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No.145:side・ryuzi「隆司、ハーピーに出会う」

「このタイミングで隆司のところにやってくる……」

「まさか……?」

「ガルガンド!?」

「いや、さすがにまだ出てこねぇよ?」


 騒ぎの元まで近寄ると、輪の中心に師匠がいるのが見えた。


「……何してんスか師匠?」


 そして、師匠の目の前で目をまわして倒れている有翼人種(ハーピー)とその仲間たちを目にした時点で、この騒ぎの原因がだいたい察せた。

 おそらく、空を飛んでる時にいきなり攻撃されたのか、綺麗に目を回しているハーピーも、彼女を介抱している子も、そして周囲に人だかりを警戒している子も、なぜか女の子であったが。たぶん、体重の関係で女性の方が空を飛ぶのに有利なんだろう。たぶん。

 そして騒ぎの張本人(師匠)は俺たちに気が付くと、申し訳なさそうに頭を掻きながら、事の次第を説明してくれた。


「いやぁのぉ。大きな鳥が飛んどるから、今晩の夕餉にどうかと思うてぉ」

「イートミーズ!?」

「いやさすがに喰えねぇだろ。さすがに」


 師匠の発言になぜか英語発音になるハーピーを安心させるように、俺は手を振ってツッコミを入れた。

 もの珍しそうに彼女たちを見つめる村人たちにも聞こえるように、わざと大き目な声で彼女たちについて説明してやる。


「こいつらあれだ。今王都に進行している、魔王軍の偵察部隊って奴だよ。だろ?」

「はいはいはいはい、はいそうです!!」


 俺が水を向けてやると、ハーピーの一人が、すごい勢いで頭を縦に振った。晩の食卓を自らの身で飾るのはさすがに嫌なのだろう。誰だっていやだろうが。


「へー、この子たちが!? かわいー!」


 ミーシャが目をキラキラ輝かせながら、恐れることなくハーピー達に近づいていく。


「きれいな羽根ー! ねね! この羽根で飛ぶの!?」

「うんうん、そうです! ですから、この場は見逃してー!」


 ミーシャは果敢にも、ハーピーの翼をペタペタと触っていく。

 混乱の極致にあるらしいハーピーは、重要な機関であろう翼を触られても不快感を表すこともなく、むしろ積極的に取り入って、この場から逃れることを懇願する。

 まあ、仮にも敵陣のど真ん中で撃墜されて、しかも人間に囲まれて、恐怖を覚えねぇ方がどうかしてらぁなぁ。

 が、腑に落ちない点もある。残念ながら、この場をすぐに開放するってわけのもいかねぇわな。


「残念ながら、そいつは聞けねぇな」

「なんでなんで!? どーしてですか!?」


 俺は猛抗議を繰り返すハーピーを無視して、目を回したまま気絶しているハーピーを姫抱きで抱え上げた。


「あ! チル!」

「こいつが目を覚まさんことには、逃げるも何もねぇだろ。取って食ったりはしねぇから、ちっと休んでけよ」

「そうしなよ! うちなら、ベットも余ってるし!」


 俺の言葉を後押しするように、ミーシャも手に取ったハーピーの羽根をブンブンと縦に振り回す。


「は、はひぃ!? よろしくおねがいしますぅ!!」


 思わぬ歓待に、ハーピーは目を回しながらも、何とか頷いたのであった。




「はいどうぞ! ……って言っても、ただの水だけど」

「おかまいなくおかまいなく! チルが目を覚ましたら、すぐにも出ていきますし!」


 ミーシャが目の前に置いたコップを前にも、慌てたようにバッサバッサと両の翼を振り回すハーピー。

 慌てたようにとはいうものの、チルというハーピーが撃墜されたときに比べたら、動作がかなり落ち着いてきている。たぶん、口癖なんだろう。

 件のチルは、今はミーシャの部屋で横になっている。残り一人のハーピーが、今師匠と一緒に介抱しているはずだ。師匠もあれで、一応責任を感じているらしい。


「えー。そんなこと言わずに、一晩くらい泊まっていきなよ! せっかくここまで来たんだし」

「そう言われましてもー」


 グイッと顔を近づけるミーシャを困ったように見つめ、助けを求めるように俺の方を向いた。

 そんな顔してこっち見られてもな。


「まあ、無茶言わん方がいいんじゃねぇの? 仮にも軍隊の人間なんだし」

「そうは言うけど、リュウジ! リュウジ以外で久しぶりの――」


 ミーシャが肩を怒らせながら俺の名を呼んだ瞬間。


 ガッタガタン!


