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No.116:side・Another「サンシター、危機一髪! ―サンシター編―」

「マコ様!?」


 ネズミに取りつかれるという状況に耐えきれなくなったのか、マコ様が悲鳴を上げながら駆け出していったであります。

 そのあとに、かなりの数のネズミがマコ様の後を追う様に駆け出していったであります。

 まずいであります……! ただでさえ、ネズミの数に怯えているマコ様があの数に襲われたら……!


「サンシターさん! 行ってください!」

「え!?」


 マコ様を追いかけたいと考えた自分を後押しするように、ナージャさんがそう叫んだであります。

 振り返ると、必死の形相でネズミを踏みつぶしながら、自分の方を睨みつけていました。


「ここは私たちで押さえます!」

「サンシターは、マコさんを追ってやってくれ!」


 魔法を使ってネズミを焼き払いながら、フォルカさんもナージャさんに同意するように頷いてくれたであります。

 しかし、ネズミの数が多すぎて多勢に無勢といった風情が強すぎて、この場から離れることを躊躇してしまうであります。


「し、しかし……」

「しかしも案山子もない!」

「そもそも、サンシターがこの場にいてもできることが少ないこと山の如し!」

「できることと出来ないことの区別はつけよう! 俺たちココで戦う人! お前はマコ様を助ける人!」


 ネズミにまとわりつかれながらも、必死にネズミの数を減らそうとしているABCも、そう叫ぶであります。

 そこまで言われては、この場にとどまる選択肢はもうないでありました。


「――では、申し訳ないでありますが!」

「はい! ちゃんとマコ様を助けてあげてください!」

「ここは何とかしてやるからよ!」

「「「きっちり決めてこいよ!?」」」


 いうが早いか、自分は抱えていたロープを放棄。重すぎる荷物も捨て、中から念の為に持ち出していた、トンガラネズミの粉末を取りだし、マコ様を追いかけるであります。

 こういった哺乳類は、この手の強烈な香辛料を苦手とするであります。うまく、このネズミにも効いてくれるといいでありますが……。

 しばらく駆け出すと、ネズミを焼き払う炎の明かりも届かなくなり、あっという間に周囲が暗闇に落ちてしまったであります。

 すかさず魔法の明かりを唱えて、足元を照らすであります。自分の魔力では、あまり明るくはならないでありますが、それでも走る分には問題ないあります。

 マコ様は、相当先の方に駆けて行ってしまったのか、その御背中も見ることが叶わないであります……。

 マコ様を追いかけていったネズミも、すっかり姿を見せなくなって……。もしこの洞窟が入り組んだ構造であれば、追いつくことが叶わないところでありました……。

 途中で分岐している可能性も、無きにしも非ずでありますが……今は、洞窟が一直線に続いていることを願うのみであります。

 それにしても、マコ様……あそこまで怯えるなんて……。

 エイガという物は、それほどに恐ろしいものなのでありますね……。

 どうやら人一人がネズミによって食い尽くされたこともあるとか……。

 そんなものが、ごく一般的に流布されているなんて……。マコ様たちが、とてもたくましいのも納得であります。


――ッキャァァァァ!!??――

「! マコ様!」


 遠くのほうで、マコ様の悲鳴が響き渡ったであります。

 いったい何があったのか……。マコ様を追いかける足が、自然と速くなるであります。

 しばらく洞窟の中を駆けると、いきなり広い空間に出たであります。

 かなりの大きさで、王城にある礼拝堂くらいの大きさがあるであります。

 ここがもし、マコ様のいう様に何らかの避難場所として使われていたのであれば、集会場のような感じで使われていたのかもしれないであります。

 そんな広い空間の真ん中あたりに、何やらネズミが群がった部分があったであります。

 そのネズミが群がっている部分から、見覚えのある衣服が見えたであります。


「! マコ様!?」


 どうやら転んだマコ様に、ネズミが群がっていたようであります。

 自分は急いで持ってきたトンガラネズミ粉を、ネズミの山に投げつけたであります。

 袋の口が開き、中から赤い粉が溢れ出すであります。


「チュー!?」


 どうやら、あの茶色いネズミも辛いものは苦手らしく、一気にマコ様の身体から離れていったであります。


「マコ様!」


 大急ぎでマコ様のそばまでよって、その御体を確認するであります。

 あちらこちらをかじられたのか、白い肌やシャツに点々と血の赤色が混じっているでありますが、幸いなことに大きな血管や目などに傷はなかったであります。

 マコ様に大きな怪我がないことに安心し、残った手持ちのトンガラネズミ粉をさらに周辺に巻き、ネズミが近づかないようにしておいて、手持ちの布や水でマコ様の怪我を清めるであります。


