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No.155:side・kota「今、やらねばならないこと」



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「――とまあ、その後はしばらく師匠に覇気の基本を習って、ある程度修まったんでこっちに帰ってきたわけだ」

「そんな中途半端に切り上げて言い訳?」


 ここ一ヶ月の旅路をそう締めくくった隆司に、真子ちゃんが割合辛辣なツッコミを入れる。

 いやまあ、そこは僕も疑問なんだけどね……。応用とかは学ばなくていいの?


「つっても、覇気は練気と発気ができれば、後はみんなその応用だからって言われたからなぁ。そもそも、そんな複雑な技術はまだできてないんじゃねぇの?」


 真子ちゃんの疑問に、隆司は肩をすくめながら答える。

 団長さんも言ってたけれど、長い間女神の祈りと混同されていた分野だものね。まだほとんど未開拓なんだと思う。

 けど、それにしたってアバウトすぎる気もするけれど……。


「えっと、ハーピーのミルちゃんとチルちゃんはどうしたの?」

「どっちも、まだ師匠の村に残ってる。チルが、ミーシャの看病をするって言いだしてな。ミルはその付き合いだ」

「そっか……」


 隆司の言葉に、礼美ちゃんが少しだけ暗い顔を見せた。

 今の僕らにできることはほとんどないとはいえ、やっぱり犠牲になってしまったミーシャちゃんのことは、やり切れない思いでいっぱいなんだと思う。

 女神様を助けることができれば、まだ望みがあるんだけれど……。

 少しだけ暗くなりかけた思考を振り払うように頭を振って、僕は問いかける。


「それで、その混沌玉(カオス・オーブ)は今どこに?」

「今はフィーネと一緒にいるんじゃねぇの? こっちに戻ってくる途中で、ずいぶん気にかけてたみてぇだし」

「ふぅん……」


 フィーネ様と一緒にいる、と聞いて真子ちゃんがうっすらと目を細める。

 なんて言うか、隆司の言うことじゃなくて、混沌玉(カオス・オーブ)のグリモさんがそういう風に考えているのが信じられないみたいだ。

 真子ちゃんは、フィーネ様のことで先代の宮廷魔導師さんに懐疑的みたいだから、仕方ないのかな……?


「……リュウジさん」

「なんだ?」


 と、ずっと考え込むようなしぐさをしていたアルト王子が、ようやく口を開いた。

 その口から放たれた言葉は、とても重い雰囲気を纏っていた。


「ガルガンドの目的は、結局なんなのでしょうか?」

「………」


 王子の口から放たれた疑問……。それは、この場にいるみんなが考えていることでもあったと思う。

 隆司が向こう側に一人で旅立ってからは、ずっとガルガンドと戦っていたといってもいいかもしれない。

 合成生物(キメラ)による町の侵略に、首なし騎士(デュラハン)であるクロエさんとの戦い。

 そして、隆司のお師匠様の村での死闘……。ガルガンドの目的の一端が、隆司の捕獲であったのであるとすれば、これらすべてがそのためだけに行われたような気さえしてくる。

 魔王軍の本隊から離れ、こうして裏で動くからには何か理由があるはず……。

 王子が緊張した面持ちで、隆司のことをまっすぐ見つめる。

 けれど、隆司は首を横に振った。


「……悪いけど、よくわからねぇってのが本音だな。あいつが欲しがっていたのは混沌玉(カオス・オーブ)に俺だが、共通点といえばどっちも源理の力絡みってことくらいか。それ以上……あいつ自身が何を考えてそんなもんを欲しがったのかはわからねぇ」

