけど?」

《歩いて移動するのとそんなに変わりはないさ。転移の術で言うなら、見たことも聞いたこともない土地に、100%安全に移動できるようなもんさ》

「そりゃありえないわね……」


 転移の術式は、転移先の情報がなければ100%失敗する。いわゆる石の中にいる(・・・・・・)状態になってしまうからだ。

 混沌言語(カオス・ワード)を利用すれば、そういうことなく転移移動が可能になるってこと?


混沌言語(カオス・ワード)に限った話じゃないけれど、法則崩壊言語(イレイド・ルーン)ってのは、基本的に術者の望みをかなえる力って考えて遜色ないよ。使う力と、得意とする分野が違うけれどね》

「……あの馬鹿の話の中にも出てきたけれど、法則崩壊言語(イレイド・ルーン)っていったい何なの?」


 あいつの話の中のガルガンドが語ることには、混沌言語(カオス・ワード)法則崩壊言語(イレイド・ルーン)の一つであり、源理の力であるという。

 法則崩壊言語(イレイド・ルーン)の一つが混沌言語(カオス・ワード)であるというなら、他にも種類があるはずだけど……。

 あたしの疑問に、グリモはこう答えた。


法則崩壊言語(イレイド・ルーン)ってのは、源理の力を利用して法則を書き換える技法の総称さね》

「総称、ってことは、他にもあるの?」

《ああ。覇気を源にする竜種言語(ドラゴン・スペル)。そして意志力(マナ)が源泉となる神意言語(ゴッド・ブレス)。そして魔力で発動する混沌言語(カオス・ワード)……。これが、この世界の法則を書き換えることができる三言語さ》

竜種言語(ドラゴン・スペル)……神意言語(ゴッド・ブレス)……」


 全部で三つあるわけね……。ただ、どっちもあたしには使えそうにないけれど。

 と、グリモが何か納得がいかないかのようにあたしに聞いてきた。


《他の二つは、それぞれ最古竜エンシェント・ドラゴンと女神に伝えられる技術だから、あたしじゃ教えられないんだけどね……けど、あの坊やはなんなんだい?》

「ん? 坊やって、隆司のこと?」

《ああ。あの坊や、竜種言語(ドラゴン・スペル)を自力発動してたよ? 最古竜エンシェント・ドラゴンにでも会ったことがあるのかい?》


 竜種言語(ドラゴン・スペル)を、隆司が?


「いや、そんなことはないと思うけど」

《そうかい……? おかしいねぇ》


 首をかしげるようなしぐさをするグリモに、あたしも首をかしげる。

 あの馬鹿が、竜種言語(ドラゴン・スペル)をねぇ……? っていうか、あいつがソフィアに聞くことにゃ、最古竜エンシェント・ドラゴンはとうの昔に死んでるはずなんだけどなぁ……。


「……まあ、いいわ。とにかく、混沌言語(カオス・ワード)は、使う人間の望みを限定的に叶えてくれる力なのね?」

《そういうことさね。魔術言語(カオシック・ルーン)を理解し、使いこなせれば魔力が少なくとも使えることを考えると、一番敷居が低いかもね》


 グリモはそういうけれど、とても容易く操れる術だとは思えない。

 そもそも魔術言語(カオシック・ルーン)を重ね合わせて法則を上書きするってのがもうわけわかんないし、第一どう発音するのかもわからない。

 そういう意味じゃ、源理の力そのものを利用できる、覇気や意志力(マナ)がとても便利に思える。

 ……まあ、あっちはある程度以上の素養が必要らしいんだけれどね。

 こういう時は、才能にあふれるあの連中が羨ましくなるわね。


「……フン」


 ただまあ、無いものねだりは性に合わない。

 今ある物を最大限利用して、道を切り拓く。

 それが、あたしのやり方よ。

 あたしはグリモへと向き直った。


「それじゃあ、早速どういう風に混沌言語(カオス・ワード)を構築するのか、教えてちょうだい」

《そうだね。でも、その前に何か飲み物を持ってこさせよう。かなり、長くなるからねぇ》


 グリモはそう言って、ジョージの頭からふわふわ飛んで降りる。


《それじゃあ、ジョージ。なんか適当に飲み物持っておいで。ついでに食べ物も》

「わかったよ」

「あ、私も行く!」


 立ち上がったジョージに、フィーネも一緒についていく。

 そして、二人の姿がいなくなったのを確認してから、あたしはグリモに問いかけた。


「……どういうつもり?」

《……なに。あの子たちがいたら、話せないこともあるってだけさね》


 今のジョージは隻腕だ。一人で飲み物を取ってこれるわけがない。

 でも、立場上今のジョージに拒否権はない。そんなジョージにフィーネが付いていこうとするのは、ある意味必然だろう。あの子は、優しい子だから。

 なら、始めからこの状況を狙っていたということ……。


《さて……コトバ・マコ。改めて、礼を言うよ》

「礼はいらないわ」


 あたしはさっと手を振って、混沌玉(カオス・オーブ)を睨みつける。

 どういうつもりでこの状況を生み出したのか知らないけれど……いい機会だわ。


「その代わり、聞かせてもらっていいかしら?」

《なんだい?》


 教えてもらうわよ、かつての宮廷魔導師、グリモ。


「何故、あんたがフィーネを宮廷魔導師に指名したのか」

《………》


 怒りを込めたあたしの言葉に、グリモは沈黙を返してくる。

 いったいどういうつもりなのか、答えてもらうわよ。




 混沌言語(カオス・ワード)習得に向け、グリモに学ぶ真子。

 だが、その前に疑問を晴らそうとする。小さな少女に重荷を乗せた、その理由をかつての親に問いかける。

 一方その頃、騎士団訓練場では、隆司が光太と礼美を相手取って特訓を開始していた。

 以下、次回。


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