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No.136:side・ryuzi「隆司、リッキーちゃんに出会う」

「あんた、このタイミングで帰ってきたらよかったじゃないのよ」

「逆に、このタイミングで帰ってこれなかったんだよ」

「隆司……なんとなく、わかるよ」



 友達を助けて欲しい。そういわれ、俺は一も二もなく引き受けた。

 自分でも、ここまで正義感が強いとは思わなかった。こういう話を聞いて突撃するのは、光太の仕事で、俺は後ろからあいつの手綱を握るのが仕事。そう、思っていたのに。

 だが、実際に人が死んでいるのを見て……それを笑いものにする奴がいて。

 自制をしようと心に決めてここまで来たのに、その決意すら吹き飛んでいた。

 誰かが助けを求めるなら、それに手を差し伸べなければ。そう口癖のように言う、光太の声が脳裏によみがえる。俺は今、彼の言うとおりに行動してる。

 ……もし、あいつがこの場にいれば、あいつが代わりにそう言って、俺がそれを宥めているんだろうか。それとも……。

 ふと、そんなことを考えながら、俺はシュバルツを操って件の町へと向かう。

 場所は、王都からさらに離れた位置にある、アシッドスライムがいた街と同程度の規模を持つ貴族領。

 やはり、向こう側と連絡が取れなくなったため、心配した矢先に町にアシッドスライムが現れたらしい。

 普通の馬でも二日前後、シュバルツなら、半日もかからずに行ける。そう踏んだ俺は、そのまま強行軍で占領された恐れのある町まで駆け抜けた。

 アシッドスライムを倒した時点で、すでに夜中。その町に着いた時には朝日が昇っていたが、俺は一切気にすることなく町の中へとシュバルツごと踏み込んでいく。

 最初の町と似たような雰囲気だ……人の気配はなく、ほとんどの人たちが家の中に閉じこもっているんだろう。

 この町にも、アシッドスライムのような化け物がいる可能性がある……。

 そう考えていた俺の目の前に、またもや信じられないようなものが姿を現した。


「…………ご、ゴリラ…………?」


 そう。今度の町の広場らしい場所にいたのは、何らかの合金で作られたゴリラであった。

 見事なまでのナックルウォークの再現率。素晴らしい逆三角形の筋肉。その上半身に不釣り合いなほどに小さい下半身。

 ややデフォルメされたきらいこそあるが、そこで胸を叩いて自己主張を繰り返していたのは、巨大なゴリラであった。

 その全長は、目測でおよそ十メートル。やっぱり、この世界の一般的な家屋と同じくらいの大きさはある。中世ヨーロッパ然とした一軒家が立ち並ぶ街のど真ん中に、メカメカしいゴリラが必死に胸を叩いてドラミングを繰り返す光景は、もはやシュールですらあった。