「……そうですか……」


 申し訳なさそうな隆司の言葉に、王子はまた深く考え込み始める。

 ガルガンドの目的が見えないのが、きっと不安なんだろう。

 アルト王子の隣に座るアンナ王女も同じ気持ちなのか、少しだけ早口で隆司に捲し立てはじめた。


「ですが、裏を返せばガルガンドだけが敵ということではないでしょうか? なら、早くに魔王軍との停戦を結ぶべきですわ!」

「そうだなー。俺もその意見に賛成だわー」


 アンナ王女の意見に同意するように、隆司がウンウンと頷く。

 ただし、幾分か棒読みだけど。


「……何か不安なことでもあるの? 隆司?」

「いや、不安っちゅうか」


 いぶかしむ僕に、隆司はあっけらかんと答える。


「こんな変なタイミングでの停戦に、嫁が納得してくれんのかなぁって」

「あんたのそのフレーズもずいぶん久しぶりよね……」


 隆司の嫁発言に、真子ちゃんがずいぶんとしみじみとした様子で頷く。

 確かに、ここ一ヶ月でその手のフレーズを聞くことはほとんど……あ、いや。ケモナー小隊の人たちがたくさん言ってたっけか。

 なんとなくしみじみとし始めた会議場の雰囲気に、真子ちゃんは気を取り直すように首を振った。


「ただまあ、あんたの言う通りよね」

「そうですの? ガルガンドが離反した今、向こうはこちらと戦争している場合じゃないと思うのですけれど……」


 確かに、僕たちと戦争しているよりは、いなくなったガルガンドを探す方が先決かもしれないけれど……。

 アンナ王女の言葉に、真子ちゃんがまた首を振る。


「そりゃないでしょうよ。確かに、裏切者の粛清って大事だけれど、今、魔王軍がそう認識してるかは別でしょ?」

「そ、そんなぁ……」


 そうなのだ。確かに魔王軍の偵察部隊であるミルちゃんとチルちゃんがガルガンドの悪行を目の当たりにしたけれど、彼女たちは今も隆司のお師匠様の村にいる。

 つまり、ガルガンドの情報はまだ魔王軍には渡っていないかもしれないのだ。

 若干涙目になったアンナ王女が、隆司の方へと振り向いた。


「リュウジ様! 魔王軍の偵察部隊は、そんな大事な情報を本隊につたえようとしないんですの!?」

「まあ、ミルもその辺気にして、ミーシャのことが落ち着いたら、超長距離通信を試してみるって言ってたぞ? ひょっとしたら、今頃通信が届いてるかもしれねぇな」

「ひょっとしたらなんですの……?」


 魔王軍がいそうな方向を見てのん気なことを言う隆司を、アンナ王女は半目で睨みつける。

 危機感とか、そういうものが全く見られないけれど、これはどっちかといえば、一ヶ月ぶりくらいにソフィアさんに会える喜びの方が勝ってるのかもしれない……。

 思わずため息をついちゃうけれど、これはもう仕方ないのかなぁ……。


「……でもさ、こっちから停戦を呼びかけてみるってのは悪くないんじゃないの? ガルガンドのことを問い詰めれば、話し合いくらいには応じてくれるかも」

「……だといいんだけどねぇ」


 僕の意見を聞いた真子ちゃんは、いささか猜疑的だ。


「真子ちゃん、何か不安なことでもあるの?」

「んー……。いろいろあるけど、一番おっきいのは、やっぱり魔王軍の目的が見えないことかしら……」

「妙に気にしますのね? それって、重要なことなんですの?」


 魔王軍との停戦に否定的とも見える真子ちゃんの態度に、アンナ王女は少し苛立ったような声を上げる。

 アンナ王女が焦る理由もわかる。目の前の侵略者よりも、もっと不気味な何かがこの王国に忍び寄っているのかもしれないのだから。

 けれど、真子ちゃんが言っていることは重要なことなんだ。


「アンナ王女。相手の目的を知ること……理解することは、対話を行ううえでは基本にしてもっとも重要なことです」

「そ、それは理解していますけれど……」


 僕が口を開くと、びっくりしたような顔になるアンナ王女。

 僕は、畳み掛けるように続ける。


「そして今回は、曲がりなりにも戦争で、相手は王国を代表してこちらに来ているんです。一朝一夕にこちらの提案に乗るとは思えません」

「以前、真子ちゃんがソフィアさんから聞いた、魔王軍の領土を確保するため、という目的が彼らの目的であったとして、この国の領土を分けてあげるのも、そう容易いことではないんじゃないでしょうか?」

