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No.137:side・ryuzi「隆司、リッキーちゃんを倒す」

「究極の肉体……?」

「リアラちゃんは、それを作るためにガルガンドに協力してるんだ」

「ああ。本人は、ガルガンドが何をしたいかまでは知らないみたいだったけどな」


 延々続くリアラのリッキーちゃん自慢に辟易しつつも、俺は目の前にそびえたつリッキーちゃんを観察する。

 詳しい話は知らないが、このリッキーちゃん、流体筋肉とか言う技術が使われているらしい。可能な限り、人体に近い構造を持たせるために開発した技術だとか。

 前に潰したメカ亀とガオレンもどきも、さっき話した究極の肉体を作成する過程で作られた機体らしく、目の前のリッキーちゃんも集大成というだけあって、かなり完成度は高いらしい。

 正直、いったい何を持って完成度の高さを言うのかはわからないが。


『――というわけなのさ! どうだ! 参ったかー!』

「正直専門用語が多すぎて、よくわからん」

『がーん!!』


 おそらくコックピットの中でドヤ顔をしているであろうリアラに正直に返すと、リッキーちゃんがオーバーリアクションでよろめいた。

 というかこいつ、説明が下手だな。素人にわからない専門用語の嵐だし、要所要所で自分の発明したメカを褒めるせいで話のテンポも悪いし。

 目の前のメカを、ほぼ独力で開発するあたり、技術者としての実力は高いんだろうけど……典型的な悪い天才タイプだな。


『こ、こんなにわかりやすく説明してあげてるのに……! さては貴方、バカね!?』

「真正のメカ馬鹿にバカって言われた……」


 バカ扱いにはなれているつもりだが、ちょっとショックだった。

 というか、こいつにわからせてやりたい。専門用語は、わかりやすい説明には入らんということを。


『なら、実演でリッキーちゃんの素晴らしさを再認識させてあげるわー!!』


 だが、そう俺が口にするより早く、リッキーちゃんがその剛腕を振り上げて、まっすぐ俺に突きこんでくる。


「その方が分かりやすいな!」


 それを躱し、俺は石剣を振り上げる。

 まずは腕を斬りおとして……。

 と考えていたのだが、振り下ろした刃がリッキーちゃんの腕に食い込んだせいで、その考えを中断せざるをえなくなった。


「!? か……たいわけじゃないのか!?」


 手に伝わってくる感触は、金属に属する硬い物質を切った時のものではなく、むしろ水や粘液に叩きこんだようなやわこい感じだ……!


『ハッハッハー! キッコウちゃんをあなたたちに斬られちゃったときのことを反省しての流体筋肉だよ! 瞬発力だけじゃなく、対斬撃性に優れたきわめて粘土の高い流体装甲!』