 目の前の光景にまたもや絶句する俺に気が付いたらしいゴリラが、ドラミングをやめてぐりんとこちらのほうに視線を向けた。


『あー!!??』


 そして中から響き渡る、聞き覚えがあるような少女の叫び声。

 俺が声の持ち主について思い出すより先に、ゴリラの顔面がぱかりと真ん中から二つに割れて、中から一人の小さな少女が姿を現した。


「あんたは! キッコウちゃんのみならず、ガオンちゃんまでぶっ潰してくれた勇者の仲間じゃない!? なんでここに!!」

「ガオンちゃ……ああ、お前、四天王の……り、リア……」


 喉元まで出かかっている、目の前の少女の名前を懸命に思い出そうとする。

 目の前の少女も、俺が名前を呼んでくれるのを待っているのか、目を輝かせて俺を待ってくれている。

 そんな少女の期待に応えてやりたかったが……結局思い出すことができず。


「………誰だっけ?」


 思わずそう言ってしまう。


「リアラだよ! リ・ア・ラ! 前も名乗ったのにー! もー!!!」


 そう叫んで少女……リアラはひたすらのメカゴリラの装甲をバチバチと叩きだす。

 その行動を見て、ようやく俺はリアラの存在を思い出す。

 魔王軍四天王の一人で、こういう明らかに世界を間違えたような発明品を作り上げているらしい魔族……というかドワーフの少女だ。


「なんで最後の一文字が出てこないかなー!? あとたった一文字だったじゃない!!」

「いや、そう言われてもなぁ……」


 まさに怒り心頭といった様子のリアラを前に、俺は思わず頭を掻く。

 別にわざとじゃないんだけどなぁ……。単に、記憶に残るほど活躍している気がしていないだけで。

 一戦目はともかく、二戦目は俺、ガルガンドのジジイと遣り合ってたし……。


「……って、貴方が乗ってるの、黒牙号ちゃんじゃない? どしたの?」


 と、突然リアラは何かに気が付いたように、シュバルツを見て目を丸くした。

 ……前の町の骸骨どももそんなことを言っていたけど……なんでこいつらがシュバルツのこと知ってるんだ……?