 とエライ音を立てながら、ハーピーが椅子から転げ落ちた。


「ん?」

「どうしたの?」


 俺とミーシャが心配そうに見つめる中で、ハーピーは恐る恐るといった様子で俺の方を伺った。


「りゅ……リュウジ? まさかまさか、あなたって、タツノミヤ・リュウジだったりします?」

「まさかも何も、ご本人だが」


 俺が肯定してやると、いきなり立ち上がったハーピーは、猛烈な勢いでミーシャの部屋へと突撃していった。


「???」

「なんだ突然」


 突然の奇行に首をかしげるミーシャと俺。

 開きっぱなしのミーシャの部屋の中からは「タツノミヤリュウジがこんなところにいるんですけど!?」「え、なんで!? てっきり王都にいるもんだと思ってたんだけど!?」「これじゃあ、姫様のフラストレーションがまたたまっちゃうよ!」「しかもこんなところだし、時間もかかるしぃ!」などと、必死に隠そうとしているけれどまったく隠れていないヒソヒソ話を始めた。

 が、倒れているハーピーがうめき声を上げたのを皮切りに、ぴたりと口を閉じ、今度こそこちらには聞こえない程度の大きさでヒソヒソ話を始めた。

 顔を見合わせる俺とミーシャ。しばらくして、さっきのハーピーがゆっくりとミーシャの部屋から出てきた。


「……どしたの? リュウジがなにか?」

「いいえいいえ! なんでもないのですよー」


 ミーシャの質問に、さっきと比べ物にならないほど落ち着いた笑顔で答えるハーピー。

 ……なんだ?


「……まあ、別にいいが。お前さんの名前は?」

「私ですか? イルといいますよー。チルの面倒を見ているのは、ミルといいます!」


 ハーピー……イルは俺の質問に快活に答えてくれた。

 さっきまでの混乱ぶりからは、考えられないほどの落ち着き具合である。ホントなんなんだ。

 とはいえ、落ち着いてくれていた方が、こっちとしてはありがたい。聞きたいことは山ほどあるのだ。


「じゃ、いくらか聞きたいことがあるんだが、構わねぇか?」

「もちろんですもちろんです! まあ、あまり魔王軍が不利になるようなことには答えられませんが」


 そりゃまあ、そうだわな。とはいえ、多少なりそういう部分に触れることになるだろうが……。


「じゃあ、まず質問。お前ら、こんなところで何してんの?」


 とりあえず直球で一発目。普通なら、はぐらかすか答えないかの二択だろう。

 何しろ、偵察任務である。こっちの内情を探る、重要な――。


「ガルガンド率いる死霊団の捜索ですよー」

「…………………」


 重要な……案件だと思うんだけどなぁ……。


「……俺が聞くのもどうかと思うが、答えていいのかそれは」

「むしろこっちがお聞きしたいくらいですよー。死霊団との連絡が取れなくなって、困ってるんですからー」

「なんだと?」


 イルの言葉に、思わず眉根を寄せる。

 魔王軍の本隊と、死霊団が連絡を取ってねぇだと?

 じゃあ、こっちでの連中の行動は、独断だとでも言うのか?


