異世界ラブコメ大作戦

No.153:side・ryuzi「隆司、全てを打ち倒す」

「まあ、結論から言うと、俺が出てくるの早すぎたって話らしいんだが」

「さすが？隆司だねぇ……」

「なんで疑問形？」

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「おあぁ！！」

　身体から力があふれ出る……！

　いや、今までせき止められていたものが、枷が外れて一気に出ている感じだ。怒りのあまり、はめておかなきゃいけない分まで、枷をぶっ壊しちまったか？

　おかげでさっきは頸動脈から出血したし。覇気って半端ねぇ。

　だが、今ならミーシャや師匠の言葉も意味も分かる……！

　覇気ってのは、自分の身体なんだ。力があふれ出たのと同時に、意識や感覚も拡大したのを感じた。まるで、自分の身体が全部丸ごと膨張したように感じた……！

　まずは覇気が自分の身体と同じであることを自覚しなきゃいけなかったんだ。理解しなきゃ、自分の身体だって使えるわけがねぇ！

　それを理解すりゃ、漏れ出る覇気を身体の中に収めるのだって難しくねぇ！　要は自分の体の中に、身体を収めればいいんだ！

　………自分で言ってて訳が分からねぇな。まあ、そう言うもんだな、覇気に限っちゃ。

「スケルトン！　奴を足止めしろ！」

「ヘイ、姐さん！」

「こっから先にはいかせへんでぇ！」

　ガルガンドにめがけて駆け出した俺を見て、クロエが骸骨どもに指示を出す。

　ミルたちを囲おうとしていた骸骨どもは、一目散に俺にめがけて向かってきた。

　いつの間にか帰ってきてた師匠がそばにいるから滅多なことはおきねぇだろうが、それでもありがてぇな。流れ弾で事故ることもねぇんだ。

「どきな雑魚ども！　お前らにっ……！！！」

　グッと拳を握り、胸の前へと横にする。

「用はねぇんだ！！！」

　そして、裏拳で目の前を薙ぎ払う様に大きく振るう。

　瞬間、俺の腕から覇気が吹き出し、巨大な腕となって骸骨どもを薙ぎ払っていく。

「「「「「ギャァァァァァァァァ！！？？」」」」」

「くっ！？」

　有象無象の骸骨どもがあっさりやられる光景を前に、クロエがうめき声を上げた。

　今更数なんぞ問題にならねぇ！　このまま一気にガルガンドのところへ……！

「させん！　ハァッ！！」

　だが、クロエが呼気とともに魔力を放つ。

　同時に、俺の腹部から冷たい痛みが響き渡った。

「っ！」

「ふ……！　シュネーシュツルムを刺したまま行動したのは失敗だったな……！　再び凍てつけ！」

　そういえば、シュネ何とかって剣を腹に差したまんまだったか。

　クロエが勢いよくこの剣に向けて魔力を流し込む。

　また、剣を中心に俺の身体が凍てついていく……んだろうな、前までだったら。

　けど、今の俺は覇気のなんたるかがわかってる……！

「甘いんだよ！」

「く……！　何故だ！？　何故凍らない！？」

　俺は剣の刃を包み込むように、覇気を纏わせる。途端、剣からあふれ出る魔力はそこでせき止められ、俺の身体をそれ以上凍らせることはない。

　本来なら身体を包み込むように覇気を纏って冷気を遮るんだが、今回は逆に冷気の元を遮断してやったぜ！

　けど、いつまでもこのまんまってのも、痛いしうっとうしいよな……。

　焦るクロエの目の前で、俺は剣の刃を掴み。

「ぐぉ……！」

　一気に引き抜く。元々傷としては治っていたせいで、くっついていた肉やら内臓やらが若干持っていかれ、激痛が走る。

「貴様、何を……！？」

　目の前で行われた行為を、信じられないというように見つめるクロエ。

　俺は不敵に笑いながら、剣を投げやすいように持ち替える。

「俺にはこんなもんいらんからな。返すぞっ！！！」

「っ！？」

　覇気もついでに込め、一息に投げつける。