「う……」


 気絶したままのマコ様が、苦しそうに呻くのを苦々しい思いで見つめつつ、手早く処置を完了。


「よし、であります……」


 マコ様を背中におぶさり、自分は大急ぎでみんなと合流しようと来た道を戻ろうとしたであります。


「まあ、そう急くな。ゆっくりしていくがよかろ?」


 そんな自分に、声をかける一匹のネズミが現れたであります。


「! ガルガンドでありますか!」


 聞き覚えのある声に、反射的にそう返すであります。

 途端、ネズミが驚いたように唸り声を上げたであります。


「なに? 貴様、何故我の名を……!?」

「いやあの。自分、あなたの出てきた場に何度か居合わせているでありますけど」


 ヨークやオリクトで、姿を見ているでありますけど。

 存在感が薄いのは自覚しているでありますけれど、はっきりそう言われるとかなりショックであります……。

 とはいえ、そんなことはどうでもいいであります。

 目の前のネズミを睨みつけ、何とかそれを乗り越えるチャンスを伺うであります。


「そこをどいてもらうであります……。マコ様に、ちゃんとした治療を施さないといけないであります!」

「……その必要はあるまい? それほどの大怪我でもあるまい?」


 ガルガンドは小さな体で自分を睨みつけるであります。

 どういう理屈か、ネズミたちの身体に乗り移っているようで、その場にいるすべてのネズミが、自分の方を睨みつけているように感じるであります……。


「怪我の大小ではないであります。怪我をしているなら、治療をするのは当たり前であります!」

「優しきことよ。いっそ愚かなほどにな」


 目の前のネズミが、うっそりと目を細めるであります。

 それに合わせるように、トンガラネズミ粉にひるんでいた、周りのネズミも自分を取り囲むように、動き出すであります。

 うう……。わかってはいたでありますが、ガルガンドに統率されると、刺激物も効果をなさなくなるでありますね……。

 あっさり囲まれてしまい、逃げ場がなくなってしまったであります。

 しかし、ガルガンドはすぐにネズミをけしかけることなく、じっと自分を見つめているであります。


「さて、このまま嬲るのは容易い……が、時間がかかりすぎる。その背の小娘も、死なぬではなぁ……」

「………」


 ……確かに、ネズミだけで人を殺すのは容易ではないであります……。

 実際、マコ様が倒れられたと思われる瞬間からそれなりの時間があったでありますが、マコ様は生きていたであります。

 ネズミの口が小さいのか、ガルガンドの統率が完璧でないのかはわからないでありますが、今ガルガンドがここにいるのであれば、きっとみんなが助けに来てくれるはずであります……!

 でも、ガルガンドはそんな自分の考えを見透かしたのか、にやりと笑ったであります。


「であれば、実験の意味も含めて、試してみるとしようか?」


 そしてゆっくりと、耳慣れない呪文を唱え始めたであります。

 これは……魔術言語(カオシック・ルーン)ではないであります。いえ、言語というよりは音の連なりであり、聞くものを不安にさせる、奇妙な力があるであります……。

 その音を聞いた途端、自分を囲っていたネズミたちが、一斉にガルガンドの声をしゃべるネズミに向かって近づい……。


 ド! ガツ、グチュ、グチュ!!


「うっ……!?」


 ち、近づくだけじゃなくて共食いを始めたであります!?

 気持ちの悪い物音を立てながら、お互いの身体をむさぼり――。


 グチュ! メキ、メキプチュ! ボキ!


 ――ながら巨大化しているでありますよぉぉぉぉぉぉ!!??

