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No.134:side・ryuzi「隆司の旅した、向こう側」

「お待たせしました、皆さん」

「そんな待ってねぇから心配すんな」


 ジョージの判決を終え、やってきたアルトに俺は鷹揚に返してやる。

 ここはいつもの会議室。

 ようやく戻ってこれた俺の話を、みんなに聞かせてやるためだ。

 皆といっても、勇者である光太たちとアルトたち王族以外に人はいない。みんなそれぞれに仕事があるんだ。あんまり長く引き止めちゃ悪い。

 少なくとも、一時間や二時間で終わる話じゃねぇしな……。

 アルトはいつものように席に付こうとし、ふと会議室の中を見回した。


「……あの、マコさんはどちらに?」

「ああ、あいつ? お前が来るまで暇だって言って、サンシターんとこ行った」

「サンシターのところ……ですの? キャー……」


 サンシターの名前を聞き、アンナが何かを思い出したらしく、顔を真っ赤にして口を掌で覆う。

 ……そういや、直に見てんのかこの二人。


「まあ、すぐ戻ってくるだろ。迷惑かけた詫びいれだけだっつってたし」

「戻ってこなかったら……それはそれで、なんか気まずいよね」


 あり得ない予測に、光太が笑い声を上げる。

 まあ、ごく一般的な恋愛話ならそうなるかもしれんが、サンシターが相手じゃなぁ。

 などと噂話をしていたら、早速真子が帰ってくる。

 がっくり肩を落とし、明らかに気落ちした様子の真子に、礼美がきょとんとした顔で問いかける。


「ど、どうしたの真子ちゃん……?」

「……サンシターに無かったことにされた」


 短くそう言った真子は、そのまま席に付いて顔を伏せる。

 聞こえてくる深いため息には、サンシターのいらぬ気遣いへの怒りと、わずかな自責の念が篭っているような気がした。

 ……たぶん、例のことはサンシターが勝手になかったことにしたんだろう。で、真子は真子で照れが手伝って、それ以上突っ込んで何も言えなくなったと。

 自覚して宣言したはいいが、そのせいで余計攻略しづらくなってんじゃねぇの?