　風切り音を立てながら、一直線に突き進んだ剣は、クロエの空っぽの胸板に突き刺さった。

「うわぁ！？」

　だが、それだけで止まらず、上半身の鎧をまとめて吹き飛ばし、クロエの身体をバラバラにして、さらに地平線の彼方へと跳んでいった。

　……どこまで飛んでいくんだろうな、あれ。

「く、くそ！？」

「そこでおとなしくしてな！！」

　クロエに言い捨て、今度こそガルガンドの元へと向かう。

　もう奴を守るものは……！

「ゆけぃ！　奴を止めよ！」

―ギギギ、ガガガァァァァァァ！！―

　ガルガンドの指示を受け、合成獣が俺の目の前に立ちはだかった。

　……そうだな、まだこいつがいたよな。

「リュウジ！　ミーシャは……！」

　チルが、今から起こるかもしれない惨劇に叫び声を上げる。

　顔を上げると、目を伏せたミーシャの顔が見える。

　……さっきまでなら、殺すしかないって考えるところだよな……。

　けど、今は師匠が見てる。この状態で、ミーシャを殺せない。

　だが、どうしたら……！

「リュウちゃん！」

　合成獣と激突する寸前、師匠が声を上げる。

「自分を信じるんじゃ！！」

「……！」

　師匠からのエールが、俺に力を与える。

　そう、だな……。

　たまには真剣に、テメェを信じてみるか……！

　今の俺なら……！

「ミーシャ！　そこから、今、出してやる！！」

　決意を固め、俺は突き進む。

「おらぁ！！」

―ギアァ！？―

　俺は拳を握り、合成獣の腹の中へと叩きこむ。

　鋼の皮膚で出来た奴の体の中は、まるで動物の腹の中のように艶めかしく、内臓が詰まっているかのように脈動していた。

　元になったリッキーちゃんＭｋ-Ⅱは、完全に機械だったってのに、中身はもう生き物じゃねぇか……！

　手に触れる気味の悪い感覚に顔をしかめながら、俺は掌から一気に覇気を流し込む。

「おらぁぁぁぁ！！！」

―ギ！？　ガァアアァァ！！？？―

「貴様！？　何をしておる！？」

　苦しみ悲鳴を上げる合成獣の様子に、さしものガルガンドも悲鳴を上げる。

　俺の掌から流れ出した覇気は、合成獣の全身へと浸透していき、ミーシャがいる部分にも届いた。

　今の彼女の身体は……やっぱり合成獣と完全に融合しているのが手に取るようにわかる。

　やっぱり、無理か……！？

　だが、ここで諦めてたまるかよ。

「おおおぉぉあああぁぁぁぁ！！！！」

　さらに、膨大な覇気を流し込む。

　混沌言語(カオス・ワード)によって歪められた合成獣とミーシャの身体を元に戻すために。

　合成獣の身体から、鈍色の輝きが溢れ出し始める。

「！　やめよ、貴様！　そのようなことをしても無意味！！」

　俺が何をしているのかに気が付いたガルガンドが、焦った様な悲鳴を上げる。

　だが、実際に焦っているのは俺のほうだった。

　なんとなく勘と勢いで覇気を流しちゃいるけれど、こっから先の進展が望めるかどうか一切わからねぇ……！

　覇気でかろうじてミーシャの身体を捕らえることはできたが、ここから元に戻すには……。

　えぇい、ままよ！！

　当たり前ではあるが、進展しない状況に、半ばやけになり、俺は一際大きく息を吸い込み、叫んだ。

―オオオオォォォォォォォ！！！！―

　……口から零れ落ちたのは、自分のものとは思えないほど重厚な咆哮だった。

　全てを圧するような、そんな莫大な存在感を放っている。

　自分の口から飛び出したその音に驚いて、思わず硬直する。

　今まで生きてきて、一度だってこんな音を出したことなんてない。そもそも、聞いたことのないような轟音だった。

　一番近いのは……さっきから何度も聞いていた、ガルガンドの混沌言語(カオス・ワード)の発音だろうか。あれと違い、背筋が泡経つような感覚はない。けれど、それ以外の感覚は似ていた。