「……じゃあ、死霊団がこっちでアメリア王国の領地を占領してたのは知ってるか?」

「え!? ええ!? それは本当ですか!?」


 俺が話した情報に、イルはものすごい勢いで食いついた。

 ……彼女の様子から、嘘はついていないと判断し、俺はこちらでの旅してみてきたものを簡潔に説明した。

 死霊団の連中が、王国の領地を占領し、その領民を苦しめていることを。


「――以上が、俺がここに来るまでで見た、連中の行動だ」

「………………」


 俺の話を聞いたイルは、絶句して硬直してしまった。

 そりゃそうだわな。自分の知らないところで、自分と関わりのある連中が、そんなことしていると聞かされりゃ、こうもなるわな。


「……なに、それ……!」


 そして一緒に俺の話を聞いていたミーシャは、ブルブルと全身を震わせ、ダンとテーブルを強く叩いた。


「なによそれ! 一体、その連中は何を考えてるの!?」

「落ち着けよ、ミーシャ」

「落ち着けるわけない! 人が、人を殺されてるなんて聞いて、落ち着いてられないよ!」


 俺の制止も聞かず、ミーシャはブンブンと頭を振り回す。頭の中の怒りを払うかのように。


「ありえない……! そんなことする奴がこの国にいるなんて……!」

「ご、ごめんなさい、ミーシャ……!」

「イルが謝ることない! 悪いのは、みんなそいつらなんだから!!」

「その通りだな」


 ミーシャの激昂ぶりに身を縮ませたイルをなだめるように、俺は彼女の肩をポンポン叩いた。


「お前さんは、俺が話すまでこのことを知らなかったんだ。魔王軍がそんなことするとも思えないし、お前さんは何も悪くない」

「あ、ありがとうございます……」

「悪いのは、ガルガンド達死霊団の連中だ」


 その名を呟いて、俺はまなじりを吊り上げる。

 まさか独断で動いてるとはな……。しかも、その行動は間違いなく魔王軍の意向を無視したものだ。

 ……道中で、骸骨どもの一匹もとっつ構えておくべきだったな。


「お前さんたちが死霊団の捜索に駆り出されたってことは、間違いなく本隊は死霊団のことを知らないな?」

「はい、はい……。姫様を始め、ラミレス様やヴァルト将軍だって、知らないはずです……」


 ソフィアはともかく、ラミレスもヴァルトもわからんとなると、連中の動向を何らかの方法で探すのは不可能か? 少なくとも、ラミレスは真子よりもはるかに魔導に精通してるだろうし。

 そもそも、見つけられるならハーピー達を遣いに出す必要もないはずだ。


「ここに来るまでの道中で、それらしい影は見つけられなかったのか?」

「はい、はい。少なくとも、私たちのチームは影も形も見つけられなかったのです」


 影も形も……?


「……聞くけど、王都からこっち側を探すようになって、どのくらいだ?」

「二週間くらいでしょうか? 一ヶ月ほど前から捜索を開始しています」

「……妙だな」

「妙って、何が?」


 腕を組んで考える俺にミーシャが問いかける。

 俺は自分の考えをまとめながら、ミーシャに答えた。


「俺がこっちに向かったのは、大まかに十日くらい前になるが……一番最初に連中に遭遇したのは旅を始めたころだ」

「それが?」

「一つの町を占領するほどの団体だぞ? 撤退の動きを見せれば、さすがにわかるんじゃないか?」

「……そうかなぁ?」


 俺の言葉に、ミーシャは首をかしげた。


「何かおかしいか?」

「だって、この国領地と領地の間が結構離れてるんだよ? イルたち三人だけ……ってことはないだろうけど、さすがにイルたちがそいつら見つける確率って低くないかな?」

「そうか?」


 ミーシャに言い返され、俺は口をへの字に曲げるが、内心はミーシャの言葉を認めていた。

 確かに、イルたちが見つけてないからって、ほかの連中が発見していないってことはないか……。

 事の真偽を確かめる為、イルの方を見る。


「その辺はどうなんだ?」

「確かに、私たちだけが探してるわけじゃないです。けど、他のチームが発見したかどうかはちょっとわからないです」

「仲間と連絡とか取れないの?」

「はい、はい。長距離術式が得意なハーピーがいなくて……。自分たちが担当する範囲を探し終えたら、すぐに本隊まで戻る予定だったんです」

「そうか……」


 偵察を旨とする部隊としてはいかがなものかと思われるが、魔王軍本隊にとって、死霊団と連絡を取ること自体はそれほど急を要した事態ではないってことか……。

 だが、今回の場合は問題が大きい。連中の動向が探れないということは、今何かしているのを他の連中が発見していても、イルを通じて俺たちがそれを知ることはできないってことだ……。

 悩む俺を見ながら、イルが悲しそうに眉根を寄せて口を開いた。


「……それに、それに……多分今は誰も戻ってないと思います」

「? どういうことだ?」

「もし誰か一人でも、本隊に報告に戻っていれば、ラミレス様が私たちを呼んでくれるはずなんです。長距離術式のためのマーカーは、私たちも身に付けていますので、ラミレス様から連絡を取る分には問題ないですから……」


 そこはさすがの四天王、ってところか。


「でもさ、誰かが死霊団を見つけて戻ってる途中ってこともあるんじゃない? イルたちが来たこの村から、王都の向こう側まで結構距離あるし……」

「いえ、戻るときは、ラミレス様が下さった転移術式を使って戻りますから、一瞬なんです」


 ミーシャの言葉にそう言って、一枚の呪符を取り出すイル。

 そうか、それなら、確かに一瞬で戻れるか……。

 だが、そうなるとさっきの懸念が復活してくる。


「……もし仮にアメリア王国中をイルたちハーピー部隊がくまなく捜索していて……それに死霊団が引っ掛からないとしたら……」


 俺は腕を組んで、先ほどの懸念を口にした。


「死霊団の連中は、意図的に身を隠しているってことになるな……」


 俺の言葉に、ミーシャもイルも答えない。

 だが、もし本当にそうなのだとして……。

 それなら、死霊団の連中の目的は一体なんなんだ……?




 やってきたのはハーピーの捜索部隊。だがしかし、彼女たちもガルガンド達を見ていないという。

 いったい、なぜ奴らは身を隠すのか? 何を考えているのか?

 以下、次回。


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