 とはいえ、こんな話に首突っ込んで馬に蹴られるのも嫌だ。

 俺はため息をついてテーブルを叩く。


「ほれほれ、起きた起きた。これから向こうであったこと一切合財話してやっから、しっかり聞いてくれよな?」

「わかったわよ……」


 不機嫌そうにそう言って、真子はゆっくり体を起こした。

 光太と礼美、アルトとアンナも話を聞く体勢になったのを確認し、俺は一つ頷いた。


「さって、じゃあ始めるかね。事の起こりは……どんくらい前だっけか?」

「一ヶ月弱くらい前だよ。確か、後方の領地から連絡が来なくなったんですよね?」

「ええ、その通りです……。一体、あの領地で何があったのです?」

「あの領地っつーか、後方全体だけどな……」


 アルトの疑問にそう返しつつ、俺はゆっくりとこの一ヶ月あったことについて語り始めた――。




_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/




 シュバルツにまたがって、連絡が付かないといわれた領地までいった俺を出迎えてくれたのは。


「おらまたんかいクソガキぃ!!」

「うわぁぁぁぁん!!」


 見覚えのある骨格が子供を追い掛け回している光景だった。


「……何あの光景」

「うわぁ!?」


 思わず呆然と見ていたが、前を向いていなかった子供が転んで倒れたのを見て、とりあえずあの子を助けることにする。


「行くぞ、シュバルツ!」

―ヒヒィン!―


 勇ましく俺の掛け声に答えたシュバルツが、蹄を鳴らし、地面を跳ぶ。

 倒れていた子供をあっという間に飛び越え、俺たちは追いかけっこに興じていた骨軍団の前へと立ちはだかった。


「どわぁぁぁ!!??」

「な、なんや!? いったい誰や!?」

「こいつ、黒牙号やないか!? なしてこないなところに……森に捨ててきたんとちゃうか!?」

「俺が拾った」

「は!? 誰やねんおま……!?」


 シュバルツの上に跨ったまま、骸骨どもの独り言に答えてやると、うち一人が俺を見上げて指を差し、顎をカタカタと鳴らす。


「お、おまえ……! あんときのクソガキ!?」

「あんとき? ヨークの時のことか?」


 首を傾げる俺を見て、悔しそうに地団太を踏む骸骨。


「忘れもせぇへんかった……! あの屈辱は、許しがたいもんがあったでぇ……!」

「そう言われても、こっちはお前に見覚えはないんだが」


 そもそも骨格の微妙な違いを見分けられるほど、俺、器用じゃないし。

 そう言ってやると、さらにショックを受けたように骸骨が顎関節を外したかのように大きく口を開いた。


「な、なんやて……!? ワイの顔を見忘れたいうんか!? あんだけボコッといて!?」

「というかお前らに個体識別の認識力がある方が意外なんだけど。そこんとこどうなん?」


 逆に問いかけてやると、骸骨たちはお互いに肩を組んで、俺の前にとおせんぼをするように横一列に並んでみせる。


「よう見てみぃ! 全然違うやろうが!?」

「ごめん、全く分からねぇ」


 骸骨の指摘に、俺は一マイクロミリ秒も置かずに首を横に振る。

 身長はおろか、体重や肋骨の大きさ、あるいは腕の長さなんかもほぼ同一のものに見えるんだけど。

 俺の言葉に、骸骨たちは地団太を踏んだり、地面に崩れ落ちたり、膝を突いて悔しそうに地面を叩いたりし始める。


「チクショー! チクショー!」

「こないに個性的なワイらのことが見分けつかへんとか……!」

「見た目は同じやけど中身はちがうねん! どうしてそこん所をわからへんのや人間は!!」

「お前らその見た目で中身とか」


 アバラも頭ん中もスッカスカじゃねぇか。

 だが、俺の一言がきわめて気に食わなかったらしい骸骨たちは、怒りを力に立ち上がる。


「いうてくれるやんかぁ、若造がぁ! こちとら、こう見えてそれなりに歳喰うてんねんで!?」

「年長者を敬わん様なクソガキにはお仕置きが必要やなぁ……!?」


 それだけ言ってジリジリと包囲を狭めはじめる骸骨ども。

 それを制するように俺は掌をかざして、待ったをかけようとする。


「まあ、待て、そういきり立つなよ。別に戦いに来たわけじゃ」

「「「「問答無用じゃ、ボケナスがァァァァァァァ!!!」」」」」


 間。


「「「「「覚えとけよくそがぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!???」」」」」

「あいつら、前にボコボコにしてやったの覚えてねぇのか?」


 今回はシュバルツから降りる必要すらなく、そのたくましい後ろ足蹴り上げのみで決着が付いた。

 相変わらず骨が離れることなく吹っ飛んでいくさまは極めてシュールだけど、やっぱりシュバルツはつえぇなぁ。あの程度なら、降りる必要もないとは。

 と、視界の中に、尻餅をついたまま唖然と俺を見上げる子供の姿が入る。

 ああ、忘れてた。


「っと、大丈夫だったか、お前? 怪我とかしてないか?」

「あ、う、うん」


 声をかけると、我を取り戻してくれたらしく、立ち上がって尻についた土ぼこりを手で払った。

 パッと見た感じでは、怪我はしてないようだが……。

 とりあえず、事情を聴くために、俺はシュバルツから降りた。


「俺は王都から来たリュウジってもんなんだが」

「え、お兄ちゃん、王都から来たの?」

「ああ。この町から、人が来なくなったって聞いて、王子様の命令を聞いてな」


 いろいろ端折りながらの説明に、子供の目がドンドンと輝きだす。


「じゃ、じゃあ、お兄ちゃん、僕たちを助けに来てくれたの!?」

「……まあ、結果的には、そうなる、かな?」


 その凄まじいレベルの期待度に、思わずたじろぐ。

 さすがにここまでとは思わんかったな……。

 ともあれ、原因聞いてはいさようならってわけにはいかなさそうだ。場合によっては、王都まで戻って人を連れてくる必要があるかもしれないと思ってたんだが。

 そんな風に戸惑う俺の様子などお構いなしに、子供は袖を引っ張って、どこかへと連れて行こうとする。


「お、おいおい。どこへ連れてくつもりだ? お父さんとか、お母さんのところか?」

「違うよ! やっつけて欲しい奴がいるんだ……!」

「やっつけて欲しい奴?」

「お父さんが、それに飲まれちゃって……! だから、僕、助けを呼びに行こうと思って……!」


 そう言って、懸命に俺を引っ張る子供の目の端に、涙が浮かぶ。

 いったい何が起こったのかは知らないが、ただならぬ様子だ。

 ごねる心に喝を入れ、俺は子供の手を取った。


「わかった。案内してくれ」

「うん! こっちだよ!」


 子供がパッと顔を明るくすると、俺の袖を離して、パタパタと駆け出した。

 俺は、シュバルツの鞍にくくりつけておいた石剣を抜き払い、肩に担ぎながらその背中を追いかける。俺の後を追うように、シュバルツも駆け出した。

 果たして、子供がやっつけて欲しいといった奴は、存外早くに見つかった。


「ほら! お兄ちゃん、あれ!」

「……なんじゃありゃぁ」


 思わず絶句する俺。

 おそらく、町の中心に位置するであろう大きな広場のど真ん中を占領するように、それはそれは巨大なスライムが鎮座していた。

 大きさにして、この世界の平均的な大きさの建物を凌ぐ、十メートル前後の高さ。中に見えるコアは、遠いせいで正確な大きさはわからないが、多分直径一メートルくらいはあるんじゃないだろうか?

