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No.124:side・kota「ゴルト団長の覇気講座」

 真子ちゃんが呪われていると宣告されてしまった次の日。

 僕と礼美ちゃんは、騎士団の訓練場に足を運んでいた。

 もちろん、始めは真子ちゃんのそばで看病をしようかと思ったんだけれど……。そもそも症状が呪いだし、下手なことをしゃべって、真子ちゃんに勘ぐられちゃえばすぐにばれちゃうだろう。

 なので、僕たちは真子ちゃんの様子を少しだけ見て、ここへとやってきた。

 彼女はオーゼ様が処方してくれた薬が効いていたのか、ぐっすりと眠っていた。ただ、呪いの症状が重くなってるのか、時折苦しそうなうめき声を上げていたけれど……。

 そんな真子ちゃんの姿を見て、礼美ちゃんが何かに耐えるような表情になっていた。やっぱり、自分にできることがないというのがつらいんだね……。

 後ろ髪を引かれる思いではあったけれど、フィーネ様が魔導書を順調に解析で来ていれば、今日のお昼にでも解呪薬が完成するはずだ。まだ日は上ったばかりだけれど、それでももうすぐ真子ちゃんは助かる。フィーネ様の努力と、その進行具合から見た、オーゼ様の見立てだ。

 昨日、差し入れに言った時点で、フィーネ様はすごい集中力で先代の宮廷魔導師様が残したといわれている、呪いに関する魔導書を読み解いていた。

 その集中力や、僕たちが差し入れに行ったことに気が付かず、僕たちが帰った後もそのことに気が付かなかったんじゃないかと思うほどだった。

 オーゼ様も、そんなフィーネ様の様子にかなり驚いていらっしゃったけれど、彼女の姿に嬉しそうな顔をしてらっしゃった。

 オーゼ様にとっては、親しい友人が残した忘れ形見。その成長は、やっぱり嬉しいものらしい。

 あれだけ集中してると、解呪薬を作った途端倒れちゃうんじゃないか、と思うけれど、オーゼ様も一緒なら、きっと大丈夫だよね。


「ん? お前たち、マコについてなくていいのか?」

「あ、はい」

「真子ちゃん、薬を飲んでぐっすり寝てましたから」


 訓練場にやってきた僕たちの姿を見て、団長が少し驚いたような顔になった。

 真子ちゃんが倒れたという話は、もう騎士団の人たちにも伝わってるんだ。


「そうか……。お前たちなら、付きっきりで看病するとか言い出しそうなもんだったが」

「「アハハ……」」


 団長の的を射た意見に、僕たちは苦笑するしかない。

 実際、ただの風邪や病気だったら、礼美ちゃんは付きっきりで看病するだろうなぁ……。

 顔を見合わせる僕たちに、団長が不意に問いかけてきた。


「……そういや、コウタ。お前、昨日、ガルガンドとかいう奴と戦ったんだそうだな?」

「あ、はい。正確には、その意識が乗り移った化け物となんですけど」

「そうか……」


 僕が頷くと、団長も頷き、さらに質問を重ねてきた。


「確か、お前は何度かそのガルガンドと戦ったことがあったよな? その上で、昨日の奴の行動に関して推測できないか?」

「ガルガンドの行動の、推測ですか?」

「ああ」


 団長の言葉の意図が読めず、首をかしげる。

 ガルガンドの行動を推測って……。


「あの、どういう意味ですか?」

「いや何。サンシターからも報告はあったんだが……元々はネズミの制御を取り戻すために、姿を現したらしいな?」

「はい。サンシターさんだけじゃなくて、ケモナー小隊のフォルカくんやナージャさんも、そう言ってました」


 礼美ちゃんの言葉に、団長が腕を組む。


「……少し考えたんだが、今回の奴の行動のメリットが見えなくてな」

「メリット……ですか?」

「ああ。仮にも、戦争をやってる相手だ。こうして、敵の陣地に意識だけでも乗り込んで、その存在をアピールする以上、何らかの意味があるんだろうが……」


 団長の言葉に、僕も考えてみる。

 ガルガンドが姿を現したことから、真子ちゃんはガルガンドがネズミを利用して、こちらの勢力を調査していたんじゃないかと考えたらしい。

 実際、理に叶っているけれど……。

 なら、姿を現さず、ネズミの姿も見せないほうが効率はいいはず……。

