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No.146:side・ryuzi「隆司、己を見失う」

「ハーピーかぁ……。僕も会ってみたいなぁ」

「私も……」

「羨ましがってる場合じゃねーわよ……」


「ほいっと」

「ぶほぉっ!?」


 例え頭を悩ませ、そして答えは出なくとも日は沈み、そしてまた昇る。

 イル、チル、ミルの三人のハーピーが混沌の森の村にやってきてた翌日。

 結局考えても、死霊団の目的はわからなかった。

 元々情報が少ないというのもあるが、連中のやっていることがあまりにも理解に遠いってのもある。

 魔王軍の本隊が、そもそもこちら側への侵攻を考慮していなかったらしい点からして、ガルガンドの離反はもう確実だろう。

 元々考えの読めないところのあるやつだが、国を裏切るような真似をしてまでこちらで行動を起こす意味が解らない。一体、何を考えてそんなことを――。


「そぅりゃっ」

「げはっ!?」


 ――などと考えていると、師匠の蹴りが横っ腹に突き刺さる。

 今日も今日とて師匠との修業の時間だが、一向に覇気を感じられるような気配はない。

 師匠も覇気を使って、俺がわかるようにしてくれているらしいが……。


「ほれっ」

「ぐっ!?」


 腕を交差させて、師匠が突きだした拳を防ぐ。

 鋼か何かと間違えそうなほど、重たく硬い拳が突き刺さる。

 これも覇気による強化のたまものらしいが……とてもじゃないが、同じことができるようになるなんて信じられ――。


「ほいっ」

「ぶっ!?」


 ……余計なことを考えていたら、師匠の蹴りが顎に見事にヒットした。

 今回は気絶こそしなかったものの、勢いよく頭を地面に叩きつけてしまう。

 マジいてぇ……。

 そうして痛みに呻いていると、俺の顔を師匠が覗き込んできた。


「リュウちゃんや。何ぞ悩み事かのぉ?」

「……まあ、そッスね。言い訳にもなりませんけど」


 師匠に自嘲するような笑みを浮かべてみせると、そんな俺を窘めるように師匠は顔をしかめた。


「いかんぞぅ、そういう言い方は。気になるものは、どう頑張っても気になるもんじゃ」

「……そうはいっても、修行つけてもらってるのに、他のことに気をやるのは失礼でしょう」


 こっちから押しかけて、時間を取ってもらってるのに、その時間で別のことを考えるなんて……。


「かまわんよぉ。リュウちゃんが来てくれて、ミッちゃんも元気になったしのぉ」


 師匠がそう言って微笑み、ミーシャがいる方に視線を向けた。

 俺も体を起こし上げ、師匠の視線を負う。

 視線の先ではミーシャがハーピーのイル、そして今朝がたやっと目を覚ましたチルと一緒に遊んでいた。


「あははっ! 待て待てー!」

「速い速い!? 地面走ってるのに何でそんなに速いんですかー!?」

「ミーシャ、すごいー! あはは!」


 ……遊んでいる、というには若干語弊がありそうな動きではあったが。っていうか、滑空に近い動きで飛び回るイルやチルに走って追いつくとかどんだけだよ……さすが師匠の弟子を名乗るだけはある。

