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No.127:side・mako「晴れ時々バカ日和」

「てめぇひとをみくだしてんじゃねぇぞ……!」

「バカめ! この位置から見上げる方が難しいわ!」


 バカがなんか頓珍漢なこと言ってる間に、あたしは痛む頭を押さえながら天星を一個こさえる。


「今そっちに行ってやるから、待ってな! トォッ!」


 ジョージを指差し、華麗に垂直ジャンプを決めたバカは、くるくると綺麗に回転しながらまっすぐにこちらへと降りてくる。

 着地地点には特別誰もいない。あの馬鹿も、人がいるかどうか程度は一応注意したらしい。

 そんな馬鹿の足元めがけ、あたしは頭上に振りかぶった天星をポイッと投げつけた。


「てい。」

「オウッ」


 見事に天星を踏み抜いたバカが、体勢を崩して訓練場の地面に倒れる。


「総攻撃ー!!」

「「「「「うおぉぉぉぉぉぉ!!!!」」」」」


 そのタイミングを一切逃さず、あたしは叫んで真っ先に馬鹿を蹴り飛ばしに行く。

 あたしに答えて吠え猛ったケモナー小隊の連中も、みんなまとめて馬鹿を囲んでボコボコにする。

 周りから容赦なく踏まれ蹴られ殴られ、たまらずバカが叫び声を上げた。


「ちょ、ペインペイン!? 俺だよ、おれおれ!」

「あたしの知り合いに俺俺詐欺の常習犯はいねぇぇぇぇぇぇ!!!」

「詐欺じゃねぇし!?」


 しばらくひたすらバカを蹴りまくっていたが、さすがに蹴られっぱなしで抑え込めない。

 ぐぐっ、と地面に爪を立て、一気にバカが立ち上がった。


「ぬぅあぁぁぁぁぁぁ!!」

「きゃっ!?」

「マコ様!」


 そのあまりの勢いに倒れかけるけれど、サンシターが支えてくれる。

 バカはぜーぜー息を尽きながら、周りを睥睨した。


「お前らなぁ! 仮にも隊長を足蹴にするとかどういう了見だこの野郎!」

「「「「「ノリです!」」」」」

「言い切られた!?」


 ノリで隊員たちにボコボコニされたバカ……隆司はショックを受けたように仰け反った。

 そんな隆司に向かって。


「「せーの、せ!」」

「ん? お前ら何してゴハァっ!?」


 ABが光太を投げつけた。

 投げつけられた光太は腕をまっすぐ腕を横に伸ばしたラリアットの体勢で隆司に激突。

 狙い違わず喉をクリティカルヒットされた隆司は苦しそうな叫び声を上げるが、倒れることなく光太の身体を受け止めた。


「ぐ、が、ごへ、がは!? お前ら何考えてんだ!?」

「何考えてるのは、お前だよ……!」

「あん?」


 光太を投げつけられた隆司が悪態つくけど、そんな隆司の耳元で光太も叫び声を上げる。

 隆司が訝しげに様子を伺うけれど、無理もない。

 普段の光太からは想像もつかない……とても、弱弱しい叫びだった。


「ずっと帰ってこなくて……! 連絡も手紙一通っきりで……! 今まで何してたんだよ……!」


 言葉に涙さえ混じりながらも、光太は決して逃がさないように隆司の身体を抱きしめた。

 ……長いこと、連絡がなかった親友が、帰ってきてそうそうあんなバカかませば、文句の一つも言いたくなるわよね……。

 でも、それだけじゃなく、光太はきっと一人であたしと礼美を守ろうと気を張っていたのかもしれない。ケモナー小隊はよくしてくれるけれど、気心の知れた相手がいないというのは、彼にとっても相当な負担になっていたに違いない……。