 団長のいうとおり、メリットが薄いように思える。ああして自分がネズミに乗り移れますと宣伝すれば、こちらは、ネズミ駆除のための魔法薬の開発なんかを急ぐ。

 昨日のギルベルトさんのクスリなんかが大量に生産されれば、あの地下洞窟に薬を充満させることは容易いはずだ。

 つまり、昨日のギルベルトの行為は、自分の首を絞めた結果にしかなっていない。

 腕を組んで頭を悩ませる僕を見て、団長が肩をすくめた。


「なんで、何度か交戦の経験があるコウタに、奴の真意を推理してほしかったんだが……何か分かるか?」

「そう聞かれても……」


 僕としては困る……と言おうとしたんだけれど、不意に脳裏をよぎる言葉があった。


「……憎悪」

「ん? なんだって?」

「いえ。僕が誰も憎んだことがない、と言ったらそれに妙に反応していた気がして……」


 気のせい、かもしれない。

 でも、あの瞬間の嘲りに、わずかに愉悦が混じっていた……ような気がする。

 とはいえ、気のせいかもしれない。僕は首を振って、前言撤回することにした。


「……でも、きっと気のせいです。そもそも、今回の行動とは関係ないと思いますし……」

「……だなぁ。お前に憎しみを植え付けるにしても、突発的過ぎるしな」


 僕の言葉に同意して、団長がため息を吐く。

 そもそも、今回のガルガンドとの交戦にしたところで、真子ちゃんが一人で先走った結果のようなものだ。真子ちゃんがあの地下洞窟を発見しなければ、ネズミも見つからなかったし、ガルガンドが出てきることもなかった。

 たぶん、調査を続けていれば、地下洞窟自体は発見できただろうけれど、それが今回と同じ結果につながるとは限らないし……。


「考えるだけ、無駄かもしれんな」

「そうですね……」


 考えるのを諦めた団長と一緒に、僕は肩から力を抜いた。

 これ以上考えるには、判断材料が少なすぎる。

 でも、ガルガンドは普段戦っている魔王軍とは一線を画す存在だ。その狙いも、当然彼らとは別のところにある……っていうのは考え過ぎかな。


「まあ、考えるのは今倒れてるマコに任せちまおう。今日は、どうする?」

「あ、はい。そうですね……」


 団長が、手に持った棒をくるりと回して僕と相対する。

 とりあえず、軽く稽古の相手をお願いすることにする。

 真剣を持ち出し、しばらく団長と打ち合う

 そんな僕をじっと眺めながら、不意に礼美ちゃんが首をかしげた。


「あのー。ちょっといいですか?」

「ん? どうかしたか?」


 僕と打ち合いながら、団長が礼美ちゃんに答える。残念ながら、僕にはそこまでの余裕はない。


「いえ。団長さんが持ってるのって、木の棒ですよね?」

「ああ、そうだぞ?」

「それで、どうして光太君の螺風剣(エア・キャリバー)と打ち合えるんですか?」


 ガキッ!と音を立てて、僕の剣と団長の棒が鍔迫り合いの体勢になった。

 ギリッ……と音を立てて、団長の棒が軋むけれど、斬れる様子はない。

 普通であれば、ありえない光景ではあるけれど、僕にとっては見慣れたものだ。


「そりゃ、覇気を込めれば、これくらいはな」

「ハキ……ですか?」

「ああ」


 答えながら、団長が棒を手の中で回転させる。

 刃が滑り、力があらぬ方向に抜けていってしまい、僕は思わずたたらを踏んだ。

 僕が体勢を立て直すのを待ってくれながら、礼美ちゃんに向けての覇気講座は続いていく。


魔術言語(カオシック・ルーン)を使って魔力を顕現させる魔法。それの対極に位置する、身体を使った威力発現とでも言えばいいのか? さしずめ、肉体言語による法則確立ってところか」

「に、肉体言語ですか」


 肉体言語、という言葉に礼美ちゃんが顔を引きつらせる。

 なんて言うか、暑苦しい印象があるよね。僕も、最初聞いたときはそう思ったし。

 礼美ちゃんの反応も、僕の最初の反応で慣れているのか、団長は打ち掛かってくる僕を再びいなしながら説明を続けた。


「まあ、法則確立っても、実際に体系化されたのは割と最近で、その前までは女神の祈りによる肉体強化と同類と思われてたんだよな。ちなみに、体系化させたのは、先代の騎士団長。俺の師匠でもあるんだが……」