 そんな孫娘の姿を見て、師匠が笑みを深くした。


「あんなに楽しそうなミッちゃん、ここ数年見られんかったからのぉ」

「喜ばしいのか、そうじゃないのか微妙に困る絵面ッスけどね……」


 笑うべきかそうでないのか、若干反応に困ってそう呟く俺。

 そんな俺の肩を、師匠はポンと叩いた。


「ありがとう、リュウちゃん。本当に、来てくれてよかったよぉ」

「……つっても、予見されてたことなんでしょう? 俺の意志ってわけじゃ……」


 グリモというばあさんの力が本当ならば、俺がここに来るのは確定事項だったわけだ。

 なら別に、俺自身がここに来ることを選択したわけではないのかもしれない……。

 そんな腐った考えを、師匠は軽やかに一蹴してくれた。


「そんなわけないぞぅ。ここに来てくれたのは、間違いなくリュウちゃんじゃ。グッちゃんは、すこぉし先の未来を見ただけじゃよ」

「でもなぁ……」


 それでも納得がいかないように呟く俺に、師匠は優しく語りかけた。


「もしわしの言うことが信じられんなら、リュウちゃんの思った通りでええんじゃよ?」

「いや、信じられないってわけじゃ……」

「ええんよ、ええんよ」


 師匠は鷹揚に首を振り、笑顔で俺に諭すように続けた。


「誰かを否定するのではなく、己を信じること。何においても、それが大事なんじゃよ」

「はぁ……」

「自分が信じられる自分を見つけるために、大いに悩みんさい。悩めば悩んだ分だけ、きっと信じられる自分が近づいてくるはずじゃからな」


 そう語り、師匠は家の方へと戻っていった。

 取り残された俺は、ポカンと師匠の背中を目で追っていたが、しばらくしてまたごろりと仰向けに転がった。

 自分が信じられる自分……か……。

 そんなものが、今の俺にあるんだろうか……。

 鎌首をもたげた不信感に顔をしかめる。

 そんな俺の視界の端に、ちらりと羽毛がびっしり生えた羽根が目に入った。


「どうもです、リュウジさん」

「……ミルか」

「はい、ミルです」


 ハーピーのミルが、なぜか俺のことを覗き込んでいた。

 俺をまっすぐに見下ろしながら、ミルは俺への心配事を口にした。


「具合はどうでしょう? ミルは衛生兵なので、お役に立てることもあると思いますが」

「心配かけたなら、大丈夫だ。痛みはもう引いてるからよ」

「そうですか、それならよかったです」


 少し嬉しそうなミルのセリフを聞きながら、俺は彼女の顔を見た。


「……ところで、チルが目を覚ましたら、すぐに戻るんじゃなかったのか?」

「その事ですが、イルと相談してしばらくこの村でお世話になることにしたのです」

「そりゃまたなんで」

「チルのためです。貴方の師匠の一撃は、チルにダメージを残しました。長距離を飛ぶには、いささか不安が残ると判断しました」


 言われて、チルの方を向く。

 元気に飛び回り、ミーシャからの追撃を回避しているように見えるが、それも表面上ってことか……。


「けど、お前ら長距離転移用の呪符持ってんだろ? それで跳べばいいだろう?」

「あれは一人用です。死霊団を発見次第、一人が戻って報告。残りは死霊団と接触し、足止めをするか、長距離術式発動用のマーカーの役になるのです」

「そーなのかー」


 どうやら四天王肝入りの長距離転移術式も、万能というわけじゃないらしい。

 小さく頷く俺を見て、ミルが首をかしげた。


「時に、修行の成果はいかがなものですか? 我々としては、姫様とタイマン張れるくらいに強くなってほしいのですけれど」

「仮にも敵に強くなってほしいって願うのは、魔王軍の人間としてどうなのよ……」


 思わずそう口にしてしまうが、ミルは平然とこう答えた。


「そうおっしゃいますが、あなた方に強くなってもらうのは、我々の総意です。特にタツノミヤ・リュウジに対する期待は、最も強いのです」

「……ふーん?」


 変な話である。

 相手を侵略する側にしてみれば、敵が強くなることを望むのは自分で首を絞める縄を用意するようなもんだろう。

 けれど、ミルには嘘やごまかしのようなものは見られない。パッと見は本当にそう願っているように見える。


「……っと、とと。このことは、本当は秘密なのでした」

「秘密て」

「なので、忘れてくださると嬉しいです。もしできるなら、ここでこうして話したことは、魔王軍には内密に願います」

「内密にせにゃならんのか。しかも魔王軍に」


 むしろ、現状だと魔王軍に話しかける機会も少ないわけだが。

 ……まあ、約束するくらいなら別にかまわんか。


「まあ、いいよ。どうせ話す機会もないわけだし」

「ありがとうございます、リュウジさん」


 俺の返事を聞いて、ミルはにっこり笑った。

 俺はそれに鷹揚に手を振って返してやる。まあ、べつにしゃべらなくても、困るわけじゃねぇしな。

 そうしてしばらくその場でじっとしていたが、そばでミルが不思議そうに俺をじっと見つめていたのに気が付いた。


「……? なんだ?」

「ああ、いえ。ちょっと、不思議だったものですから」

「不思議? 何が?」


 聞き返すと、ミルは小さく首をかしげて話してくれた。


「我々偵察部隊は、職務の関係上、前線に出ることが稀ですから、貴方のことに関してはだいたい伝聞でしか知りません」

「まあ、そうだよな」

「伝聞でのあなたは、基本的に煩悩まみれで、姫様のことに目がなくて、鱗ペロペロしたがる変態、であるのにソフィア様の剣を真っ向から受け止められる実力のある戦士で――」


 こうして魔王軍からの評価を聞く機会ってのはなかなかないが……。

 改めて、俺って普通の人間扱いされてないのな……。

 そうして若干凹む俺に、ぐさりとミルの言葉が突き刺さる。


「――それでいて、一本筋がしっかり通った、素晴らしい勇者だと伺っています」

「…………」


 ミルの言葉に、硬直する俺。

 そんな俺に、ミルは追い討ちをかけた。


「ですが、今のあなたを見ていると、そういう人間だとはちょっと思えません。修行中も、気がそぞろという感じでしたし」

「……俺だって、人間だし、十六年ぽっちしか生きてないガキだよ。迷う時だってあるさ」


 ミルの方から視線をそらし、言い訳がましく俺はそう言った。

 しかし、ミルは止まらない。さらに言葉を重ねていく。


「そう言うものですか? とてもそうは見えませんでしたが」

「見えなくても、そういうもんさ」

「ふーん……」


 ミルはしばらく疑わしげに俺を見つめていたようだが、一つ小さく息を吐いてミーシャたちの方に歩み始めたようだ。


「まあ、悩むのは良いですけれど、姫様の前ではそういう姿は見せないで上げてくださいね。口ではいろいろ言ってましたけど、間違いなく魔王軍で一番あなたに期待してる人ですから」

「おー……」


 サクサクと草を踏んで遠のいていくミルの足音を聞きながら、俺はクシャリと草を握りつぶした。

 それは、わかってる。出来れば、こんな風に悩みっぱなしの俺なんぞ、ソフィアに見て欲しくはない。

 ……けれど、こんな姿を見てどういう風に反応するかは知っておきたいという思いもある。

 親父の恋愛指南「相手のことを知るなら、他人の内に」を思い出す。

 今の俺を見て、あるいは愛想を尽かされるかもしれないが、それでも取り戻すことはできるはずだ。

 ……だけど、どのみち今戻ることはできない。

 覇気のこと。ガルガンドのこと。戦うことに対する、俺自身のこと。

 ……そして何より、俺が信じられる俺のこと。

 何一つ解決していないままで、光太たちのところへ帰れるはずもない。


「……くそ」


 小さく悪態をつく。

 ミルの言うとおり、らしくねぇよな………。




 自分を信じると書いて、自信。

 果たして今の隆司に自信はあるのか……。

 以下、次回。


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