 リアラが説明しながら、リッキーちゃんの上半身を高速回転させる。

 足が浮き、食い込んだ刃ごと回転させられ、勢いよく弾き飛ばされる。


「うおおぉぉぉ!?」


 身体が地面に叩きつけられ、二転三転。

 それを追って、リッキーちゃんの巨体が俺の頭上に迫る。


『それー!!』

「ぐ!?」


 慌ててその場から飛びのく。

 数瞬遅れて、リッキーちゃんの剛腕が、俺が倒れていた場所に突き刺さった。

 轟音と震動が、町の中を襲う。


「パワーも重量も桁外れだな……!」

『きゃん! うう、頭打ったぁ……』


 パイロットは大したことないが、機体性能が恐ろしいな……。

 あまり暴れられても困る。早いとこ何とかしないとだが、石剣の一撃が通用しないとなると……。


「シュバルツ!」


 俺が呼べば、シュバルツはうずくまったままのリッキーちゃんを飛び越え、俺の目の前まで駆けつける。

 俺はシュバルツが止まるのを待たず、そのまま飛び上がって背中に飛び乗る。


『あ! リッキーちゃんを飛び越えたわね貴方!?』


 リアラがそう叫びながら、リッキーちゃんを起こし上げる。

 距離を取り、リッキーちゃんと相対しながら、俺はシュバルツに指示を出す。


「シュバルツ! 俺と戦った時の鎧、出せるか!?」

―ヒヒーン!―


 シュバルツは俺に答え、前脚を振り上げて嘶きを上げる。

 同時に、シュバルツの身体から靄のように魔力が立ち上り、その身体が変異していく。

 全身を覆う皮膚は黒く光沢を放つ、磨き上げたような全身鎧(フル・メイル)に。

 そして額からは鋭く伸びる一本の刃……スライムの時に飛ばしたのは、これの応用か。

 変異を終えたシュバルツが、再び鋭く嘶いた。


―ヒヒィィィィィィィィン!―

『す、すごい! そんなことまでできるなんて……!』


 シュバルツの変異を目の当たりにし、リアラがコックピットの中から賞賛の言葉を贈る。

 ガルガンドが作ったものだからなのか、あるいは制御しきれなかったからなのか、リアラはシュバルツのことをほとんど知らないのか?

 だが、リアラは負けじと自らもリッキーちゃんに胸を叩かせ、ドラミングを行う。


『でも、リッキーちゃんはそんなトランスフォームに負けないもん! そもそも、トランスフォームって、構造的に関節が弱くなるし!』

「誰もそんなこと聞いてねぇよ……。シュバルツ!」


 俺はシュバルツの腹を蹴り、その身を駆けださせる。

 それに応え、シュバルツが勢いよく駆け出した。


『来なさい! リッキーちゃんの剛腕が、貴方の身体をぶっとばすわ!』


 行ってリアラは待ちうける。その剛腕を振り上げ構え、こちらをまっすぐにぶっとばすために。

 迫る両者の距離。その間にも、シュバルツは加速を続け、リッキーちゃんが関節を唸らせるほどに力を込める。

 そして、互いが交差する。


「射抜け! シュバルツ!」

『いっけー!』


 射程距離に入った瞬間、リッキーちゃんの剛腕がこちらに迫るが、それより一瞬早くシュバルツがリッキーちゃんの懐に入り込み、飛び上がる。

 その勢いを利用し、額に生えた刃で、肩の関節を貫いた。


『きゃー!? 何か嫌な音が!?』

「そのまま、斬り裂け!!」

―バルル……!―


 シュバルツが、自重を利用し、一気に刃を振り下ろす。

 装甲が裂ける高音と同時に、腕の中を満たしていたであろう流体筋肉がどろりと流れ出した。

 流体筋肉は滴になることもなく、大きく開いた穴から塊のまま零れ落ちていく。

 ボルトスライムや、昨日のアシッドスライムより、よほどスライムらしいな。

 そして、流体筋肉を失ったリッキーちゃんの片腕が、だらりと垂れさがりそのまま動かなくなる。


『きゃー!? きゃー!?』


 急いで離れる俺たちにも構わず、零れる流体筋肉を集めようと、リッキーちゃんを操作するリアラが残った腕で筋肉を掬い上げようとする。

 だが、液体である流体筋肉を、リッキーちゃんの腕で掬い取ることは叶わず、やがて残った腕の動きも鈍っていく。

 どうやら、全身がつながっていたらしい。零れ落ちていく流体筋肉は、リッキーちゃんの足元に巨大な水たまりを作り、そしてリッキーちゃんはついに動かなくなってしまった。

 その様を見て、俺はニヤリと笑って見せた。


「斬撃に耐性があっても、突きには弱かったみたいだな」

『ぐぬぬぬ……!』


 動かなくなったリッキーちゃんのコックピットの中で、悔しそうに呻き声を上げる。

 斬撃打撃を受け止める柔らかな粘液も、鋭い刃の突撃には耐えられない。

 問題は、ピンポイント攻撃になるので、ちゃんとシュバルツが当ててくれるかどうかだったが、その点に関しては心配するだけ無駄だったと言える。


「よくやってくれたな、シュバルツ」

―ブルル―


 シュバルツを労い、その首筋をポンポンと叩いてやると、何でもないというようにシュバルツが首を横に振った。

 照れているのか、あるいは本当になんていうこともないと思っているのか、判断こそつかないがシュバルツの頼もしさに、俺は思わず頬を緩める。

 親交を深める俺たちだが、問題が全部解決したわけではない。目の前で動かなくなったリッキーちゃんの中に篭っているリアラを引きずり出して、詳しい話を吐かせないと。


『……こうなったら、仕方ない!』


 そう思い、俺はシュバルツをリッキーちゃんの方に進めようとすると、意を決したように叫んだリアラが、何らかの操作を始める。

 操作といっても、やったことは一つだけ。何かのスイッチをポチリと押した程度だ。

 ……って、何かのスイッチを押した?