 身も心もボロボロになった光太の姿を見て、隆司は。


「離さんかいバカたれ」


 身も蓋もなくそう言い放ち、ベリッと光太をはがしてその辺にポイッと捨てた。


「ちょ、リュウ様!? そこは、コウタ様を抱きしめ返してあげるところでは!? 空気読めでありますよ!?」

「うすらやかましいわぁ! 何が悲しゅうて、帰ってきてそうそう野郎の身体なんぞ抱きしめにゃならんのじゃ! どうせなら、嫁のスベスベの鱗肌を撫でたいわい!」


 あんまりといえばあんまりな隆司の所業に、さすがのサンシターも若干語気が荒い。

 でも、ちょっと隆司のいうことも納得しちゃうあたしがいた。確かに嫌よねぇ……。

 しかしサンシターは珍しく物おじせず、隆司の服の襟首に掴みかかって猛抗議した。どうやら、今の今まで帰ってこなかった隆司に腹を立てているのは、あたしや光太だけじゃなかったらしい。


「そもそも! もっと早くリュウ様が戻っていたら、こんなことにはならなかったでありましょう!? マコ様も、コウタ様も、レミ様も! 皆怪我一つなかったかもしれないでありますのに……!」

「人を勝手に万能属性にするんじゃねぇよ! 無理なことはできん!」


 サンシターの無茶ぶりにそう叫びながらも、隆司はその手を無理に引きはがそうとはしなかった。

 一応、負い目は感じてるってことかしら?

 そんな隆司の姿を見て、さらにサンシターは捲し立てた。


「第一、コウタ様は大怪我を負ってらっしゃるのに、そんな風にごみを捨てるように……!」

「自分の命を捨てるような輩に相応の扱いしてやっただけだろうが!」


 隆司がそう叫ぶと、サンシターもさすがに言葉を止め、起き上がりかけていた光太がぴたりと停止する。


「それは……!」

「早くに帰ってこれんかった俺にも、一マイクロミリくらい責任があるのはわかってるが、それとこれとは話が別だぞ!?」

「そうね、光太……。さっき、何をしようとしたのかは、知らないけれど……」


 痛む頭を押さえながら、あたしはうつむいたままの光太に一瞥くれてやり、はっきりと言い聞かせてやる。


「さっき、あんたがやろうとした行為は、とても容認できないわ……。目の前の事態を全力で終息させるのは構わないけれど、その代償が命じゃ、ただの責任放棄よ……」


 先ほど、光太の全身から光が立ち上った現象……あれが光太による自爆だと決まったわけではない。

 だけど、一目見て分かった。光太が自分の命を捨ててでも、礼美を、みんなを、あるいはジョージまでも救おうとしていたのは。

 たぶんだけれど……光太の全身から光として立ち上ったのが、意志力(マナ)なのだろう。魔力とは違う、意志の力そのもの……。

 光太の良質な魔力変換効率を支える意志力(マナ)が、文字通り光太の意志のままの結果を生み出そうとした、課程こそがあれなんだろう……。

 隆司があのタイミングで現れなかったらどうなっていたか……。少し、ゾッとする。あのタイミングで、光太とジョージを止められるだけの手段はあの場の誰のもなかったのだから……。