　俺の口から飛び出した音が広がっていき、場を包み込む。

　瞬間全てが制止し。

　シャァン！

　ガラスが砕け散るような音がして、合成獣の身体が砕け散り、その中からミーシャの身体が飛び出してきた。

　その身体は五体満足で、肌に染みは一つもなく、何のかけもないミーシャの身体だった。

「…………マジ、ごめん」

　ものすごく申し訳ない気持ちになった俺は、すぐに目を閉じ、上着を脱いで、落下してきたミーシャを受け止め様上着で包み込んだ。

　そらそうだわな。あんなもんに服ごと融合されりゃ、全裸にもなるわな……。

「な、く、バカな……！？　今のは、古竜の……！？」

　ミーシャを包み終え、目を開けると、珍しく動揺したようなガルガンドの姿が目に入った。

　……フン、いい気味だぜ。

「チル！　ミーシャを頼むぜ！」

「うん、わかった！！」

　さっきまでとは打って変わって、とてもうれしそうに声を上げながら、チルがミーシャの元へと駆けよってきた。

　ミーシャのことをチルに任せ、俺はゆっくりとガルガンドの元へ近づいていく。

「ざまねぇな……。見事助け出してやったぜ……？」

「ちっ！！」

　ガルガンドは鋭く舌打ちし、手に持った混沌玉(カオス・オーブ)を高く掲げ上げた。

「ならば、周囲空間ごと貴様らを諸共、消飛ばしてくれよう！　助けたというのであれば、何度でも殺してくれよう！！」

　ガルガンドが叫ぶと同時に、混沌玉(カオス・オーブ)が一際強く輝きはじめる。

　おそらく、混沌玉(カオス・オーブ)に魔力を込めて、宣言通りのことを実行するつもりなのだろう。

　けど、そんなの今更許すわけがねぇ。

「ハァッ！！」

「くぁっ！？」

　上空から強襲をかけてきたミルの鋭い鉤爪に蹴飛ばされて、混沌玉(カオス・オーブ)が飛んでいく。隙を見て、強襲してくれるつもりだったのだろう。

　混沌玉(カオス・オーブ)は見事に師匠の手の中へと納まり、放っていた輝きが収束していく。

「ん。これは、返してもらうぞぃ」

「ぐ、く……！？」

　めまぐるしく変化していく状況に対応しきれず目を白黒させるガルガンド。

　俺はそいつに向かって、高く飛び上がる。

　拳を握り、振り上げ、覇気を込める。

「じゃあ、ミーシャも助かって、混沌玉(カオス・オーブ)も取り戻しましたことですしー……」

　今まで生きてきた中で最高にいい笑顔を見せながら、俺は拳に力を込める。

　ガルガンドが、俺を止めるように、手を差し伸べてきた。

「く！？　ま、待て！？」

「待つかアホんダラがぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ！！！！！」

　哀れにも命乞いをするアホに向けて、全力で拳を打ち込む。

　拳から放たれた覇気が、ガルガンドを強かに打ち、その全身を一息に粉砕する。

「ギャァァァ――……！？」

　ガルガンドの悲鳴が尾を引いて、俺が放った覇気の中へと消えていく。

　俺が地面に再び着地した時、ガルガンドの姿は完全に消滅していたのだった。

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　ガルガンドを無事撃破した隆司。そして、取り戻した混沌玉(カオス・オーブ)。

　果たして、混沌玉(カオス・オーブ)とは一体？

　以下、次回。