 お互いの肉に食らいつき、その体をむさぼっていたはずのネズミたちは、やがて一個の肉塊となり、それに食らいついたネズミが逆にむさぼられていく光景は、悪夢というほかないであります!? 舞う血飛沫は、周りの大地を汚し、血の匂いが、周囲を満たし、蒸せるであります。マコ様が気絶されていて、本気でよかったであります……。

 やがて周辺にいたはずのネズミは一匹もいなくなり、屠殺場もかくやという光景とともに生み出された肉塊は、グニグニと蠢いていき……。


 ズズゥン!


 巨大な化け物へと変貌したであります……。

 四肢は人間の様に発達しており、頭部だけがネズミでありますが、その肝心の頭部も目玉がぎょろついて血走り、形の形成もうまくいっていないのか、骨が見え隠れするなど、かなりグロテスクであります……。


「………フム。存外うまく行ったな」


 化け物の口から、ガルガンドの声が聞こえ、ギョロ付く瞳で自分を見下ろしたであります。

 その異様な姿に思わず後ろに下がると、そんな自分の様子に満足したらしい化け物がきわめて凶悪な笑みを浮かべたであります。


「さて、待たせたぞ? 一息に潰してくれるから、そこを動くな?」

「いえ、できれば圧殺は勘弁願いたいでありま、すぅぅぅぅぅぅぅぅぅ!!??」


 いうが早いか、拳を握り、振り下ろす化け物。

 大急ぎでその場を離れ、何とか一撃だけは回避したでありますが、


 ずどぉん!


「うわぁぁぁぁぁ!!??」


 化け物の一撃を喰らい、大地が揺れ、その揺れに足を取られて、自分は勢いよく倒れてしまったであります。

 さらにその振動のせいか、天井からバラバラと石の欠片が降ってくるであります。

 洞窟が崩落しかねないほどのパワー、シャレにならないであります! あんなの喰らったら……!


「……フム? いかんな。知能が低いせいか、うまく狙いが定まらぬ」

「う、うう……!」


 どうにも生まれたてのせいか、あるいはその持ち得るパワーのせいか、こちらをうまくとらえられないらしい化け物をしり目に、自分は何とか立ち上がろうとするであります。

 背中に背負ったマコ様は、いまだ気絶したまま……何とか逃げなければ……!

 立ち上がり、いったん化け物から大きく離れるであります。

 追ってくれば、迂回して皆と合流、いや、あの大きさならあるいは通路にまでは入ってこれないかもしれないであります!

 けど。


 ずどぉん!


「うわぁ!?」

「とはいえ、足止めができれば、特に問題もなし」


 再び地面に対して振るわれた拳。震える大地。

 またも振動に足を取られ、倒れてしまう自分であります。

 うう……! リュウ様なら、この程度の振動で倒れることなどないはず……! 何をしているであります、自分!

 歯を食いしばる自分に影を落とすように、背後に化け物が立ったであります。


「フム、悔しかろ? たががネズミに殺されるのは?」


 自分の歯ぎしりの音を聞いたのか、愉悦を隠さぬガルガンドであります。

 ミシミシと、筋肉がきしむ音も聞こえてくるであります。おそらく、一撃で決めるために全力を振り絞っているでありますね……。


「だがまあ、安心するが良いぞ? 一人では逝かせぬゆえ。貴様とその女、そして洞窟で難儀している者たちも、ことごとく共に逝かせてやろう」

「――!」


 拳が振り下ろされるであろう一瞬、自分は背負っていたマコ様を横に向かって投げつけたであります。

 この人を死なせるわけにはいかないであります……! 自分は死んでも変わりがいるでありますが、マコ様の代わりをできる人はいないであります……!

 それに、レミ様やコウタ様、リュウ様を悲しませるわけにはいかないであります!

 そのついでに、自分も化け物の一撃から逃げるために、地面を蹴ったであります。

 けど、きっと避けられないであります。来るであろう、致死の一撃に備え、覚悟を決め、ギュッと目を瞑ったであります。

 次の瞬間。


 キュボッ!!


 何かが燃えるように消滅する、鋭い音が聞こえ……。


「大丈夫ですか!? サンシターさん!」


 コウタ様の叫び声が、耳に届いたのでありました……!




 危うしのサンシターを救う光太! おいしい所を持っていくのがうまいなぁ。

 次回あたり、少し時間を巻き戻して、光太視点と参りまっしょい。

 以下次回ー。


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