「あんたは、勇者をやるといった……。なら、キッチリこの国を救うまで、その責任を投げ出すんじゃないわよ……」

「………っ」


 あたしの言葉に、光太が地面を土ごとぎゅっと握りしめた。

 うつむいた顔からしずくが零れ、ポタポタと地面を濡らす。

 ……いろんなことがあって、いろんなことをしようとして、さすがに限界が来たのかもしれない。

 涙を流す光太から視線を外し、あたしは隆司に向き直る。


「……で? 何かお土産の一つはあるんでしょうね……?」

「それはフィーネに預けてきたんで、まずは」


 隆司はそこでいったん言葉を切り、何かを弾くように上に向けて腕を振るった。

 途端、弾けるような轟音と共に、あたしたちの頭上に襲い掛かってきていたジョージの触手が弾き飛ばされた。


「――この場を何とかしようじゃねぇか」

「今あんた、どうやったの……?」


 ちらちら触手は見えてたけど、手と触手の間に結構な距離があったように見えたんだけど……。

 あたしの疑問に答えず、隆司はジョージの方に向き直った。

 あたしたちを守るように隊を成していたケモナー小隊たちの向こう側で、ジョージはこちらを睨みつけていた。

 相変わらず幽霊もかくやという顔色の悪さだ。呪い殺そうとするように、ジョージは隆司を睨みつけた。


「いきなりでてきてじゃまするんじゃねーよ……ころすぞ……!」

「オーオー、言うようになったじゃねぇか。スケルトンの大群に参って鼻声出してたガキンチョとは思えねぇなぁ」


 鼻を鳴らした隆司が小馬鹿にするようにそう言うと、威嚇するようにあたしらからそう離れていない場所に触手が打ち付けられた。

 その轟音に、あたしは思わず目と耳を塞ぐ。


「うるせーんだよ……!」

「うるせぇのはどっちだよ……ったく」


 対し、軽く顔をしかめただけの隆司は煩わしそうにつぶやいて、あたしたちの方へ視線を向けた。


「光太の腹に穴開いてんのは見たが、真子はどうしたんだ? 風邪引くようなたまじゃねぇだろ、お前」

「あ、えーっと、リュウ様。お耳を拝借するであります」

「ん? なんだよ?」


 隆司の疑問に、サンシターがボソボソと耳打ちで答えてくれた。

 あたしがアレに噛まれたと聞いて、隆司の顏がいつになく優しげな風貌になった。


「……そうか。元気出せよ。いいことあるさきっと」

「腹立つからやめてちょうだいその顔……」


 隆司に踏まれっぱなしだった天星を回収しつつ、あたしはギリッと歯ぎしりする。おのれ。

 そんなあたしを見て小さく頷きつつ、隆司は一転、真剣な表情へと変わる。


「お前のそれも、ジョージのあれもガルガンドが原因か……。あの腐れ爺、あっちこっちで好き放題やってくれやがって……」

「あっちこっち……?」

「ああ、詳しくは後で話すが……向こうで異変が起こった主な原因はガルガンドだった」

「っ!?」


 隆司の告白に、あたしは両目を見開く。


「ちょっと、それって……!」

「まあ、本人じゃなくて、ほとんど部下が実行してたが……その対応に駆けずりまわってたわけだ。悪かったな、連絡できなくて」


 隆司にしては珍しく、素直に謝ってきた。

 とはいえ、今のこの状況を見ると、隆司を責める気にもなれない。

 下手に対応が遅れれば、人身被害が広がっていただろう。一々王都に戻って対応していたのでは、最悪の事態が引き起こされていた可能性も高い……。

 この国で今、一番機動力が高いのは、例の巨馬……シュバルツを操れる隆司だろう。

 ガルガンドの実力や手段を知った今となっては、むしろ対応してもらったことには感謝よね……。


「それは別にいいわよ……。むしろあれの相手とか、大丈夫だったの……?」

「……あまり大丈夫じゃなかったパターンもあった」


 一瞬、隆司の目が昏く輝く。

 その視線の先には、ジョージがいたが、間違いなくあいつ以外の誰かを見ている。

 いったい何があったのか……。今は、まだ、聞くべきじゃないわよね……。

 あたしは小さく頷いた。なるべく、その話題には触れないように。


「……そう」

「気ぃ遣わなくていいぜ。最悪のパターンじゃなかったってだけだからよ」


 目を閉じてそう隆司は言い、再び目を開けた時にはもういつもの彼がそこにいた。

 そして厳しい目でジョージを睨みつけながら、小さくつぶやいた。


「……ちなみにだが、今のジョージの姿はあまり大丈夫じゃなかったパターンに似てるんだな、これが」

「っ!」

「だがな」


 今のジョージの状況が、あまりよくないと聞いて顔を上げる光太を、あるいは喉元まで声が出かかったあたしをなだめるように、隆司が力強く声を出す。

 塔の上で張り上げた時のような力強さで、はっきりと宣言する。


「二度目はねぇ。二度、繰り返させはしねぇ」


 そう言いながら、ゆっくりと前へ……ジョージへと歩んでいく。


「テメェの思い通りにはさせねぇさ、ガルガンド。そのために、俺はここにいる」


 決して大きな声ではない。だが、不思議とよく通る声だ。

 操られたアスカたちと戦っている団長さんたちや、ジョージも隆司に注目する。


「……さあ、始めようぜ、ジョージ。俺の()は、すこぉし長いぜ?」


 にやりと笑って不敵にそういう辰之宮隆司。

 ……いつになく、その背中が大きく見えた。




 久しぶりに隆司無双の気配。何やら秘策がある模様。

 魔法も飲み込む触手に抗する手段があるのか!?

 以下、次回!


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