 材質はいったい何なのかわからないが、恐らく水か何かではあるまい。その証拠に、コアらしい物体も見えるスライムの透明な体の中には、人骨のようなものが浮いて見える。


「はーっはっはっはっ! 見たかボケがぁ!」

「あん?」


 唐突に響き渡った大声に顔を上げると、どこかの家の屋根の上に、さっき吹っ飛ばしてやった骸骨どもが我が物顔で立っていた。いやまあ、表情筋がないんで、それっぽい雰囲気であるということで……。


「これぞワイらの切り札の一つ、アシッドスライム! ありとあらゆる物質を溶かして回る、無敵の合成生物(キメラ)やぁー!」

合成生物(キメラ)? ずいぶん、それっぽいものが出てきたな、オイ」


 合成生物(キメラ)といえば、言葉の通り、合成された人造生物。いかにも異世界っぽい魔法生物だ。

 思わず感心していると、子供が一歩前に出て、骸骨どもに叫んだ。


「やい、化け物! 僕のお父さんをどこにやったんだぁ!」

「ん~? お父さん~? そこにおるやろぉ?」


 骸骨は、わざと間延びした様子でアシッドスライムを指差す。

 だが、アシッドスライムの中に人がいる様子は……。


「……おい、まさか」

「そのまさかやぁ!」


 嫌な予感に俺が呟くと、それに応えるように骸骨が答えを言った。


「そん中に浮いとる骨がそのガキのお父さんやぁ!!」

「え!?」


 子供が叫んで、スライムを見る。

 スライムの中に浮いている人骨はいくつかある。いったいその中のどれがこいつのお父さんなのかはわからないが……。


「そ、そんな……!」

「はーっはっはっはっ!! お前の父ちゃんが悪いんやでぇ……? この町を出て、王都に向かおうとしたから!」

「そーやそーや! 大人ししとったら、溶かされることもなかったんやでぇ?」

「アホやで、あれは。別に何もせぇへんっていうてんのになぁ?」


 口々にそう言って、馬鹿笑いを始める骸骨ども。

 その声を聞いて、子供が膝を突いて涙を流し始めた。

 目の前に浮いている人骨が、お父さんだと知った悲しみか、あるいはお父さんが馬鹿だと言われた屈辱か。

 ……チッ。


「……あのジジイだけじゃなかったんだな」

「んー? 何がやぁ?」

「胸糞の悪くなる外道って奴だよ」


 言って俺は一歩前に出る。

 それを見て、骸骨はせせら笑った。


「はっ! やめとき! 確かにお前はワイらなんて目やないくらいに強いんやろ……けどな! そのスライムは、見ての通り骨以外のすべてを溶かす!」


 そう言って、骸骨は誇るように屋根の上から飛び出し、わざとスライムの中に飛び込む。その際、近くを跳んでいた鳥を鷲掴み、一緒に中へ。

 ドプンと音を立てて中へともぐりこんだ骸骨は、ブクブクと泡を吐きながら地面までゆっくりと降りていき、そしてそのまま出てきた。

 が、手に握りしめていた鳥は、スライムの中へと入った途端、凄まじい勢いで溶けていき、最後には骨だけとなって骸骨の手の中から零れ落ちていった。


「……この通り、骨以外はすべてを溶かす! お前如きの叶う相手や――」

「だからなんだ?」

「あ?」


 スライムの前に立つ骸骨に見せつけるように、地面に石剣を叩きつける。


 ――ゴォン!!!!


「ヒッ!?」


 腹の底に響くような轟音。周囲の建物さえ揺るがすような振動。

 ……そしてあまりのことにビビり声を上げる骸骨の目の前にまで刻まれた、深い深い斬撃跡。

 だが、この程度じゃまだ収まらねぇ。


「……御託ぬかしてないでかかってこい……!!」


 俺の腹ん中に湧き上がった怒りはなぁ……!


「あ、あああ、アシッドスライムゥ!」


 ひきつるように叫んで命令する骸骨。

 スライムはそれに答えるように、ずるりと身体を前に動かし始めた。

 さあ、やろうか……!




 突如、平和な町に現れた化け物。その被害を目の当たりにし、怒りをあらわにする隆司。

 だが、相手はすべてを溶かすスライム。果たして勝ち目は?

 以下、次回。


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