「おい、お前まさか……!」

『リッキーちゃんは渡さないもん! 渡すくらいなら……!』


 叫んでリッキーちゃんから飛び出したリアラは、そのまま俺たちとは反対の方向へとダダーッと駆け出していく。

 そして目の前で明滅を繰り返し始めるリッキーちゃん。


「くっそ!?」

「自爆させてあげるんだもーん!!!」


 嫌な予感に、急いで馬首を返してリッキーから離れる。

 エコーしながら遠ざかるリアラ。彼女の言葉を裏付けるように……。


 ドグァァァァァァァンンン!!!!


 と巨大な音を立てながら、リッキーちゃんは町のど真ん中で盛大に自爆したのだった……。






 リッキーちゃんが自爆し、町の中からリアラが姿を消した翌日。

 俺は町の代表であるという貴族に事の次第を聞いていた。


「……つまり、本当にいきなりあれが乗り込んできたと?」

「はい……。この町の周辺には凶暴な獣もおらず、戦力といえるものもほとんど存在しませんでしたので、言われるがままに、家の中に閉じこもるしかなく……」


 貴族というより町長といった方が正しそうな風貌の男は、縮こまりながらそう言った。

 まあ、元々戦争もろくになかったような国だ。防衛のための戦力なんて、凶暴な獣が出現する地域くらいだろう。


「家の中ってことは、この町の住人に特に被害はないと?」

「ええ……。あの少女も、広い場所が確保できればよかったのか、それ以上の要求はありませんでした。初めのうちは、骸骨が一人で歩いて、見回りをしていましたが、ここ最近は、その数も減りまして……」


 おそらく、骸骨の数が減るのと同時期に、アシッドスライムがいた街が占領されたんだろう。


「占領されたのは?」

「一週間ほど前でしょうか……。それ以前に、べつの町からの連絡がなくなっていたので、怪しいとは思っていたのですが」

「まだほかにも、占領されてるかもしれない町があるのか……」


 その話を聞いて、俺は少し考える。

 位置と距離的には、王都からそう離れていない。一日もあれば戻れるだろう。

 だが、ほかにも占領された町があると聞いて、このまま戻っていいものなのだろうか……。


「……あの」

「ん?」

「町を救っていただいた恩人に、こんなことをお頼みするのも不躾かと思いますが……ほかの町の様子を見てきていただけませんでしょうか?」


 俺が悩んでいるのを見てか、町長貴族がそんなことを言い始める。


「この町には特別な名産などがないので、他の町と資材のやり取りをして生計を立てておりまして……」

「それが滞ると、町としては非常に困る、と」

「はい……」


 頭を垂れる町長貴族。そうして他とのやり取りでどうにかしなければならない現状を、恥じているのかもしれない。

 だが、それを聞いて俺の心は決まった。


「わかった。引き受けます」

「! 本当ですか!?」

「ただ、ひとつだけお願いが。今回の一件の後始末がすんでからでいいので、俺の手紙を王城に届けて欲しいんです」

「その程度でよろしいのであれば、いくらでも」


 町長貴族の返事を聞いて、俺は彼に頼んで紙とペンを借りる。

 時間はかかるかもしれないけれど、アシッドスライムみたいな化け物が占領しているとなれば、悠長に事を構えてはいられない……。俺一人だけでも、何とかしなければ。

 そう心に決めた俺は、使命感を抱きつつ、光太たちへの手紙を書きはじめた。




 占領された町は、一つではなかった。それに対し、隆司は一人で立ち向かう決意をする。

 果たして、それは正しい判断なのか……。以下、次回。


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