「そうなんですか……。それで、具体的に覇気ってどんなものなんですか?」


 団長の説明を聞きながら、瞳を輝かせ始める礼美ちゃん。

 ひょっとしたら、自分にも使えるかもしれないと思ってるんだろうなぁ。

 期待を込めた礼美ちゃんの眼差しに気を良くしたのか、団長が手に持つ棒をくるりと回して今まで見せたことのない型をとった。


「覇気の発現には、大まかに分けて二種類あってな」


 実演を伴った講義の気配に、僕は気を引き締める。

 しばらくすると、団長の手に持つ棒が、目に見えて輝きはじめる。


「まずは練気。体の中で覇気を練り、攻防に利用する技術だ」

「練気……」

「さっきレミが不思議がってた、俺の棒が斬れない仕掛けの種がこいつでな」


 いうが早いか、団長はわかりやすい上段で僕に打ち掛かってくる。

 それに対し、わざと刃筋を立てて、僕は木の棒をガードする。

 常識で言うのであれば、鋼の剣に叩きつけられた木の棒は両断される。

 ところが。


 キィン!


 と、刃と木の棒がぶつかり合ったにしてはいやに甲高い音が響き渡った。

 その光景に、礼美ちゃんが目を丸くする。


「……とまあ、このように内部に覇気を込められた物質的な硬度があがる。それだけじゃなく、剣を始めとする普通の武器なら、その威力も上がる。もうちょっと進めば、女神の祈りとは別の、身体能力の純強化にもつながるな」

「すごい……」

「で、お次は発気」


 続いて、団長は棒を突き出すように構え、一閃。

 棒の先端から意志力(マナ)とは異なった輝きを持つ弾が飛び出した。

 意志力(マナ)が白色なら、団長が放ったのは鈍色の弾だ。


「護れっ!」


 剣を構え、礼美ちゃん直伝の防壁を展開するけれど、あっさり打ち抜かれ、防御が破れた衝撃で僕は後ろへ転んでしまう。


「うわっ!?」

「今のが発気。コウタの意志力剣(マナブレード)に似てるが、あそこまではっきりとした形を作ることができん。代わりに、物理的な威力が高い」

「物理的な威力……」


 団長の言葉に、礼美ちゃんが難しい顔つきになる。

 それはつまり、加減を誤れば相手に大怪我を負わせてしまう可能性が高いということだ。

 礼美ちゃんの顔を見て、団長が小さく頷いた。


「まあ、お前が思ってるような使い方は難しいだろうな。そもそも、このあたりの技術は体格に勝る自然の獣を相手にするためのもんだ。練気を使えば、質量差を押し返すのも難しくないしな」

「じゃあ、騎士団の人はみんな覇気が使えるんですか?」

「自衛防御程度だがな。歴史が浅いせいで、まともに浸透してないんだ」


 団長は肩をすくめる。


「元は女神の祈りと混同されてた系統な上、修得難易度も地味に高くてな。現状、覇気をまともに使えるのは、前団長に指導を受けた俺とリーク、さらに先祖代々剣術を収めていたアスカくらいか」

「武術的な概念っていうか、気合というか……とにかく、祈りや魔法に比べて曖昧なんだ。ちょっと聞いただけじゃ、僕もさっぱりで……」

「そうなんだ……」


 立ち上がった僕の言葉に、礼美ちゃんが残念そうに肩を落とす。

 もちろん、ちょっと聞いただけで習得できるなら誰も苦労しないけれど……それ以上に解り辛いっていうか……。

 なんだろう。僕の場合は理解できないっていうのが正しいのかもしれない。団長の言っている言葉の意味を理解しかねるっていうか……。

 前に受けた覇気の説明を思い出して首をひねる僕の肩を、団長が叩いた。


「まあ、コウタの場合は、それ以上に魔法に適性があるんだろう。魔力効率がいいのも、その証拠だ」

「そ、そうですかね……?」

「ああ。そういう意味じゃ、レミの盾なんかは、練気に近いものがあるかもな」

「なら、私にも覇気が使えるんでしょうか?」


 礼美ちゃんが首をかしげる。

 覇気を使う礼美ちゃんか……。

 ……………………。


「ごめん。ちょっと想像がつかないよ……」

「え!? そ、それはひどくないかな!?」

「いやまあ、コウタの気持ちもわかるが」

「そんなぁ!?」


 僕と団長の言葉に、若干涙目になる礼美ちゃん。

 そんな彼女に謝ろうと思いつつも、思わず笑ってしまう僕。

 そんな僕の耳に、何かが炸裂する音が聞こえてきた。




 なんという説明回……。まあ、ここいらで、こういう力が使えそうな奴が帰ってくる予定なんで。

 そして聞こえてくる何某か。

 それに関して、以下次回。


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