「それは、その……」


 さらに礼美ちゃんからも諭すように言われ、どんどん声が尻すぼみになり、縮こまっていくアンナ王女。

 うう、べつにいじめたいわけじゃないんだけれど……。

 ちょっと後ろめたくなってきた僕たちに、叫ぶようにアンナ王女が叫ぶ。


「じゃ、じゃあどうしたらいいんですの!? 魔王軍よりもっと目的不明で不気味なガルガンドがこの国の中を自由に出入りしているかもしれないのに! 魔王軍の相手なんかしてる場合じゃないじゃないですのー!!」

「俺に任せとけぃ!!」


 と、隆司がテーブルに足を乗せて身を乗り出すようにして、叫び返した。


「隆司、行儀悪いよ?」

「駄目だよ隆司君、テーブルに足乗っけちゃ」

「今すぐ降りなさい。はしたない」

「お前らなんか冷たくなったな」


 僕たちが口々に注意すると、さびしそうな顔つきになった隆司はそっと足をテーブルから下ろした。

 真子ちゃんと礼美ちゃんは知らないけれど、僕はまだ隆司のこと完全に許してないからね? 一人で全部背負い込もうとして……。

 内心の憤慨を隠しつつも、僕は隆司に問いかける。


「で、何を任せればいいの?」

「聞いてはくれるのね。……あー、ゴホン。要するに、ガルガンド対策に傾注できる状況を作ればいいんだろ?」

「そう言うことですけれど……何か妙案でもあるんですの?」


 不貞腐れたようなアンナ王女に、隆司は爽やかな笑顔で言い放った。


「ならば俺が、嫁と結婚すればいい!!」

「んー、悪くないんじゃない?」

「私も、それがいいと思うよ」

「名案だね、隆司!」


 今度は口々に賛成すると、それはそれで複雑そうな顔つきになる隆司。


「どうしたの?」

「……いや、速攻で肯定されるとは思わなかったから」


 どうしたらいいのさ、僕らは。

 まあ、それはさておき。


「まあ、マジメな話、総司令官であるソフィアを物理的にしろ精神的にしろ落とすことができれば、魔王軍に関しては何とかなるわよねぇ」

「そうだよね。でも、私たちじゃ、まだソフィアさんの本気には勝てないだろうし……」

「隆司が真面目にソフィアさんを何とかしてくれれば、和平の道も見えてくるわけだよね」

「お前らみんなが嫁との仲を祝福してくれる……! こんなにうれしいことはない……!」


 感激に打ち震える隆司が、どこからか取り出した箱に片足載せて、斜め四十五度上を見つめつつ、涙を流す。


「もう何も怖くない……!」

「なんで死亡フラグ立ててんのあんたは」

「真子ちゃん、よく知ってるねー」


 半目で呻く真子ちゃんに、礼美ちゃんがのんびりツッコミ?を入れる

 まあ、最近の死亡フラグじゃかなり有名な部類だしねぇ。

 僕は苦笑しながら隆司の方へ向く。


「じゃあ、当面はソフィアさんと隆司が仲良くなれるようにフォローってことでいいのかな?」

「いや、それより重要なことがある」


 からかいも含んだ僕の言葉に、隆司は真剣な表情で反論した。

 その声に含まれた硬さに、思わず表情が引き締まる。


「……なに?」


 隆司の雰囲気が変わったことに気が付いた真子ちゃんが短く聞いた。


「今後の、ガルガンド対策だな。混沌玉(カオス・オーブ)はこっちの手にあるが、グリモの話だと混沌言語(カオス・ワード)自体は混沌玉(カオス・オーブ)なしに使えるらしい」

「そんな……!?」


 隆司の口から語られた事実に、礼美ちゃんが絶望的な表情を浮かべる。

 隆司が体験しただけでも、手が付けられないのに、そんな技術がまだガルガンドの手の中にあるなんて……。

 一瞬暗くなりかける僕らを鼓舞するように、隆司はニヤリと笑って声を上げた。


「だからこそ、お前らにも特訓をしてもらわにゃならんわけだ!」

「特訓……!?」


 隆司の言葉に、思わず目を丸くする僕。

 一体、何をさせるつもりなんだ隆司……!?




 久しぶりに四人そろったせいで、自重できませんでした(本音)。

 隆司の音頭に従い、それぞれに訓練を始める光太たち。

 一方その頃、魔王軍はガルガンド離反の報を受けていた……。

 以下、次回。


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