 カマをかけるつもりで、俺はリアラにとぼけた調子で返す。


「黒牙号? こいつの名前はシュバルツだぞ? 人違い、いや馬違いじゃないか?」

「そんなわけないじゃない! その子は黒牙号! ガルガンドちゃんが、こっちに来て最初に拠点を構えたあの森で作った、戦闘用の合成生物(キメラ)だよ!」


 俺のカマかけにのって……というか、俺に自分の言葉を否定されてか、ムキになって反論してくるリアラ。

 ガルガンドはちゃんなんてキャラクターでは断じてないと思うが、こいつと初めて出会った森で合成生物(キメラ)を作っていたというのは聞き逃せない情報だ。


「元々はクロエちゃんのために造られたんだけど、結局クロエちゃんに懐かなくて、そのまま放逐されてたのに……! なんで貴方が乗ってるの!?」

「俺が拾ったからだよ。それより、合成生物(キメラ)がどうとかって話だが……」

「う……」


 俺は藪睨みで睨みつけると、若干怯んだリアラだが、すぐにメカゴリラの顔面パーツを閉じて、その中に閉じこもった。


『……ふ、ふーんだ! そ、そんな怖い顔したって、話してあげないもんねーだ!』

「あいにく今は、機嫌が悪くてな。話しても、話さなくても、そのゴリラごと叩き潰してやるよ」

『叩き潰す!? この、リッキーちゃんを!?』


 俺の宣言を聞いて、声から震えを吹き飛ばし、リアラはメカゴリラ……リッキーちゃんの剛腕を天へと振り上げた。


『そ、そんなことさせないもん!! キッコウちゃん、ガオンちゃんに続き、リッキーちゃんまで壊されちゃったら、私、私……!』


 そして勢いよく振り下ろし、地面を抉り、地響きを鳴り響かせる。


『ぜっっっっっっったいイヤだもん!! 今度こそ、負けないよ!』

「そうかい。そっちの事情は、知ったこっちゃねぇがな……!」


 猛るリッキーに呼応するように、俺は歯をむき出しにして吠える。

 俺の危機に反応してか、シュバルツもけたたましく鳴き、そして前脚を振り上げる。

 再びドラミングを初め、俺たちに答えたリアラがさらに気になる発言をした。


『ガルガンドちゃんに頼まれた、究極の肉体の研究の成果も試せるし……!』

「……究極の肉体だと?」


 奇妙なキーワードに、思わず訝しむ俺。

 だが、そのことに関して問いかけるより先に、リアラがリッキーを操り俺に襲い掛かってきた。


『うりゃー! リッキーちゃんぱんちぃ!』

「シュバルツ!」


 迫り来るゴリラの剛腕を前に、俺はシュバルツに素早く指示を出す。

 といっても、乗馬なんてまともにやったことはない。せいぜい腹を蹴って走り出すように頼むくらいが関の山だ。

 だが、シュバルツは賢い。


―ヒヒィン!―


 俺のアバウト極まりない指示も的確に読み取り、リアラが放った一撃を避けつつ、リッキーを中心にぐるりと円を描くように駆け出した。


『ぬー! 逃がさないよー! リッキーちゃんハンマー!!』


 それを追う様に、リッキーの上半身がぐるりと回転し、背後からその剛腕が迫る。


「くそが!」


 石剣を盾に、何とか弾き返すが、さすがにリッキーの一撃を走りながら支えるのは難しく、シュバルツの上から飛ばざるをえなかった。

 ぐるりと、回転を終えたリッキーが、ガシャリと音を立てて俺の方を向く。

 見るに、腰を軸に回転できる構造になってるようだ。


『うぅ……ちょっと酔っちゃった……。で、でもまだ負けないもん! リッキーちゃん、パーンチ!!』


 回転に若干負けたらしいリアラの弱気な声が聞こえてくるが、それはすぐに収まり、リッキーの巨体が高速で迫る。


「ぬぉ!?」


 上半身の半分あるかないかくらいの下半身で、ロケット弾か何かの様に突っ込んでくるとは思わず、回避が遅れ、その腕に引っ掛かりかける。

 が、そんな俺を間一髪で、シュバルツが救い上げてくれる。

 方法は、肩に思いっきり噛みついて引っ張るという乱暴極まりない方法であったが。


「あだだだだだ!? す、すまんシュバルツ!」


 痛みに叫び声を上げながら、シュバルツに礼を言い、俺は地面に着地する。

 高速で突進したリッキーは、そのたくましい前腕で地面を叩いてブレーキとし、地面を激しくえぐりながら停止する。


『むぎゅー!? ぐ、ぐるじいよぉ……』


 ……どうにも、パイロットに優しくない構造らしい。さっきから、自爆ダメージばっかり積み重なってる気がするんだが。

 それでも何とか気を取り直すように、ゆっくりとした調子で、リッキーの巨体が俺の方を向く。

 ……ことさらゆっくりなのは、威圧感を与える為じゃなくて、中の人が痛みをこらえる為だろう。絶対。


『ケホッ、ケホッ……。ふ、ふーんだ!! どうだリッキーちゃんの強さは! 究極の肉体を目指して研究を重ねた、その集大成なんだよ!』

「……チッ」


 リアラの言葉に、思わず舌打ちしてしまう。

 さっきから自爆ダメージばっかり喰らってるリアラはともかく、リッキーの性能自体は驚きのものだ。

 あの巨体で、パワーは当然のこと、さっき見せたような高速移動も可能とは思わなかった。高速移動といっても、砲弾のような一直線の動きだが、少し反応が遅れると、そのままあの巨体の餌食にされてしまう。

 究極の肉体、というのもあながち嘘ではないのだろう。

 どう対処すべきか……それを考える時間を得る為、俺はリアラに言葉を投げかける。


「究極の肉体ね……。合成生物(キメラ)の作成も、その一環だったりするのか?」

『フッフーン! その通り!!』


 リッキーちゃんの性能にご満悦らしいリアラは、あっさりそう答えてくれる。


『ガルガンドちゃん、この世で一番強い肉体を作りたいんだって! そのために、いろんな生き物に魔術言語(カオシック・ルーン)を埋め込んで合成生物(キメラ)を作ったり、私にいろんな発明を作らせてくれたんだよ!』


 グリングリンと両腕を回すリッキー。もはや勝利を疑っていないのか、中にいるリアラもずいぶん調子に乗っているらしい。

 おかげでかなり気になる言葉を漏らしてくれた。この世で一番強い肉体だと……?


『このリッキーちゃんにも、ボルトスライムとか言うのを改造して作った、流体筋肉が――』


 何やらリアラがリッキーについての性能を解説し始めるが、俺の関心は別のところへと向かっていた。

 究極の肉体なんぞ作って……ガルガンドの奴、いったい何をするつもりなんだ……?




 続く領地もまた占領されていた。そして、ガルガンドが何かをたくらんでいる様子。

 この場を切り抜け、隆司は奴に近づけるのか?

 以下、次回。


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